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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-288.J.B.(144)Devil inside(悪魔が来たりて)


 

 

「空ゥーーーー前絶後のォーーーー……!」

 

 叫び声と言うか絶叫と言うか、とにかくそんな大声だ。

 

「超絶孤高の超戦士ィィィーーーー!」

 

 俺と同じ属性、風の魔力を全身に纏わせ、この戦場のド真ん中を震わせる。

 

「天を愛し、天に愛された男ォォーーーー!」

 

 吹き荒れるのは俺が叩きつける【突風】なんか比べものにならない、巨大な竜巻。

 

「抱腹絶倒地獄絵図! 天上天下唯我独尊! 天よりのグラディエーター! そう、我こそは……!」


 少しのタメ、やや緩やかになる暴風にリカトリジオス兵がなんとか空を見上げる。

 

「みんなご存知! そう、俺こそは……」

 

 再びのタメ。

 

「最強無敵の孤高の戦士! あまりのポテンシャルの高さに、数多の組織から命を狙われる男! そう、俺こそは……」

 

 ……言えよ、いいから!

 

「“天空を貫く風”! アーーースーーーバーーーッッ……!」

 

 緩んだ嵐の勢いの中、何本もの投げ槍が投げつけられる。

 が、それらは再び勢いの増した暴風に弾き飛ばされ、跳ね返される。

 

「……ルゥーーーーーーーーー-ッッッ!」

 

 まさに、俺の【突風】なんざ比べものにならねぇ。砂漠の嵐シジュメルの猛威が顕現したかの竜巻が、リカトリジオス軍を襲い吹き飛ばす。

 

 全く、とんでもねぇ“隠し玉”の援軍だ。

 俺たちにとっちゃ天の使い。だがリカトリジオス軍には悪魔だろうぜ。

 

 ▽ ▲ ▽

 

 空人(イナニース)、と言う種族のことは、せいぜいが「聞いたことはある」程度にしか知らない。ここらじゃエルフよりもさらに馴染みがねぇ、伝承の砂エルフくらいに「神秘的で謎めいた」種族だ。

 パッと見の外見は、実際エルフには近いらしい。目は大きく耳が長く、ただその耳の先端が鳥の羽のようにもなっているそうだ。

 一番の特徴は背中の羽根。前世で言うところの、まさに「天使」を彷彿とさせる。

 

 遙か南の山岳地帯、そのかなり高い山の上に住んで居るという。“下界”に降りてくる事は滅多にない。ましてや“下界”で暮らしている空人(イナニース)なんかまず有り得ない。

 

 その、有り得ない希少な1人が、このアスバルと言う空人(イナニース)だ。

 曰く、かつてはクトリアの邪術士に捕らわれた奴隷だったと言う。王国軍による解放戦のどさくさに紛れて王都を脱出。その後“砂漠の咆哮”に入団し、主に残り火砂漠より南のラアルオームを拠点にして活動し頭角を現す。

 そして、話に聞くラアルオームの惨劇でリカトリジオス軍と衝突。再起不能とされるほどのダメージを負った。

 

 それから数年、拠点としてた農場で文字通りに寝たきりの状態で居たと言う。その頃の心情生活はあまり知られてない。誰だって聞きたいと思うような内容でもねぇだろう。

 

 そのアスバルが今、何故、どうしてこんな状態で援軍としてやって来てるのか?

 

「うっひょ~~~、こりゃ凄まじいなぁ、オイ!」

 その状況を作り上げたのは、アスバルと離れた位置の上空で俺の背に跨がりながら、楽しげにそう言うダークエルフ。つまりはレイフの母であるナナイと、今は監視塔に居る“マヌサアルバ会”の会頭であり闇を生きる不死者(ノスフェラトゥ)、吸血鬼のアルバによる。

 

 しばらく前から南方、ヴォルタス家の本拠地である南海諸島へと出向いていたと言うこの2人は、そこからヴォルタス家と縁のある農場に行きアスバルと会う。そこじゃ例のスナフスリーお気に入りのバナナ酒の醸造もやってるとかで、ヴォルタス家との取引は続いてるんだそうだ。

 そしてアスバルの現状を知った2人が、ほぼ寝たきりだったアスバルを再起させる為のリハビリと補助の為の魔装具造りを始める。

 この辺の紆余曲折は長い話になるってーんで端折ってもらったが、まずはダークエルフ流を含めた魔力循環法を鍛え直し、その魔力を使って新しい魔装具を操作できるように特訓。

 アスバルは両手足に両目を完全に潰されていたが、義手義足造りはレイフのそれを応用し、また顔の上半分を覆うようなマスクは風の魔力による気配察知の能力をさらに向上させ、空気の微細な動きからまるで立体3D画像のように周囲を“視る”事が出来るようにしたようだ。

 唯一、一部の空人(イナニース)が生まれながらに持ってると言う【魅了の目】とかいう魔術が使えないことを除けば、むしろ以前よりも様々な点で高性能にレベルアップしたらしい。

 そのレベルアップぶりがどれほどかと言えば……まあ、ごらんの通りだ。

 

「おぉっと、そろそろタネ切れか?」

 ナナイがそう言うのと同時に、渦巻いていた強大な風の魔力と無数の竜巻が小さくなりだす。さらには上空で堂々たる姿を誇っていたアスバル自身も安定を失い、ふらふらと頼りなさげに高度が下がる。

 そうなるだろう前提でのサポートを頼まれていたイベンダーのオッサンが、すかさず飛んで行き背後から抱きかかえてそのまま戦線離脱。

 確かにとてつもない破壊力の竜巻だったが、俺の【突風】以上に使える条件が限られているようだ。

 

 今まさに城門を打ち破らんとの勢いだったリカトリジオス軍の最前線は、お得意の規律だった動きもなく大混乱。こりゃ立て直すにはかなりかかる。

 

 だがその巨大な竜巻も戦場全てを襲うほどにはデカくはねぇ。

 立て直すのに時間はかかるが、攻勢の全てが止むほどじゃあない。

 そこに、今度はもう一つの隠し玉、新生ラクダ騎兵隊が追撃をする。

 コイツ等はデーニスを中心とした例の別働隊。数は少ないが手練れも多い。特に突撃に長けたかつてのボバーシオ精鋭ラクダ騎兵の生き残りが多く、そこにデーニスの魔術の補助が入る。カーングンスと違い騎射技術の熟練者ではないが、奴の最も得意とする、「投擲、射撃武器に魔力を付与する」魔術が絶妙にハマる。騎射に紛れて破壊力のデカいロケランの砲撃が撃ち込まれるようなもんだ。これでさらに後方の陣がかき回される。

 

 で、さらなる追い討ちが俺とナナイの航空爆撃。ナナイはダークエルフなのに闇属性はあまり得意でないらしく、エヴリンドの【獄炎の矢】は使えない。その代わり火属性にはずば抜けてて、俺の背に乗って唱える【紅蓮の外套】ってな魔術は、シジュメルの翼が纏う空気の膜の外側に、まさに炎で作られた渦を重ねて、遠目にゃ炎の竜巻みてぇになる。

 その状態ですれすれの低空飛行を交えつつ炎の矢をガンガンに撃ち込み、デーニス達の掻き回す東側とは逆を攻め立てる。

 兵列陣形をかき乱しながら、要所じゃ隊長、指揮官クラスをも狙撃していく。

 

 最前線のド真ん中にアスバルがぶちかまし、その混乱醒めぬまま、本隊の東からデーニス達新生ラクダ騎兵遊軍部隊、西からは俺とナナイの2人からの追撃。

 個々の攻撃力も高いは高いが、何よりリカトリジオス軍の想定外のタイミング、状況、内容と、それぞれががっちり組み合っている。大軍同士の戦闘は1人の豪勇では覆らない。だがそれら個々には大きな戦力、豪勇を、いつどこでどういうタイミングで投入するのかは策の範疇だ。

 

 1人で兵器並みの破壊力を持つ、“天空を貫く風”アスバル。

 

 “我らが性悪なる隣人”のデーニスを中心とした、カーングンス遊牧騎兵とボバーシオ精鋭ラクダ騎兵との融合した新生ラクダ騎兵遊軍部隊。

 

 そして、“竜血の使い手”、“神弓の射手”なんぞと呼ばれる歴戦のダークエルフ、ナナイを乗せた航空部隊の俺。

 

 この三種三様の破格の戦力を、このタイミングで投入したこと。これは戦局に大きな打撃を与え得る。

 

 だがそれでも……ボバーシオ側の“勝利”は、ここにはないんだがな。

 

 □ ■ □

 

 その異変に気がついたのはアルバだ。

 作戦はほぼ順調。むしろ順調すぎて恐いくらいのところだが、一部おかしな反応があると言う。

 

 アルバは今、正門近くの最も高い監視塔にイベンダーのオッサンに連れて行かれたアスバルと、マヌサアルバ会の護衛たちと共に戦場全体を見渡しているんだが、もちろん一番に見てるのは魔力の流れだ。

 リカトリジオス軍は魔術を使わないが、魔導具などは利用する。また、魔術師ではなくともある程度の魔力は持っていて、それらの動きを把握できれば、戦場全体の動きも見えてくる。

 ここまで広範囲の動きを見れるのはアルバならではの特殊なスキルだが、そのアルバからしても何か奇妙な動き……流れがあると言う。

 

「何かデカい魔力の反応でもあんのか?」

『そうとも言えるし、そうでないとも言える……』

「なんだよそりゃあ?」

『曖昧ですまんが、なんというか、ノイズがかかったかにはっきりしないのだ。複雑な動きが様々に重なって、読み取りにくい。他とは異なる奇異な魔力反応があるのも確かだが、同時にそれらが突如として消えもする……。単に私の力の限界かもしれんが、気にはなるところだ』

「位置は?」

『お姉さ……ナナイ様とお主の居る位置からさらに西側、特に海岸に近い西小城門方面だ』

 西小城門方面は、確か今は元“砂漠の咆哮”の獣人部隊、シーリオ潜入のときにも居たドゥーマとかって名の猫獣人(バルーティ)も踏ん張ってる。短気のアイツじゃ不釣り合いな任務だと思うが、まあ人材不足でしょーがねぇんだろうぜ。

 

「よし、見に行っとくか」

 気軽にそう言うナナイ。まあ何があっても上空から炎の矢を撃ち込める俺たちからすりゃそうそう手ごわい事にゃあなんねぇか。

 旋回してさらに北西方面に向かって行くと、確かにそう多くはないが無傷の部隊が展開している。

 正門前、主力の集中している最前線があの大混乱だ。双方ともこんな末端の状況になんか構ってられねぇ、ってのが正直なところ。そのはずだがこりゃ……おいおい、コッチがド本命かよ?

 

「こりゃ、大当たりじゃねぇか?」

「だな!」

 既に矢をつがえてるナナイが、炎の魔力を乗せて放つ。三本の矢を同時に射ると言うかなりの技前で、リカトリジオス軍の部隊へと急襲。

 全体の数はそう多くない。多くはないが、遠目にも陣容が違う。

 本隊の混乱は見て取れる位置だろうにまるで乱れてないし、兵装も立派。つまり奴隷兵の姿がない。

 ひっそり静かに前進しながらも整然と整った陣の真ん中には、立派な輿に乗せられた指揮官が居るが……ありゃ多分、ドワーフ合金製の胸当てだ。つまり位が高い。

 

 ナナイの放った矢はそれぞれに渦巻く炎を纏わせて、まるで炎の竜のように陣を襲う。

 こりゃすげぇ。“炎の料理人”フランマ・クークの火焔竜も凄まじかったが、そいつに匹敵するか、それ以上だ。いや、威力よりかその速度が桁違い。矢に乗せた魔力だからか、気付いても反応なんざ出来ない弾速だぜ。

 

 元より、俺やイベンダーのオッサンの航空部隊は上空からほぼ一方的に攻撃出来ると言う反則みたいな戦力だった。だが俺もオッサンも、攻撃力と言う点じゃ大したことない。だから一方的に攻撃出来てても、与える損害はそうでもねぇ。

 それを、さっきのアスバルは別としても、今俺の背から炎の矢を放つナナイは軽く上回る。しかもただの炎の矢じゃなくて、ハズレて地面に刺さった矢までもが、追撃とばかりにまとまって連鎖的に爆発する。

 

 矢、炎、さらには連鎖爆発の三段構成だ。

 

 一気に西小城門近くのリカトリジオス軍部隊へ接敵し、立て続けに“爆撃”して勢いのまま旋回。だが陣そのものが乱れるかってーとそれほどでもなく、がっちりと固められた陣形にはほぼ変化がない。

 

「くそ固ぇな、奴ら」

「ああ、これがリカトリジオス軍だ。簡単にゃ乱れねぇ、糞厄介な連中だぜ」

 とは言え、さすがにこりゃ乱れなさすぎか? とも思う。そこでさらに陣内の気配を探ってみると、

「……いや待て、こりゃ本当の本当に大当たりじゃあねぇか?」

 と、そう声に出す。

「多分あの部隊、全員食屍鬼(グール)犬獣人(リカート)兵だ。そりゃただの犬獣人(リカート)兵より“不死身”度は高ぇぜ!」

 

 いつ、どこで運用するかと睨んでいた食屍鬼(グール)犬獣人(リカート)兵、まさに今このタイミングで動かして来た。

 

 俺は素早く“伝心の耳飾り”でアルバ、レイシルド、そしてイベンダーのオッサンらへそれを伝える。

 それからナナイと、

「続けてイケるか!?」

「まだまだ問題ねーぜ!」

 と確認し、再び旋回し炎の矢での爆撃。これも威力からすりゃグレラン三連発みてぇな爆発効果。普通の部隊なら二回もやれば総崩れになるだろう破壊力だ。

 

 繰り返される旋回と爆撃。それになすがままの食屍鬼(グール)犬獣人(リカート)兵部隊だが、もちろんそのままやられてくれやしない。

 

 再び旋回接敵し爆撃をかまそうとした瞬間、その西小城門の軍団の本陣から離れた別の位置、暗闇からの集中攻撃。まずは腕の太さはある長い舌と、跳び上がってのしかかってくる三体の食屍鬼(グール)犬獣人(リカート)兵だ。

 

 俺からすればややお馴染み、だが背に乗るナナイはおそらく初見。

 情報としては伝えてあるが、とは言え実戦で初お目見えとなりゃ後手にも回る。

 

「揺れるぜ!」

 

 叫んだ俺はまるで蜂のように細かく旋回し、まずはカメレオンみてぇに長く伸びてこちらを捕らえる舌先をかわし、さらにはその一本を【風の刃根】で切り裂く。

 飛び乗ろうと高く跳躍してきた食屍鬼(グール)犬獣人(リカート)兵には、背に乗るナナイが素早くコンパクトな動きの炎の矢の洗練。

 1人は顔の真ん中を射抜かれて燃えながら落下。もう1人には肩口へと矢が突き刺さり俺が上手くかわすが、さらにややタイミングがズレての1人の体当たりを受けちまう。

 それに対してナナイはバランスを崩しながらも頭突きで反撃、そのまま首をとって投げ返した。弓の腕だけじゃねぇわ、体幹バランスもとんでもねぇな。

 だがその体当たりの一撃は思ってたよりも痛手をもたらす。

 

「くそ、やられた……!」

 

 腕に爪先の掠り傷。だが声音の調子も震え気味で様子がおかしい。

 

「どうした!?」

「毒だ。あのヤロー、爪先に麻痺毒もってやがったぜ」

 かすかに震えながらの声で、そう長くない呪文を唱えるナナイ。

「ヤバいか?」

「いや、毒自体は大したことはない。この程度ならすぐ治せる。だがしばらく弓は当たりにくくなるし、それより……」

 腰にくくった矢筒を軽く叩き、

「矢まで落とされた」

 と、嘆息。

 

 先制のかましは決めてやった。俺たちだけで全滅なんてなそりゃ高望み。一旦戻って矢の補給をしつつ体勢を整えるか、と旋回し戻っていると、“伝心の耳飾り”からレイシルドの急を告げる報告が来る。


『問題発生……! どうやら既に、城壁内に食屍鬼(グール)兵が入り込んでいるようだ!』

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] アスバルお前生きとったんかい!!! 正直状況がヘヴィだからこういうコメディリリーフは大事w
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