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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-230.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー(85)「当主?」


 


「ほなら、レイちゃんは火山島やなしに、闇の森ぃ言うところのダークエルフなん?」

「はい、火山島のダークエルフとは交流がないのでよく分からないですね」

 もちゃもちゃと僕の持っていたドライナッツ&フルーツを食べながら、少女……グラシアと言うらしい……がそう聞いてくる。

「せやけど、ほんまレイちゃんが邪神さまやのうて良かったわ~」

 お腹に食べ物が入り人心地ついてか、ふぅと息を吐いてからそう続ける。

「その、邪神さまと言うのは何ですか?」

「いや、ウチもよう知らへんねんけど、ここの連中が言うにはな、この祭壇に汚れ無き美しい乙女のいけにえ……あ、ウチのことな? とにかくそれを捧げると、古代の邪神さまが蘇ってすごい力を与えてくれるやら言うとってなぁ~」

 あぁ~……そうか~。

 かつては転送門。けれども今は転送門としては機能していない。それでもパッと見、意味ありげな祭壇のようでもある古代の建造物で、しかも魔力が周囲に満ちている。

 ある程度に魔力適性があり、また魔力を感知する力はあるが魔術に対して詳しくないような人間が見れば、そこに何かしらの意味を勝手に見出したりもする。

 天井の木目が人間の顔に見えてきて、そこに霊が存在してるなんて言い出すのと変わらない。

 まして……そう、僕がかつて使われていた“竜脈”と“門”を通じてここへ転移してきたように、偶然と素養によっては、どこかから此処へと転移してきた者も居ただろう。

 で、その人物……または魔物が、「祭壇から現れた邪神さま」として認知され、噂に伝聞に尾ひれが付いて……と。

 おおかた、そんなところだろう。

「彼らは邪神教団なんですか?」

「さあ、よう分からへんけど、そうなんかなぁ~。基本は30人か40人くらいのチンケな海賊団なんは間違いあらへんけどな。頭がな~んか変わっとって、呪術師みたいやんね。ウチは運悪うてそいつらに捕まってもーて、近いうちに生け贄にされそうやったのをこっそり逃げて来てな。せやけど、見張りが多くて船が手に入らんで、トホーにくれとったんよ」

 邪術士を頭とする邪神教団風海賊団……。な~んか、面倒くさい設定の連中のアジトに来てしまった。

 とは言え、僕がたまたまここに転移したことで彼女を助けることが出来るかもしれないのだから、そう言う意味では幸運だとも言える。いや、この場合は僕が幸運なのではなく、彼女が幸運なんだろうけど。

 

「ところで……」

 そこで、ひとまず話を切り替える。

「グラシアさん、貴方はもしかして、ヴォルタス家の方ではありませんか?」

 と。

 はっきり言って目の前のこの少女、ほぼアデリアさんだ。髪の色がやや薄いのと、体格は小さい割には年齢的にはやや大人びてる雰囲気かな、と言うくらいの差で、2P色違いかというくらい似てる。

 ところが、

「へ? ちゃうよ? あんなんと一緒にせんといてよ!」

 との答え。

 

 あらそう? 本当にぃ~? 本当の本当に~? とも思うが、本人がそう言うならそうなのかなぁ。

「それでは、この辺りは南海諸島の近くですか?」

「南海? そんなん言わへんよ。東海諸島ならあるけどなぁ。そこらもここらも、海賊ばっかでほんまに嫌になるわ」

 あららら、またも当てが外れる。

 以前アデリアに聞いたところによると、僕からすると関西弁っぽくも感じられる独特のあのイントネーション、言葉づかいは、南海諸島とその周辺に住んでいる人達の特徴らしい。見た目も話し方も似ているグラシアさんは、完全にヴォルタス家の縁者か、そうでなくてもその周辺の住人かと思ってたけど、こうなると完全な他人のそら似かなァ?

 南海諸島まで行ければクトリアまで船で送ってもらえるかと思ってたけど、そうは行かなくなったようだ。

 さてどうしよう。とにかくここをアジトとしてる邪教海賊たちから逃れ、安全な場所まで移動。それからまた、正確な場所が分かったら、“手紙鳩”でエヴリンドへと連絡……と、そうするのが妥当なところか。

 

「グラシアさん、僕はとりあえずこの邪教海賊団のアジトから脱出し、どこか安全な場所まで行こうと思います。よければ、共に脱出し、その後の道案内をお願い出来ますか?」

「へ? ほんま? そうしてくれるんやったら、めっちゃ助かるんやけど~?」

 やはりお軽いノリでそう言うグラシアさん。物凄いデジャヴ。ノリまでアデリアそっくりだ。

 

 そうしていると、別の所に居た集団に新たな動きがある。5人ほどが連れ立ってこちらへと向かってきているのだ。

 “代役”のインプは隠密能力が熊猫インプより低い。それもあって、魔力の痕跡を辿られたようだ。

 インプ召喚を解除して、グラシアさんには再び物陰へ隠れるよう指示。それから大蜘蛛アラリンを召喚して……と、再びここで、“代役”の別の大蜘蛛が呼び出される。

 あるぅぇ~、変だな~、おかしいなぁ~、とは思うものの、そうそうのんびりしてもいられず、グラシアさんとは別の、入り口から見て横の岩陰へと隠れさせる。

 僕は彼らが“祭壇”と思っている建造物の位置で待機。彼らからすれば待ちかまえている状態だ。

 

「マ力ぬコンセキーんちゃサイダンからやん!」

 

 そう大声で叫ぶのは、なんというかこう、絵に描いたような“辺境の呪い師”とでも言うかの初老の男性。

 よく日に焼けた肌に禿かけた頭部。その頭部には猫科の猛獣……あるいは猫獣人(バルーティ)の頭蓋骨を使った“冠”を被り、研磨されてない原石のままの水晶をあしらったねじ曲がった木の杖を手にし、服は腰蓑にそれと同様の飾りだけで半裸に近い。

 人種的には多分南方人(ラハイシュ)に近い感じがするが、ちょっとまた何かしらの混血か、東方(シャヴィー)人系とも近く感じる。

 その呪い師に続く、やはり似たような格好の半裸の戦士たちは、銛のようなものを手に手にやってくる。

 その数人をひとまとめに網で捉える大蜘蛛。

 そのまま【灯明】を唱えて彼らの頭上へ。悲鳴と怒声と罵声を合わせた様々な声が響く中、コホンと改まり大きな声で、

「愚か者どもよ……! 我が祭壇を血で汚す気であったか!」

 と【威圧】する。

 もちろん声も普段通りではなく、【声質変化】の魔法でおどろおどろしく変えてある。

 【威圧】も【声質変化】も、闇属性と風属性の幻惑系魔法。普段あまり使う機会はないけど、こういう時には……というか、こういう時ぐらいしか使い道がない。

「ジャジンさまが!?」

「ジャジンさまぬくぃーやん!?」

 そうです、わたすが邪神さまです。偽者ですがね。というか、転送門に乙女の生け贄なんか捧げて現れる邪神さまなんてのはおりませんがね。

 

「我は祭壇への生け贄など求めてはおらぬ! 我が祭壇を血で汚そうとする貴様等に裁きを下してやろうぞ……!」

 再び唱える呪文は、【毒霧】低レベルバージョン。直接的な攻撃力を持つ呪文の少ない闇属性魔法の中では珍しい攻撃系統だけども、攻撃ではあるがやはり直接的ではない。様々な毒の効果を持つ黒い霧を生み出すこの魔法は、術者の適性、能力にも依るが、様々な毒の効果を吸い込んだ、または触れた相手に齎す。

 今回僕が生成した【毒霧】は、吐き気、目眩、嘔吐感に悪寒、と、体調不良のバーゲンセール。ただし致死には至らない。ここで死なれてしまうと、せっかく僕が今でっち上げた、「祭壇の邪神は生け贄など欲していない」と言う設定を広める役割が居なく無っちゃうしね。

 

 で、【毒霧】は付け加えると、ゲーム的に言うと「命中率等にめちゃめちゃ難がある攻撃呪文」でもある。霧がゆっくりふんわり広がっていくので、対面しての戦闘では簡単に避けられるし、乱戦だと敵味方関係なしの無差別攻撃になる。強力な術者ならその範囲を広くしたり、細かい指向性を持たせたりも出来るけど、僕にはそこまでの腕はない。なのでせいぜいが、今みたいに大蜘蛛の網で捕らえられ動けない塊になった集団に通用するぐらいだ。

 しかもさらには、闇属性魔力による毒なので、魔物にはけっこう効きにくかったりもする。

 

 それらの事もあって……性格のねじ曲がった邪術士により、かなーり嫌~な使い方をされやすい呪文でもある。ま、毒の時点で何を今更、な話ではあるが。

 

 黒い霧が彼らを包み込むと、悲鳴は咽せ、咳き込み、嗚咽する声になる。中には嘔吐し、仲間に吐瀉物をぶちまける者も出る。のどに詰まらせると大変なのでそこはキチンと観察しとこ。

 

 ひとまず無力化出来たことで一安心、と思ったが、大蜘蛛さんがのっそり陰から現れると、大きな牙をザクリと網の中の彼らへと突き立て……ようとした瞬間に、召喚解除をして送り返す。ヤバい、今、完璧食おうとしてた。

 正式な使い魔となって月日も経ったアラリンさんは、その辺かなり柔軟かつ指示を守ってくれるようになってきてるけど、そうじゃない、今回みたいな“野良”大蜘蛛は、敵を捕らえたらそれ即ち食料也、てな感覚。ダンジョンバトルでのときもそうだったけど、ちょっと目を離すと勝手に戦ったり、下手すると仲魔を襲って食べたりするので、マジで要注意ユニットなのだ。

 

 程よく意識混濁の戦闘不能状態になったのを確認し、物陰のグラシアさんの所へと戻り、

「もう大丈夫ですよ」

 と声をかける。

「……なぁ、ほんまに邪神さまちゃうのん?」

「ちゃいますぅ~」

 やや不安げなグラシアさんに、ちょいアホ面してそう返す。

 

「そう言えば、ここには40人近くの海賊が居ると言ってましたね?」

「せやで。今来たのは多分親玉やさかい、後は手下か奴隷ばっかやと思うんやけど……確か、何人かこう……なんやろ、ぬめぬめした……ギョギョっとした……手強い奴らがおった気ぃすんのよ」

 う~む……情報精度が低すぎる。

 

 再びインプ召喚をし斥候させながら進むが、またもいつもの熊猫インプではない“野良”インプ。どーもおかしいけど、今は深く理由を考えてる余裕もない。

 灯りが乏しいので、グラシアさんには僕の後ろで服の裾を握ってもらいつつソロリソロリ。曲がりくねり、また、湿気で滑りやすい岩肌の地面を踏みしめ、転びそうになると今度は逆にグラシアさんに支えてもらう。見た目も雰囲気もアデリアさんソックリだが、運動神経は明らかにグラシアさんの方が良いようだ。

「ありがとう御座います、グラシアさん」

「や、ええて、ええて。むしろお礼言わなあかんの、ウチの方やもん」

 半ば支えられるようにしながら進むと、次第に魔力の反応が大きく激しくなり、また物音に怒声と、争いの気配が伝わって来る。

 

「……なんだろう。グラシアさん、ちょっと危険な様子です。また物陰に隠れて、斥候のインプに詳しく調べさせ……」

 と、その瞬間に何かが硬いものに当たり弾かれる音。

 確認すると、まさに「ぬめぬめした、ギョギョっとした」感じの集団の一人が投げつけてきた銛を、【石盾の乙女】の円形の盾が弾き返したところ。

 

 半魚人(トリトーネ)、両手両足の生えた魚……というような姿の彼らは、一応はいわゆる獣人種たちと同じようなものとして捉えられてるが、実際はかなり原始的な種族らしい。知能はあるが文明と呼べるものはなく、まあ地上におけるゴブリンに似たポジションの種族。

 主に海中に住んでいることもあり、彼らのテリトリーに侵入でもしない限りは滅多なことで地上の人間と衝突することはない。おそらくここでは、あの邪術士らしき頭により何らかの方法で支配、または懐柔され配下になっているのだろう。

 地上におけるゴブリンみたいなもの、とは言ったか、ケイル・カプレートがシーエルフ達から聞き取った話によれば、その身体能力はゴブリンとは比較にならないほど強靭。地上では継続的に行動するのが難しいらしいが、怪力頑強でパワフル。

 つまり───ピンピンチです!

 

「まずい! ケルッピさん!」

 インプを戻して呼び出すのは水の精霊獣、ケルピー。

 そう、ケルピーのケルッピさんに騎乗して、【水の奔流】を叩きつけながら走り抜けての逃走を考えたのだが───。

 

「うそん!?」

 

 ケルッピさん、おまえもか!? と、思わず口にでるかと言う事態。

 現れたのはいつもの鱗が生えた水青緑色の馬……ではなく、何か……こう……。

「へ? 何なん、これ……?」

 分かり易く言えばスライムっぽい……なまこ。ゼラチン状の粘液を詰めた透明な細長い水風船。クリオネとかゾウリムシとかの、水中に生息する原生生物にもちょっと似てるもの。

 空魚(スカイフィッシ)……と、前世での都市伝説的UMAに似た呼ばれ方をする幻獣のそれは、ウィスプ同様の「最も原始的な状態の水属性の幻獣、精霊獣」だ。

 精霊学によると、あらゆる属性の幻獣、精霊獣は全てこれらの原生生物的な状態で生まれ、成長するに従って様々な進化をし、ケルピーなりサラマンダーなり、またマノン叔母の使い魔、闇の馬のようなものになっていくらしいが……とにかくその、「最も原始的な状態」の精霊獣が呼び出されてしまう。

 

 ウィスプがそうであったように、この、いわば「レベル1精霊獣」は、全く戦力にならない。

 召喚士がこの状態の精霊獣を意図的に呼び出す場合、自分の望んだ形に進化させることを目的として、つまり鍛えて育て上げるために呼び出すぐらいだ。

 とにかくつまり、ハッキリ言って今この場面では、全く何の役にも立たない!

 理由は相変わらず不明。しかし脱出することに意識が向きすぎて、インプ、大蜘蛛と立て続けに不可思議な召喚になっていたのに関わらず、肝心要のケルッピさんの召喚を確認していなかった自分の迂闊さを悔やむ。悔やんでても状況は良くならないから、再び今度は大蜘蛛を再召喚して蜘蛛糸による拘束を狙うが、強引な力業と銛で切り裂かれる。

 【土壁】でたて続けに防壁を建てて進路を妨害。段違いの【土壁】で簡易的な階段を作りグラシアさんと登ってからそれを消去。壁の上に逃げた事で直接的な攻撃からは逃れられるが、銛は投げつけられる。ガキン、と、自動で攻撃を防いでくれる【石盾の乙女】により投げられた銛が弾かれるが、物理的ダメージで壊れていくこの盾が、あと何回銛を防ぎきれるかは分からない。

 どうする? 先に進むか奥へ戻るか?

 

 連続して【土壁】を建て続けていたら、うち一つが下から半魚人(トリトーネ)を打ちワンヒット。これはこれでラッキーだけど、狙って出来るもんでもない。

「グラシアさん、こっちへ!」

 【土壁】というよりもはや土の橋。足場としては不安定だが、二人手を取り進んでゆく。

 ガキン、とまたも銛を弾く。石盾には半分以上の亀裂。

 よろけて落ちそうになる僕を、グラシアさんが力強く支えて引っ張ってくれる。

 

「なあ、これ、奥に戻ってるけど、ちゃんと、考えあるんやんな?」

「一応、あります」

「一応なん?」

「賭け、ですが……!」

 

 戻った先には、先ほど倒して蜘蛛糸ぐるぐる巻きになったままの頭と数名。

 あの頭がどんな方法で半魚人(トリトーネ)を配下にしたかは分からないが、頭を人質にするか、或いは手下にした方法を聞き出せば、攻撃を止めさせられるかもしれない。

 

 蜘蛛糸の中から呪術師を引っ張り出して顔面を叩く。【毒霧】の効果で半ば朦朧とした意識を引き戻そうとするが、それでもふにゃふにゃと頼り無い。

「頭! 起きろ! 起きて! 半魚人(トリトーネ)を、止める方法、話して!」

 ぐぅええ、と嗚咽して……うわ、吐いた! ゲロッパがモロッパで服がゲロまみれだ!

 うわぁ、というグラシアさんの低い悲鳴。

 そこに近づき、銛を構えて走り寄る半魚人(トリトーネ)たち。

 だめだ、聞き出すのは間に合わない。どうする? 取りあえず……。

「止まれ!」

 頭を文字通りに人質として後ろから羽交い締めにし、【威圧】の効果を込めた声で叫ぶ。

 半魚人(トリトーネ)たちもそれが頭だと分かったようで、銛を構えたまま静止。

 【威圧】の効果もあってか、慎重になったようだ。

「お前たちの頭だ! こちらに手を出せば、頭の命もないぞ!」

 通じてるかは分からないが、状況的に人質なのは分かるだろう。

 だが、半魚人(トリトーネ)たちたちの反応は全くの予想外。

 ギョギョッ、とまるで笑い声のような声を上げると、頭なぞ存在していないかのように……というか、むしろ狙いすましたかのように投げつけてきた銛が、僕が盾にしていた頭の腹を貫く。

 げぇ! 人質通じないじゃん!? てか、頭、人望ない!?

 後ろまでそんなに貫通しなかった為、一応こちらには刺さらなかったが、半魚人(トリトーネ)たちにとってこの頭は守る価値のない……いや、もしかしたらむしろ、機会あれば殺したい相手だったのだろう。

 これは完全に作戦ミス。頭の死体を投げ捨てて、再び【土壁】で防壁を作るが、残り三体の半魚人(トリトーネ)に、こちらからの決定打はない。

 或いは、【土壁】で上手く半魚人(トリトーネ)たちを囲い込み、そこに【毒霧】を発生させて倒すとか、そういう変則的なやり口ならなんとかなるかもしれない……と、そんな事を考えていると……。

 

「お嬢、おったか!?」

 洞窟内に響くだみ声と共に、今度は1人の半魚人(トリトーネ)が背後から貫かれる。

 それをなしたのは、体格的には小柄な方で、顔も丸い1人の男。これまたどこかで見たような顔立ちの彼は、上半身は筋骨隆々でほほぼ裸。今投げた一本と、さらにはもう一本、合計二本の銛を持つ、よく日に焼けた“海の荒くれ男”。

「ジーノ!?」

 声を返すのはグラシアさんで、そのジーノなる男の後ろにも、何人かのやはり“海の荒くれ男”が続いている。

 瞬く間に形勢逆転。半魚人(トリトーネ)は数に勝る“海の荒くれ男”たちに打ち倒されるが、これは半魚人(トリトーネ)が弱かったわけでも、“海の荒くれ男”たちが特別に強かったワケでもない。いやもちろん、どちらもそれぞれに強者ではあったが、さらにそこに別の協力者たちが居たからだ。

 

「これで……目当てのグラシアとやらは、回収出来たんですな?」

「なんやと!? 口のきき方に気ぃつけんかいボケぇ!」

 まずは、他の者達よりは幾分上品な服装の男。

「セヴリアンや……!」

 僕の横で嫌そうにそうつぶやくグラシアさんに、

「誰です?」

 と聞くと、

「ヴォルタスのあほんだらや! いけ好かへん、気障ったらしい男や」

 ヴォルタス家? 

「えー、と言うと……ロジウス・ヴォルタスの類縁の方?」

「ロジウス言うのは知らんけど、セヴリアンはヴォルタスの当主なんよ」

 当主? ちょっと待って、どういうこと?

 

 

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