黒死
マルクト・マリア・リゼッタ
《マグスの商人》
詐欺紛いの商売で各地を渡り歩くマグスの商人。
顔を包帯で隠す遠征逃亡騎士を名乗る。名家の次男坊で、身なりがいい。
非常に耳に心地いい声を持つ。
逃亡騎士
獣の毛皮と燻んだ鎧を纏う大男。非常に無口。声は枯れ木が軋むようなかすれ声。獣の呻きなどと形容されることもある。
魔物由来の品を扱う行商だが、儲けに関心がなく、ある目的の旅の為の路銀を稼ぐにとどまる。
剣を帯びるが、決して抜かない。荒事になろうと身1つで切り抜ける腕っぷしを持つ。
ダニア
ハミルトン修道院に勤めながら、マグスの商人相手に情報屋を売る不良修道女。
マルクトの早い帰りに怒る。
ローハイド
ハミルトン協商貴族お抱えの行商長。
ドワーズ
逃亡騎士に目を付けて付きまとう小物の行商人。
《黒死》
オーク・テノールを越えた先、険しい東テノール渓谷の村に差し掛かったころ、弓鳴りケーネス卿が死の匂いを嗅ぎ取った。
村を川上に持つ小川は鮮血に染まり、村には死んだ魚の様に白く血の気のない死体が山のように積み上がっていた。
谷間の村の奥の穴蔵、異教の神の祠に隠れる惨めな獣を一行は見つけた。
獣は《死》であった。黒竜の災厄による死がこの谷間に滞留し、腐りかたまった魔物であった。
白王は「村を噛み殺したのは貴方か」と問うと、獣は「相違ない」と唸った。
弓鳴りケーネス卿が弓を射るも、その痩せた身体は弓を逸らす。
聖マテリエ公と聖隊の祈りも、汚らわしい呻きに掻き消される。
白王が最期に白剣を抜き、這い逃げる《死》の背を突く。
しかし、《死》は苦しみもがくだけで、決して死ななかった。
《死》は白王ですら殺せぬ摂理であった。かくして、白王ですら対面した《死》を殺せず、命はいまだに死に囚われている。
しかし、聖マテリエ公はこれを野放しにすることを許さず、鎖をして引き回したという。
かくして巡礼の一行の先に待つ敵には死が降りかかり、黒竜に応じて西に進んでいた魔物達の多くは死に絶えたのだった。
白王巡礼 第六編13節『黒死』より