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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-253. マジュヌーン(98)混沌の渦 - 悪夢の叫び


 

「奴らの動きはどうなってる?」

『おおー、なーんかどっかの地下に入ってゴソゴソやってから、王国駐屯軍の方に向かってるぜ』

 エリクサールからの通信は、さっきのネフィルの言葉を裏付ける。

「アウレウムの他は?」

魔人(ディモニウム)が20人ばかしだな。まあ炎を操る2人組はかなりの威力はあるけどこの雨じゃ半減。あと目ぼしい奴は……簡単な守りの魔人(ディモニウム)と、石飛礫の魔人(ディモニウム)と……まあ、そんなのか』

 まだ400近くの兵力がある王国駐屯軍に、いくら魔人(ディモニウム)とは言えその数では死の特攻としか思えない。

 状況的には獣人部隊含めたアルゴード側の連中と挟み撃ちの形になるとは言え、いかにも破れかぶれだ。

 だが、ネフィルの言うように、“黄金頭”アウレウムの本当の能力が、「身体をドワーフ合金化する」んじゃなく、「使う魔導具、魔装具の威力を数倍、数十倍にもする」もので、このレフレクトルで王国駐屯軍を壊滅させられる“とっておき”を手にしたってんなら話は別だ。まあ、だったら何故今まで使わなかったのか、てな疑問はあるが、少なくとも“黄金頭”アウレウムにはそこに勝算があるって事だろう。

 

 奴らが進んだと思えるルートをそのまま追って行く。雨は特に衰えることなく降り続け、音も匂いも簡単には分からない。だがまだ消えてない足跡や、魔力の気配は残っている。

 やや離れた位置にはエリクサールが来ている。奴は風魔法の応用で、耳元へと声を直接送り込み、また遠くの音をも聞き取って通信をしているんだが、それもこの大雨のせいであまり離れていると届かなくなってきた。それもあって、また『どーせならもっと近くで見学するわ』と言うくだらない理由で追って来たんだが、幻術には長けてても直接的な戦闘能力は皆無なので、やはり一定以上の距離には近付いてこない。

 

『おお、なかなか不気味な杖だな、ありゃ』

 そう言うエリクサールに、

「見えるのか?」

 と聞く。

『まあねー。暗いし雨も降ってるしでちと普段よか視界悪ィけどな』

『どのような杖ですか?』

 エリクサールにそう具体的に質問するのはアルアジルだ。

『んー……。なんかこう~……わじゃわじゃっとして、ごわ~、って感じ?』

「さっぱり分かんねーな」

『いやだって、そーゆーしかねぇんだもんよ』

 描写力ゼロかよ。

 エリクサールの役に立たない情報は無視し、さらにアウレウム達との距離を詰める。雨のお陰で俺自身も普段みたいに隠密にそう気を使う必要もないが、それでもある程度近づいてからは岩影を飛び石のように伝わりながらだ。

 暗く、雨で視界も悪いが、それでもなんとか見える距離まで近付くと、まあ確かにこう……エリクサールの言うとおりに「わじゃわじゃっとした」形の杖だ。

 

「まいったな、エリクサールの言うとおりだ。杖の先端部分の飾り……そうだな、両方の手のひらを向かい合わせに重ねて、てんでばらばらな方向に指を伸ばして掲げてる……みてえな感じかな」

 そう伝えるとアルアジルはふぅむ、と口ごもり、それから

『その真ん中に、宝石のようなものは?』

「ああ、あるぜ」

『色は?』

「あ~……青紫……いや、もっと黒いか……? 視界も悪いが、もともと暗い中じゃ俺には色が分からねぇ」

『そうでしたな……いや、しかし……ああ、その手のひらのような飾り、素材は金属で?』

「多分な。ドワーフ合金か?」

 硬い、重い、魔力に耐性があると言うドワーフ合金は、防具以外の魔導具に使われるのはちと珍しい。魔力を受け付けないと言う性質上、付呪をしづらいという欠点があるからだ。使われてても一部、補強材として、だったりもする。

 それを聞いたアルアジルは、再び唸り、それから、

『……ネフィルから聞いたと言う、アウレウムの本当の能力が魔導具、魔装具の性能を倍増するもの……と言うのが真実であれば、そしてその杖が、私の想像通りであるのなら……確かに逆転、王国駐屯軍の全滅……も、ありえなくはないでしょうが……』

 が?

「であるならば、それは阻止した方が良いかもしれませんな」

 そりゃまた、いきなりの方向転換だな。

 

 △ ▼ △

 

 “黄金頭”アウレウムは薄暗い雨雲の下、降りかかる雨に濡れながら、ときおりその黄金色の肌がぬらり輝き反射する。

 相変わらず喚き散らし怒鳴りながら周りの魔人(ディモニウム)へと指示を飛ばして居るが、雨音に紛れさらに聞き取りづらい。

「魔獣はまだか!?」

「分かりやせん!」

「糞……小森め、相変わらずグズでのろまな……使えぬ生徒だッ!」

 小森……ヴィオレトにレフレクトルに居る魔獣、岩蟹達を支配させ、戦力として側面からぶつける、てのがアウレウムの考えた手の一つなんだろうが、アテにしてたヴィオレトからの援軍はまだ来ない。

 正面から王国駐屯軍を引きつけている獣人山賊部隊の勢いもいつまでもは保たない。ここでの時間の浪費は手痛い。

 

「俺はいけるぜ! 糞王国兵どもを皆殺しにしてやんよ!」

 威勢良くそう叫ぶのは、ワニ革と鉄化した岩蟹甲良で作られた鎧甲を身に付けた小太り。その横で、やはり似たような装備の痩せた小男がへらへらと笑いながら、空へ向けて炎を放つ。

 雨如きでかき消されないとアピールしたいんだろうが、それでもやや弱まっているのは分かる。

 周りの魔人(ディモニウム)達も多くはそれに追従するかに身振り手振りで応じている。こりゃ勇猛果敢って言うよりは、そうやって勇ましい振る舞いしてなきゃ怖すぎる、てな感じだろう。

 それを見て、アウレウムは深く頷いてから手にした杖を振り上げて、

「よし、かかれ!」

 との号令。

 それを受け魔人(ディモニウム)達は大声で叫びながら隊列を組んで突撃を開始する。

 

 雨音に前方の獣人部隊にと、意識をとられていた王国駐屯軍部隊は大声で突撃してくる魔人(ディモニウム)部隊に驚くが、魔人(ディモニウム)とはいえ少人数、数で問題なく押し潰せると考えてか、それぞれ50人の盾兵部隊と弓兵部隊に対応させる。盾を掲げ待ち構える盾兵部隊に、距離のあるウチに矢を射る弓兵部隊。

 だがその矢は一瞬の光に弾かれる。

『ふむ、【魔法の盾】ですな』

 何度かやり合った事もある、基本的な魔術の一つ。魔力によって作られた巨大な盾……まあ、バリアみてーな光が、敵の攻撃の威力を減らし、また、矢や石飛礫のような比較的軽い飛び道具を高確率で防いでくれる。

 フォルトナみたいな魔法と剣術なんかを組み合わせて戦うタイプの奴らはほぼ必ずこれを習得してる。フォルトナは基本が魔力を帯びさせた弓矢を使う魔弓士で、敵に近寄られたら【魔法の盾】を併用しながら山刀を振るう。召喚の魔法盾と違って、魔力を常に消耗し続けるが、モノとしての盾を常時持ち歩かないで済む上、魔法への耐性もあるかなり使える魔法だ。

 だが魔人(ディモニウム)の場合、必ずしも魔術士や魔法戦士の使う術と同じとは限らない。呪文を唱えず素早く使えるのは利点だが、それ以外により不便になっている面もあるからだ。

 コイツは今までの戦闘ではこの【魔法の盾】を使って居なかった。“黄金頭”アウレウムが敢えて隠してきた、てのもあるだろうが、それが戦術的な意味だけでなく、その弱点をカバーする、隠する為ということも考えられる。

 

『お、切れたな』


 エリクサールがぼそりと言うが、光って矢を跳ね返した魔人(ディモニウム)の【魔法の盾】はすぐに消えた。

 次の攻撃に再び光り矢を跳ね返すが、それもまたすぐ消える。

 つまり、この【魔法の盾】の使える魔人(ディモニウム)には、継続的に【魔法の盾】を使い続けるだけの魔力がない……その可能性もある。

 およそ10メートル近くまで近付いた辺りで、軍勢の中から巨大な炎の塊が吹き出し、それが唸り暴れ周りながら王国駐屯軍へと向かい、左右に別れて横凪に盾兵部隊へと襲い掛かる。

 大野……クークとか名乗ってるアイツの力は、ラアルオームでの森林火災を引き起こす破壊工作でも分かるように、あの頃とは比べものにならない程強くなっている。

 それで乱れた盾兵部隊に、その他の魔人(ディモニウム)達からの攻撃が矢継ぎ早に届く。ショットガンみてぇな【石飛礫】や、雨を渦巻く竜巻のように変えて殴りつけるヤツ。

 巨大な炎で乱れた王国駐屯兵は、盾を有効に使えてない。こりゃ、なかなか見事な連携プレーだ。

『ふうむ……。これは、いささか“黄金頭”アウレウムへの評価を見誤っていたようですな。なかなかどうして、たいした戦術家でもあるようです』

 前世ではその気弱さ、意気地のなさからも、典型的なダメ教師ではあったが、かといって生徒指導のノウハウを知らなかったワケでもない。魔人(ディモニウム)として生まれ変わり、周りの誰もが従わざるを得ない力を手に入れた結果、「前世ではなれなかった、強い指導力をもった“教師”」になれた……。あの爺の言っていた「強い望み」は、ヤツにとっちゃあ確かに叶ったってことか。

 そのまま魔人(ディモニウム)部隊は乱れた盾兵部隊へ突撃……かと思いきや、一部を除いて直前で逸れる。その“一部”は、アウレウムを中心とした数人。

 全身をドワーフ合金同様の“無敵の肉体”へと変化させている“黄金頭”アウレウムと同じように、なんらかのかたちで白兵戦に向いた魔術を持っている奴らなんだろう。

 そこに、再びアルゴード正面から獣人山賊部隊含めた魔人(ディモニウム)ではない連中が攻勢をかける。見事に挟撃の形になり、数と練度で勝るはずの王国駐屯兵が、勢いと魔術、それらを踏まえた戦術で押され出した。

 

「隊列を整えろ! 我らは精強なる王国駐屯軍だ! 獣人山賊どもに後れをとるな!」

 叫ぶアウグスト隊長は、中肉中背の筋肉質だ。年はそれほどいってないだろう。まだ20代、いってても30代前半ぐれぇか。カロド河の氾濫を利用した戦略はたいしたもんだったが、戦場での指揮官としちゃ経験不足か。もしくは、その戦略も誰か別の参謀なりの考えかもしんねぇが、まあそんなのは今は問題じゃない。

 問題は……、

『この流れであれば……アウレウムも“滴る悪夢の杖”を使わぬかもしれませぬが……』

 野郎が「一発逆転の秘密兵器」を使うかどうか。そこにある。

 

 “黄金頭”アウレウムは、その異名通りに全身を古代ドワーフ合金のように金ピカに輝かせ、魔法も剣も効かない無敵な状態で敵陣を切り裂く。振り回している巨大な戦槌は次々と王国駐屯兵を粉砕し、まるで海を割るように突き進んでいく。

 

『あ~らら~、な~んだよ、コイツ1人で片ついちまうじゃねーの?』

『まあ……時間次第、ですかね』

『そーだね~、時間の問題だね~』

 まるで勝敗の決したスポーツ試合を観戦さてるかのエリクサールに、クルラララと否定するよう喉を鳴らしてから、

『いえ、時間次第……つまり、時間がかからなければ……です』

 やや2人の間でやりとりに食い違いが出たようだ。

「分かるぜ。エリクサール、アンタは基本、殴り合いはしねえんだろうけどよ、基本、半死人でもなきゃあ殆どの奴は、全力で戦い続けられる時間はそう長くはねぇ。いくら身体の外側が完全無敵なドワーフ合金になってても、スタミナ切れたら相手に捕まる。しかも奴はあんな馬鹿でかいハンマーをぶん回し続けてるからな。

 スタミナ無限になる魔装具でも持ってるってンでもなきゃ、すぐにでもへばっちまう」

 実際、まだまだ勢いはあるにはあるが、最初の突撃よりかは鈍ってきてる。

 だがその辺も当然考えている。そのまま押しまくるかと思えば、隊列の薄くなった方へと方向転換すると、機を見て横に離脱。逃げるかの動きに釣られて、横列だった盾兵部隊がさらに間延びするようになった所へ、先ほど別れた遠隔攻撃の出来る魔人(ディモニウム)班が再び攻める。

 正面からは獣人山賊部隊、横からは白兵と遠隔攻撃の二班に分かれた魔人(ディモニウム)の波状攻撃。王国兵一番の売りである、「規律だった隊列による集団戦」をさせてもらえてない。

 いったん後方に退いた“黄金頭”アウレウムの班も、さらに反転し隊列の崩れた盾兵部隊へ再度突撃をする。

 盾兵部隊は態勢を整え直す時間も余裕もない。アウグストの本隊は正面の獣人山賊部隊にかかりきり。こちら側の隊長は完全にパニクってる。

 

 そこへ、後方から矢弾の支援。アウレウムと入れ替わりでまた後方へ退くクーク率いる遠隔魔法部隊への攻撃だ。すかさず、【魔法の盾】を展開する。

 が、その【魔法の盾】の光が消えた瞬間、


「ぎゃあッ!?」

 

 叫ぶのはクークの横に居る痩せたちび、日乃川だ。弓兵部隊の部隊長か。ただ1人、一斉射撃とはタイミングをズラし、狙いすまして射った。畳みかけるように矢が飛んでくるが、その一斉射撃は再び【魔法の盾】で防がれるも、やはりタイミングを少しズラした射撃が、今度は前以上の数降り注ぐ。誰かは知らねぇが、魔人(ディモニウム)側の【魔法の盾】の使い手が、あくまで瞬間的にしかそれを使えてないことに気づいたようだ。

 次々と射られるクークの班の魔人(ディモニウム)。何人かは矢に対して応戦できる術を使うが、王国駐屯兵乃弓兵部隊の戦術がそれを上回る。

 アウレウムはその流れを見て、今度はかなり分断された盾兵部隊を突き破って突破すると、その後方の弓兵部隊へと躍り掛かる。


「全魔人(ディモニウム)部隊突撃! 俺に続け!」

 弓兵部隊を蹴散らしたアウレウムは、そのままさらに後方、アウグスト隊長の本隊へと突き進む。

 クークの火炎も、【魔法の盾】も怪我で上手く扱えなくなったが、まだ魔人(ディモニウム)部隊の火力は高い。既に隊列も完全に乱れた王国駐屯兵部隊はさらに切り刻まれる。

 アウグストの本隊の背後へと迫る“黄金頭”アウレウム。

 そのとき───、

「ボーノ、今だ!」

 号令一斉、今し方切り抜けた弓兵部隊から鉄鎖が放たれアウレウムの巨体に絡まる。

 無敵の皮膚を持つ魔人(ディモニウム)、“黄金頭”アウレウム。斬っても殴っても、さらには魔法も効かないが、絡め捕り身動きとれなくすれば捕まえられる。

 四方からの鉄鎖により動きが止まる“黄金頭”アウレウム。追随していた他の魔人(ディモニウム)も、急なことに対応出来てない。また動ける盾兵やアウグスト本隊の兵達に取り囲まれ討ち取られる。

 クーク達遠隔攻撃の魔人(ディモニウム)班はまだ距離があるし、乱戦状態ではなかなか手が出せない。

 

「ぬぐあぁぁッ! 貴様らッ……!」

『───今です』

 左手に掲げていた“滴る悪夢の杖”を振り上げ、そこに魔力が集まり出す。強く、禍々しいその魔力は、それだけで周りの王国駐屯兵達へとまさに“悪夢”のようなおぞましさを振りまき出す。

 

 ぞぶり、と深く腹の奥へ刃が滑り込む。

 気がついているのは刺された本人。いや、刺された本人ですら、数瞬は理解出来て無かっただろう。

 低く、地を這うような態勢から斜め上へと突き上げた“災厄の美妃”の刃先は、“黄金頭”アウレウムの背中側から前面へ貫いた。

「───何……故……?」

 アウレウムの血と、命と、魔力とを吸い取り貪る“災厄の美妃”は歓喜に震えて悦びわななく。

 

 “滴る悪夢の杖”は、いわゆる魔力汚染を引き起こす魔導具だ。普通なら対象は1人かせいぜいまとまった4、5人。だが“黄金頭”アウレウムの、「魔導具や魔装具の威力を数倍、数十倍にする」と言う能力でそれを使えばどうなるか───。

 

 杖から放たれた魔力が、アウグストの本隊を飲み込む。

 一呼吸、いや、二呼吸ほど遅かった俺の刃は、それでも放たれた魔力の一部を吸い込むが、まるで威力が衰えては見えない。

 紫……青……いや緑か? いや、そもそも俺のこの猫獣人(バルーティ)の目は、暗い中では色が良く見えない。色じゃなく光だが、それでもその変化し混じり合う事のない魔力の迸りは、決して破壊的で攻撃的なものには感じられない。

 ただゆっくりと緩慢な動きでじわじわ広がりながら魔力の塊が進んで行く。避けようと思えば子どもでも簡単に避けられそうな程だ。

 なのにそれを認識しただろうアウグスト隊長も、その周囲の兵士たちも、またその向こう側で暴れている獣人山賊部隊を中心とした賊軍たちも、その殆どがまるで魅入られたかのようにそろいもそろって大口を開けた間抜け面して眺めている。

 そこだけ───そのおぞましい不気味な色の広がり進む先だけ、時間が止まったのかのようだ。

 

 そして、飲まれたそばから、身体中の精気と生命力が吸い取られたかのように変質していく。干からびたミイラ、ただれた腐乱死体、膨れ上がった溺死体、火傷した焼死体……またはそれらの様々な特徴をもつかのように。

 完全に炭化し崩れる者や、膨れ上がったままビクビクと痙攣してから破裂する者も居れば、魂が抜けたかに立ち尽くし固まっている者……見た目だけでなく、その反応も様々だ。

 地獄絵図。そんな言葉が頭に浮かぶ。ああ、まさにそれだ。“滴る悪夢の杖”は、元々のその効果も確かにヤバい、まさに悪夢の杖だ。だがそれを、魔導具の効果を何倍、何十倍にも倍増させる“黄金頭”アウレウムが使ったことで、悪夢もまた何倍、何十倍にも広がった。

 

 アウグスト隊長始めとする王国駐屯軍の本隊、獣人山賊部隊や魔人(ディモニウム)じゃない手下達、それらと応戦していた盾兵、弓兵部隊……。その半分が“悪夢”に飲まれ、次々と無残な、またおぞましいモノへと変貌し、倒れ、朽ちていく。

 

 その異常さを見た、感じた残った兵に賊軍達は、戦闘中である事も忘れたように動きが止まる。そして次第に何が起きたか……それは正確なものではなかっただろうが、とにかく……アウグスト隊長は死に、本隊は壊滅。そして賊軍もまた半壊して……さらには、それを起こしたであろう“黄金頭”アウレウムまで腹から血を流していると言う事を把握した奴らがようやく動き始める。

 

 まずはクーク達魔人(ディモニウム)の遠隔攻撃部隊が、半ば恐慌に陥ったかに走り出しレフレクトルへ逃げ出す。

 続いてアウレウムの周りに居た魔人(ディモニウム)の白兵戦部隊がそれに続く者と、アウレウムへと走り寄り、また助けようとする者とに別れる。

 俺はその時既にまた地に伏せるかの低い姿勢のまま雨音に紛れ逃げ出している。奴らの中に俺の姿を見定めた者はそんなに居ないだろうし、居ても獣人山賊部隊の誰かだと考えただろう。

 次に動いたのは、後方に居て、“黄金頭”アウレウムを鉄鎖で捕縛した弓兵部隊。その隊長らしき男が盾兵含めて隊列を整えさせつつ纏めようとしている。

 その後は……追撃か撤退か。

 最後に動き出したのは、“滴る悪夢の杖”が放った魔力の範囲外に居た“幸運な”獣人山賊部隊とその他の賊軍。だがこっちは指揮するジャヤカルが死んじまってる。レフレクトルは魔力汚染で近付けない。アルゴードは水浸しで、さらには今放たれた“滴る悪夢の杖”によって新たな魔力汚染が引き起こされている。

 前方の王国駐屯軍は弓兵部隊中心に態勢を整え始め、崖側両サイドにもまだ王国駐屯兵が残っている。つまりどこにも逃げ道のない包囲の真ん中。一丸となって一点突破する……てのが常道だろうが、部隊として既に崩壊した連中は、ただバラバラになって散り始める。

 

 王国駐屯軍側で態勢をいち早く整えた後方の弓兵部隊は、逃げ出した“黄金頭”アウレウムたちへ射撃。近くの魔人(ディモニウム)数人と、アウレウムの手にした“滴る悪夢の杖”へ当たる。当然、杖には刺さりゃしねぇ。偶然かと思ったが、驚いたことにまた当たる。弓兵部隊の隊長が狙って当てているようだ。

 あの杖がさっきの悪夢のような破壊をもたらしたことを理解して、ふらつくアウレウムの手からはたき落とそうとの狙いだ。

 だがその試みは真逆の結果を生む。

 元々半分イカれてた“黄金頭”アウレウムは、無敵と信じていた自分が突然相手も理由も分からないままに腹を貫かれて半死半生、さらに起死回生のつもりで手にした“滴る悪夢の杖”を取り落としたそうになり……再びその力を振るった。

 


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