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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-279. マジュヌーン(124) 毒蛇の沼 - 波乗りジョニー


 

 

 黒ずくめが南方人(ラハイシュ)の男を運んだ先は、別棟の地下室だ。地下室と言うか、恐らく地下牢。衛兵が2人居て、1人が場を離れる。暫くしてまた別の兵士を連れて戻ってきて地下牢の中を確認するとまた立ち去る。それからまた暫く、今度はまずボロボロの身なりの小男が来て入り口の前で控え、また少しすると一転してやや背の曲がった中肉中背、豪華な刺繍入りひだの多い濃い赤のローブを着て、大きな頭巾を被り、さらには顔の前に薄絹のヴェールをした男。

 そいつが兵を連れて中に入ると、暫くやりとり。さらに暫くすると、今度は入れ墨だらけのいかつい南方人(ラハイシュ)の大男がまた地下牢へと入る。

 

「あ~、なんか、入れ墨どーのこーので、“漆黒の竜巻”と同じ村で~……とかなんとか?」

 小声の補足は、俺の横に居るエリクサール。

 隠密術、幻惑術に魔装具を併用してても、これだけ厳重だとうかうかとは近寄れない。だから俺は黒ずくめが捕らえた南方人(ラハイシュ)の男を地下牢に閉じ込めたのを確認したあと、サポートとしてエリクサールを呼び、ギリギリ離れた位置に隠れて監視することにした。とは言え、猫獣人(バルーティ)の俺の耳がいくら人間より優れてても地下牢の話し声がハッキリと聞こえるほどじゃあねぇ。そこでエリクサールの盗み聞きの魔術の出番だ。

 だが、コイツの場合いくら魔術で会話を聞き取ってても、コッチに伝える段階で雑になる。とてもじゃねぇが正確な内容は望めねぇ。


 それでも分かったのは、やはりあの黒ずくめはルチアで間違いなさそうで、あの南方人(ラハイシュ)の男は同郷であるルチアを探しにここまで来たらしいと言うことだ。

 

 問題は、そのルチアはどうなっているのか? そこだ。

 

「恐らく、何らかの支配の術に捕らわれているのでしょう」

 

 そう言うのは合流してきたフォルトナだ。アルアジルほどの魔術の専門家じゃねえが、ダークエルフという種族、その文化圏で育ってきた以上、魔術そのものに対する知識、理解度は高い。

「デジモは……元々ザルコディナス三世の配下だった頃、巨人族の隷属化を研究する王の影(シャーイダール)の下に居た……そうだったな」

 思い出し確認すると、こくりと頷くフォルトナ。

 アルアジルに言わせれば、元々はたいして成果もあげられない小物だったらしいが、とはいえそういった隷属や支配の魔術、技術に関する知識は持っているって事だろう。

 だがだとしたら、俺からすれば簡単だ。“災厄の美妃”を使えば支配の術なんてのは無いも同然。後は、どうやって近づくか。それだけだ。

 

 それからさらに暫くすると、すらりとした色白の女が、ほぼ裸に薄衣一枚とでも言うかの姿で現れる。娼婦の類とすら思われそうな格好だが、遠目にもまるでそうは感じられねぇ。


「うへぇ、おっかねぇ」

 小さく呟くエリクサールだが、無言ながらもフォルトナも同感のように軽く身震いする。

 何よりその姿、存在に、俺の中の“災厄の美妃”までもが反応をした。

 決して、ぱっと見に強力な魔術師だとか、凄腕の剣士だっていうわけでもねぇ。だが何とも言えねぇ存在感と言うか、威圧感と言うか、とにかくそういう不気味なオーラに包まれてやがる。

 

「……たいした毒っ気ですな」

 フォルトナのその言葉に、

「マジで“毒蛇”だわ、ありゃ」

 と付け加えるエリクサール。

 “毒蛇”ヴェロニカ・ヴェーナ。確かにその名に恥じない毒っ気だ。同じ空気を吸うだけでもやられちまいそうだぜ。

 

 “毒蛇”ヴェーナが地下牢に入り、またやりとりが暫く。

「なんか、あいつ、自分はヴァンノーニ? の使いだ、みてぇな事言ってんぜ?」

 エリクサールの盗み聞きでの南方人(ラハイシュ)の言い分は、まず間違いなく……、

「たいしたハッタリ野郎だな」

「なかなかの胆力ですな」

 ……嘘でたらめのたぶらかし。ヴァンノーニと元シャーイダールの探索者たちは取り引きで繋がってたとは言え、間違いなくグレタ・ヴァンノーニの様々な工作には関わってない。いや、厳密には一部その計画に利用されてはいたようだが、少なくともコイツを含めた下っ端連中は深く関わってねぇハズだ。

 そのグレタ・ヴァンノーニが……どうやらこの“毒蛇”ヴェーナとも繋がっていた、と。

 

「ヴァンノーニ本家の拠点もヴェーナ領内だし、まあヴェロニカとグレタが裏で繋がってたとしても不思議じゃあねぇわな」

「そこに、リカトリジオス軍も関わっている……となれば、確かに“毒蛇”と“痴れ犬”共も繋がっている……と言うことやもしれませんな」

 

 南方人(ラハイシュ)の男のハッタリは上手く行ったみてぇで、ヴェロニカはひとまずそれを信じ、ゴタゴタはあったものの手当てされ本館の客室へ連れて行かれる。

 

 さて、それで俺たちはどうするか、だ。

 地下牢からは何体かの真新しい死体。クトリアから来た南方人(ラハイシュ)の証言を信じたらしい“毒蛇”ヴェーナと、まだ疑い続けているデジモ。そしてそのデジモの部下のようではあるが、どうにも関係がぎこちない様子の入れ墨だらけの南方人(ラハイシュ)の大男。イーノス他リカトリジオスの特使達は既に到着し、本館でくつろいでいると言う。

 これらを踏まえて、どう動きゃあ良い?

 

 ▽ ▲ ▽

 

 まずは伝言を伝える。南方人(ラハイシュ)の元探索者は、あの古代ドワーフ遺物の鎧で空を飛ぶことが出来る。飛行の術の使える魔装具なんてなかなりのレアで、アルアジルも感心するくらいのもんだ。

 つまり、水堀に囲まれた闘技場から脱出するのには、これほど向いてる奴も居ねぇ。

 まずは奴にルチアを任せる。その為にはデジモの支配の術を打ち破る必要があり、それにはどうにかして接近しなきゃなんねぇ。

 ルチアは明日の闘技大会のメーンエベントで、この闘技場の奴隷の中でも最近頭角を現している新人、東方オークとやらと格闘試合をするらしい。で、その東方オークを抱えている奴隷商、アバッティーノ商会ってのがまた変わってる、やり手だと言う。

 顔を常に隠している護衛を連れたレナートと言う眼帯と髭の色男は、口も上手けりゃ見た目も良く、ここ数ヶ月でプント・アテジオの社交界でも名が知れ始め、東方オークの奴隷主として、デジモ、ヴェーナらと貴賓室での観劇に同席する。

 そしてそこには、試合までの時間、“漆黒の竜巻”、ルチアも同席するはずだ、と。

 俺がルチアと接触出来そうなタイミングはそこか、試合前の移動時間。

 そのいずれかに支配の術を打ち破り、なんとかあの南方人(ラハイシュ)を誘導し連れさらせる……。

 もちろん本題はそこじゃねぇ。デジモを捕らえるか、あるいは家捜しして研究を盗み出すか。ルチアの件はあくまでその“ついで”でなきゃなんねぇ。

 こりゃ、ちとピーキーなスケジュールだな。

 

 朝までにまずはそれら踏まえての打ち合わせ。そして南方人(ラハイシュ)の男の動向を確認する為に待機してから、闘技場へエリクサールと共に移動。南方人(ラハイシュ)の男の監視はフォルトナに任せる。

 

「マジでそう言ったんだな?」

「そーだよ。聞き間違えねぇって」

 ラッキー過ぎる事に、あの南方人(ラハイシュ)の男もまた、貴賓室での観戦に呼ばれたと言う。

 なら誘き出す必要はねぇ。術を破ったら即座に引き渡せる。

 

 その南方人(ラハイシュ)の男を監視、追跡してから遅れて闘技場入りしたフォルトナは、さらに怪しげな連中と話す南方人(ラハイシュ)の男の様子を確認していた。衛兵に化けた2人組……。そして何やら企みごとがあるらしいとの話。

「何を企んでるかってのはわかるか?」

「いえ、具体的には。しかしどうあれ我々にとっては好都合であるようには思えますな」

 何らかの行動を起こそうと企んでる奴らがいて、あの南方人(ラハイシュ)の男もその計画上にいる。目的はルチアの解放なんだろう。そこは確か。その上でどこまでやれるか、やるつもりなのか。


「おい、来るぞ、例の奴ら」

 闘技場内の二階、貴賓席へ繋がる通路を、ぞろぞろと連なり歩いてくるのはアバッティーノ商会の面々。その先頭は派手な服を着た眼帯の男。

「あいつがレナート。だがありゃ半分北方(ギーン)人系だな」

「分かんのか?」

「ちょっと骨格がちげーのよ、帝国人系と北方(ギーン)人系は。あと微妙に訛りもあるしな」

 この辺の知識や観察力は、何気に凄いんだよな、エリクサールの奴。

「んで、次のが東方オーク」

「チビだな」

 しかもかなりの間抜け面だ。

「だろー? けど、東方オークなんての居たかねぇ~。

 あ、んで最後の奴が護衛な」

 最後尾に、ゆるりとした服装にほぼ覆面かってな顔の隠し方をした背の高い戦士風の護衛。

「なんで護衛が最後尾なんだ? 普通前だろう」

「いや、知らんわ」

 まあ性格からなのかただの間抜けか。

「……あの護衛、【認識阻害】を使っておりますな」

 そう読み取ったのはフォルトナ。

「さほど強い効果ではありませんが、魔装具でしょう。本来護衛は己の存在を誇示しておくもの。目立たぬようするのでは護衛の意味がありません。あれではまるで……」

 そりゃ確かに最もな疑問。

「俺らと同じ、か?」

「……恐らく」

 つまりは、護衛としてではなく、俺やフォルトナ、エリクサールなんかがクトリアや旧帝国領内なんかで活動するときに、種族を隠し、目立たず騒がれないでようにする目的……。

「……ちっと面倒臭ぇな」

 そういう面倒な背景のある護衛を、ただ護衛として雇ってる、てのは考え難い。つまりレナートと護衛との関係には、ただ金で雇われた護衛と雇用主以上の何かがある……てな事が考えられる。

 何よりすり替わるにしても、やるならギリギリ、最低限あの東方オークとか言うのと離れてからだ。万が一、そこでトラブって試合が行われない、てな事になりゃ余計な騒ぎになる。

 

「おいおいおい、何よ、何言ってくれちゃってんのよ?」

 そこにそう入ってくるのはエリクサールだ。

「そりゃ、お前らがヘタこいてしくじる可能性はあるかもしんねーけど、俺様ちゃんの幻惑術に関しちゃあ問題無しだぜ?」

 俺やフォルトナの言ってた「面倒くさい」ってのはそーゆー話じゃねぇんだが、なんでかエリクサールが大見得を切る。

「奴と同じよーな服なら先に用意しといたし、背の高さはこの仕込み入りのブーツでごまかせる。あとは俺の幻惑術で、がっつりと見た目も区別つかないようしてやんぜ!」

 まあ、やる気になってくれるのは助かるがな。

 

 ▽ ▲ ▽

 

 貴賓室の中にはレナートの他にデジモ、ヴェーナ、そしてタロッツィ商会の数人とルチア……それから、例のクトリアから来た南方人(ラハイシュ)の男。

 部屋の真ん中の偉そうな椅子にデジモとヴェーナらが座り、その両サイドにそれぞれの奴隷商会だ。

 タロッツィ商会ってのはヴェーナ領で最大手の奴隷商会で、またある種の傭兵団のような存在でもあるらしい。拳闘奴隷も多く抱えて、そしてその中から商会の兵士として引き上げ、例えばヴェーナの護民兵団とかにも使われている。

 で、その護民兵団の中で奴隷兵のみの部隊の隊長も、“漆黒の竜巻”ルチアはやってもいる。

 ルチアがまだこの貴賓席に居るのは、試合をイーノスに譲ったからだ。譲った……と言うか、まあアイツが割り込んだ。

 この話自体は昨日の夜から既に出ていた。デジモ・カナーリオの館に泊まってたのはヴェーナだけじゃない。リカトリジオス特使のイーノスとその他の連中もだ。

 盗み聞きしたエリクサールによりゃあ、言い出したのはイーノスで、完全にお遊び感覚での事らしい。

 その時点では、ヴェーナの判断は保留。最終的な決定はまさについさっきいきなり決まったらしい。だが、そのおかげで俺たちの方針も決まった。

 

 仮面に隠されたルチアの横顔を見る。昔と変わらねぇ……と言えばそりゃ大嘘だ。顔そのものはほとんど見えねぇ。だが着ている鎧……と言うより、かなり地肌の露出する、防御の為のものってよりかは見栄え優先のプロレス衣装みてぇなもんだが、とにかく見える肌にも多くの傷跡が刻まれている。

 この3年ばかりの間に何があったのかは想像しか出来ねえ。お互いに、すでに行く道は変わっちまった。いや、復讐と言う言葉だけ取れば同じように思える。だが……。

 俺は例のクトリアから来た南方人(ラハイシュ)の男を見る。

 リカトリジオス軍、“不死身”のタファカーリの遠征部隊にいた奴隷。反乱し逃げ出した先がクトリアで、偽王の影(シャーイダール)の探索者になる。探索で見つけただろう古代ドワーフ遺物の空を飛べる鎧を身に付け、今じゃクトリア評議会とも繋がっている。

 そいつと俺は何故だか妙に縁があり、特にここ最近じゃあ行く先々でやたらにニアミスをしてる。

 運命なんてのは信じちゃいねぇ。正確にゃあ、運命の導き……てなもんに頼っちゃ居ねぇ。ただ性悪な糞邪神みてぇな奴らにいいようにされることを“運命”と言うンなら、運命なんざ糞食らえと言ってやる。けどここに来て俺は、半ばそういう事じゃねぇ、別の意味での運命的なものを感じてもいる。

 つまり───俺とルチアとの出会いは、この同郷の2人を引き合わせる為のモノだったのかもしれねぇ、って事と……そしてそれは、ルチアを長く終わりの無い復讐の旅から引き戻させることになるのかもと……そんな事をな。

 そうだ、そこが……俺とルチアは違う。

 

「セロン、そろそろだ」

 

 そんなぼんやりした意識に、不意に入り込んでくる小声の囁き。その主は目の前に座って試合観戦をしている奴隷商のレナート。

 東方オークと離れ、レナートと護衛が2人きりになるのを待ち、相変わらず前をずかずか歩いていたレナートの後ろに居た護衛を3人掛かりでとっ捕まえ口をふさぎエリクサールの術で素早く眠らせる。抵抗力はけっこう高かったようだが、本人曰わく「幻惑術界で3本の指に入る」エリクサールにより見事撃沈。そいつを軽くふんじばり物置部屋に押し込んだらすでに変装と幻惑術でその護衛と同じような見た目になってた俺は小走りにレナートの後ろへとつく。

 そのまま無言で貴賓室まで来、そして無言のまま護衛らしく背筋を伸ばして直立不動。

 そのレナートが、後ろを見ないままに小声の指示。そろそろ? と言われても何かは分からねぇ。やや対応にまごついていると、

「おいおい、ボーッとしてないでくれよ? ネミーラがドーン、アイツ等がぎゃわー、そしたら合図でお前が俺を攻撃したふりして、逃がさないよう妨害。コレな?」

 ネミーラ? とかは分からねぇが、何やらコイツ等も企んでやがるか。だが……そりゃかなり都合が良さそうだ。その合図とやらを見逃さないようしねぇとだな。

 

 試合の方はいつの間にやら佳境。イーノス相手にあのちびな東方オークとやらは結構な闘いぶりだ。アイツの拳は確かにかなりキツイ。アールマールでのときはアレでも手加減はしてただろうが、顔が変形するかってなくらいに殴られた。“災厄の美妃”無しでやり合えって言われたら、正直俺もヤバい。

 

 その試合も大詰め。そろそろ決着かと盛り上がったその時、合図とやらを気にしていた俺の視界に奇妙なモンが現れる。 

 高波と言うにはあまりに変だ。何せ、海からまるで何本、何十本、いや、それ以上の巨大な水柱のようなものが、この街へと向かい踊りかかってきていたんだからな。

 ……まさかこいつが、その合図ってことか?

 


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