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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-197 J.B.(120)VOYAGE(航海)


 

「人捜しの為に、しばらくクトリアを離れたい」

 

 クトリアに帰還し、諸々のゴタゴタ、後始末やら何やらに一区切りついてから、俺はレイフとイベンダーのオッサンへと改めてその話を切り出した。

 その話ってのはもちろん、今まで集めてきた様々な情報からの一つの可能性、俺の村の生き残りの一人が、フランマ・クーク経由でヴェーナ領へと奴隷として売られて行ったかもしれない……という件についてだ。

 これまでも折につけ、この辺の情報についての話は2人にしている。だからまあ、ヴェーナ領と言う具体的な場所について言及があっても、その事自体に大きな驚きや反応は無かった。

 

「で、どーするつもりだ?」

 3人ツラ付き合わせての“妖術師の塔”の執務室内。イベンダーのオッサンがそうストレートに聞いてくる。

「行きてぇ」

 なので、俺もまたストレートにそう返す。

 

「何度か話ちゃいるがよ。確かに俺はガキの頃の記憶なんて結構ぼんやりして曖昧だし、どこの誰かわからねー村の一人ってだけで、そんなにすごい会いたい、執着があるって訳でもねぇんだ」

 オッサンにもレイフにも、何度か話してきた正直な心境。そこまで言って一呼吸置き、頭をボリボリと掻いてから、

「だがまあ……なんつーかよ。一度聞いちまうと、切れの悪い糞みてえに、どうも気になって仕方がねぇ。今でも生きてんのか死んでんのか……せめてそんぐらい確認しないことには、座りが悪くて仕方ねぇんだよな」

 と、そう言うと、

「いや、喩えが汚い……」

 と、レイフは呆れ顔。

 

「まあ───」

 呆れ顔ながらも、話を受けて続けるには、

「こっちもしばらくは、王国との外交交渉やら下院議員の招集やら、どっかに遠出するような用事も特にないしね」

「うむ、そうだな。交渉事なら俺やデュアンがいれば十分だし、護衛に関してもエヴリンドがいる。

 だからまあ、おまえさんは……」

「気にせず安心して、遠出しててくれて構わないっ、……てか?」

「当面、用無しの役立たずだから、何やっとっても構わんぞ」

「いや、言い方あんだろうが、言い方!」

 

 まあ、ありがたい話じゃあるがあね。

 クトリア共和国としても、レイフやオッサン個人としても、実際いろいろ問題は山積みなはずだ。そういう意味じゃ、確かに交渉だの護衛だのに関しちゃあ俺以上の適任がいるっちゃいるが、かといって人手が多いに越したことはない。

 

「まあ、でも、あんまり長くなりすぎずに戻って来てもらえると助かるかな」

 

 レイフのその言葉には、

「まあ、遅くても一月……それで結果が見えなきゃいったん戻って来るわ」

 と返す。実際のとこ、そのぐらいできりよくやるつもりでないと、いつまでかかるかなんてわかったもんじゃねぇしな。

 

 そんなこんなで、ひとまず不定期にレイフから受けていた護衛任務も一旦解任。遺跡調査団としての仕事の方も長期休業ということで、各方面への挨拶回りや旅支度などを済ませる。

 まったく、ここ1年ぐらいで色々と動きにくくなったもんだ。ちょっとクトリアを離れるってだけで、いろんなとこに話通さなきゃなんねぇ。

ある意味デーニスのやつが羨ましくも思えるぜ。

 

 とは言え、遺跡調査団の連中もそうだが、ジャンヌたち孤児連中にはかなりしっかり話をしておく。ジャンヌが探索者から調査団入りし、さらには議員にまでなった今は、前みたいにつきっきりで面倒を見てるってわけにはいかねえ。もちろんその分、クロエを中心とした遺跡調査団の賄い方が、孤児や調査団面子の中の子持ち連中のガキ共合わせての託児所みてーな形で面倒を見てる。調査団本部の中庭は、俺たちが訓練とかで使ってねーときは、ガキどもの遊び場だ。

 クレト辺りも調査団に入ってからは前よりは落ち着いちゃあいる。だが、もともとアイツは気が短い。それさえなきゃリーダーとしてなかなかの素質なんだけどな。

 メズーラなんかがせがむので、またちょっとばかしガキどもに空中遊泳を楽しませたりもしておく。

 しばしの別れだが、しんみりするほどの事じゃねぇ。なに、土産を山ほど持って帰って来るぜ。

 

 ■ □ ■

 

 で、その甘い考えを反省しつつ、今は巨大なルフ鳥の上で休んでいる。

 何故か? と言えば、まずは「取りあえず空から行けるなら、北の“巨神の骨”飛び越えて行けるんじゃねーの?」と、実に甘い考えをしたから。

 いや、馬鹿だと今は反省してる。

 確かに直線距離ならそれが早い。だが、あの標高を「越える」のは、さすがに無理があった。

 勿論、以前かなりの標高にある巨人族の集落に、“狼の口”の遺跡まで来ているから、その辺りの寒さは肌身で知ってる。当然知識としても、より高くなればそれだけ気温が下がることも知ってる。

 だが、“シジュメルの翼”の防護膜にはそう言う気温変化や暴風への守りの効果もある。なので、その辺りを過信しすぎていたのが一番の反省点。

 

 巨人族の集落に一旦立ち寄り、しかし以前の場所には前ほど巨人達がおらず、聞くと一部は例の“狼の口”の遺跡前をちょっとした砦のように造り変え、監視と防衛を兼ねて移り住んでいるという。

 でまあ、そちらにも顔を出してからいざ山越え……と飛び立ったら、半刻もせずにあまりの寒さでギブアップ。ヘロヘロになって半死半生で戻って来て、そしたら例の“嵐雲の巨人”の配下……というのか、使いと言うのか、あの馬鹿でかい鷹のような霊鳥、ルフが現れて乗せてくれた。

 以前も一度乗せてもらったが、ルフの背の上は“シジュメルの翼”以上に守りが強いので、かなりの高度でも寒さや空気の薄さも耐えられないほどじゃない。ついでに、羽毛自体も暖かいしな。

 

「あー……、実際マジで助かったぜ」

 ルフ鳥の背で丸まりながらも、伝わるかどうか分からない礼を言う。

 すると、例の念話と同じように、頭の中に“嵐雲の巨人”の声が聞こえてくる。

 

『“王権の守護者”よ、伝えておくべき事がある』

 

 王権の? 守護者? と疑問符がつくが、まああちらさんからすれば重要なのは古代ドワーフとの盟約に基づく王権授与の試練を達成したレイフで、俺はたまたまそのとき「レイフの護衛役」みたいに同席してただけの奴。そりゃそういう解釈になるわな。

 

「何だ? また厄介な試練でもあるのか? 止めてくれよな」

 

 俺がそう聞き返すと、“嵐雲の巨人”は、

 

『いや、我らの課す試練ではない。だがある意味ではお主らにとっては試練ともなるであろう』

 と、また謎掛けめいた物言いをする。なんつーかこの“大いなる巨人”達ってのは、回りくどいもの言いしかできないみてーだ。

 

『長年にわたりザルコディナス三世はクトリアとその周辺の魔力循環を歪めてきた。

 お主も知ってる通りに、クトリア周辺の自然環境の悪化と魔獣の増加はその最も顕著な影響だ』

 

「ああ。だが、その影響はもう無くなってるんだろ?」

 

『直接的な影響は無くなりはする。だがその余波は別の形で別の場所へと影響していくのだ』

 そう言われるとまあ、理屈としちゃあ分かる話ではある。

 

『魔獣の増加が減ったからと言って、あるとき忽然と魔獣が消えて居なくなるわけではない。特にこの“巨神の骨”で増えていた魔獣は、山の内側、つまりお前達の住むクトリア側にだけ降りて行ってたワケではない。その反対側へも降りて行っていた』

 それもまぁ、言われてみりゃその通りだ。魔獣が内側か外側かをわざわざ選んで移動するわけもねぇしな。

 

「───あー、そう言う事か」

 そこまで聞いて、なんとなく把握が出来る。

「つまりこれから俺が向かう辺境四卿、“毒蛇”ヴェーナ領のサルペン=デポルデも、そう言う魔獣が少なくない……てことか?」

 そう確認すると、だが“嵐雲の巨人”はやや間を置いて、

『それもある。だがそれだけではない』

 とか、またも回りくどいことを言う。

『偏りには均されようとする性質がある。ならば、魔力溜まり(マナプール)の歪みによる偏りにも、それを均そうとする働きがあり、またそれが正されたことによる新たな偏りにも、またそれを均そうとする作用が生まれる。

 点のみを見るのではなく、それらの点の繋がりを広く観ることだ』

 

 言ってる事は分からんでもない。分からんでもないが、まあやっぱこう……具体性に欠ける分ぼんやりしている。

 だからまあ俺は、その言葉の意味をあまり深くは考えず、心にとどめておく程度にして覚えておいた。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 物騒な連中に襲われたのはヴェーナ領入りして二日目くらいだ。

 叩きのめし返り討ちにしてふしんじばってみれば、そいつら山賊の類かと思いきや奴隷狩りなんだと言う。

 なんとも驚きだぜ。ヴェーナ領じゃあ奴隷売買が盛んだ、との話は事前に聞いては居たが、ここまであからさまな奴隷狩りが横行しているとはな。

 昔のアメリカ南部じゃ、北部で奴隷制が廃止された後にも、北部にまで出向いて既に奴隷ではなくなっている黒人を拉致して南部へ連れて行き奴隷にするような事が横行していたが、それと似たような事がまかり通っているワケだ。

 ヴェーナ領じゃあ領民として認められていない旅人、または税が払えなくなって流民となって逃げ出した者なんかは、こういう奴隷商人がそのまんま捕まえて奴隷にする、と言うのが合法だってんだからな。

 しかも、旅人なんかも然るべき場所に正式な通行税を払って証書を貰っておけばその対象にはならない、とのルールも一応はあるが、それはたいていの場合いわゆる帝国人系の人種に限られる。その上で、ここの人間種の領民はやはりほとんどが帝国人系。

 つまり、だ。

 ここじゃあ俺たち南方人(ラハイシュ)は、既に誰かの奴隷か、これから誰かの奴隷にされるべき存在……でしかねぇって事。

 まったく、笑える話だぜ。

 

 だがこいつは困った。一つは当然、俺が南方人(ラハイシュ)だというだけでここじゃ異物、周りから目をつけられる事になる。とてもじゃないが行方の分からない、おそらくここで奴隷にされただろう元村の住人を探し出すなんて出来やしねぇ。

 ついでに、叩きのめした奴隷商の連中をどうするかってのも問題だ。これが山賊、野盗の類だったら、そのまましかるべきところに丸投げして、そこでの法に照らして適当に処罰をしてもらえば済む話。

 だがここじゃコイツらの諸行は合法で、むしろ俺こそが非合法。ここの法では、俺はただこの領内に居る南方人(ラハイシュ)ってだけで、コイツらみたいな奴隷商にいつ捕まっていつ奴隷にされても文句は言えねぇ。

 

 叩きのめした奴隷商たちは合計5人。縛ってほっぽらかして、後はどうなるか天に任せるのも手だし、状況からすりゃあここでぶっ殺しちまうのも一つの手だ。だが正直俺としては、襲ってきた賊を撃退し返り討ちにする中で死なせちまうのはまだ許容できるが、叩きのめし無力化した後に処刑するってのは気分が悪い。

 

「どーしたもんかな、糞ったれが……」

「ま、待ってくれ! 頼む、い、命だけは助けてくれ……!」

「俺たちだってやりたくてこんなことやってるわけじゃねえんだ! それ以外に方法がねえんだよ!」

「うるせえ馬鹿、嘘つけこの野郎」

 まあ状況環境で選択肢が限られてるってのは確かにあるが、その中でどれを選ぶかは基本的にゃ本人たちの問題だ。

 と、そう思ってたりはしたんだが、よくよく聞くとコイツらにはコイツらなりの結構面倒くさい事情があるっぽい。

 

「俺たちゃ、奴隷狩りをさせられてる奴隷なんだよ!」

 

「はァ、何だそりゃ?」

 

 なんでも元々はこいつら自身が、奴隷狩りで捕まった奴隷らしい。で、その中でまあ色々な基準はあるらしいが、その商会の奴隷狩り部隊に編入される奴隷兵というのがいる。

 本隊は今、ここから離れた野営地にキャンプしている総勢50人近くの部隊で、中心に居るのはコイツらなんぞ話にならないレベルの強者、訓練された兵士達。

 そしてコイツらが本来やらされているのは、単純な斥候任務みたいなものだという。5人一班で野営地の周囲を巡回して調べ、もし俺みたいな「不注意な旅人」や、「流民化した貧民」みたいな奴らが居れば、捕獲するか報告するか。

 そいつらからすれば、まさに文字通りに捨て駒としての奴隷兵部隊がコイツらだ、と言う。

 

 こちらの同情を買うための作り話か? とも思えるが、奴ら奴隷には必ず奴隷の焼印が押されている。で、実際奴らの首の後ろと肩のところには、その商会の所有奴隷であるということを証明する焼印。

 

「そんじゃ、テメーらもこのまま逃げちまうか?」

 と、そう聞くと、

「それが出来りゃ苦労しないよ……。この奴隷の焼き印は特殊な魔術でつけられてんだ。だから、逃亡したり逆らったりしたら呪いで殺されちまうんだぜ……」

 と、蒼白になって言う。

 

 だが……どうだ?

 いや、まあもちろん俺は魔術の専門家じゃねえ。が、長年の“シャーイダールの探索者”として、またその後にもイベンダーやレイフと言う魔導技師、魔術師との付き合いの中で得た知識経験からしても、今聞いたような魔術は相当高度なもののハズ。

 言っちゃあなんだが、たかだか奴隷商ごときに使える魔術とは思えねえ。仮にあるとしたら……まあ、古代トゥルーエルフなりなんなりの使っていたような魔導具で、というパターンぐらいか?

 

 さてどうするか。そう考えて思い出す。

 こんなときに便利な道具を幾つか、イベンダーのオッサンやレイフ等から借りてきていると言うことに。

 

 



 とりあえず、まずはJBパートを続けて15話ほと更新予定也。

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