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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-216.追放者のオーク、ガンボン(88)「あいあい、了解!」



「……やられた」

 苦々しくそう言うラシード。

 何々、どういう事? と聞くと、

「単純な策だが効果的。あのヤコポ、ベタベタな正面突破に兵を集中していると見せかけて、別の場所から別の部隊を侵入させてきていたんだよ」

 

 別の場所……と言っても、壁と水堀に囲まれたこの館にはそうそう簡単に忍び込めるところなどないだろうと思うが、

「この館の周り全部を監視するには、こっちは決定的に目が足りない。 少なくとも館の構造やこの町の作りに関してはあっちの方が詳しかったんだろうな。正面にこちらの戦力集中させ、監視の目がゆるくなる場所を見つけ出し、梯子……いや、それじゃちと目立つか……多分、フック付きの縄かなんかで身軽な連中に壁越えをさせて門を開けさせる……てなところか」

 

「場所はどこだ?」

 ラシードの発言を受け、センツィーが聞く。

 ラシード以上に渋い顔のマシェライオスは、

「この館にはこの正門以外にもう一つ、南側の方に、奴隷の出入りや荷物の搬入口として使われてる裏手門がある。跳ね橋はなく、水路の船着き場と繋がっていて、造りは正門より小さく守りも弱い」

 と言う。

 

「何人か連れて援護に向かう」

 センツィーは数人へと声を掛け走り出す。

「裏手門の守りを固めてるウチの奴もそれなりに出来る奴だ。そう簡単にやられては居ないとは思うが……頼む」

 振り返る事もなく走り去るセンツィーと数名。

「セロン! あいつらを援護してやってくれ!」

 ラシードは走る去るセンツィーらを指差したて、見張り塔のセロンへと指示。射手の守りが減るが仕方ない。


 その隙にも正門側のタロッツィ兵は攻撃を重ね、幾度となく梯子を正門の胸壁に掛けてきている。

 だが投石との波状攻撃でなかなか反撃出来ない中、裏手門への援軍でさらに手数が減った今、こちらの守りも弱くなる。

 

「タロッツィ社だァ!」

「やっとお目にかかれた!」

 勢いよく梯子を登り切って胸壁のこちらへ躍り出て叫ぶのは、タロッツィ商会所属だった奴隷闘士。切り込み役の危険な役目は、やはり正規兵より階級の低い奴隷闘士がやらさせられるのか。

 その一番乗りのタロッツィ奴隷闘士が即座に目を押さえて仰け反るのは、ラシードが【閃光】の魔法で目潰しをしたから。手のひらから一瞬だけ眩しい光を放つ簡易魔法だが、タイミングと使いどころさえ間違いなければかなり効果がでかい、使い方にセンスの問われる魔法だ。

 そのまま蹴り倒され胸壁から水堀へ落下。続く二番手の背後にカトゥーロがしがみつき、別の1人が足元を掬ってこれまたドボン。

 だが正面門での攻防は、次第にこちらが劣勢になる。

 門の上は狭く、こちら側で動き回り対応出来るのは、一度にせいぜい5、6人。梯子を外されてもすぐに次を掛けてきて、あせれば投石での牽制にやられる。登り切って城門の上にまで来てしまえば、味方に当たるから見張り塔からの矢も撃てない。

 

「マシェライオス、【毒の沼】の矢はもう撃てないのか!?」

 ラシードの問いに、

「あれは威力は強いが、充填できる魔力が高くない! 一日に撃てるのはせいぜい二発! それ以上は高価な魔晶石を使うか、時間をかけて魔力を注ぎ込まないと駄目だ!」

 と返す。さっき一発撃って、その前の館の襲撃時にも使ったからもう今やただの古ぼけた弓だと言う。

「他にその闇エルフの秘宝ってなあねぇのか?」

「あるが……ここでの攻防には向いていない」

 となるともう、撤退して館の入り口での攻防に切り替えるか、放棄して逃げるか……。

「よし、逃げろ」

「何?」

「マシェライオス、お前は指揮官だ。それにこの狭い足場でウロウロしてても役に立たない。お前は闇エルフ団の連中とここから撤退し、館での攻防に備えろ。

 門は俺たちで時間稼ぎをするが、多分長くは持ちこたえられない。俺たちが撤退して館に向かうまでに、迎撃体制を整えておけ」

 おわお、殿(しんがり)ですかい?

 まさか口先と誤魔化しだけでここまでやってきてたラシードが、ここにきて自らそれを買って出るとは思わなかった。

「……分かった。頼む」

 マシェライオスはそう言うと、見張り塔の射手達を連れ館へと撤退。ただでさえ少ない防衛戦力がさらに減ってしまう。

 

「旦那、い、いいんですかい、そんな……」

 不安げにそう聞いてくるジャメル。エジェオと怪我した数人は既に館へと移動しているし、さっきは裏手門への防衛にセンツィーやセロン他数名が移動。もうこの正門側で梯子を落とし、登って来ているタロッツィ兵を撃退するのは、カトゥーロ、ジャメル含めた元アバッティーノ商会奴隷闘士の8人と、俺、ラシード、そしてタカギさん。しかもその半数は門の上の後ろ側で盾を持ち投石に備えてるだけで、梯子兵へは対応出来ない。

 

「お前らは合図したらすぐに逃げ出せるように準備しとけ。館までの撤退時間は俺とガンボンで稼ぐ」

 今まさに登り切って短剣を振るうタロッツィ兵の攻撃をかわし、肩からの体当たりでまた水堀へ突き落とすラシード。

「お、俺だって最後まで戦いやすぜ!」

 カトゥーロがそう言うが、

「いや、お前ら居るとデカいのかませねぇのよ」

 おお?

「奥の手、ある?」

「逃げ出すのにはな」

 うむ、ならば俺も、他の仲間が撤退するのを全力支援するべきだな! タカギさん居るから、めちゃ機動力あるし。

 

「タイミングは俺が指示する。それまでは踏ん張れよ!」

 

 再び地味な攻防に戻る。梯子兵への対応は主に他の面子に任せつつ、俺は棍棒で梯子を叩いて外したり、投石を打ち返して後列に当てたりしているが、やはりどんどん押される。

 三本の梯子が外されずに、それぞれから奴隷闘士が登りきろうかと言う辺りで、ラシードは撤退の号令。

 カトゥーロ始めアバッティーノ商会の元奴隷闘士達は門につながるやや急な階段を駆け降り、怪我した者を庇いつつ館へと向かう。

「ガンボン、豚ちゃん待機!」

 ラシードはそう叫びながら、腰に差していた短刀を引き抜いて掲げる。

 指示通りに階下へと向かいタカギさんへと騎乗。門の上で囲まれるラシードは、右手で短刀を高く掲げながら何事か呪文を唱える。

 いや、呪文と言うよりかは、魔導具を使用するときのコマンドワードか?

 

 その言葉が終わるやいなや、壁の向こうに吹き上がって渦巻くのはシーエルフ達が使っていた立ち上る渦のような水流だ。

 その勢いで、掛けられていた梯子ごとタロッツィの奴隷闘士達が吹っ飛ばされる。

 登り切ってラシードへ武器を振り下ろしかけていた奴隷闘士もあまりの事に唖然として動きが止まる。そこへ俺からのホームラン級のスウィング。またも水堀へ突き落とされる。

 

「おぉう」

 驚き小さく声を上げると、

「シーエルフからのもらいもんだ。だが、さっきの闇エルフの秘宝とやらと同じで、必要な魔力がエルフ基準だから1日一発二発かませれば良い方なんだよな。マシェライオスじゃ撃ったら気絶しちまう」

 変な顔でおどけて言うが、色んな意味でけっこうヤバいアイテムな気がする。

 

「どう、する?」

 今のにはあちらさんもかなりビビったはず。それに、一、二発しか撃てないというのは向こうは知らない。もちろんここまで使わないでいた以上そうそう連発できないものだということは分かられるだろうし、既にこちらのほとんどが撤退に入ってることも分からいられているから、そうそう騙し切れるもんでもない。

 

「大量の水のあるところでしか使えんから、もう一発くらいはかましてやりたいところだがな~……」

 そう未練がましく言うラシードだが、ヤコポは大声で、

「あのような大きな技はそうそう何度も使えん! 苦し紛れの奥の手を出したのは、もう後がないからだ!」

 と言って兵士を鼓舞。

 う~ん、バレッテーラ。

 

 こちらの人数も奥の手も足りてない事を見抜いてるヤコポの指示で、再び梯子兵が動き出す。

 

「くそ、しゃーない、あと一発かましてから俺らも逃げるぞ」

 胸壁に隠れつつラシード。

 後はタイミングを計るだけか……と言うとき、別の所から声がする。

 

「おい、ラシード! さっきのデカいヤツ、もう一発かませるか!?」

 声の主は上空、“シジュメルの翼”で空を飛ぶJBだ。

「お? 何か策があるのか?」

「合わせ技だ、やってくれ!」

 勝算ありとの声の調子に、ラシードは再び短刀を掲げ呪文。館を囲む水堀から勢い良く水流が吹き上がり……、

「かますぜ!」

 それをJBの起こした【突風】が巻き込みながら、より大きな勢いでヤコポ率いるタロッツィ兵へと襲いかかる。

 【突風】だけの威力、また、ラシードの起こした水流だけの威力ではなく、その二つが合わさったそれは、無数の水の砲弾が身体中に叩き付けられるかのようで、盾による守りも強固な隊列も全く無意味。いや、全くと言うことは無いのだろうけど、ほぼ無意味。むしろ隊列を組んで密集していた事が仇になっている。

 突然のその攻撃に反応する事も出来ず、殆どのタロッツィ兵が悲鳴を上げ打ち倒される。

 

 その猛威の後に立っているのは半数にも満たない。しかも、無傷の者は無い……いや、ただ1人、司令官ヤコポを除いては……だが。

 

 その司令官ヤコポもまた、突然のこの有り様に呆然としてる。そりゃそうだ。さっきまでは完全に優位を保ち、別働隊による侵入も成功。あとはここに残った数人を始末して正門をこじ開けるのみ……だったのだから。

 

「……貴様……ッ!」

 だが立ち直るのは早い。落ち込むよりは怒りで自分を奮い立たせ、視線を上空のJBへと向ける。

「悪いな! だが、お前の相手は俺じゃあねぇ!」

 返すJBの言葉とほぼ同時、ヤコポの近くでまだ立っていたタロッツィ兵が打ち倒される。

 立ちふさがるは、全身を黒革の闘技装束に身を包み、顔のほとんどが隠れる黒革の兜をした長身の闘士。

 

「“漆黒”……!」

 

 忌々しげに呻くヤコポに、“漆黒の竜巻”は無言。だがその構えその佇まいが、雄弁なまでに物語る。

 

「残りは俺たちに任せな! 中の連中を手伝ってやれ!」

 JBの言葉を受け、ラシードと俺はウム、と頷き、

「分かった! 任せた!」

 と、正門から降りて走り出す。

 いや、流れで走り出したけど、どこ向かうべきだ?

「オレはまず館へ向かう。ガンボンは豚ちゃんで裏手門へ向かってくれ」

 あいあい、了解!

 

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