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シーたんとスライム


 朝のおやつは、リンゴに似た果実だ。

 アポーンという名前で、まぁなんというか、この世界って色々そのまんまである。


「シーちゃん、おいしー?」

「おいしー!」

「おいしーってしてくれるー?」

「おいしーねっ?」


 お母さんにせがまれて、笑顔で頬に両手を当てるシーたん。

 頬にリンゴを詰め込んでふくりと膨らませ、はふぅ、と息を吐くその様子は、とてつもなく和む。


 なんだろう、この愛らしさ。

 これが天使というものなのだろうか……。


「かんわいいー!」


 そしてシーたんのあまりの可愛さに見悶えるお母さん自身も可愛い。

 ……こんな可愛い女性が人妻などと、ちょっとお父さんに殺意が湧く。


 そんなこんなで俺もおやつを口にするが、うむ、しゃくしゃくと固い。

 私は軟弱なジョナよりもフジのがっしりとした歯応えが好みなのだ。


  おやつが終われば、シーたんはおねむの時間だ。

 寝かしつけるのは俺の仕事であるが、シーたんはすやややーっとすぐに寝ちゃう子である。

 

 シーたんが眠っている間にルフェイが帰り、その後お母さんが俺に言った。

 

「ぷにおー?」

「ぷに?(なんだお母さん?)」

「シーちゃんが起きたら、ルーちゃんのところにお礼を届けに行ってくれるー?」

「ぷに……(うぐ……)」


 なんと言うことだ。

 あのマッドな女のところに自ら赴けと?


 しかしいただいたお茶は確かに美味しかったので、礼を渡さないというのもダメではあるが。

 それなら帰る前に渡しておくべきだろう。


「ルーちゃんが欲しいって言ってたハーブをねー、まだ摘んでなかったの〜。ごめんねー?」

「ぷにっ!? ぷに、ぷにに!(ぬ!? 大丈夫だ! 行くぞ!)」


 俺が難色を示したのが分かったのか、お母さんに申し訳なさそうな顔をさせてしまった。

 まぁ、シーたんが居ればそうそうあの女が俺の体をいじり回そうとする事はなかろう。


 シーたんと二人でルフェイの家へ向かうと、その途中で珍妙なものを発見した。

 ぷるりん、とした青いゼリーのようなもの。


 毎度おなじみのスライムさんである……て、スライム!?


「ぷにぃ!(止まるんだシーたん!)」

「うゅ?」


 俺がしっぽでシーたんの手を引っ張ると、きょとんとして立ち止まる。


「ぷにん!(ここを動くな!)」


 シーたんを庇うように前に出て、俺は考えていた。

 いかに町外れとはいえ、魔物がいきなり出て来るような事はそうそうない筈だ。


 ここ最近は雑魚モンスター代表みたいな扱いを受けるスライムで、実際、成人男性ならさほど手間もなく駆除出来る程度の魔物だが。

 それでも、ネコに負ける今の俺にとっては、恐怖の権化に等しい。


 何が恐怖かって、この場にはシーたんがいるのだ。

 もしスライムがこちらに気付いて飛びかかって来たら、シーたんが害にさらされる。


「ぷ、ぷにん!(シーたん、一度村へ戻るんだ!)」


 スライムは幸い、道の先にいる。

 村に戻ってスライムが出たと伝えれば、誰かが駆除してくれるだろう。


 現状、何よりも優先されるべきはシーたんの命だ。

 にも関わらず。


「ぷにおー! おはなー!」

「ぷにいいいいいー!?(シーたあああああああああん!?)」


 シーたんは二歳の女の子、道草はお手のものだ。

 スライムが危ない事など、会った事もないので分かっていないだろう。


 だからって、尾をほどいて自分からスライムに突撃して行くのはやめてくれ!

 スライムがぴくりとシーたんに反応するのを見て、俺は決意した。


 こうなったら、もう身を挺して庇うしかない。

 俺はシーたんの突撃に追いつくと、腕を出来る限りの力で引っ張って止めた。


「ぷにぃ! ぷ!(シーたん、めっ!)」


 俺が怒ると、シーたんはびっくりした顔で俺を見て、立ち止まってくれた。

 すぐさまスライムに目を向け、シーたんの前で短い手足を広げて間に割り込んだ瞬間に、スライムが飛びかかって来た。


 大きさは俺と同じくらいだ。

 受け止めきれないと、シーたんごと押し倒されてしまうだろう。


「ぷにぃ!(させん!)」


 シーたんには一欠片の体液すら触れさせんぞ、と、俺がぐっと全身に力を込めると、体が唐突に淡く光った。 

 何だ? と疑問に思う間も無くスライムと俺の体がぶつかり……ぶつかって来た勢いそのままに、スライムが、びょーん、と元来た方に弾き返された。

 

 体を包む光は、消えないままだ。


「ぷに?(なんだコレ?)」


 まるでダメージがないどころか、衝撃すら感じなかった。

 しかしその間にスライムはもぞもぞと元の丸い形状に戻ると、体色が青から赤に変わる。


 どうも怒っているらしい。

 俺の知る某ゲーム、竜の探求の物語では赤いのはメスであり、青いオスより強い設定だったが、この世界のスライムは怒ると赤くなるようだ。


 強くなったんだろうか、と不安に思う間に、不意にスライムが炎に包まれた。


「ぷに!?(ファイヤースライム!?)」


 炎を纏うスライムなのか、と思ったのも束の間、スライムはその炎に焼き尽くされて蒸発した。

 意味が分からない。


 自爆か? と思ったが、正解はシーたんが教えてくれた。


「ルーちゃん!」

「シーラ。それにぷにお。大丈夫か?」


 振り向くと、森から木の実を入れたカゴを持ったルフェイが姿を見せた所だった。

 食材か実験材料の採取でもしていたのか、どうやらスライムを炎の魔術で焼いてくれたのはルフェイだったようだ。


「ぷに……(助かった……)」


 へなへなと力が抜けた俺が呟くと、ルフェイはうなずいた。


「こんな所で魔物が出るのは珍しいな。で、どうしたんだ?」


 俺はお礼を届けに来た事を伝えて落としてしまっていたハーブの包みを渡すと、ルフェイは木の実と一緒にハーブの袋をカゴに乗せてシーたんを抱き上げた。


「とりあえず荷物だけ置きに行こう。帰りは私も同道する。で、ぷにお。お前から守護の魔力を感じたが、アレはどうやったんだ?」

「ぷに?(魔力?)」


 あの光の事だろうか。

 どうやったと言われても、まるで覚えがない。


 シーたんを庇ったら、勝手に体が光った事を伝えると、ルフェイはぶつぶつと言った。


「なるほど。ぷにおの思いに反応したのか。……とすると、今まで魔力が発現しなかったのは外的要因の問題だな。対象者に危機が迫ったシチュエーションで、守護障壁の魔力が発現したとすると……」


 どこから見ていたのか、ぶつぶつと言ったルフェイがにこやかに俺に目を向ける。


「ぷにお。やはり一度解剖を……」

「ぷに(断る)」


 ばっさりとルフェイの発言を切り捨てて、俺はルフェイの前を飛んで彼女の家へ向かった。

 

【後書き】

ぷにぷにボディ(強):弾力のあるぷにぷにボディ。


スライムに戯れつかれても跳ね返せる。


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