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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-270. マジュヌーン(115)王の影 - パレードの日、影男を秘かに消せ!


 

 センティドゥ廃城塞の戦いで“三悪”が死に、その後王国軍の支配する魔力溜まり(マナプール)のあるアルベウス遺跡で“黄金頭”アウレウム……の偽者だったジャンルカ・ヴァンノーニが死んだと言う。さらには、ジャンルカの死と同時期に、クトリア市街地で店をやってたヴァンノーニファミリーも姿を隠し、ほどなく“ジャックの息子”が後継者として新たにダークエルフの魔術師を指名したとも言う。

 

「なんとも……色々面倒な事になりましたなぁ……」

 とは、アルアジル。

「何が面倒なんだ?」

 魔人(ディモニウム)とヴァンノーニの件は、確かに問題だ。あいつらはシューのクトリア攻略の為の布石。その手駒が全て消え去った今、クトリアとリカトリジオス軍との戦略、戦力バランスが予想してたものからガラリと変わっちまう。

 今まで打った手がここまで台無しになっちまうと、クトリア攻めへの勢いも、やや足踏み状態になるだろう。

 或いは、既にこの状況がシュー自身の計画の変更かもしれねぇ。だとしても、またコッチもその計画に合わせて色々と変えなきゃならなくなるがな。

 

 だが、アルアジルの懸念はまた少し違ったようだ。

「“ジャックの息子”はその姿を隠し、統治はしていませんでした。最低限の協定の提示と武力による問題の排除のみ。なので、解放後の五年間はほぼ国としての発展は無かったのです。

 ですが、新たに指名されたダークエルフは……そうではないでしょう。“ジャックの息子”と同じであれば表に出てくる理由がありません。間違いなく、クトリアは大きく変わります。

 であれば、リカトリジオスもまたさらに大きく戦略を変えるやもしれません」

「……今までの俺たちの計画が全てひっくり返るかもしんねぇ、と?」

「そこまでとはいいませんが……しかし、想定以上の軌道修正は必要になる可能性は否めないかと」

「表に出てきたなら、ソイツを消しちまえば前と同じようになるんじゃねぇのか?」

 そうすりゃ、また“ジャックの息子”の時代に戻るか、と言えば、

「二つの点で、お勧めできません」

 と言う。

「なんでだ?」

「そのダークエルフを消した際に、元の状態に戻る確証が無く、逆にクトリアが致命的なまでの混乱状態になる可能性が1つ。そうなれば今度は、リカトリジオスのクトリア侵攻はあまりに容易くなりすぎます。

 そして何よりの懸念は、その者が“闇の森”ダークエルフであるらしい、と言うことです」

 1つ目はまあ分かる。そもそも“ジャックの息子”の正体も分かってない。この交代劇、“ジャックの息子”が既に居なくなってる可能性もあるワケだからな。

 だが2つ目……。

「“闇の森”ってのは、そんなに問題か? 火山島のダークエルフとどう違うんだ?」

 その辺が、俺にはいまいちピンとこねぇ。

 

「闇の森ダークエルフと火山島ダークエルフではやや文化が異なりますが、大きいのは火山島では三美神の中でも“獄炎”エンファーラが主神として祀られているのに対して、闇の森では“蜘蛛の女王”ウィドナがその信仰の中心にあることです」

 火山島で火の神が尊ばれ、森で蜘蛛の神が尊ばれるのは分かり易い話だが、

「そりゃ、どう関係するんだ?」

 と、そこが分からねぇ。

「以前も話しましたが、闇の森ダークエルフの方が“蜘蛛の使徒”により近しいと言う事です」

 

 ああ、と思い出す。聞き覚えのある言葉だ。確かその、三美神とか言うのを信奉する、“闇の手”と同じ様な「厄介なカルト集団」とかって話だったか。

「そいつらを敵に回す可能性がある、と?」

「はい」

 なんだか、しっくりとはこねぇ話だな。

「なんでそこまで警戒するんだ?」

 そりゃあ全面対決になりそうな事態を避けたいのは分かる。だが、にしても他の集団、勢力に比べての警戒感が強すぎるように思えるぜ。

「……些か、我らとは因縁があります故、今はあまり関係を悪化させるのは得策ではないかと」

 と言うアルアジル。

 入った高校の先輩同士が余所の高校と揉めていて、その後輩ってだけで因縁つけられ易い、みてぇな話か。


「いずれにしても、この新しいクトリアの体制を踏まえて、また計画を立て直していかねばなりませんね」

 

 そうまとめられてから……またかなり時間が経ってからの事だ。

 

 ▽ ▲ ▽

 

「なぁ、どーなってんだよ、ここンところよ?」

 進展のなさに我慢しきれずにアルアジルへとそう詰め寄ると、やはりあの感情の読めないトカゲ面でコルルと喉を鳴らして返してくる。

「そうですね、もう少しかかりそうです」

「何がだよ?」

「“災厄の美妃”を完全な状態へと戻す方法、です」

 ああ、そう言えば、と思い返す。確かにそんな事を言っていたな、と。

「……預言待ち、って事か?」

 “星詠みの天球儀”を手に入れ、そいつをここの薄気味悪い“預言の柩”とやらに取り付けた。それでその“災厄の美妃”を完全にする方法が分かる……ってんなら、つまり預言とやらが必要、って話なんだろう。

 そう聴くと再びアルアジルは蜥蜴人(シャハーリヤ)特有の喉を鳴らす音を立ててから、

「はい、そうなのですが……やはり、“星詠みの天球儀”が完全なものでない為か、やや手間取っておりまして」

 

 何に手間取ってやがんだか、ってのは俺にゃ分からねぇ。

 

「そんじゃ、その完全な“星詠みの天球儀”ってのをまた取りに行くのか?」

「さすがにそれは難しいでしょう」

 ま、だろうな。

「ですが、代替案はあります」

「へぇ、そうかい」

「“シャーイダールの仮面”です」

 突然、今度は思いもよらぬ言葉が出てくる。

 

「そいつは、術士の力を上げる効果がある仮面だろ? お前が被るのか?」

「いえ、その効果は単体で使うときのものです。

 複数を、仮面としてではなく儀式用の術具として使うときは、また異なる効果があるのです」

 何だかややこしい話だな。

「その、柱……」

 くるりと手を回し示すのは、“預言の柩”の祭壇を囲む六本の飾り柱。

「それらの柱に仮面を設置する事で、その中央に置かれた“預言の柩”の力を増幅させます」

 理屈は良く分からねぇが、まあそう言う事か。

「なら、さっさとやりゃ良いだろ」

 と言うと、

「試しはしましたが、数が少し足りないようで」

 確か今、アルアジルの持ってる仮面の数は3つ……いや、もともと本人が持っていたはずのものを含めりゃ4つか。

 つまり、

「あと2つ……か?」

「出来れば、ですが、今はせめて後1つでもあれば……と言ったところですかね」

 そしてその後1つのある場所は、既に分かっている。

 

 ▽ ▲ ▽

 

 クトリア共和国建国祭……だと言う。

 全く何がどうなってンのかはさっぱりだが、とにかくあの“ジャックの息子”だかッて言う奴が後継者だかなんだかに指名したダークエルフが仕切って、新しくクトリア共和国を造るッて事にしたらしい。

 そう聞かされたところで俺には、共和国と王国の違いもいまいちはっきりとは分かンねぇ。まあ少なくとも、共和国にゃ王様は居ねえッてことくらいは分かるけどな。

 だがまぁ、そりゃそいつは今まで実質的にクトリアの支配者だった奴から指名されときながら、自分自身が新たな支配者とはならず、議会とかってのを作り運営しようッてことみてぇな話なワケで、ずいぶんと変わった野郎だとは思うぜ。

 

「いやいや、変わった野郎じゃあねぇのよ」

 そう返すのは、その情報のネタ元、半死人の情報屋、“腐れ頭”だ。

「なんでだ?」

「変わった女、だからよ」

 クトリア市街地の廃墟、瓦礫の山に隠された“腐れ頭”の、秘密の隠れ家の中、それを聞いて、へぇ、と頷く。

「なんでもな、闇の森のケルアディードとかって言うとこから来て、クトリアの魔力溜まり(マナプール)の試練だかなんだかを達成したってんで、“ジャックの息子”から王権を受けたとかなんとかな。まああそこの中まではさすがの俺でも探れねぇから細けぇ事までは分からんが、とにかくそんな話でよ」

 ケルアディード、ってのは闇の森まで出向いたときにも聞いた名だ。ゴブリンの軍団と争って、しかもその後村まで作ったとか言う話。何故だかその話は、思い出す度に軽くイラつくんだが、とは言え……、

 

「ま、取りあえず俺にゃ関係ねぇ話だな」

 

 と、そう思う。

 

「そんで、例のシャーイダールと手下どもはどーなってんだ?」

 俺が本来聞きたかったのはコッチの話。

 センティドゥ廃城塞での戦い以降、またさらに色々とあったとは聞くが、その詳細もあまり知らねぇ。

 

「狙い目はまさにこのタイミングだな。明日にゃ建国祭でお祭り騒ぎ。シャーイダール以外の手下も地下に籠もらず表に出てくるはずだ。

 ハッキリ言うが、アンタにとって脅威になるのはシャーイダールより手下たちの方だぜ。ドワーフ合金製の武具防具は、“災厄の美妃”でも魔力を奪いにくくさせる。全く効かねーってワケじゃねぇが勝手が悪ぃ。その上魔術専門じゃねぇから、多数を相手取りゃかなり手こずる。

 手練れの部下たちが祭りで居ない隙に忍び込む……ってのが、一番の方法だ」

 “黄金頭”アウレウムは、あくまで術、魔装具の効果として「全身をドワーフ合金のようにしていた」だけで、本当のドワーフ合金じゃない。だから大元の術を破壊し魔力を奪うのは簡単だった。だが本物のドワーフ合金は、それ自体の硬度だけでなく「魔力への抵抗力」と言うのがある。だからその分「魔力を奪う」攻撃にも耐性がある。“災厄の美妃”にとっちゃあなかなか相性の悪い相手だ。

 

「で、結局“遺跡漁りのシャーイダール”は、どんくれぇの実力だ?」

 これから対峙する可能性がある以上、“災厄の美妃”があるとは言えその辺の心構えは欲しいのだが、それには“腐れ頭”、

「シャーイダールのアジトは本物だ。だから俺でもあの中までは調べられねえ。だが端々の情報から推察するに、ありゃあ───偽モノだな」

 つまりは、偽グリロドやアールマールの工作員と同じ、仮面だけ手に入れた雑魚……。

「遺物があるし、部下にも凄腕が揃ってる。探索班の班長のハコブは魔法も剣もいける熟練で、そいつが鍛えた部下もまた強ぇ。それに最近は古代ドワーフ遺物の改修が出来るドワーフの魔鍛冶師まで確保してっからな。組織としちゃあかなり手ごわいが……」

「肝心のシャーイダール自身は……」

「ああ、見えてこねぇ。

 ここまで徹底して存在感がねぇのは、敢えて隠してるならかなりのモンだ。で、確かに意図的に表に出てきてないってのは当然あるだろう。そこは“ジャックの息子”も同じだが、違うのはその隠し方……つまり、きっちりと表に出てくる部下が居る、ってとこだ」

 “ジャックの息子”も、正体不明の術士だが、表に出てくるのはからくり機械じかけのドワーフ合金ゴーレム。奴の部下と言うようなのは居ない。新たに王権を受けたダークエルフとかってのの以外にはな。つまり、少なくともドワーフ合金ゴーレムは奴自身が操っているワケだ。それだけの実力はある。

 だがここのシャーイダールはどうか?

「つまり、その部下……ってのも含めての騙り、って線か?」

「その可能性もでけぇな。確かに実力派だが、そこに“邪術士シャーイダール”の名を冠する事でハッタリは効く。まあ今になりゃそれほど前に出す必要も無くなって来てるが、有象無象の闊歩してた解放初期にはかなり効いてたぜ」

 ま、分かる話じゃある。突発的な喧嘩なんざ、お互いの実力にそう差がないときなら、有名な先輩の名前や学校の格で勝負が決まったりもするもんだ。

 

「その偽者の予想はつくか?」

「あ~……悪いがそこはあんま確信もって言えるモンはねぇな。

 伝え聞ける話も、せいぜいが“木製の不気味で恐ろしい仮面を被った小男”くらいの話だけだ。それも、小男じゃなく大男だとか、痩せた老人だ、豊満な美女だ……みてぇな胡散臭い話もある中で、一番信頼性のある話、ってだけだ」

 仮面を被った、てのが信頼性のある情報だってーんなら、まあ目的のシャーイダールの仮面の入手は問題ないだろう。それと、アルアジルにも言われたことにもな。


「あとは、ここ暫く同じように全く表に出てねぇのが1人居る。さっきも話した、探索班のリーダーのハコブって奴だ」

 色黒で傷のある顔の魔法戦士だったか。

「何か特別な長患いの可能性も0じゃねぇが、恐らく奴は既に死んでる。ただそれを今は表沙汰にしたくねぇだけだろうな」

「どう関係する?」

「やつは探索班のリーダーだったが、ちょっと得体の知れねぇ胡散臭いところがあった。可能性としてはシャーイダールを裏切って粛清されたってのもありえなくはねーが……さっきも言ったが、シャーイダール自身が偽物の可能性が高いと俺は踏んでる。

 で、そこからもう一つの可能性としちゃ、探索班リーダーのハコブが偽シャーイダールを仕立ててたか、或いは実在しない偽シャーイダールを存在するかにしてた……てのも、まあ無くはない」

 またヤヤコシイ読みだな。

「となりゃ、偽シャーイダールそのものが既に居ない……てのもある可能性だって事か」 

 偽シャーイダールが実際には実力のない形だけのボス、の可能性。ハコブが偽シャーイダールだった可能性。その上で、ハコブは長患いで地下から出て来れてない可能性に、既に死んでるがそれを探索者たちが隠してる可能性……。

 

「とにかく、式典の日だ。それならお前さん1人で問題ねぇ。もし他の手下が残ってたら、出来るだけ関わらずやった方が良い」

 

 最後にそう保証するように言う“腐れ頭”だが、さてそれもどこまでが本気なのかは分からねぇ。

 

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