シーたんといい匂いのぷにお
ルフェイの家にたどり着くと、テーブルの上に三色の球が置かれていた。
どれも透き通ったビー玉のように見えるそれに、シーたんがルフェイの腕の中から手を伸ばす。
「あー」
「おっと、触ってはダメだ」
ルフェイが、そっとシーたんを遠ざける。
「ぷ! ぷに!(人のものを取ったら、めっ!)」
俺の、めんめ、の仕草を見て、シーたんが、ぶー、と頬を膨らませた。
そんな可愛い顔をしても、ダメなものはダメである。
「ぷに、ぷに?(それで、これはなんだ?)」
俺の問いかけに、ルフェイは。
「よくぞ聞いてくれた!」
とテンションを上げた。
お前、それは俺が元いた世界で秘密道具を作る奴らのセリフだぞ。
「これは龍玉と言ってな、様々な龍の力を封じ込めたものだ。と言っても、試作したばかりだからまだ三つしかないが」
「ぷに?(何に使うんだ?)」
「ぷにおに使うに決まってるじゃないか。いつまで経っても解剖させてくれんし、暇だったのでな」
「ぷににん。(ナチュラルに俺を実験台にしようとするな)」
「特別に、一通り試していいぞ!」
「ぷに!(話聞けよ!)」
「何だ、パワーアップ出来るのにいらないのか?」
「ぷに!?(パワーアップだと!?)」
パワーアップという言葉に、俺は反応した、
「ぷ、ぷに……?(例えば、火を吐いたり……?)」
「その赤の龍玉の効能だな」
「ぷにに……?(水を自在に操ったり……?)」
「青の龍玉を使えば、出来るかもな」
「ぷにに……!?(強大な尾を振るって周囲を薙ぎ払ったり……!?)」
「緑の龍玉は、肉体を強化するものだ」
なんたる事だ……。
ぷにぷにさしか能のない俺が、あんな事もこんな事も出来るようになると言うのか!
「ぷに。(ルフェイよ)」
「なんだ、ぷにお」
「ぷに、ぷにに。(今、俺にはお前が聖母に見える)」
「そうか。しかし私には子はいない。独り身だぞ」
「ぷにー!(さっそく試すぞー!)」
そうして俺は、意気揚々と龍玉の使い方をルフェイに聞いてそれを試したが。
赤の宝玉:ほんのり体温が上がった。
青の宝玉:ほんのり体温が下がった。
緑の宝玉:ほのかに良い匂いが漂った。
「ぷにぃ!(全然意味ねぇ!)」
「ははは。まぁぷにおの弱さではそんなものだろう」
悪戯に成功したかのように面白そうに笑うルフェイに、俺は殺気を込めた視線を向けた。
「ぷに……?(なんだと……?)」
精一杯凄んだのに、何故かルフェイに頭を撫でられる。
ええい触るな! この魔性の女めが!
俺のつおい龍になれるという純情な期待を返すがいいっ!
「ぷにお、いいにおーい!」
緑の龍玉を使ったままだった俺に、シーたんが天使の笑顔を向けてくる。
「ぷっ、ぷにぃ……(くっ、シーたんの可愛さに免じて許してやろう……)」
「よく分からないが、一つやろう。どれが良い?」
「ぷ! ……ぷ、ぷに(いらんわ! ……いや、やはり緑の龍玉を貰おう)」
反射的に言い返したが、シーたんが良い匂いだと言ってくれたのだ。
緑の龍玉を使用していれば、よりシーたんが安らげるに違いない。
「緑か。良いだろう」
あっさり手渡すルフェイに、俺は一つ気になった事を聞いた。
「ぷ、ぷにぷに?(で、俺の弱さだったら、ってのはどういう意味だ?)」
「そのままの意味だ。龍玉だけでなく、呪具というものは使用者のレベルに左右される。弱い奴は弱く、強い奴は強い力を使えるという話だ」
「ぷ、ぷにに?(つまり、俺自身が強くならないといけないって事か?)」
「まぁ、そうだな。だが期待薄だろう?」
ルフェイの言葉に、俺はへこんだ。
そもそも龍は、知る限り三年も経てば体のサイズは象くらいになるらしいのに、俺はシーたんよりもちっこいままなのだ。
当然、攻撃力などお話にならない。
防御力に関しては、このぷにぷにボディ、思ったより頑丈だったが。
「まぁ、スライムの攻撃を防いだ時の魔力は中々のものだったから、もしかすると魔力の使い方に熟達したら龍玉を使いこなせるかも知れんぞ?」
「ぷに……ぷにん?(なるほど……ルフェイよ。俺に使い方を教える気はあるか?)」
「別に構わないが……」
「ぷっ、ぷに。(言っておくが、対価として解剖を要求するのはナシだぞ)」
「ぬ……少しやる気がなくなった」
「ぷに。(おい)」
「はは、冗談だよ、ぷにお」
嘘をつけ。
という言葉は、一応教えてくれる気があるみたいなので心の中に仕舞っておいた。
※※※
この後、ぷにおは様々な事件に巻き込まれて龍玉の扱い方を覚え、最終的に〝王国守護の龍神〟〝カナーロの殺戮龍〟〝辺境村の忠龍ぷにお〟などと呼ばれる事になるのだが、それはまた別のお話である。
終わり。
【後書き】
三色の龍玉:ルフェイの作り出した龍の力を込めた玉。
ぷにおが使っても、季節の枕かアロマセラピーにしかならない。