表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
429/496

3-229.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー(84)「そっくりなんですけど?」



 そこは先ほどの転送門とやや似たような、けれども全く手入れもされていない半壊したオブジェのある、古い遺跡のような場所だった。

 やや似たような、とは最初の印象だけれども、よくよく見れば五本の柱が上に向けて開いた手のひらの指のように並んでいる事を除けば、実はあんまり似てない。どちらかと言えば崩れて半壊した小規模なストーンヘンジみたいだ。

 基礎部分はちょっとした祭壇のような石組みの床。全体は遺跡のようだとは言ったが、空間そのものは自然洞を少し改築したような場所で、床面もだいたい岩と湿った土。

 ほとんど光のない暗闇だが、何ヶ所かから外の光が差し込んでいるようで、うっすらと物の形は見える。勿論これだけじゃ心許ないから眼鏡についてる【暗視】、そして【魔力感知】も発動させる。

 

 おそらくは、ここもまたかつては転送門だったのだと思う。だが、使われなくなって後に、その用途を知らない誰か……多分人間か獣人……が手を加えて祭壇のような場所として使い、そしてそれもまた使われなくなり寂れていった。そんな場所のようだ。

 魔力濃度もそこそこ高く、耐性の低い者なら気分が悪くなるだろうけど、闇の森に比べればそうでもない。魔獣が住処にする事はあっても、新たな魔獣を生み出すほどではなさそうだ。

 【魔力感知】によれば、小さな反応がいくつかと、やや離れた位置におそらくは人間かそれに類する集団の反応がある。色々と動き回っているその集団が、友好的か敵対的かは分からない。けどまあ、こんな「いかにも!」ってな所に居る以上、敵対的な集団と言う前提で行動すべきだよね。

 

 さて、どうしたものか……。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 その少し前。

 

 レフレクトルから“偶然”転移してしまった僕に、転移先の洞窟を住居として利用していた蜥蜴人(シャハーリヤ)の術士が言うには、「元の場所へと戻るには、あと半日かかる」との話。なんとかすぐに戻る方法はないかと聞くと、「外に出る方法はある」が、「どこに出るかは分からない」と言う。

 

「特定の場所へと繋がる“門”ではなく、どこに繋がるか分からない“門”もあります。どこに繋がるか分からないと言っても、完全に無作為と言うワケではなく、複数あるどこの“門”に繋がるかが分からない……と言う事ですが」

「つまり、“門”として機能する場所自体は決まってるが、その中のどこになるかが分からない……と言うことですか?」

「ええ、その通りです。そして、“門”として機能する場所は基本的に濃い魔力があり、また多くは汚染や淀みがあって不穏で不吉、血生臭い場所ですので、どこの“門”でもあまり安全とは云えないでしょう」

 レフレクトルがそうだったように……か。

 

 つまりは二択だ。

 半日待って、確実にレフレクトルへと戻るか、今すぐ、ただしどこに出るかは運任せで外に出か。

 前者ならば僕は比較的安全だが、エヴリンド他の面子の危険度はかなり増す。

 後者は……僕は危険な目に遭う可能性があるが、すぐに連絡さえつけば残された調査隊の面々は撤退の方針を決められ、比較的安全になる。

 ぐむむむ、と、うなりはするが……まあ、答えは決まってる。

 

「───そうですか、分かりました。では、そちらの門に繋がる場所へと案内しましょう」

 再び歩き出し、またもぐねぐねとうねる道を登ったり降りたり。

 着いたのは先ほどの自然洞のような場所とは異なり、ちょっとした祭壇……いや、転送門のようなものがあるホールだ。

 

「これは……転送門ではないのですか?」

「ええ、かつてはそうだったようです。ですがまあ、もう300年くらいは転送門としての機能は失われています」

 転送門は、かつて古代トゥルーエルフ文明の頃に作られていたもので、古代ドワーフにもその技術は伝わりはしたものの、おそらくは現代、新たな転送門を作る技術は受け継がれていない。

 

「転送門があると言う事は、その“門”と繋がることと関係があるのですか?」

「恐らくは。実証は出来てませんが、転送門と言うのはこの“門”との繋がりを固定化して利用したものだと思います」

「つまり、元々存在している、遠隔地同士が繋がる“門”の場所に、古代トゥルー・エルフや古代ドワーフは“転送門”を作り、それを自由に利用出来るようにした……と?」

「ええ、そうわたしは考えています」

 確か……それに似た仮説は以前何かの本で読んだ気がする。転送門を始めとするそういう空間転移の装置は、自由自在に座標を指定して移動しているのではなく、本来ならばこの次元の存在が認識したり利用したりすることの出来ない、世界中に張り巡らされた蜘蛛の糸のような“脈”を使い、その中を通り抜けて移動をするのだ、と。

「我々はそれを、“竜脈”と呼んでいます」

 この辺は、竜を信奉するらしい蜥蜴人(シャハーリヤ)的な考え方なのか。

 

 何にしても、その竜脈を開く“門”を、これからくぐり抜けて行かねばならない。

 

「さて、改めて説明しますが───この転送門の位置は幾つかの外にある“門”へと繋がっています。現時点で確認できているのはおよそ20カ所ほど。そのうちの一つは、あなたがやってきたレフレクトルです。つまり、およそ20分の1の確率で元の場所へと戻れます」

 賭けとしてはそう悪くはない確率だ。

「確認されている“門”の場所の中でもレフレクトルは危険度の高い場所ですが、他の“門”の場所もそう安全とは言えません。範囲としては“残り火砂漠”を中心に南は蹄獣人(ハヴァトゥ)の平原北部、北は元帝国領の南部までですが、ほとんどは人里離れた場所にあり、魔獣の住処か、そうでなくとも死の気配濃厚な不浄の地……」

 正直、なかなかぞっとするような話ではある。

「さらには……先ほどの確率はあくまで既知の“門”の中で……の話で、それらと全く関係ない場所へと出てしまう可能性も0ではありませんし、或いは最悪、多少ながらも時間すらズレてしまうかもしれません」

 ううむ、さらにぞっとする話だ。

 しかし、ただぞっとしてても仕方ない。正面切ってのガチの殴り合いでは確かに糞雑魚ナメクジ弱い僕であるが、それでも守りの術を使い、使い魔で水馬のケルッピさんの脚で逃げに徹したときにはかなりのものだ。

 危険はある。だがそれでも、早くに外へ出て、連絡をつけなければならない。

 

「さて、そうこうしてるうちにどうやら“門”が開き始めたようですぞ」

 振動するかに震えだす“かつて転送門であったオブジェ”。

 僕はやや慌てて、肩掛け鞄から一つの術具を取り出し、

「失礼します、防御の為の術を使わせて頂きます」

 と宣言してから、【石盾の乙女】を使う。

 呪文を唱えると、小さな盾の形の術具が、あたかも実際の盾のように大きくなり、空中に浮かび僕の周りを漂う。

「ほう、なかなか面白い術を使いますね」

「周りに仲間が居るときはやや使いにくいんですけどもね」

 物理的な攻撃に対して耐久力が続く限り自動的に防いでくれるこの【石盾の乙女】は、特に弓や投石などの飛び道具による不意打ちに最も効力を発揮する。使い捨てになるが大きな魔力による致命的攻撃を防いでくれる“反射の御守り”もあるし、転移した先での「不意の一撃」には対応可能だろう。

 

「それでは、短い時間の出会いでしたが、久しぶりに新たな人とお話ができて、楽しかったですよ」

 ニコリと笑っている……のかどうか分からないけども、蜥蜴人(シャハーリヤ)の術士がそう言う。

 意を決して門へと歩み出し、そこで僕は、そう言えばちゃんとした挨拶をしていなかったと気がついて、やや改まってから、

「闇の森ダークエルフ、レイフィアス・ケラーと申します。不意の出来事にも関わらず、色々と便宜をはかっていただき有り難う御座いました。もし何らかの縁があれば、改めてお礼をさせて頂きたく思います」

 と礼をする。

 蜥蜴人(シャハーリヤ)はそれに同じくやや大仰に改まった態度で、

「アジルとお呼び下さい、友よ」

 と言う。

 奇妙な出会いに少し感慨深く思いつつ、門をくぐって別れようとする間際、アジルはさらに、

「我らの星はまたいずれ再びまみえる事でしょう、“門番(ゲートキーパー)”の後継足り得る者よ」

 と、そんな事を付け加えて姿を消した。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 それが四半刻ほど前───と本当に言えるのかどうか分からないが、とにかく僕は全く別の場所へと出た。

 まずは基本通り、熊猫インプを召喚して周囲の斥候……と、呼び出してみるが……。

 

「あれ?」

 おかしい。【インプ召喚】で呼び出されたのはごくごく普通のインプで、僕の馴染みの熊猫インプではない。

 【インプ召喚】は召喚魔法の中では初歩的なもので、小悪魔とも呼ばれる低級の異界の妖魔を呼び出す呪文。呼び出されるのは基本的にはランダムだが、【使い魔の契約】を結ぶ事で特定の個体を召喚し続けられる。そして【使い魔の契約】を結んだ個体は、経験や結びつきにより様々な成長をしていく。

 僕が熊猫インプに固有の姿を与えたのも、またダンジョンバトル等を経て経験を積ませ、魔力が増加し様々な魔法、特技を増やしていったのもその為だ。

 その、僕と個人契約をした熊猫インプが召喚されてない。

 これは、絶対に有り得ない……というほどではないが、まずめったにないことだ。

 使い魔の召喚、使役にはいくつかの種類があって、【使い魔の支配】のような強固なものであれば絶対的な服従をもたらす。その場合は召喚に応じないということはまず絶対に無いが、使い魔側が本心から召喚者に従う気がなければ、何とかして召喚者を殺して自由になろうと企むリスクがある。

 僕はそちらではなく【使い魔の契約】なので、あちらの心証や事情、状況によっては、ごく稀に召喚に応じないことがある。

 つまりは、契約している社員を呼び出したものの、本人が乗り気でなかったり、体調不良やら何らかの理由事情で来れないので「ちょっと代理のモン送っときますわ」という事がある。多分、これはそのパターンだ。

 大蜘蛛アラリンさんを召喚したときには、何度かある。アラリンさんは僕の使い魔の中でも一番気まぐれでワガママだ。

 代理の者も【使い魔の契約】をしている個体の実力に応じて、それよりは弱いもののそこそこには成長してる者が送られてくる。けれども、かと言って手塩にかけて育てた使い魔よりは数ランク落ちる。何より精神的な結びつきが弱いから、お互いに勝手がわからず命令がうまく伝わらないこともある。

 今も、代理で召喚したインプは、なんだかぼんやりとしていて、やる気も全く無さそうだ。

「う~む、何でじゃろ~?」

 とは考えてはみるが、ちょっと理由は分からない。分からないけどまあ仕方ないな、と諦めて、指示を出して偵察に向かわせた。

 

 ぼんやりとしていたのでやや心配ではあったけど、確かに熊猫インプには及ばないものの、それなりに隠密、偵察の能力はあり、やはりそれなりにこの場所の構造は分かって来た。

 まず、どうもここは海岸に近い場所だと分かる。全体的に湿っぽく、進む度に潮の香りが強くなる。

 広い空間に出ると、そこは海に面した洞窟の出入り口になっていて、波止場が作られ数隻の船が停泊している。ボート位の小舟に粗末な葦舟の他、やや大きめの中型船。そのうち数艘は……おそらく戦船(いくさぶね)だ。作りとしては一本マストで船倉の無い、それでも外洋にも出れるクルーザーヨットくらいの大きさで、喫水も浅い平たい船なのだが、側面に木製の矢盾が備えられていて、すぐにそれを立てて使えるようになっている。外海の海洋魔獣相手としては貧弱だが、漁船や小さな交易船を相手取るのならそこそこの武装船……いや、多分、海賊船だ。

 それが三艘ほど。

 もちろん、それだけでここに居るのが海賊だと決めつけるのは早計だが、とは言え漁村や小規模な商団が、こんな海の近くの洞窟に拠点を構えるとは考え難い。仮に商船だとしても、密輸商みたいな後ろ暗い者たちか。何にせよやはり、よりいっそうの警戒が必要な場所なのには間違いない。

 

 それと、海に面して居るというのは朗報だ。何せ使い魔の水馬ケルッピさんは、陸上では鱗のある四つ脚の馬の姿をとるが、水上、水中では下半身が魚のキメラスタイルで泳ぎは大得意。なので騎乗すればヒョヒョヒョー、と脱出出来るだろう。

 つまり、海までの進路さえ確保すれば後は簡単。

 

 と、言うワケで、とりあえずのマッピングをお任せしつつ、陰に隠れて“手紙鳩”にてエヴリンドへと連絡。

 まずはレフレクトルの外に居ること。そこは事故により転移した先で、どこかは分からないと言うこと。今のところ差し迫った危険は無いこと。海に面しているので巧く行けばそうかからずに戻れるかもしれないと言う事等々などを簡潔に書き、魔力を込めて鳩の姿へ変えて飛ばす。

 途中で何かのトラブルでもない限り、エヴリンドの元へと瞬時に飛んで行ってくれるはずだ。

 

 斥候、マッピングも一段落ついたら、ちょいとばかし小腹がすいてきた。そういや朝ご飯食べてからレフレクトルの調査、そして転移と……多分かれこれ三刻……六時間は経ってるはず。飲み物もあまり飲んでなかったし、脱出に際してきちんとエネルギー補給も必要だなあと考える。

 飲み水と軽食も肩掛け鞄には入ってるが、魔力に余裕があるときは【水の生成(クリエイトウォーター)】で飲み水を作る。

 薄いドワーフ合金製で頑丈な水筒は、イベンダーに作って貰った特製で、前世のステンレスボトルを参考に二重の断熱構造。そして蓋をマグ代わりにも出来る形。その蓋を取り外して中の水を注いで一息に飲み、減った分を新たに作っておく。

 それから巾着状の皮小袋に入れたドライフルーツとナッツをポリポリ齧る。量的には少ないけど、栄養価は高いし、何よりほのかな甘味と塩気が口中に広がると、精神的にもリフレッシュする。

 

 そこで、ぐぅ~、と腹の虫。

 

 あらやだ、お恥ずかし、と思わず赤面するが……ん?

 再びのぐぅ~、だが、いやこれ、僕のじゃあないよね?

 

 慌てて周りを見回すと、やや離れた所から「ひゃっ!」と小声が聞こえてくる。

 なんとなく……耳馴染みのある声で。

 一旦、元の姿勢に戻って小袋の中味を取り出す。それをまた口にしようとし……、

 

 ぐぅ~。

 

 音の方をサーチ&デストロ……じゃない、ノーデストロイでのサーチ。【暗視】しつつ【魔力関知】で見ると、この場所全体のうっすらとした魔力に紛れて、小さめの魔力反応がある。これは魔力適正がほとんどない人間か動物のそれに近い。

 精度を上げてよくよく見れば、恐らくは壊れた転送門であっただろう石柱の向こう側に小柄な影。だいたい子供くらいの体格。

 

 うーむ、とちょいと考えるが、なにも対応しないのは有り得ない。小さく呪文を唱え、【灯明(ライト)】を作り出すと転送門跡の真ん中辺りへ浮かべ、照らし出されたのは予想通りに小柄な人間。

 

「ひゃああぁっ!?」

 慌てて悲鳴を上げるも、尻餅をついて後ずさるばかりで逃げ出せもしない。

 しかし……。

 

「だめ、あかんて! かんにんして! 邪神さま、ウチんこと食べんといて!」

 

 声も、顔立ちも、話し方も何もかもがアデリアにそっくりな少女が、そう言ってさらに後退り……段差でコケた。


 いやそのコケ方までもがアデリアにそっくりなんですけど?

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ