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七、獄楽浄土

 夜明け前には、山頂に到達することが出来た。

「さあ脱げ楽運。汗を流そうじゃないか」

山頂には、温泉が生まれていた。

地より湧き出る高温の水は、わたしに釜茹で地獄を連想させる。

やはりこの国は、着実に煉獄に近付いていく。

「永、いつのまに服を脱いだのですか」

どうやらわたしにおぶわれつつ服を脱いでいたらしい。

永はこの手の奇怪な技をいくつも持っている。


 永がわたしの服を手ずから脱がそうとするので、わたしはされるがままにしておいた。

「なるほど、良い具合に育ったな!」

わたしの身体を見て永が笑う。

むくれてみせると、「腕がだよ~」といやらしい目つきでわたしを見返す永。

たしかに失った腕はとっくに元通りになっていたが、腕のことなら「治った」というべきであろう。

 温泉に浸かって尾根を見やると、丁度朝日が昇るところだ。


 この国に、また朝が来る。


 新晴暦六三九年。日本は鎖国した。

それから二〇〇余年。日本は鎖国を貫き通し、閉ざされた国として在り続けた。

曙の空には、日本を外界から隔絶するヤマト天蓋がキラキラ輝いて見える。

この鎖国はかつてあったとされる鎖国と違い、物理的に完全に遮断された徹鎖国だ。


「ねぇ永。本当にすべてのオバケを斃したら、鎖国は終わるのでしょうか」

「さあねえ。そんなのは迷信だろう? それも、アルハ一門の中でしか通用しないタイプのな」

 唾棄するかのように言う永だったが、割と真剣にそれを信じているわたしは内心気を落としてしまう。永は、鎖国が終わり外の世界への道が開かれることとを夢見たりはしないのだろうか。

「けど、仮にそうなったとしたらおれたちもオマンマの食い上げってわけだ」

そうなる前に、しっかりと見とけよ。


と、永の指差す天には、日本を鎖国たらしめている拒絶シールドがある。

――なるほど。

朝焼け、有明の月、そして天蓋の星空。 わたしにはそれが、世界のあらゆる時間を束ねて織り上げた錦のように見えた。

たしかに、見る分にはとてもキレイだ。


 OBAKE HUNTER GIRLISH #1 

    壺中煉獄-The Infernal Biotope-   了



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