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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-263. マジュヌーン(108)黒金の塔 - ずっと穴を掘り続けてる


 

 情けないことに2日ほど寝込んでしまった。原因不明の発熱で、魔法薬や治癒術でもハッキリした効果がない。しかし症状だけなら風邪みたいなもんで、熱の他は倦怠感に悪寒に節々の痛み、ついでに鼻水と咳だ。

 なので小型の守護ゴーレムの配置された野営地の天幕の中、昼間は世話をしてくれるアルアジルと2人っきりで留守番だ。全くしまらねぇ話だぜ。

 

「どうやらあの野営地跡で、ダークエルフとゴブリンの戦いがあったようです」

 探索から戻ってきたフォルトナがそう報告してくる。

 ゴブリン……てなのは、まあ名前だきゃあ知ってるが、現物はまだ見たことがねぇ。クトリア周辺やアールマール方面には居ねぇが、野蛮で小さな原始人みてぇな連中らしい。住んでるのがほぼ旧帝国領内とその周辺なので、帝国人やウッドエルフ、そして闇の森ダークエルフはとかくコイツ等を嫌ってるそうだが、やることがエグい割に、魔獣やなにやらに比べりゃ個体としちゃ手強くはないとも言う。

 

「ふん、そんなのはイカれリムラの群れより容易いだろう。面白くもない」

 イカれたリムラ族の群れが襲ってきたら俺なら即座に逃げ出したくなるが、ムスタはそう吐き捨てる。

「それがどーーーーも、そーでもねぇっぽいぜ~」

 話を引き取りそう続けるのはエリクサール。

「なんでもそのゴブリンの群れ、リーダーのやつがバカでかい上めちゃめちゃけったいな術を使う奴だったらしくてな。怪我してもすぐ自然治癒するし、毒だの何だのも吐き出すし、身体の表面を鎧みたいに硬くしたり、巨大ムカデみてーな腕をぶんぶん振り回すし、まーとにかく肉弾戦じゃべらぼうに強い。部下にもシャーマンが2人だか3人だかも居たり、ホブゴブリンにまで成長してるのもわらわら居たり、まー厄介この上なし……ってよ」

 なんだか、化け物じみた話だな。ムカデの腕?

 

「なんだ? ゴブリンってのはそんなんがざらに居るもんなのか?」

 と、そう聞くと、

「有り得ませんな。

 まあ、それらは話半分としても、それでも部下のゴブリンたちも、統率のとれたまさに軍隊のようであったようですぞ」

 化け物じみた強さのリーダーに、同じく強力な腹心、そして帝国流に訓練された兵士。

 それがどれくらい「有り得ない」のかは俺には分からねぇが、とにかく変わったことなのは間違いないらしい。

 

「そいつは、“闇の主”とやらと関係あンのかね?」

 何の気なしにそう聞くと、

「……ふぅむ、その方が或いは“有り得る”やもしれません」

 とは、アルアジル。

「“闇の主”は魔導生命体の研究をしていたと聞きます。あるいはゴブリンをその実験に使っていたとしても不思議ではありません」

 実験、ねぇ……。そりゃ結局、クトリアの邪術士連中と何がどう違うんだか。

 

「それはそうと、裏口とやらの目星はついたのか?」

 ダークエルフの戦闘の件はあくまでおまけだ。本題へとそう話を向けると、

「怪しい……っつーか、曰くありげな場所はあったんだよ。ただなぁ~……」

 

 △ ▼ △

 

 入り口の周りにたむろしてるのは、数人のダークエルフとその他人間なんかの戦士たち。

 一応は見張りってことだろうが、そんなに気を張ってるって訳でもない。

 比べりゃダークエルフ側の方がピリついてるか、それは周囲を警戒して……ってな事でもないらしい。

 

「アレね、ダークエルフは……ケルア……なんとかって氏族の連中ね。この辺りを仕切ってる奴ら」

 この闇の森ってのは闇の森ダークエルフ十二氏族とかってのが連合みたいな形で仕切ってて、この辺の縄張りはケルアディードとかってののもんらしい。

 奇妙なゴブリンと一戦したってのもそいつら。

「で、戦士の奴らは“疾風戦団”ってな戦士団」

 エリクサールのその言葉に、なんとなく引っかかりを覚えて記憶を弄ると、

「“砂漠の咆哮”の頃に聞いた名だな。王国を拠点にしてる戦士団じゃなかったか?」

 そう、獣人達中心の“砂漠の咆哮”とは別の、帝国人中心の戦士団だ。

 

「“砂漠の咆哮”、“月光騎兵団”、“熊髭戦士団”、“赤戦士団”、“竜兵団”、そして“疾風戦団”……。確かに、有名どころとして並び称される強者集団ですな」

「“闇の手”もそこに並べられてるんじゃねぇの?」

「御冗談。格が違います」

 格云々は別として、組織としての方向性はまるで別ではある。

 

「いずれにせよ、詳細はあまり分からないのですが、あの洞窟の奥はかなり深く、古代トゥルーエルフの遺跡にも続いているようでして」

「トゥルーエルフ遺跡に繋がってるとどうなんだ?」

「“黒金の塔”それ自体もまた、古代トゥルーエルフの建築物」

 なるほど、だから地下の遺跡と繋がってる可能性がある、と。

 

「これがよ~、そこらの山賊やボンクラ傭兵団程度ならバレずに潜入……ってのもまあやれなかねぇけど、闇の森で闇の森ダークエルフと“疾風戦団”相手にってのは、なかなか難儀よ?」

 軽い調子でエリクサールは言うが、なんだかんだ言って自分を幻術の天才と自称してるくらいだ。そう簡単には弱音は吐かない……そうでもないか? ……ま、何にせよエリクサールが「難しい」と言うなら、そりゃやっぱ文字通りに「難しい」のは間違いない。

 

「だがそのダークエルフと“疾風戦団”が、なぜ組んでる?」

 むっつりとしながらムスタが聞くと、

「なんでも、ケルアディードのオヒメサマと、疾風戦団の誰ぞが、あの奥の転送門の事故でどっかに行っちまって行方不明になっちまったんだとさ。他にも戦団の何人かが居なくなってて、その捜索で来てたとかでよ」

「ずいぶんと大げさだな。大物か?」 

「さぁ~? オヒメサマと居なくなったのはオークの料理番らしいぜ」

 料理番?

「そんなのをわざわざ探してんのか?」

「……聞いた話ですが、他の有名な戦士団と違って比較的少数精鋭の“疾風戦団”では、任務中の行方不明者は可能な限り探し出し、場合によっては遺体を持ち帰り埋葬までするそうで」

「ふん? そりゃ……“砂漠の咆哮”とはずいぶん違うな」

 元々は個人主義の多いはぐれ猫獣人(バルーティ)の集まり、組織と言うよりは寄り合いみたいだった“砂漠の咆哮”じゃあ、特別な依頼でもなきゃ失踪者の探索なんて有り得なかったぜ。

 

「あとは……魔導具使いのドワーフ、チーフスカウト、んで……聖女見習いの戦乙女……だったかな?」

 

 聖女見習い、ってのはちょっと珍しいと思っていると、横合いからクルゥアララ、と喉を鳴らすような声。こんな妙な音を出すのはもちろんアルアジルだ。

 

「なんだよ、妙な音だしやがって」

「あいや、これは失礼……」

 ふぅ、と呼吸して再び口を開くと、

「……いえ、しかし、そうなるとこの正面から裏口……」

「“黒金の塔”の裏口へ進むかもしれない場所の正面入り口?」

「……からの潜入は、止めた方が良いでしょう」

 なんだかややこしい話になるが、まぁそうだ。

 潜入、ではなく正面突破、てんならやれなくないとしても、潜入となりゃ話は別。

「俺1人なら行けるけど、おめーら込みはなぁ~」

「この場所での様子見でギリギリですな。これ以上近付けば危うい。特に……」

 フォルトナがちらり見るのは、明らかにこの中で最も隠密向きではない巨漢のムスタ。

 なんだかんだ言ってムスタ以外の俺たち四人は、それぞれそれなりには隠密が出来る。

 

「まぁ、色々と駆使して、裏口の裏口を探すしかないでしょう」

 

 とまあ、分かりきった結論じゃああるが、そうなるわな。

 

 △ ▼ △

 

 で、「色々駆使して」見つかったのは、ちょっとした高台になってる所から下に向かった穴の跡。一応申し訳程度に埋められてはいたが、どうも比較的最近「内側から掘られた」穴らしい。

 

「この辺にも穴掘りネズミが居るのかね?」

「闇の森には地豚と言うのが居ますな。穴を掘って巣にする豚ですが、とは言えもぐらや穴掘りネズミのようには掘れません。或いは……砂ミミズのような魔虫も有り得なくはないですが……」

「僅かですが魔力痕があります。これは……使い魔か何かを使って掘り進んだように思えますね」

 フォルトナとアルアジルがそれぞれそう見解を言う。

 とにかく、ここを再び掘り返せば古代トゥルーエルフの遺跡まで通じてるようだ……てのは、フォルトナの灰砂の落とし子アッシュサンド・スポーンによる偵察から。

 だがそれをきっちりと掘り返すのは、これまたなかなか面倒くさい。

 

「魔術でズバッと出来ないのか?」

「出来なくは……ありませんが」

 こういう場合に一番いいのはいわゆる土魔法を使うことらしい。だがフォルトナもアルアジルも、第一に得意としといるのが闇魔法で、その次に来るのが、フォルトナは炎、火属性で、アルアジルは水。

 アルアジルが水ってのはなんとなくイメージに合わないが、蜥蜴人(シャハーリヤ)には水属性を得意とする者は多いらしい。

 そして2人とも土属性は使えなくはないが、そう得意と言うほどでもなく、要するに「どっちにしろ時間がかかる」。

 

 で、結局はアルアジルとフォルトナが魔法で、俺とムスタが腕力で掘り進むことになる。

 崩落を防ぐには土魔法による補正は有効で、掘る方向もまた灰砂の落とし子アッシュサンド・スポーンやその他の魔法で探り出す。

 一連の掘削作業では全く役立たずなエリクサールだが、当然奴なりの役割はあって、その穴を中心としたこの高台周辺の隠蔽と管理。奴以外が全員穴掘り作業にかかりっきりな分、ダークエルフレンジャー他の目を誤魔化すにはエリクサールの幻術が最も重要になる。

 

 野営地自体をこの高台へと移し、掘った穴の中に間に合わせの部屋を作り出して寝泊まりしつつ数日。ようやくたどり着いた古代トゥルーエルフ遺跡の中はかなり冷たく寒々しい場所だった。

 季節的にも冷え込み出す時期、身震いじゃすまねぇレベルの中を、今度は狩った魔獣や狼なんかの毛皮で作った間に合わせの外套で寒気を払う。

 そんなことをしているウチに、遺跡内やその周辺のケルアディード郷ダークエルフや疾風戦団の連中は減ってきてて、エリクサールの偵察、盗み聞きによると、行方不明になったダークエルフのオヒメサマとやらから魔導具による手紙で報告が来たとかで、この遺跡内にとどまっててもあまり収穫が無いのが分かったからだとか。一応数人残って調査は続けるらしいが、大部分は別の方へ向かうと言う。

 

「ちっ。なら、苦労して穴掘りなんざしなくても、数日待ってりゃすんなりと入れただろうにな」

 まあボヤきたくなるのは当然だろ。だがそれにはアルアジルは首を振り、

「我々だけが知っている確実なルートを確保出来たことが重要なのです」

 と言う。ま、確かにな。

 

 遺跡内へ潜入し、その中での仮拠点も確保してからは、また地道な調査だ。前世にあったゲームみてぇな謎解きだの派手なバトルだのってなほとんど無い。ただひたすら怪しい場所を見つけては、叩いたり触ったり、或いは魔力や仕掛けを看破しようとしては、結局何もない事を確認する……と、ほぼ8割方は徒労に終わる作業の繰り返しだ。

 それでも一応は、芋虫かナメクジの速度で少しずつ進展はする。調査、探索、そして時々穴掘り、だ。

 その繰り返しでまた数日。

 内部で野営地を動かしながらマジで地道な進行を続けていく。

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