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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
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2-14.J.B.(7)-Slow Down(のんびり行こうか)


 

 それから約一週間で、俺たち「シャーイダールとその手下たち」の組織編成は色々と変わった。

 いやまあ、変わったというより変えざるを得なかったんだけどな。

 

 まず、“ハンマー”ガーディアンとの戦いで5人ほど死んだ。

 “便利屋”ジョスも含めて、探索班も被害がデカい。

 死んだ連中の埋葬やら何やらで数日はバタバタする。

 葬儀をするような余裕ある身分じゃあねえが、地上に俺達が埋葬用に確保している区画があるので、身内だけの簡単な「葬儀っぽいこと」をしておく。

 

 しかし問題は残っている。俺たちの今後、だ。

 チーム編成も考えなきゃなんねえし、追加の人員も欲しい。

 しかしこれはこれで素人を適当に突っ込ませれば良いってモンでもない。

 昔は孤児や貧民を手当たり次第に放り込んで、運良く拾ってこれたら儲けもの、なんてやり方してた連中も居なくはないらしいが、それで結構な利益を出せてたのは王国駐屯軍が来て間もなくの頃。

 今は低階層の遺物は粗方回収され尽くされ、相当奥にまで潜らなきゃ利益にならない。

 

 だからこそ、俺らみたいな“プロ”の意味がある。

 踏破済み区画の地図もあれば、秘密の抜け道や罠、小型のドワーベン・ガーディアンを補充する仕掛けのある位置もだいたい把握済み。

 ドワーベン・ガーディアンへの対処方も色々と心得て居るが……いや、ここは偉そうなことは言えないな。

 この間みたいな遺跡外での不意打ちに遭えば形無し。いや、それだけ上位のドワーベン・ガーディアンはヤバい相手だ。

 逆に言えば俺らですら手に余るのだから、素人を数任せで送り込んでも死体を量産するだけだ。

 まして、ただ死体が増えるだけならマシな話。

 迷宮の幾つかの場所には濁りにまみれた小さな魔力溜まり(マナプール)が出来てる事があって、それらの魔力で死んだ探索者が動く死体(アンデッド)化して襲って来ることもある。

 

 と、その辺のこともあって、俺たちは素人が迂闊に地下遺跡に入ることを好まない。

 それをもって「シャーイダールとその手下たちが遺跡の遺物を独占しようとしている」と陰で文句を言う連中も居るンだが、俺らもそいつらの死体処理まで請け負いたくはない。

 

「俺はお前らと外の事とかなーんも知らねえが、シャーイダールの手下、っつー立場、看板は重要なんだろ?」

 と、オッサンが言ったのは、例のナップルとかいうけったいなコボルトをどうするか、の話をしていたとき。

 その時点で「シャーイダール(の呪われた仮面を被っていた俺たちのボス)=コボルトのナップル」という事実を知っているのは、俺、オッサン、ブル、マルクレイと、チビのピクシーのみ。

 で、この事実を他の仲間にどう説明するか? というのがそのときの話の流れだ。

 

「まあ、ぶっちゃけそうだな。

 正直俺らだけの戦力なら、そこらのチンピラ集団とそう大差はねえ。

 俺らの一番の強みは、後ろ盾が邪術師シャーイダールだ、っていう看板にある」

 痛いところではあるが、間違い無くそれが事実。

「つまり、シャーイダールの正体が仮面を被ったコボルトだ、と、外の他の連中に知られるのは致命的……てことで良いんだよな?」

 オッサンの言に俺、ブル、マルクレイは顔を見合わせて頷く。アホピクシーは何か呑気に居眠りしてやがる。

 

「じゃ、ひとまずはこりゃあ、ここに居る俺達だけの“最高級機密(トップシークレット)”だな」

 口に指を一本当てつつそういうオッサン。

 俺らはまあ、正直やや渋い顔。

 理屈は分かる。けどやっぱ、他の仲間にも秘密、ってーのはちと心苦しい。

「……仕方ねえ、こいつの言う通りだ」

 その中でブルが最初にそう言う。

「仲間を5人も亡くして、みんな動揺してる。

 その最中に、シャーイダールの正体が“あんな奴”だなんて知ったら、ここから出て行く奴が現れてもおかしかねぇぜ。

 そしてそいつらの口から、秘密はいずれ周知のことになる」

 

 経理担当でもあり、損得勘定にシビアなブルらしい意見。

 それとこれは後に聞いた話しだが、一般的にハーフリングとコボルトは仲が良くないんだと。

 生活圏が近く、コボルト達はよくハーフリング庄からものを盗むのだとか。元々臆病なコボルトが、ゴブリンの遠征みたいに襲撃してくることまでは滅多に無いらしいが、数が増えればその限りでも無く、まれに大きな争いになることもあるそうだ。

 

『オレは イベンダー に 従ウ』

 マルクレイはというと、あっさりとそう言った。

 まあそれはそうだろう。喉を潰されていたマルクレイに、振動を読みとって発声が出来る首輪を作ってやったのも、筋を傷めていた腕にパワーアシストで少ない力で作業出来る篭手を作ってやったのもオッサンで、それ以来かなりの感謝をしている。

 で、二人は俺を見る。

 どうする?

「……しゃーねえ。確かにオッサンの言うとおりだ。

 他の連中に話すとしたら、俺達がシャーイダール無しでも他の連中に侮られないだけの力を得てから、だな」

 こうして、俺達4人での合議制新体制が発足する。

 

 オッサンはまず、例の仮面をしてから自分に着けられていた隷属の首輪を外す。

 隷属の首輪は首輪をはめた者の魔力に反応して解除が出来るのだが、オッサンに着けられたそれは、あくまでこの仮面に宿るシャーイダールの念によりはめられた事になっていた。

 なので、「仮面を被ったナップル」ではなく、「仮面を被ったオッサン」でも、解除は可能だったらしい。

 

 それからマルクレイにシャーイダールの仮面そっくりの木彫りの仮面を造らせた。

 元々鍛冶よりも彫刻や彫金などの細かい細工物を得意としていたマルクレイは一日で面の部分を作り上げる。

 樹液のニスと頭の後ろに着いていたたてがみ部分を手に入れるのにやや手間取ったが、トータルで4日もあれば完成する。

 その間にオッサンは、元々の仮面に施されていた付与魔法の効果や術式を解析していた。

 術式そのものはさほど高度なものでは無かったらしい。

 魔力と思考力、錬金術の効果が上がり、周囲には威圧の効果を齎す。

 

 タネが分かっちまうとつまらねぇモンだ。俺がずっと「恐ろしい」と思ってたのは、シャーイダールでも、その仮面を被っていたコボルトでもなく、仮面そのものだったんだからな。

 新しくマルクレイの作った偽シャーイダールの仮面の裏側に、オッサンは同等の効果を齎す魔法陣を刻んで魔晶石を使い付呪を施す。

「元のに比べりゃあ、効果のほどはちと低いけどな」

 と言いつつも、まあぱっと見には見分けがつかないくらいのものが出来た。

 

 で、その偽仮面を例のナップルとかいうコボルトに渡し、今後もシャーイダールの振りを続けるよう言い含める。

 体型やら何やら、他に偽物を演じられる奴が居ない以上、あの間抜けなコボルトにやらせるしか手は無いんだよな。まったく……。

 

 ◆ ◇ ◆

 

 そんで今日は何かというと、俺、オッサンと、後二人、“便利屋”ジョスのチームに居たニキという女と、以前俺と同じチームだったアダンの4人で、朝っぱらから地上に出ている。

 ニキは元王国領の貧民出身で、ジョス達と共に一攫千金を求め、なけなしの通行税を払って転送門をくぐりクトリアへと来たグループ。

 さんざんな目に遭い共に来た仲間も半分は既に死に、他も散り散りになったり別の仲間が加わったりもしつつ、最後に残った5人がシャーイダールの手下へとなれた。

 それ以降生活も安定し、順調に金をためては居たものの、ドワーベン・ガーディアンの暴走でリーダー格だったジョスを失い、精神的にはかなりまいって居る。

 ま、ブルの話に出た、「シャーイダールが偽物だと知ったら、抜け出しかねない面子」の筆頭でもある。

 

 アダンの方は俺と同じ色黒の南方人(ラハイシュ)だが、砂漠の部族出身ではなく、クトリア南方の港町の出身。

 港町“グッドコーヴ”は漁港でもあり、また東西貿易が盛んだった頃の窓口でもあった。

 今は貿易の規模は少なく、また海路も以前より危険になっており、クトリア王朝健在の頃に比べて勢いが無い。

 

 塩作りと魚の干物や塩漬けといった物を陸路でクトリア及び王国駐屯軍に運ぶ隊商の行き来は盛んだが、陸路だってそうそう安全でも無い。

 で、アダンの家はそのグッドコーブで塩作りをしていたらしいが、「こんな辺鄙なところで一生塩づくりなんかしてらんねーぜ!」とばかりに飛び出して、クトリアで一旗揚げてやろうとやって来た。

 ニキやジョスと経緯は似ているようでいて実際のところ真逆、というか、かなりポジティブで楽天的な思考で来ている。

 俺とはそこそこ関係は良好だが、元々近場の出身でもある分フットワークが軽く、「え? シャーイダールって偽物だったンすか? やッべーじゃん、俺、実家帰りますわー」ってな事くらい言い出してもおかしくない奴でもある。

 そう、つまりこいつも、ニキとは逆の意味で「情報を外に漏らしかねない奴」の筆頭の一人。

 

 で、この二人を連れて外に出てきたのには幾つかの理由がある。

 まあ一つは色々話をして奴らの腹積もりを探り、そして巧く行きそうなら懐柔する、ということ。

 それともう一つは、食料調達、金稼ぎを兼ねた、俺の『シジュメルの翼』のテスト。

 シジュメルの翼、と命名された例の「魔力を通して空を飛べる魔装具」を、オッサンはその後も調整改良していた。

 で、それを屋外でテスト運用しよう、という話があり、ついでにじゃあ資金稼ぎと食料調達もしておこう、という流れになった。

 

 資金については、金の管理すべてを引き受けることになったブル曰く、「あまり使ってないから暫く余裕はある」とは言うものの、今現在探索は休止状態。

 長期休養と言えば聞こえは良いが、単純に人員不足で仕事が回せてないだけだ。

 このままその状態が続けばいずれ干上がる。

 なのでまあ、今のうちに動ける連中で地上での金稼ぎをちぃとばかしやっておこう、ということになった。

 

 もう一つの食料調達、に関してなのだが……まあこれ。

 俺は今までシャーイダールは「食い物にあまり興味がない」から、安く手に入るがすげー臭ェ大ネズミ肉をメイン食材にしているんだとばかり思っていたが、実際にはコボルトのナップルの好物が大ネズミだった、というだけのことだった。

 消極的選択ではなく積極的選択としての大ネズミ肉だったワケだ。

 じゃあ今後ナップルには存分に大ネズミ肉を食べてもらうとしても、俺達がそれに付き合う必要は全くない。

 で、そのための食材調達をついでにしてこよう、と。

 戦闘のテスト、資金稼ぎ、食材調達。この3つを同時に出来ることと言えば、当然ハンティングだ。

 

 ◆ ◇ ◆

 

 旧商業地区の南門の近辺には市が立っている。

 個人で漁ってきたドワーフ遺跡低層の遺物(ガラクタ)やら、ちょっとした手仕事で作った雑貨を売りに出している者もいるし、グッドコーブからの干物、塩、その他海産物もある。

 採集してきたサボテンフルーツや蜂蜜、甘いヤシ樹液の塊もたまに売られるし、いつも買う串焼き肉の屋台もある。

 王国駐屯軍からの流出品もあれば、些かヤバい禁制品も置かれてることもあるのだが、それを禁止している駐屯軍がここまで見回ることは希なのでほぼ野放しだ。

 

 とは言えこの市にもある種の秩序が皆無と言うことはなく、ここを取り仕切っているのも我らが自警団“王の守護者 ガーディアン・オブ・キングス”だ。

 “王の守護者”は基本的にはチンピラ集団だ、とは言ったが、とは言えこういう場での仕切には必要な存在。

 出店を出したい者はそこで仕切ってる“王の守護者”に銀貨一枚、叉はそれに相応する商品を渡して場所を確保する。

 揉め事が起きれば奴らが仲裁に入る。勿論仲裁とは言え、余程無茶なことや詐欺、インチキ商売でもしてない限り、金を払った出店側を守る。

 奴らは自治独立の精神が強いため、王国駐屯軍やその関係者連中にも容赦せず対応するので、まれにかなりヤバい状況にもなるのだが、今の所決定的な衝突にまではなっていない。

 駐屯軍側としても、完全な支配地域と出来ていないクトリア市街地を仕切る連中との揉め事を大きくはしたく無いらしい。

 

 で、市の他にもここでは、日雇いの仕事なんかの募集もしている。

 “王の守護者”の連中が集まってる溜まり場の前に掲示板があり、そこで今日の依頼が張り出される。

 俺達4人はそこへ行き、仕事を受ける奴らを募集。

 俺たちが仕事を“請ける”んじゃなく、だ。

 依頼をするのは俺達。

 その内容は、郊外からの荷運び。

 狩った獲物を運ぶのに人手が必要になるだろう、との理由からだ。

 

「お、なんだ珍しいな」

 たむろしてた“王の守護者”連中の中から、“大熊”ヤレッドがそう声をかけてくる。

 丸顔で恰幅の良いヤレッドは、連中の中でもそこそこの立場で、かつ俺ともある程度は見知った仲だ。

「まあな。ちょっとばかし所用でね。

 郊外まで行って荷物運びを手伝って貰える人手を探してる」

 ヤレッドは少し眉根をしかめて、少しばかり思案。

「戦える奴か?」

「いやー……まあ、最低限の自衛が出来て、いざとなれば走って逃げられる奴ならそれで良い」

「お前らが戦闘は引き受ける、ってことで良いんだな」

「ああ」

 俺は後ろのニキやアダンを顎で指し示す。

 アダンはドワーフ合金の盾とメイスを持っているし、ニキは軽装だがクロスボウとこれもドワーフ合金の手斧装備。

 この金ピカきらきら装備は、この街じゃあ強者の証と見なされる。

 まあ、屋外だと太陽光をやたら反射するのが玉に瑕だが。

 

「……そのドワーフは新入りか?」

 アダンとニキのことは見知ってるハズだが、オッサンの方は初見。まあそらそうだ、殆ど表に出てきてはいない。

「おう。俺はイベンダー。

 科学者にして商人、そして探鉱者で運び屋の、ベガスの救世主だ」

 ……結局オッサンはこの自己紹介を改める気は無さそうで、「オ、オゥ、そうか」という微妙な反応を引き出してくれる。

 

「……まあ良い。

 で、人数は?」

「2~3人、てとこかな。

 あ、あと荷車を二台、貸してくれ」

 “王の守護者”は仕事の斡旋と同時に、必要な道具の貸し出しもしてくれる。

 勿論無くしたり壊したりすれば弁償が必要で、そのため貸し出し料とは別に、返却時に返ってくる保証金も支払わないとならず、それなりの資金が必要。

「分かった。あっちで手続きしてくれ。

 それと……今、ちょうど良い奴らが居るぞ。

 おーい、グレント、トムヨイ!」

 ヤレッドが呼び出す二人の名前には、俺も少しばかり覚えがあった。

 

 いやいや、どーゆーことだ? 奴らが何で、日雇い仕事を?

 そう考えてたハナから、聞き覚えのある声が俺の耳に入ってくる。

「おい、穴蔵鼠どもが何で太陽の下に出て来てんだよ?」

 あーあ、ちょっくら面倒なことになって来たなあ~~~。

 そう思いつつ、俺は背後を振り返った。


次回、「JB、砂漠に死す!」の巻。

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