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執事の夢か現か

作者: 秋鷽亭

慶長3年8月18日、成りあがって天下人となった豊臣秀吉が死んだ。

その知らせを聞いた石田三成はショックのあまり昏倒した。

家臣達が屋敷に移動させ寝かせ、翌日眼が覚めることになる。


「此処は……あれは夢か」


天井を見ながら三成は呟いた。

しかし、記憶を呼び出そうとすると覚えのないことまで記憶に残っていた。


「私は誰なんだ……私の名前は、師直、高師直のはず、いや、石田三成か」


呟きながら、三成は起き上がり禅座禅を組んだ。

一刻ほど、禅を組頭と記憶を整理する。

信じることはっできない状況ではあっても、現実から目を背けるほど愚かではない。


「そうか、私は一度死んだのか。義詮様を残して……直義殿に裏切られるとはな、最後は分かってくれると思ったんだがな。愚かな者たちの口車に乗ったために、みじめな最期だったようだな」


三成は目をゆっくりとあけた。


「心血を注いだ足利家は没落し、幕府もなくなった。そして、また、幼君を支えることになろうとはな。今世の私も同じことを繰り返しているようだな。結局、一門や譜代を離反させて、敵を有利にさせている」


自嘲の笑いを浮かべながら顔を振った。


「だが、馬鹿な連中よ、家康に踊らされているのに気が付かない、分かっていて豊臣内部を分裂させる……だが、家康は決して信用する事はないのに……」


立ち上がりふすまを開けて、月を見上げる。


「心残りだったが義詮様は将軍職を継がれたことは肩の荷が下りたが、今度は秀頼様か……現状では難しい、家康に匹敵するはずの利家は既に体が蝕まれている。対抗すべき大将がいない」


ふと人の気配がして、廊下の先を見る。


「兄上か」


人影が頷いた後、三成に近づいてきた。

近づくにつれ、三成の知っている正澄の温和な気配ではなく、気迫の籠った雰囲気をまとっていた。

それは、前世で知っている人の者であった。


「兄上」


「三成」


呼び掛ける兄の声は、文人ではなく、武人の声の強さを三成は感じた。


「……何でしょう」


「問いたい、お主は三成か」


「その通りです」


「そして……師直か」


正澄の問いかけに、眼を見開いて見つめ返す。


「師泰兄上か」


三成の言葉に、強く頷き返す。

眼をつむり三成は下を向き、顔をあげて正澄を見る。


「これはいったいどうしたのだろうか」


「胡蝶の夢かもしれんな」


正澄の言葉に、ふふふと含み笑いを三成はした。


「それで、どうする」


「ん、兄上のたるんだ体の事ですか」


「それは……まったく、今世のわしは鍛え足りぬな」


「私も同じですが」


二人は顔を見合わせて、笑いあった。


「秀頼様をお助けするしかありますまい」


「そうか」


「手伝ってくれますか」


「当り前であろう、だが、同じ失敗は繰り返せぬぞ」


「分かっています。清興や忠康、後は吉継も呼び策を練りましょう」


「吉継殿は家康殿に近いぞ、大丈夫か」


「あいつは腹を割って話せば、協力してくれます」


「分かった、お前を信じよう」


三成は力強く頷いた。


「では、前世の雪辱を果たしましょうか」


「ああ、そうだな」


二人は手を取り合って力強く頷きあった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] これはこれは! 素晴らしい。
[良い点] 個人的に生まれる時代が早すぎたと思っていた男がまさか……まさに的確な時代に、それも的確な男になったと思いました。 [一言] 短編で終わらせるには惜しすぎる……続きがあったら是非読みたいです…
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