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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-214.追放者のオーク、ガンボン(86)「え、そりゃそうよ?」


 

 いざタカギさんよ高く跳び上がれ! てな具合の大跳躍。投擲された石の雨も、盾と短剣を構えた兵士の頭上も見事に飛び越えて、華麗に着地する横には鎖に捕らわれたJBの姿。すかさず俺は棍棒一閃。横薙ぎに払ってまずは2人をノックダウン。そのままタカギさんがぐるり周ってもう1人。倒れた彼らの握っていた鎖の緩むその隙に、JBはジェットで空高く飛び上がる。

 

 ゴウン! と聞こえる風切り音は、両手持ちの長大な戦斧。ボスらしき白銀の兜と鎧の大男が振るうそれを、頭を低くしてかわす。そのままタカギさんは円を描くように走って、隊列を組んだ兵士達を後ろから蹴り飛ばし、さらにユーターン。

「後列、槍構え!」

 隊長の大音声に応じ、前列は変わらず盾を構えて隊列を組んだまま、後列がその肩越しにさほど長くはない槍を構える。

 これ、あれだ。騎兵対策のやつ。野戦ならば本来3メートルぐらいあるすげー長い槍を構えるんだろうけど、市街戦の小部隊だからある程度取り回しのきく短槍を使ってる。けど一般の騎兵よりも跳躍力があり小回りのきくタカギさんを相手に、盾兵の壁とそれを飛び越えようとした場合に備えての槍衾ってのは、確実にこっちの機動力を殺す気で来てる。

 ので、俺はここでひらりと逃げ出す。

 え、そりゃそうよ? 俺の役目は捕らえられてたJBを逃がすこと。その目的は達したし、1人でこんな、いかにも帝国流の練兵をきっちりこなしてます、みたいな20人ばかしの部隊相手に戦ったりしませんよ?

 バカラララッ、っと駆け去る俺とタカギさんを見て、多分彼らも呆気にとられただろう。

 

「やりやしたね!」

「さすが、ガンターの兄ィ!」

 やんややんやと拍手で迎えられる俺。

 そこそこ広い道路をお互いに横幅一杯、みっちり埋めて対峙する二者。人数はあちら側が20ちょい。こちらは……ちょっと少ないか。装備の質もあちらは上等。兵士たちは基本が黒革ベースの軽装鎧だが、胸当てと兜は鉄製で、お揃いの短剣に円盾、短槍に投石器となかなか隙がない。特に隊長らしき巨大な戦斧を持つ大男の胸当てに兜は、多分ミスリル製だ。エルフの金属ミスリル銀は、鉄よりも軽くて硬い。その上魔法を付与する事に非常に向いてるので、ミスリル銀の武器防具を見たら大抵魔法が付与されてると思った方がいい。

 こちらはと言うと……まあ、闘技場の武器庫にあったものを手当たり次第に奪ってきた。ぶっちゃけあそこに置いてある武器のほとんどは、質もできもあまり良くないし、防具に至っては闘技場での見栄えを重視したものなので、鎧なんかはぶっちゃけほぼ半裸。防具としての性能は無いに等しい。装飾過多ではあるが使えなくない兜と、皮張り金属補強の木製の盾だけは、まあまともな防具と言える。

 後は質……。

 多分、こちら側の奴隷闘士達にも、個の武勇に関してはなかなかの実力者も含まれてる。セロンの特訓で、最低ランクの廃棄奴隷だった者達もマシにはなってる。

 だがそれでも、彼らは兵士ではなく闘士だ。つまりは勢い任せの乱戦状態になれば、それぞれに実力を発揮出来ても、このように正面から隊列を組みぶつかり合うような状況になれば兵士達に劣る。

 

「なあおい、あの銀ピカ大男、誰だ?」

 ラシードが周りの奴隷闘士達に聞くと、禿頭を撫でながらジャメルが、

「多分ありゃあ、タロッツィ商会奴隷狩り部隊の司令官、ヤコポでやしょ。勇猛にして怪力巨躯、普通なら両手持ちしなきゃ振り回せねぇような戦斧を、片手で軽々扱う強者ですぜ」

 と返す。

「おおう、ヤバそうだなそりゃ」

「ど、どーすんですかい?」

「そーだな……よし、俺に策がある」

「おお!」

「何なんだそりゃ!? 言ってくれ!」

 その奴隷闘士達の言葉に、オホン、と軽く咳払いしてからラシードは、

「はい、まず全員反転……で、駆け足!」

 だっ、と駆け出す。

「え!?」

「へ!?」

「逃げるんだよ~~~! 走れ~!」

 釣られて全員走り出す。

 

 正面切って向かい合い、いざ対決と言わんばかりの場面での一目散の逃走に、あちらもさらに呆気にとられてか、追撃してくる気配もない。

 

 しばらくして目視も出来ない距離になり、再びラシードの号令で停止。

「おし、全員無事だな!」

「は、へぇ、まあ、無事……は、無事、でやすが……」

「ど、どう、すんでやすか……」

 息を切らせつつ口々に言う奴隷闘士達。

「ま~、どーしたもんかな。ああいう厄介なのを避けて脱出出来ればそれに越したことないんだ、が……」

 そう、とりあえずラシードの目的は町からの脱出。てか、なんでも港に数隻、闇エルフ団の用意した船があるとかで、その内一艘はアバッティーノ商会名義で、ラシードの脱出用。

 着いてくると言う奴隷闘士達も一応連れて行く流れにはなっているが、しかしまあ……。

 

「なあ」

 そこに、奴隷闘士の中では若手の東方(シャヴィー)人系奴隷、センツィーが入ってくる。

 

「レナート、いつ、死ぬ?」

 

 あ、流石に気づいた?

 貴賓席から逃げ出す為の演技として、ラシードは腹を刺されよたついた挙げ句バルコニーから転落、と言う一芝居を打ち、その後入場口付近に集まっていたアバンティーノ商会の所属奴隷闘士たちにもそのまま演技を続け「自分はもうじき死ぬから、お前たちは 全て開放する、自由にしろ」とかなんとか言い放った。

 これは、一つにはもともと俺たちは本物の奴隷商会じゃないから、彼らを奴隷として従えさせておく意味がないというのもあるし、この機会に「アバッティーノ商会のレナート」という偽りの身分を消し去ってしまおうという考えからのものでもある。けど、何人かの奴隷闘士たちが最後まで俺たちと行動を共にすると付き従っているもんで、まあこんな状況になってるわけだ。

 

「お? レナートはもう死んでるぞ。

 今ここに居るのは、レナートじゃなくラシードさんだ。

 あー、始めまして、自由闘士の諸君、コンゴトモヨロシク」

 

 センツィー含めた奴隷闘士……改めて自由闘士の方々へと一礼。

 それから、

「あー、そうだ、もうこれもいらんな」

 と言って、旅芸人一座を偽装していた時からのトレードマークである山高帽と眼帯も外す。

「うあ~、スッキリした! この眼帯、蒸れてくるとめっちゃ痒くなるんだよなぁ~」

 ポリポリと右目の周りを指でかくラシード。

 

 質問したセンツィー始め、主に初期からアバッティーノ商会所属となってた闘士一堂、呆気にとられ大口を開けて黙り込む。

 ですよね~。

 

 ややあって、最初に口を開いたのは渋い中年ハンサムのエジェオで、

「……まあ、最初っからあんたは奴隷商にしちゃあ妙なやつだと思ってはいたがなぁ……」

 と、呆れているのか感心してるのか分からんコメント。

「あ~、その、結局……レナート様は、つまり……何が何で……?」

 まだ全く思考が追いついてないらしいカトゥーロがそうもごもごと言うが、

「細けぇことは気にすんな! とにかくお前らみんな既に奴隷じゃない、自由闘士だ。それで十分だろう?」

 と、にこやかに笑う。

 それで、なんとなく全員がまあ良いか、と、納得……してないながらも、なんだか有耶無耶になった。

 

「おい、上だ」

 そこに、そう警告を発してくるのは、屋根づたいに併走しているセロン。

 見上げると上空から飛来するひとつの影。近づくと見て取れるのは、羽を生やした鳥人のような影が、別の一人を両腕に抱えた状態のシルエット。

 

「お~う、JB! 助けられたのか?」

「ああ」

 降り立つJBは、これまた半ば半裸の南方人(ラハイシュ)の女性を抱えてる。抱えられてる女性はJBよりも背が高いもんで、ぱっと見実にバランスの悪い「お姫様抱っこ」だ。

 

「やあやあどうも、初めまして……ではないけれども、支配の術から解放されてからは初めましてかな? あ、同じ空間には居たか。ラシードだ。コンゴトモヨロシク」

 にこやかに女性に挨拶するラシード。

 誰なん? との俺の疑問は他の闘士一堂もほぼ共有してて、

「あの~……こちら、どなたさん?」

 とのジャメルに、

「おう、こちら、“漆黒の竜巻”さん」

 とラシードが返して面食らう。

 

「さあて、しかしどうする、JB? 何なら船に先乗りしておくか? そこなら多分、衛兵もタロッツィの連中もそう来ないだろ」

「そりゃ助かるが……どの船か分からねぇぜ」

 そう眉根をしかめるJBに、ラシードは手を叩いてから、

「フォンタナス! 案内してやんな」

 と、指示を出す。

 

 で、現れた面長で癖毛の中年男を背負いながら、

「……あ~、こうまでしてもらっといて今更こんなこと言うのもなんなんだがよ。ちーとばかし頼まれて欲しいっつうか……まあ、知らせておきたいことがあるんだよな」

 と、去り際のJBがそんなことを言い出した。



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