2-36.ダンジョンキーパー、レイフィアス・ケラー(7)「暑い」
親愛なる母上様、叔母上様方へ。
この手紙がきちんと届いているかは分かりませんが、一縷の望みを託し再度書き記し送らせて頂きます。
前回の手紙に書きました通り、僕は今古代ドワーフ遺跡の知性ある魔術工芸品による承認と、人為的魔力溜まりの支配により、ダンジョンキーパーとして活動しています。
ダンジョンキーパーとしてやる事は、正直言って「冒険!」「探索!」と言うより「事務仕事」に近いです。
“生ける石イアン”という知性ある魔術工芸品は、迷宮造りにとても特化されていて、僕は設えられたら専用のデスクに座り、ただひたすら迷宮のデザインと管理をするばかりです。
最初のうちは結構ゲームみたいで楽しかったりもしましたが、正直最近は飽きてきたというか、マンネリ感を感じているというか、そんな所もあります。
掘って、設置して、整備して、掘って、設置して、整備して……と、代わり映えのしない日々です。
生活……という言い方も変ですが、衣食住などの環境はなかなか良くなってきています。
衣、は、替えの服とかはありませんが、水資源が豊富なので洗濯は出来ます。
食に関しては、前回も書きました魔造チキン以外でも、蟹やサンショウウオ等々、食材には事欠きません。
あ、そういえば、大ウナギだと思っていたものが実は下位の亜竜だったことが分かり、ウナギを食べたがっていたガンボンがものすごくガッカリしていたけど、とは言えこれってもう、ドラゴンスレイヤーを名乗っても嘘じゃないってことだよね?
ちなみにドラゴンステーキの味はまあまあでした。
ただ、野菜類が少ないのが困りものです。ガンボンの持っていた塩漬け野菜はもうそろそろ無くなりますし、魔造チキンの木の葉っぱや新芽だけでは、正直変化が無いです。
住、に関しては、作れる設備、施設が増えて、かなり楽になりました。
工房、という区画が稼働し始めて、細かいトラップや細工、扉、鍵等も作れるようになりました。
隠し扉や仕掛け扉も割合簡単に作れるようになったので、その辺りはなかなか楽しいです。
それと、魔虫の大蜘蛛の糸が素材として使えるようになったので、布や紐を作れるようにもなりました。
蜘蛛の糸ってベタベタするって思うでしょ? 巣の縦糸はベタベタしない糸なのですよ。
他にも魔力を込めた糸も作れるようになったので、色々応用が効くようです。
使い魔も増えました。
僕が今まで自力で召喚出来ていた使い魔は闇属性の低級幻魔のインプだけですが、まずなんと、中級の水属性精霊獣のケルピーを召喚獣として契約できることになりました。
地属性の魔虫である大蜘蛛も、ただの召喚魔獣から使い魔へと変わりました。
大蜘蛛は、最初は“生ける石イアン”を媒介とした召喚獣として使えていましたが、その内の一体、一番最初に召喚し育て続けていた大蜘蛛と使い魔契約が出来るようになっていたのです。
これにはビックリでした。
なので僕は、闇、水、地属性の使い魔を3体も持つことになりました。
もしかしたら郷に戻れるときには、六属性すべての使い魔を使役できる、使い魔マスターになっているかもしれません!
と、事ほど左様に、今現在正直な話、帰還のめどはまだ立っては居ないのですが、まずまず順調に事は進んでいます。
そちらでも様々な手を尽くして下さっているであろうと思いますが、あまり心配しすぎずに取り組んで居てください。
それでは。
───あなたの娘、姪、そして良き友人、レイフィアス・ケルアディード・ケラー
◆ ◇ ◆
暑い。
やっぱ暑い。
暑くて暑くて、死ねるレベルに暑い。
蒸し風呂か!? と、突っ込みたくなるくらいに暑い。
何が? と言うか、どこが? なんだけど、それはここ、今僕の居る“ダンジョンハート”、即ちダンジョンキーパーとしての僕が、知性ある魔術工芸品である“生ける石イアン”を通じてのダンジョン制作をするためのデスクがある区画の中が、もうちょっとした蒸し風呂か!? ってくらい暑い。
何故か?
この“島”が、熔岩の海の真ん中にィ~~~~~あるから~~~~……です。
くっそ暑ィ~~~~!!!
ドユコト!? かというと、話は4日ほど前に遡る。
敵ダンジョンキーパー、として僕のダンジョンへと攻撃してきた水属性の精霊獣のケルピー。
ダンジョンハートとその核たる 魔力溜まりを支配下に置いたことで、結果的にケルピーを従属化し、使い魔にすることが出来た。
普通、使い魔とするためには色々と面倒な手順やら儀式やらが必要になる。
僕がインプを召喚出来るようになってから、その中の一体を使い魔として契約させるまでかなーり時間もかかった。
やり方によっては、強制的に隷属させて支配下におく方法もあるけど、それをすると常に裏切りの危険性がある。隙あらば支配者を殺して自由になろうとするからだ。
なので、召喚したインプと長い時間をかけてある種の信頼関係を結び、相手側に使い魔となることを了承して貰うことが第一段階。
それから、自分の中の魔力を相手に注ぎ込み、その波長を同期させる。
魔力を同期させることで意志疎通をより容易にし、召喚や使役の際のコストを減らし、叉対象を強化する。
信頼関係、そして使い魔となることでの相手の利益。
それらを相手側が総合的に判断して、「こいつとなら使い魔としての契約を結んでも良い」と判断したときに、ようやく「使い魔契約」が出来る。
この相手側の判断というのは、僕らダークエルフ……叉は人間の思考パターンと必ずしも似たような基準ではない。
しかしその対象が例えばただの野鼠であれ、ピクシーやケルピーなどの妖精、精霊獣であれ、または魔獣、聖獣、幻獣であれ、何らかの形で相手側の同意、了承が無ければちゃんとした使い魔契約は出来ない。
ある意味、結婚をするのに近いとも言える。
では、これは何だ?
ケルピーは、ダンジョンキーパーという意味では敵対者だった。
僕がやったのはその敵対者のダンジョンハートを打ち破って僕の支配下におき、魔力溜まりに魔力を注ぎ込んだだけ。
そしたら、敵対者だったケルピーが、僕の使い魔になった。
なんというか、凄く違和感がある。いや、ぶっちゃけて、おかしい。
アリエナーーーーイ!
と言うことで“生ける石イアン”に聞いてみると、
『まず第一に、恐らく魔力量と質の問題だろうと推測される』
なんてことを言って来た。
「いや、ごめん。それ、ドユコト?」
『キーパーよ。君の魔力量とその純度は、我の想定するより遙かに高い』
「え?」
そんな馬鹿な? と、思う。
僕はケルアディード郷の呪術師達の中では、まあ平均値、いや、やや低い程度の魔力量であり魔力適性だ。
ガヤン叔母なんかに比べたら屁みたいなもんだし、人間である“闇の主”のトゥエン・ディンにすら遠く及ばない。
その僕の魔力が……多すぎる?
『キーパーよ。本来我をエルフが使うことは想定されていない。
我はドワーフ用に設計されたものだ』
“生ける石イアン”はそう続けてきた。
曰わく───ドワーフはエルフと比較すると、魔力適性も魔力量も低い。
なので彼等は、僕達エルフのように「自らの魔力を用いて直接的に魔術を行使する」のではなく、人為的な魔力溜まりを造りだし、魔晶石を生産し、付呪等をはじめとした魔導具、魔装具等を制作して魔法の力を行使する、という文明を発展させた。
それにより古代ドワーフ文明はトゥルーエルフの文明に勝るとも劣らない繁栄を遂げたのだ。
で、この“生ける石イアン”も、それら古代ドワーフ文明の技術の賜物であり、そこで使われているシステムは、あくまで「魔力量の低いドワーフ基準」で製作されているのだ、という。
つまり、だ。
「ドワーフ基準の少ない魔力でも上手く機能できるように設計された魔導具を、ドワーフよりは多い魔力を持った僕が使うことで、本来想定されているのを遥かに上回る効果を発揮している……と?」
『その通りだ、キーパーよ』
ズルい!
あ、いや、別に意図的にズルをしたワケじゃ無いけどさ、うん。
なんか、もし他人がこんな超絶チートアイテム手に入れてたりしたら、もう間違いなく言う。言っちゃうね。
「ずっちいな~!」って!
というかさ。我ながら思うけど、前世の記憶を保持した状態で、今まで読んだ全ての書物、文章を再現して読める“再読の書”と、知性を持ち、ダンジョン制作が出来るのみならず、本来の魔力量を相当なまでに効率化して魔術の行使が出来る“生ける石イアン”という二つの知性ある魔術工芸品を持ってる、って、すげーチートアイテム持ちだよね。
変なラノベにあるみたいな転生チートなんか要らん! ってくらいに。
あ、いやでもあの手のやつだと普通にバランスブイレイカーなチート貰うから、それに比べりゃめっちゃ良心的か。
だとしても超絶チートアイテムなのには変わりないけどさ!
ただ、そうだとしても幾つか疑問はある。
一つは、「エルフが使うことを想定していない魔導具の置いてある場所への移転門が、何故闇の森の地下深くにあったトゥルーエルフ遺跡に有ったのか?」ということ。
これに関しては、
『エルフのことは我にも分からぬ』
で、“生ける石イアン”も完全スルー。まあそう言われてしまうと、そりゃそうか、としか言えないけどさ。
それよりもっと疑問……というか、納得出来ないのは、「僕の魔力量が想定外だとして、それが何故、敵キーパーであった精霊獣のケルピーを使い魔化させることに繋がるのか?」だ。
その根本的疑問に、“生ける石イアン”はまだ答えてない。
『もう一つ……だが……。
まずキーパーと異なり精霊獣というのはそもそも確固たる肉体を保たぬ、魔力そのものが顕在化した存在だ。
そしてキーパーとしてこの魔力溜まりと接続されているということは、魔力溜まりとケルピーは同一存在と言って良い。
本来であれば、敵キーパーの魔力溜まりを支配することで、それまで敵側であった召喚獣や従属魔獣を含めた相手側のダンジョン全てを支配し、“従属魔獣として”支配下に置くことが出来る……という仕組みであったが……。
そこで想定外に高く上質なキーパーの魔力を注ぎ込んだため、一気に使い魔化する事になったのであろう』
……全く納得はいかない。
いや、理屈はなんとなく理解は出来るんだよね、理屈は。
けどさー、なんだろーねー。
使い魔契約って、さっきも言ったけど「結婚」に似てるんだよね。
お互いの気持ちと条件をすり合わせて、時間をかけてお互いを認め合った上で、パートナーになる。
だから、反りが合わないとか、条件に足りないとかで、結局最終的に契約に至らず、ということも多々ある。
なのに今回、 魔力溜まりに魔力注ぎ込んで支配しただけで、「はい、使い魔~」って。
そんな簡単で良いの!? みたいな!?
ていうか、こう、「無理矢理注ぎ込んで、かーらーのー?」ってさ!
……何か物凄く釈然としないッッ!!
しかも、立て続けに二体て!?
複数の使い魔を持つ術士、自体はまあ、居ますよ。
けど、無理矢理、立て続け、複数……て。
何か「いやー、俺にはそんなつもり無いんだけどさあ~」とか言いながら、ポケモンみたいにハーレムメンバーをゲットしていく、気持ち悪ィ異世界ファンタジーノベルの主人公みたいじゃん!?
何だよ! モンスターハーレムかよ! モンハレコレクションかよ!? 超気持ち悪い! 超気持ち悪い、僕!
『何を気にしてるか分からんがキーパーよ、この使い魔契約はまだあくまで擬似的なものに過ぎぬぞ』
不意に“生ける石イアン”がそう言ってくる。
『ダンジョン内での補正込みでの使い魔契約、つまり仮契約状態故、ダンジョン外に出たときにまでそれが続くかどうかは今後次第だ』
「そうなの?」
『そうだ』
んーーーー。
結婚……ではなく、婚約……みたいなもん? なのかねえ?
ダンジョン外に行くときに、婚約破棄か結婚かを選ばれる? みたいな?
うーーーんむ。む、む。む。
むん!
……と、まあイマイチ釈然としないままにきりがないので思考を打ち切るけれども、そうこうしているその場所は、敵キーパーであったケルピーの方のダンジョンハートであった場所。
さっきはテンタクルに【憑依】する形では来ていたけど、今は僕自身が例の卵形エアチェアに乗って直接来ている。
横には巨地豚のタカギに騎乗したガンボンと、ケルピー。
その他の従属魔獣もすでに僕の支配下に居るので、その辺をうろちょろ。
双頭オオサンショウウオなんかも、敵意無くのんびりしている分には可愛らしくも思える。
周りを改めてみると、真ん中の島部分に魔力溜まりが在ることを除けば、このダンジョンハートはまん丸い地底湖のホール。
水属性の精霊獣であるが故なのか、ケルピーはダンジョンを完全に水棲魔獣専用に設計して作って居た。
その上、なんというかまあ─── 一言で言うと「汚い」。
いや、不潔だとかそういう意味ではない。水棲魔獣達は辺り構わず糞尿はまき散らすし食べ残しもあるしで不衛生なのは間違いないンだけど、ここで言う「汚い」はそれではなく、こう、ダンジョンの構造が非常に汚らしい、ということ。
区画の設定やら、通路のつなげ方やら、機能性や合理性一切無視の、デタラメでぐちゃぐちゃ。
有る意味それが「迷宮」らしくもあるんだけども、さ。
「あーーーーー!
イライラするッッ!!」
思わず叫び出す僕に、左右それぞれで、ガンボンとケルピーがビクッとする。
「直したい……!」
もうね。もっと綺麗かつ整った形に、作り直したいっ!
発つ鳥後を濁さず、という言葉があるけど、まさにそういう気分!
『キーパーよ、もしそれを望むのであれば、我はそれに従うが?』
“生ける石イアン”の声に、一瞬心惹かれるものの、いやいやそれはダメよと決意を固める。
「名残惜しいッ……がッ……!
行かねば……なるまいッ……!!」
何処にか?
「次のステージに」
だ……!
目の前にあるのは例の「一方通行の転移門」。
円形の台座の周りに、曲がった指のようにも見える五本の飾り柱。
まるで悪魔の手のひらを連想させるそれは、僕らがこの空間へと来て、ダンジョンキーパーとなる契機にもなった門と同じモノだ。
つまりここから先に行けば、多分戻ってはこれない。
最初にこの敵キーパーのダンジョンハートへと来たときに、これは無かった。
テンタクルへと憑依して、この部屋を支配下にした後に、下からずずずっとせり上がってきて現れたのだ。
で、これがどうしてここにあるかというと、“生ける石イアン”曰わく、
『キーパーがこのダンジョンハートを支配し、次のステージへと進むためだ』
と言うのだ。
次のステージ?
次のステージだよ!?
何それ!
「ねえ、もしかして、さ。
次のステージとかに行ったら、その空間にまた別の魔力溜まりがあって、それを攻略したらまた一方通行の移転門が現れる……とか、そういうこと……?」
『その通りだ、キーパーよ』
マジかよ!?
マジでその通りなのかよ!?
さて、どうしたものかと思案する。
つまり流れとして、「次々と別の遺跡に移動して、敵キーパーと戦い、勝利していく」という道筋が存在しているわけだ。
かなり、作為的に。
例えばそれを無視して、「このままここから地表に向けて通路を掘り進めて脱出するぞ!」とすることとどちらが良いか?
いや、そもそも「それは出来ることなのか?」だ。
ここの人為的な魔力溜まりと“生ける石イアン”とによるダンジョン製作のシステムは、凄く良くできている。
良くできているというのはつまり、「魔力溜まりを支配し、ダンジョンを制作し、敵対するキーパーを打ち倒す」と言うことに、あまりにも完璧なまでにカスタマイズされている、ということだ。
なんとはなしに考えて居た事が、いよいよ現実味を帯びてくる。
だとしてこれは、「そのルートに外れた形で“外への脱出”を許すようなシステムなのか?」 という疑問。
つまり、だ。
僕はこの“生ける石イアン”というアイテムを得て、それを使い脱出することの出来る、本当の意味での“支配者”なのか?
それともこの“生ける石イアン”の定めたレールに沿って進むしかない、“奴隷”なのか?
本当に……これを使い“脱出”が出来るのか……?
もしかしたらこのまま、延々と“生ける石イアン”の言われるがままに、ダンジョン制作をし続けることになるのではないか……?
『出来るぞ、キーパーよ』
「あ、そうなの?」
……脱出は出来るらしい。
そーなのね……。
◇ ◆ ◇
で、話は冒頭に戻る。
僕とガンボン達は、「次のステージ」へと進み……溶岩溜まりに囲まれた岩盤の真ん中にある「ダンジョンハート」で、うだうだぐんにゃりと暑さに喘いでいるのだ。
いつか、機会さえあれば、あちらの“水の迷宮”を改築してやる! という決意も挫けそうになりながら。
「I'll be back(また戻ってくるぜ)」
……戻れるかなー。
戻れなくてもいっかー。
ガンボン&レイフのパート、約5話分を随時更新予定です。
今週、来週あたり、ちとお忙し期間になる予定ですが。




