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シーたんとおさんぽ。

 

 俺の日課は、朝ご飯を食べた後に、シーたんとお散歩をする事だ。

 

 お父さんは、村の畑に、お母さんは川へ洗濯に行く。

 お母さんが帰って来るまでの間、村をのんびり散策するのだ。


 この村は、カナーロ王国という国の片隅にある、ボートウの村という名前の村らしい。

 すぐ隣にクヨムー帝国が存在する、いわゆる辺境と呼ばれる村だ。


 でも、クヨムー帝国との間にはネトの森と言われる魔物の棲む森と、その奥にファポリス山脈が広がっていて、あまり脅威を感じた事はない。

 たまに現れる魔物は、村の男たちが狩ってしまうので、村そのものが襲われる事もないのだ。


 シーたんのお気に入りの場所は、家から少し行ったところにある原っぱである。

 村の中央にある広場からすぐに見えるところで、シーたんはよくそこでちょうちょを追いかけたり、タンポポやススキに似た草を引き抜いたり、土を掘り返したりして遊んでいる。


 ネコの糞などもたまに落っこちてるので、そういうのからはそっとシーたんを離れたところに連れて行くのが俺の仕事だ。

 今日もいい天気、非常にのんびりとしているが、シーたんが遊ぶのに飽きたのか、可愛い麦わら帽子的なものを脱いで俺の方に向かって来た。


「ぷに、ぷに。ぷにぃ?(日差しで具合が悪くなるから、脱いじゃダメだ。良いね?)」

 

 俺が注意しながら帽子をかぶり直させると、シーたんは大人しくされるがままに帽子を被ってくれた。

 シーたんは、とっても良い子なのだ。


 俺の手は爪すらない四本指なのだが、その程度の事は出来る。

 シーたんは、そのまま俺をだっこしてその場に座り込んだ。


「あれはー?」

「ぷに(ススキだ)」 


 これも、シーたんのお気に入りの遊びだ。

 あれは、あれは、と次々に質問するので、俺はそれに答える。


「あれはー?」

「ぷに(村長の家だな)」

「あれはー?」

「ぷに。ぷににん。(村の女の子のカリンだな。巨乳だ)」

「あれはー?」

「ぷに。ぷぷにーん。(井戸だ。カリンが水汲みをしてる)」


 そんな感じだ。

 いや、聞こえないからって好き勝手言ってる訳じゃないぞ。決して。


 別に俺の視線がたわわなカリンの胸に向いているからって、それを気にするヤツはいない。

 ドラゴンだからな。


「ぷに……(抱っこしてくれんかな……)」


 カリンの胸は心地よいのだ。

 そうこうする内に、ふと俺とシーたんの前に現れたのは村外れに住む魔法使いのおねーさんだった。

 この人は、また優し気なお母さんとはタイプの違う妖艶な美人なのだが、いかんせん性格と恰好が残念な人である。


 真っ黒な体型がまったく分からないローブに、とんがり帽子、手にはロッド。

 怪し気な女であるが、お父さんお母さんはご近所さんのよしみもあって仲良くしている。 

 

「おや、ぷにお。それにシーラ」

「るーちゃん!」

「ぷに、ぷに。(ルフェイ。おはよう)」

「ふふふ、おはよう」


 この人は、唯一俺の言葉を介す人で、本来なら会話の相手として好ましいのだが。


「ぷにお。そろそろ、私に解剖させてくれる気にならないかい?」

「ぷに。(ならん)」


 この通り、身の危険を感じるマッドな女で、あまり雑談をするのに適していない。

 どうもこの世界で、俺は異質らしくてな。


 最初に言った超強いドラゴンが、この世界でもドラゴン・スタンダードらしいのだ。

 ぷにっとドラゴンは、ルフェイが見た中でも俺が初めてらしい。


 何故だ。

 俺も強カッコいいドラゴンに生まれたかった!!


「やれやれ、君も強情だな。せっかく召喚したというのに、それでは意味がないではないか」

「ぷに?(何?)」


 今この女、何か不穏な事を言わなかったか?


「ぷにに?(どういう意味だ?)」

「そのままの意味だよ、ぷにお。ランドルフの買ってきたドラゴンのたまごに異界の魂を召喚して宿らせる実験をしてみたら、珍妙なドラゴンが生まれたから喜んでいたのに。お前はちっとも体を弄らせてくれん」


 俺がドラゴンになった理由、三年目にして求めてもいないのに発覚。

 つまりあれか。

 

「ぷにぃ!(俺がこうなったのはお前が原因か!)」

「そうだよ。何か問題が?」


 あまりにも普通過ぎるルフェイの反応に、俺は文句を言いまくってやろうと口を開き、止まった。

 

 勝手に転生させやがって、は、よく考えたら別にどうでも良かった。

 俺が死んで向こうで誰か困るのか、と言われると、葬式代を払う親くらいだろう。


 転生して何か苦労したかとゆーと、別に苦労もしていない。

 むしろ。


「ぷにおー? ぷんぷん?」


 シーたんが可愛らしく首をかしげて、むぎゅーっと抱きしめてくれる。

 可愛いシーたんが、俺を必要としてくれるこの環境に何か不満があるかと言われると、まるでないのである。


「ぷにぃ……(怒る理由がないな……)」


 村の女の子はちやほやしてくれるし、勉強もしなくていい。

 食事は簡素だが、元々腹が満たされれば良いタイプだしな。


 むしろ転生して幸せだった。


「そうだろう? という訳で解剖させてくれ」

「ぷに。(それは断る)」

「かーたん!」


 シーたんの声に家の方を見ると、お母さんが洗濯を終えたようで、洗濯樽を抱えて歩いてくるのが見えた。


「ぷにぷに。(お母さんが帰って来たので、また今度な)」

「うむ、と言いたいところだが、今日来たのはシルヴィアに茶葉を届けに来たのだ。王族御用達の良いものが手に入ったのでな」


 辺境に住んでるマッドサイエンティストのクセに、何故そんなモノを手に入れられるんだ?

 という疑問はとりあえず胸に秘めて、俺はふよんと浮き上がると、シーたんの手を取り、ルフェイと共にお母さん(シルヴィア)の元へ向かった。


 お母さんの洗濯が終わると、俺とシーたんは朝のおやつの時間なのである。

 


【後書き】

ぷにおアイ:きゅるるんと可愛らしいお目々。


主に女性の胸元に向けられているが、それを嫌がる女の子はいない。


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