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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
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2-43.J.B.(24)Warm It Up.(準備体操)


 

「あかん! もう、ダメ! こんなん、凄すぎッ……!! もう、もうあかんてェ~!」

「はい、はい、泣き言言わない。突き、突き、はいそして下、それから右」

 アジト外に造られた運動場に響くのは、カッカッカッカと小気味良い木のぶつかり合う音。

 模擬戦用の木剣での打ち合いだが、アデリアは数回剣を合わせただけでもう根を上げている。

 いや、根を上げているだけならまだ良いが、些かその声音には媚びを感じる。

 

 最初に会った、ボートの上で岩蟹に襲われていたときもそうだが、負けん気はあるものの圧倒的に地力が足りない。

 恐らくちゃんとした戦闘訓練を受けたことは無いだろうし、仮にあったとしても適当に手を抜いて流していただろう。

 構えもだめ、姿勢もだめ、まったく全てがなってない。

 あくまで勝負ではなくテスト。俺は足捌きを使わず手先だけで相手をしてるが、文字通りに「片手間」に相手が出来る。

 

「な、な? 女の子相手に、そんなムキにならんと、な?

 相手はか弱い美少女やん?」

 力の緩んだ瞬間を見逃さず、俺はアデリアの木剣の根本に近い辺りを強めに打ち据える。

「ひゃあ!?」

 木剣を握ってた手が痺れたはずだ。そこで再び横に強く払い、木剣を取り落とさせた。

 

 

「はい、じゃあ端に寄って。

 次、ダミオン」

「は、はい! よ、宜しくお願いします!」

 相変わらず折り目正しい返事だ。

 

 泣き言を言いながらアダンにすがりついてるアデリアを運動場の端へとおいやり、次に木剣を構えるのはダミオン・クルス。

 痩せてはいるがそこそこ鍛えられたしなやかな体つきに、短く刈られた頭髪がまた爽やかだが、年の割にやや骨太な顔立ちには緊張の色が濃く出ている。

 構えも堂に入っているし、全員に渡して身につけさせた革鎧にドワーフ合金製の兜も様になっていて、よく修練を積んできたのが分かる。

 

「行きます!」

 真正面からの鋭い打ち下ろし。

 それを受けると、素早く手首を返し右袈裟へと変化。

 肩口狙いのそれを上体だけの体捌きでかわすと、一旦引いて体勢を整え連撃。

 素早く、力強い。

 数回の打ち合いで、俺の受けをかいくぐって打撃を入れだすダミオン。

 なるほど、本当に良く鍛えている。

 

「よし、ダミオン、次の段階だ。

 こっちからも攻めるぞ!」

「はい!」

 

 受けた木剣を切り返し、素早く数回突き入れる。

 当てる気のない牽制の突きだが、ダミオンは律儀に反応しそれを受けた。

 もう一度やや強めの攻撃を入れると、対応しきれず上体が仰け反る。

 再びこちらが大きく上段振りかぶってみせると、両手で木剣を構えて上体の受けをしようとし───、


「うわっ!?」

 

 膝から崩れる。

 

 俺は上段の攻撃と見せかけて守りを誘ってからの、ローキックを放ったのだ。

 ダミオンはかなり真面目に剣術修行をしていたらしい。

 叔父であるイシドロに憧れ、それで探索者にも憧れた。

 だが、あまりに純粋で素直すぎる。

 だから簡単なフェイントにもひっかかる。

 

 再び数回、フェイントや変則的な技巧を交えて対応すると、やはりダミオンはそれらへの有効的対処方も心構えもまだ出来て居ないようだった。

 ガエルの言ってた「現実を見せてやってくれ」とは、このことを指しての事だろう。

 子供がプロバスケットプレイヤーに憧れるかのように、「かつてのイシドロ叔父さんのような強い探索者」に憧れている。

 けれども遠目に見る理想化されたそれとは異なり、実戦では卑怯卑劣な戦法戦術に、いやらしい心理戦なんかも必要になる。

 バスケのスタープレイヤーでも、ルールすれすれの手をいつでも使えるようにし、そしてそういう手を使われたときの対処方も考えて居るように。

 

 俺は数回の撃ち合いの後に、体勢の崩れたダミオンの側頭部へと木剣を添えて、

「よし、ここまで。

 じゃあ次、ジャンヌ」

 ダミオンを下がらせジャンヌの番。

 さーて……こいつが一番、どうなるかが読めない。

 

 ◆ ◇ ◆

 

 ジャンヌが探索者になる、という話が出たのは数日前。

 まずはこの新しく改装していく地下街の一部を、ジャンヌやメズーラたち孤児グループに格安で貸す、という話からだ。

 

 周辺を改装し、新しく雇う連中の居住区にする。

 と同時に、そこからさらに外側の区画もある程度の整備、改修をし、そこそこ付き合いのある、そこそこ信頼の出来る宿無し連中に使わせてやろう、ということになってる。

 まあ、今、アジトの中に居るのが一軍。

 新たに雇う連中が二軍。

 で、その外側に住まわせる連中が三軍、と言ったところか。

 

 二軍にしても三軍にしても、そいつらに一番に求めるのは「怪しい奴の監視」だ。

 普段見かけない奴、妙な動きをしてる奴の情報を探らせる。

 二軍までは防衛戦力としてもそれなりのものを求めるが、三軍はたまの臨時雇いと監視役。最低限の衣食住を保証した上で、有益な情報には特別手当を出す。

 まあその中から実力や信頼性から、引き上げて二軍入りさせることもあるだろうけど、とりあえずはそれだ。

 

 で、その中核として、旧商業地区で付き合いのある中で一番信頼が出来、かつ情報収集に向いているジャンヌ達のグループを置こう、というのを、ブル、マルクレイ等に提案したワケだ。

 ブルもマルクレイも、俺が元々ジャンヌ達の孤児グループに居た事を知っている。

 それに俺が定期的に連中に薬と食い物を届けてるのも知っている。

 というより、そもそも俺がシャーイダールの探索者となった理由が、ジャンヌの“病気”にあることも知っている。

 

 ジャンヌが例の「体中に瘤や歪みが出来、痛みで動けなくなる」状態になったのは、俺が犬獣人(リカート)の奴隷から逃れ、死にそうになりながらクトリアへとやってきて、成り行きでジャンヌ達と暮らしだして半年近く経った頃だ。

 元々ジャンヌにはその兆候があり、何度か発作も起きていたらしいが、本格的に動けなくなるほどになったのはこのときが初めてだった。

 勿論、当時はそれが、ピクシーのピートが言う“魔力瘤(まりょくりゅう)”だということも知らなく、ただただ「原因不明の病気」としか認識していなかった。


 金が必要だ。薬を買えるだけの金が。

 そう考え、日雇いの仕事をいろんな場所でした。

 ヴァンノーニファミリーの『銀の輝き』や 王の守護者ガーディアンズ・オブ・キングのヤレッドなんかと縁が出来たのもこの頃だ。

 そしてアダンと知り合い、ハコブのテストを受けて、“シャーイダールの手下”になることが出来た。

 

 シャーイダールの手下になる事を決めたのには、勿論金もある。だが一番の理由は、シャーイダールが錬金術の魔法薬を作れると聞いたからだ。

 魔法薬を安く買わせてもらうか、自分で作り方を学ぶか。

 原因不明のジャンヌの症状をなんとか緩和するためにも、二月に一本は魔法薬を使う必要があった。

 

 だが、ジャンヌは異様なまでに気位が高い。

 ただの“施し”であれば、それは絶対に受け取らない。

 だから俺は、情報集め等と称して口実をつけて頼み事をしていた。仕事への対価。そうでもしねーと、意地でも受け取ろうとしない。

 

 そのジャンヌが、探索者が足りなくなってると知って真っ先に俺のところへとやってきた。

「借りを返させろ」

 と、そう言って、だ。

 

 ピートによるジャンヌの“魔力瘤”の治療に、俺によるメズーラ奪還。そして新しい住処の提供。

 これらへの借りを返させろ、と。そう言うわけだ。

 

 

「いつでも良いぜ」

 先々週には死にかけていたとは思えない程の佇まいで片手に剣をぶら下げて立つ。

 

 真面目な話、ジャンヌは強い。

 この街に来て当初、生きる目的も気力も見失って居た俺だったが、偶々メズーラがタチの悪い酔っ払い共に襲われていたのを助けてやった。

 亡くした妹の面影を見たから。生きる目的もなく捨て鉢で、いっそその酔っ払いに殺されても構わねえと思っていたから。

 多分そのどっちもだろうし、挙げようと思や理由はいくらでも挙げられる。

 ただ血反吐を吐きつつ酔っ払い共を追い払ったときに、他のガキ共に呼ばれてメズーラを助けにきたジャンヌに問答無用で殴り飛ばされたのが最初の出会いだ。勿論、俺がメズーラを襲ってたチンピラだと思った誤解からなワケだが。

 

 で、その頃のジャンヌは俺よりも強かった。

 まだ“魔力瘤”の症状も慢性化してなく、たまに激痛の発作があるくらい。

 その時も「助けられたのに間違えて殴り飛ばしたことの借りを返す」と、奴らのねぐらで世話になることになったんだが、それ以降に見たジャンヌの振る舞い動作その他諸々、どれも「美しさ」すら感じるほどに強かった。

 あれだけの力があれば、1人で探索者になるのも可能だったかもしれない。

 “金色の鬣(こんじきのたてがみ)”のホルスト同様、ティフツデイル王都に行けば剣闘士として名を挙げることも出来たかもしれない。

 だがジャンヌは、他のガキ共を守ることを最優先にしていた。

 

 

「まずは、他の二人と同じだ。

 俺はここから動かず、受けるだけ。

 自由に打ち込んでこい」

 

 この条件で、アデリアは一撃もマトモに加えてこれず、ダミオンは打ち込みは出来ども打ち合いでは実戦経験不足という弱味を見せた。

 ジャンヌは───

 

  挿絵(By みてみん)

 

 一閃。

 

 気が付いたときにはもう数回打ち込まれ、俺はなんとかそれを防ぐので精一杯だ。

 

 おいおいおいおい! お前本当にこの間まで死にかけ肉人形みてーになってグエグエ呻いてた奴かよ!?

 ジャンヌの剣筋は、一言で言えば獣。とにかく勘と速度と手数で攻める、術理も技法も糞もない。

 いや、事細かに見れば何らかの訓練手ほどきを受けたと思えるような部分もある。

 だがそれ以上に天性と思えるような体捌きにバネ。

 糞。ここ2年でかなり腕を上げたと思ってたのに、病み上がりのジャンヌにすらこの様かよ!

 

 右を防げば左に来て、上を守れば下が攻められる。

 防御の木剣はギリギリ間に合うか間に合わないか。

 そうこうしてるうちに一撃、二撃、さらに……と来て、思わず受けてからの跳ね上げで、そのまま打ち込んでしまう。


「あ、ヤベ……」

 

 打ち返さないと宣言してのテストで打ち返しては意味が無いし、そりゃあマズい。

 

「スマン! 今のは、アレだ、その、つい身体が勝手に……っつーやつだ!」

 

「じゃあ、“次の段階”だな?」

 

 ジャンヌは間を置かず攻め立てる。

 調子の上がった剣速はますます速くなり、こちらも打ち返すが手数で負ける。

 

「いや、さらに次の段階!

 足も使うぞ!」

 

 動きを止めての剣捌きだけじゃまるで対応できない。

 俺は後方へ飛び退きざまに横凪ぎに一閃、間合いを取る。

 直線的に突っ込めずに左へ回り込むジャンヌは、低く身体を落としながら絶妙な位置関係を保ちつつ牽制。

 やや体格がある分腕も長い俺が足を使えば、間合い取りの有利さは各段に上がる。だがジャンヌの速度はそれを許さない。

 

 俺も元々体格腕力の力業でゴリ押しするタイプじゃない。

 前世、そして今世の経験で得た技術と体捌き。それと“入れ墨魔法”に、最近で言えば“シジュメルの翼”等々の合わせ技。

 今はその後半をまだ使っていないが、このままだとその次の段階へと持ち込まれるのも時間の問題……と、そう思われた、が。

 

「へッ……まだまだ……全ッ……然……、余裕……だぜ」

 

 次の段階へと進むより早く、ジャンヌのスタミナがガス欠を起こしたようだ。

 考えてみりゃあ無理もねえ。

 “魔力瘤”の症状が常態化して、ほとんど動き回れなくなってから長い。薬で症状がマシになったときは問題無く動けたが、そうでない日はいつ発作が来るかも分からず動き回れない。その期間に失った体力は、そうそう簡単には戻らない。

 というか、ピートによる浄化で魔力瘤に蝕まれた状態そのものからは回復したが、筋力も身体を動かす感覚なんかも当然衰えてるハズだろうに、そっちには目に見えた劣化が無いってのがそもそもおかしい。何なんだよコイツは。

 

「……よし、とにかく、実技のテストはこれまで」

 

 スタミナ切れのジャンヌを含め、全員を改めて整列させ、総評へと入る。

 

 ◆ ◇ ◆

 

「まず、アデリア。

 実技以前の基礎体力テストも含めて、全く話にならん。

 身体の動かし方から全部やり直せ」

「ヒドい! あんまりやん!?」

「そうだ! アデリアちゃんの可愛らしさは宝だぞ!」

「黙れ色ボケ糞しゃくれ」

「ヒドい!」


「まあ、計算も出来る、見た目も小綺麗で、旧商業地区の貧民共とは明らかに違う雰囲気があるから、新しい貴族街との取引じゃあ助手に使えるかもしんねえな。

 後は、黙るべきときにちゃんと黙れるようになることと、ひでえ訛りと口調を直せりゃあ、だな」

「じゃあブル。お前付きの見習いにするか?」

「ああ、いいぜ。鍛え甲斐がある」

「やった! 素直! 謙虚!  感謝! マジックやん!」

「……お前ほど“謙虚”って言葉の似合わん奴もいねェわ」

「へっへー、やったな、アデリアちゃ~ん!

 いつか一緒に探索しようぜー!」

 

 ちっ、アダンめ浮かれてやがんな、この色ボケ低脳しゃくれ野郎め。

 

「アダン、釘を刺すぞ」

 浮かれてるアダンに向き直ってそう言う。

「お前、アデリアにどんな調子の良いこと言ったか分からねーけどな。いいか、真面目な話、今のアデリアに背中を預けられるか?」

「あ? な、何だよ急によ。

 そりゃあ、お前、まあ、その、何だ。

 お、俺がこの盾でばっちり守ってやっからよォ~」

 

 そのアダンの言い分に、ブルもニキも俺と同じく呆れ顔で答える。

「は? つまりアンタ独りで敵を全部倒してやるってか?」

「盾で前の敵を抑えながら、後ろからの敵も倒せるンかよ?」

 背中を預けるということは、背後の敵を任せるという事だ。

 ど素人を背後に抱えるのは「任せる」とは言えない。

 

「そ、そりゃ、その、何だ……」

 しどろもどろになり口ごもるアダン。

「お前の性格だから、どうせ酒飲んで調子良くなったときに、

『え? 何? アデリアちゃんも探索者やりてーっての?

 大丈夫、大~丈夫、俺に任しとけよ!

 危ねーときには、俺がちゃ~んと、守ってやっからよォ~!!』

 ……とか、そんな感じで安請け合いしたんだろ?」


「うぐ……」

 図星だな、こりゃ。

 

「うーわ、似てる……」

「言いそう。てか言ってる、絶対」

「ほんまや! ほぼそのまんま言うてた!」

 

 女子連にも好評な俺のアダン物真似、顎のしゃくれ付き。

 いやまてアデリア、何故お前まで笑う?

 

「で、アデリア!」

「え、え、何?」


「お前の目的に向かって真っ直ぐなところや、そのために手段を選ばない姿勢は、それ自体まあ悪くはねえ資質だ。

 けどな、アダンの与太を真に受けて、“背中で守ってもらおう”なんて考えで探索者になろうってんなら、考え直せ」

「へ!? な、な、な、何言うてんのよ!? そ、そんなん別に思うてへんわ!」

「だったら、何でも良いから自分の特技を生かす方法を探せ。

 別に探索者じゃなくても良いなら、ブルの下で取引や商売を学んでも良いし、マルクレイやオッサンに鍛冶修理細工物やらを学んでも良い。

 男をおだてて唆して巧いこと利用してやろうっ……てんじゃなくてな」

「お、お、お、思うてへんて、そんなん!」

 

『習イたい ナラ 教えル』

「うひゃう!? え、何!?」

 ここに来て初めて喋ったマルクレイの、風魔法の応用で造られた魔装具による特殊な声に驚き慌てるアデリア。

「あ、ああ、マルクレイだ。

 マルクレイの声はイベンダーのオッサンの作った魔装具で出てるんだよ。

 変わった声だが、ま、慣れろ」

「うっそ、ほんま!?

 うっわァ~、師匠ほんまにスッゴいもん作るんやなァ~」

 

 この切り替えの早さも、ある意味長所か。

 何にせよ、アデリアの立場はブル付きの見習いにする、ということで落ち着いた。

 

 

「次、ダミオン」

「はい!」

 

「基礎体力、基礎剣技等はまあ合格か。

 地力を上げつつ、実戦的な技術や立ち振る舞いを覚えて、それから探索者としての心得だな。

 アダン、ニキ。他は?」

「ああ? んー、そうなー。

 体格はまだ成長期か? なら、色んな事を試して、自分に合う戦い方を探す段階かねー。

 あとはハコブの判断次第だな」

「投擲や射撃も試してみないとね。そっちはアタシが手解きできるし、明日から訓練しよう」

 

 まずは探索者見習いから。

 それとクルス家の習いとして鍛冶細工物に建築の基礎を学んでるので、マルクレイの下で鍛冶見習いもすることになる。

 

 

 で、ジャンヌだ。

 

「体力作りだな、まずはとにかく」

 戦闘のセンスなら群を抜いているが、いかんせんスタミナが無い。必要なのはリハビリだ。

 それに小柄で体格の利が無いから、大型の上位ドワーベン・ガーディアンには押し負けるだろう。

「盾役はまあ無理だろうなぁ。体重が軽すぎる」

「索敵は経験がモノを言うしねえ。正直、今の状態だと、警備としては合格でも、探索者としては色々足りないものが多すぎかもね」

 

 そう。ジャンヌの戦士としての素養は群を抜いているが、探索者は必ずしも優れた戦士である必要はない。特にチームでやる場合は、だ。

 ハコブ班のダフネや、元ジョス班のアリックも、戦士としてなら未熟も良いところだが、ダフネには鋭い観察眼にドワーフ遺跡の知識、アリックには罠外しや鍵開けのスキルがある。

 対人戦闘の基礎能力の高いジャンヌではあるが、探索者としては課題が多い。

 古代ドワーフ遺跡で戦うのは、主に大小様々なドワーベン・ガーディアンだ。対人戦闘技術がそのまま応用出来る訳じゃあない。

 それらを含めた上で、適切な戦術や役割を見つけ出す。

 

「で、どーすんだよ?」

 顎を掻きながらそう結論をせかすジャンヌ。

「ま、探索者見習い……そして、戦闘、探索……何よりもハコブかマーランに“魔術”の手解きを受ける必要があるなあ」

 

 魔術の手解き。何よりまず魔力を循環させ体外と繋げることが出来るようにならなければ、いずれまた、魔力飽和が起きて魔力瘤の症状に苛まれる。

 ピート曰く、「一般的な人間のもつ魔力適性からするととんでもないレベル」で魔力を溜め込んでしまう体質なんだとか。 

 俺が“魔力瘤”という、体内に魔力が飽和して起きる症状があると知ってからも、ジャンヌの症状がその“魔力瘤”だとは気が付かなかったの理由の一つもそれだ。

 “魔力瘤”というのは普通、修行中の魔術師見習いが急に魔力適性を上げてバランスを崩したときの一時的な症状か、かつての邪術士による“魔魔人(ディモニウム)”作り実験の失敗や、魔力溜まり(マナプール)により起こされるもので、そこらの孤児がそうなるなんてことはまず考えられない。

 ごくまれなケースとしては、濁りの強い魔獣肉を長期間食べ続けることで発症する……ということもあるらしいが、たいていの人間はあそこまでの症状がでる前に腹を下し、それでも食べ続ければ急激な魔力飽和で死ぬ。

 ジャンヌのそれは、魔力適性が異常に高く魔力をため込みやすいが、それらを制御する術を全く学べないでいたという特殊な条件で起きたことだそうだ。

 

 何にせよ、ジャンヌには魔術師としての素養があるのに間違いはない、というのがピートの見立て。

 そこを上手く伸ばせれば……てなところだ。

 

 

 今日のテストはこれで終了。

 他にも、探索者志望は今の所少ないが、警備役にしろ下働きにしろ、新しく傘下に入りたいと言う連中はまだまだ居る。

 そいつら全てを選別して篩にかけるのはまた別の日に。

 今日のところはひとまず帰ってもらい、見習い用の部屋を用意してから改めて……ということに。

 

「いやいや、待ってえ! アタシ今日、どこで寝ればええのんよ?」

「知るかよ。『牛追い酒場』の二階でも借りろ」

「そんなお金持って来てへんもん!」

「……またかよ。持ってこいよ。学ばないやっちゃなー」

 やいやい煩いアデリアに、

「じゃ、じゃあさ。お、俺の部屋に、泊まってく……てな、どうよ?」

 ……露骨にキモい誘い方をするアダン。

 

「……キモいな」

「あり得ねーわ……」

「あー、流石にちょっとォ~……」

「ドッゲェ~~~~~!!」 

 あ、死んだ。

 

 結局、「勝手に動き回らないこと」を絶対条件にして、今回だけはニキの部屋に泊まらせてやることにした。

 ま、明日には間に合わせの見習い部屋の用意が出来るだろう。

 ナップルの扱いをもう少しなんとかしておかねーとな。基本はマルクレイとブルが交代で見ているんだけどよ。

 

 さて。

 一通りの諸々を片付けたら、明日か明後日には地底湖の探索をするために、またボーマ城塞へ行くことになりそうだ。

 


 


 一応一区切り。

 

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