2-42.J.B.(23)Groove Me.(巧くハマるぜ!)
「んでよ。そっから先がまーすげーの。
中位のガーディアン20体くらいか? 前後左右どころか上からもだぜ?
マーランは縮みあがるしよー。ハコブはデカい魔法の準備に入るけど時間かかるだろ?
そんで俺っちの出番ってワケよ。
前衛で盾を使い、雄牛型の突進をはね飛ばし、蜘蛛型を叩き潰し、後衛で焦るダフネを庇って負った名誉の負傷がこれよ」
アジト周辺の修復作業もそこそこに進み出して数日後のある日、昼にもならんウチに一人「連絡事項アリ」と戻ってきたアダン。
そのアダンがやかましく喚き立てる「大活躍」は、だいたい八割方は盛ってる。
コイツの話は嘘、大げさ、紛らわしいのが信条なので、かなり割り引いて聞かなきゃならねえ。
「あー、そんで。
結局どうだったのよ、最終的に」
一々そのフカシに付き合うのも面倒くさいので、話の要点をせかす。
「んー?
まあ、なかなかの成果だぜ。
……これとか、な」
ニヤリと笑いながら取り出すのは、奇妙な形の盾。
所謂カイト形、長方形の下に三角形を付け足した五角形の盾は、本来なら前面が膨らんだような凸型に湾曲しているはずが、僅かだが反対に、前面の凹んだ湾曲をしている。
これでは相手の攻撃を受けたときに軌道を外に逸らすのではなく、内に引き込んでしまう。
つまり、受け流しが出来ない。
「何だこりゃ? 変な形だな」
形も妙だし、形状も変だ。
真ん中から五角の角に向かいドワーフ合金の骨が伸びている。
それでその先端に、恐らくミスリル銀の飾りがあり、小さめの魔晶石が添えつけられていた。
本体は革張り。裏面は木だ。
攻撃を受け流すどころか、ナイフで突かれただけで破れそうに見える。
つまり、これは盾というよりは盾の形をした魔導具の一種……ということなんだろう。
「へっへっへェ~。
おめーに自慢したくッてよ!
ハコブに頼み込んで預からせて貰ったのよォ~ン!
ま、チームの盾使いっつったら俺だから? いずれは俺のもんになるのは間違いねーだろーけど?」
よほど嬉しいらしく、金色に輝く盾を撫でさすり頬ずりし、仕舞いにはキスまでしだしそうだ。あ、今した。
「何だよ、気持ちわりーなあ。
で、何なのよそれは」
「おう、百聞は一見にしかず? だろ?
ちょっくら試してみんべ?」
盾を左腕に備え付け、すっくと立ち上がるアダン。
「うえっへっへ、見せてやんぜー?」
「キモいな、お前」
「うえっへっへ、ついてこいやー」
「かつてない程にキモいな」
元々おかしいがさらにおかしなノリになったアダンは、食堂から下の階へと向かう。
仕方なく後を追い、俺達が訓練場として使っているホールへと行くと、一方に寄って俺へと向き直り、
「よっしゃ! あー、もうちょい離れろ、うん、ああ、そんぐれーか?
んでよ。“シジュメルの翼”の、魔法の羽根飛ばすヤツ、あんだろ?
あれを俺に向けて放ってみてくれよ」
「おいおい、ありゃ確かにそんな威力のある魔法じゃねーけど、それでも投げナイフくれーの威力はあんだぜ?
当たりどころ悪けりゃかなりの大怪我になんぞ?」
「だーいじょぶ、大丈夫。
ほれ、ちゃちゃちゃーーっと、やってみんさい!」
何か妙ーに自信ある態度で言う。
……どーも、アダンのこういうときの態度は信用出来ねーんだけどなー。
まあ言い出したら聞きゃしねえし、取りあえず“シジュメルの翼”に魔力を流して起動をさせ、魔力の翼を展開させる。
「じゃあまあ、取りあえずやるぞー?」
「おーう! 来い来い来い来い! かかって来いやーオラァ!!」
何のテンションだよそれ、と呆れながら、なるべく身体の端っこの方に狙いを定めて───、
「いくぞ───」
───光った。
その光は魔力の迸りだ。
所謂【魔法の盾】というヤツか?
そう思った瞬間、
「おおわっ!!??」
俺の放った 【風の刃根】の幾つかが、俺のすぐ近くへと飛来し後ろの壁へと突き刺さる。
「……てンめェ~、何しゃーがる!? 危ッぶねェだろ!?」
アダンへと高速で走り寄り胸ぐらを掴む。
「うへッ! 悪ィ悪ィ!」
くっそ、へらへらしやがってコノヤロ~……!
どういう原理か、なんてのは俺が考えたところで無駄なこと。
何にせよこの奇妙な盾は、構えると所謂【魔法の盾】と同じような魔力による防壁を展開し、この盾で魔法攻撃を受けるとそれを軽減、無効化した上、いくらかの確率で相手にその魔法攻撃を反射することが出来るらしい。
物理的防御力を度外視した魔法依存の防御能力ということになるが、非常に軽い上、この盾自体にも強化、保護があるので、通常の盾による防御テクニックもある程度は使える。
見た目以上に頑丈で使い勝手が良いようだ。
「あの奥はよ。
ボーマ城塞の奥とも繋がった、古代ドワーフの防衛施設だったらしーんだよな。
だからか、武器防具の類が結構残っててよ。
こいつもその一つ、な」
「これクラスのヤツがまだあんのか?」
「あるある。
まあこいつは中でも格別だけど、結構すげーぜ。
少なくとも探索班全員が、今持ってる装備以上のものを持てるのは確実だな」
改めて、訓練場の壁際に置いてある長椅子へと移動し、アダンの報告を聞く。
現時点でも俺たちはそれぞれに結構なドワーフ合金製装備を持っている。
アダンが使っていたのも、魔法の付与は無いがドワーフ合金製の中盾だったし、ニキのクロスボウもそうだ。
防具に関しては元々ドワーフ用のサイズのものが多かった為身体に合うものがなかなか手に入っていなかったが、俺の“シジュメルの翼”同様に、ドワーフ合金の修理加工が出来るイベンダーのオッサンが居れば、新たにサイズ調整などをしてそれぞれにしつらえることも出来るだろう。
こりゃ、イゾッタ婦人様々だな。
かなりのアタリ遺跡だったワケだ。
「たーだ、な。
5階層目まではまあ、良かったんだよ。財宝わんさかのウッハウハでよ」
「何かトラブったか?」
「んーにゃ。むしろ逆。なーーーーんもねえのよ。
そっから下、10階層くれーずっとただの下り。
階段と小部屋、階段と小部屋で延々と降りるだけ」
「そりゃ……確かに妙な話だな」
地中深くまで作られた古代ドワーフ遺跡なら多くある。
そもそもドワーフ都市の多くは、鉱物の採掘地をそのまま施設、居住地へと改装したのが始まりらしいからな。
なのでたいていの古代ドワーフ遺跡は非常に乱雑な迷路のような構造になっている事が多い。
計画的に作られたドワーフ遺跡なんてなあ、ごく例外だ。
それが、「10階層程一直線の下り」ということは、結果的にそうなった、というよりは、何かしらの意図があってそう作った……と、そう思える。
「で、その下はどーなってたンだよ?」
10階層まで相当な深さを掘り進めて、古代ドワーフは何がしたかったのか?
「階段で降りる一番下の層は、今までよりちょいと大きめの部屋があってよ。
ホールになってる所に、壊れた転送門よ。
んで、どーも怪しいってんで色々調べてたら、仕掛け扉があってさらに階段な。
で、その先がまたさらに仕掛け扉で、開けるとなんと、地底湖よ」
「地底湖?」
「そ。すンげー広ェの。
しかも、地底湖の上にある島部分がまた遺跡っぽくなってんだけどさ」
ここで、アダンの奴が勿体ぶって一旦話を区切る。
「何だよ、続けろって」
「へへへ、それがな。
ハコブやイベンダーのオッサンの見立てだと、けっこう最近造られたものらしいンだよな、そこら辺りはよ」
「ハァ?」
古代ドワーフ遺跡の最下層に、最近造られた場所ォ?
「大丈夫か? おい」
頭の回りをくるくると指で指し示しながら聞く。
「おおっと、俺じゃねえぞ、ハコブとオッサンが言ってたンだからな?
ま、俺の目で見ても、明らかに最近のものっつー感じだけどもな」
普通に考えりゃありえねー話だ。
だがハコブとオッサンのみならず、探索班全員がそうとしか思えなかった場所らしい。
「で、しかも中には古代ドワーフによって造られた魔力溜まりまであってよ。
それもどーやら、最近になって支配下に置かれ、封印されたものらしいってのよ」
謎すぎる。
俺達より先に遺跡を踏破した奴が居るなら、上層階に遺物が山ほど残ってるなんてのは考えられないし、そもそも何でそんなことをするのかも分からねぇ。
「んで、本題な」
考え込む俺に対して、アダンはそう話を続けた。
いや、本題入ってなかったんかよ?
「その地底湖の大洞窟が広すぎるもんで、探索進まねーのよ。
進んでもその奥に何かがあるかも分かンねーし。
んで、おめーに来て欲しいワケ」
……なーる。“シジュメルの翼”で、ばばっと大まかにでも見て回って欲しいわけね。
「分かった。
てかお前、本題入るまで長すぎだろ?」
「はあ? これでも言い足りねーぜ、俺の大活躍はよ!」
いや、それが余計なんだっつーの。
◆ ◇ ◆
「で、コレはどーゆー事なのかっつーのを説明してくんねーかな?」
改修でアジトの鉄扉の外側にある区画に作った運動場。そこに集まった3人のうち1人を指差す。
「ちょ、“コレ”は無いやん、“コレ”は~」
くねくねと妙なしなをつくりながら言うのは、ボーマ砦を仕切っているヴォルタス家の長女、アデリア・ヴォルタス。
とにかくやかましいことこの上ない丸顔ソバカスの女だが、何だか妙にアダンに対して馴れ馴れしい。
終始アダンの横にピッタリ寄り添うようにしている様は、いつぞや中州に乗り上げたボートの上で、岩蟹相手に銛を振り回してた姿からは想像もつかない。
「そーだぞー、アデリアちゃんに失礼だろー?
せっかく俺らの為に力になりたいっつって、わざわざ来てくれたってーのによォ~。
なァ~~、アデリアちゃ~~ん?」
「ねェ~~?」
これまた分かり易い程のだらしない顔でそう庇い立てるアダン。
……たらし込まれたな。間違いない。バカだ。どうしようもなくバカだ。
新しい人員を集める。それはまあ急務の一つだ。
前日の“ハンマー”ガーディアンによる襲撃で、ジョスの探索班がほぼ壊滅し、人手が足りなくなっていること。
俺達シャーイダール一味を壊滅させようと密かに企んでる奴が居ること。
そして“ハンマー”ガーディアンの襲撃それ自体が、その企みによるものであるらしいということ。
企みそのものには証拠も何もない。
だがだとしても、実際現状として戦力に乏しいのは確かだ。
二班体制というのは、それぞれに休息を十分とれるようにというのもあるが、一班が探索に行っている間、もう一班が警備の役も兼ねる、ということでもあった。
ハコブ班の探索中はジョス班が。ジョス班の探索中はハコブ班が、それぞれ警備役も兼任する。
一応下働きの連中の中から、常時警備役をやらせてる「そこそこマシ」の連中も居るが、そいつらの中には正直、所謂「戦闘」という点で、探索班の者達に匹敵するレベルの奴はほぼ居ない。
探索班の中で単純な戦闘技能では最も劣るハコブ班のダフネ相手でも、試合えば三回に一回くらいしか勝てない。
現在、探索班叉は探索者をしていた者でアジトに居るのは、俺とアダンと、元ジョス班のニキ、アリックのみ。
アリックは本人曰く、まだ“ハンマー”ガーディアンの襲撃のときの怪我が癒えてない、というが、実際は精神的なものだろう。
なので、「街のチンピラと比べればそこそこマシ」程度の下働き連中の警備担当と、元を含めた探索者3人+ケガ人1人という、かなりショボい防衛戦力。
最も、ここ「シャーイダールのアジト」のキモとなる守りは魔術結界に古代ドワーフの防衛装置であることは知られているし、何よりも邪術士シャーイダール本人が常にアジトに居るので、人手が少ないことを知った程度で襲撃してくるバカもそうは居ない。
「あー、もう、いい、いい。もうどーでも良いわ。
とにかくお前も一緒にテストしてやるわ」
テスト、というか、ま、腕試しだ。
何かしらの特技があるか、探索者、叉はせめて荷運びか警備に使える程度の実力があるか。
今回は特にその中で、「探索者志望」の3人の現時点の実力と素養をテストする腕試し。
試験官は当然、俺、アダン、ニキ。そして財務担当のハーフリングのブルに、鍛冶細工物及び発掘したばかりの遺物管理担当の犬獣人、マルクレイ。
「ええー、今更テストとかええやーん? お互いよく知り合った仲なんやしー」
何かイラッとするような甘えた声を出すアデリア。
「あ、は、はい!
お願いちます!」
やや噛みつつもやたらと折り目正しく頭を下げる少年、今現在アジト周辺の修復作業を依頼しているタリク・クルスの末息子、ダミオン・クルス。
「ふん、面倒くせーな。さっさと終わらせろや」
相も変わらずの憎まれ口、孤児グループのリーダーでもある、ジャンヌ。
この3人が、今日のテスト対象となる。
一人一人、それぞれに……ヤヤコシイ。
次回、有限会社シャーイダール遺跡探索社の新規雇用面接。
J.B.「それではまず、当社を志望した動機をお答えください」
アデリア「えっとォ~、妖精ちゃ……やなくて、ええ、御社の企業理念に深く感銘を~……」
アダン「いいぞ! 合格!」
ブル、ニキ「やかましいわ糞しゃくれ!」




