〆
「このあほぉが!!」
気が付くと、布団に寝かされていた。
「出歩くなと云ったはずだぞ!」
「……ぁ…あ」
「まぁ陰陽師殿もお気を鎮めて……あぁ、起きてはなりませんぞ?」
陰陽師と老僧が彼を覗き込んでいた。
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「夜中に知らせが来たのだ」
陰陽の友は苦虫を噛みながら床に伏す僧侶に言った。
「俺の結界を無視して現れた。身振り手振りでお前の事を知らせたのだ」
「……だ、れが…」
「魍魎だよ。お前、駄賃に肝を半分喰われてるからな?」
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後年、彼は得度を得て正式に僧侶となった。
冬は斬られた傷が疼き、夏の暑い日は疲れが溜まった。肝を半分失ったせいかもしれない。
それでも作務・修行は真面目にこなし、老僧亡き後も庵の様な小さな寺で暮らした。
化野にはもう足を向けていない。
それでもふと、あの屍臭のする草の波を思い出す。
彼の肝を喰った魍魎はどうしているのか。
半人前の僧侶の肝を半分。格があがったのかもしれず、あれ以来姿を現さない。
いや。格など魍魎には不用だろう。
きっと今もあの古堂のそばでされこうべを転がして無邪気に嗤っているのだ。
「お師匠様ぁ、作務が終わりましたぁ」
最近弟子をとった。
「うむ。では共に経を読もう」
「あい」
まだ幼さの残る小僧であるが、彼の話をよく聞き、修行に身をいれている。
「お師匠様ぁ、この文字が解りません」
「ん?どれ…」
ただ、時おり…
…光の加減か、小僧の瞳が赤く見えるのだった。
──────終。