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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-190.追放者のオーク、ガンボン(78)「アリなん、これ?」


 

「あいつらはタロッツィ商会の下っ端連中でやすわ。タロッツィは半分は傭兵団みてーな奴らで、闘技者だけじゃなくて外での戦仕事なんかもやってる、ここじゃ一番の勢力でやす」

 

 とまあ、そう一通りの解説をしてくれるのは同房の奴隷闘士の中でも小柄でやや中年に入った男、ジャメル。地黒の肌にちょび髭でやや禿かけた頭髪、その上細かい傷だらけの顔なのだが、つぶらなおめめもあってか、怖そうというより愛嬌のある風貌をしている。全体的には、憎めないお調子者、と言う感じだ。

 

「とにかくここで生きてくんなら、タロッツィの連中とは揉めないに越した事ぁねぇぜ。奴らは手段を選ばねぇ。

 タロッツィ商会じゃあここで良い成績出せば、奴隷身分から解放されて傭兵として厚遇されたりもする。奴らにとっちゃ、確実な出世の手段なのさ」

 

 元房長、つまり俺が来るまでここのボスで、初日に過激なスキンシップの結果締め落としてしまった色黒の大男、カトゥーロがそう付け加える。

 

「奴らに目ぇつけられて、試合中の事故に見せ掛けられて殺されたり、夜中に“何故か”死んじまってたり……てな話は、ゴロゴロしてるからな……」

 あらやだ、怖い!

 

 まさにデッド・オア・アライブな闘技者ライフ。聞いてないよ! と言いたいけど、まあ、一応聞いては居ます、はい。


 ここの闘技者、奴隷闘士たちは、基本的にはそれぞれ奴隷商会所属の者が多数。

 なので、この中でも階級問わずで商会ごとの派閥が出来る。試合の形式によっては複数人が協力しあう事もあるからなおさらだ。

 

 ただ、俺の所属しているアバッティーノ商会みたいな弱小商会の所属闘士や、既に商会や奴隷主から見放された廃棄奴隷、つまり暫定的に闘技場所属となっている奴隷闘士などは商会基準の大きな派閥には入れてもらえないことが多い。なのでそれぞれにそれぞれの思惑や関係性で派閥が作られる。

 

 同房の連中はそのほとんとが、最下層の廃棄奴隷闘士だ。

 廃棄奴隷闘士とは、あまりにも負けが込み、また体にもガタが来てもはや活躍の見込みがない者達が、商会や奴隷主から安価で闘技場へと払い下げられた者を指す。

 同じような最底辺奴隷闘士に、ハナから闘士としての活躍が期待されていない貧弱な奴隷を、別のところからやはり安価で買い取り闘技場所属としている者たちも居る。

 まさに、どちらも消耗品(エクスペンダブルズ)扱い。

 

 彼らには闘技場の闘技者としての活躍は望まれていない。有望株の新人闘技者のデビュー戦のやられ役や、あるいはお祭り景気付けのアトラクションとしての魔獣戦等のやられ役。つまり、闘技場内で魔獣と戦ったりなんかして、面白おかしく倒され、または殺され無残な屍を晒すことなんかを求められている。

 この闘技場で戦う奴隷闘士の中で、最もノーフューチャーでデッドエンドまっしぐらな者達。

 

 なので当然、商会単位での大きな派閥には属してない。

 そこが、ラシードの狙いだった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「いいか、ガンボン。奴隷闘士として中に入ってまず最初にやるべきことは、派閥を作ることだ」

「は、はば……つ?」

「そうだ。

 アバッティーノ商会……“元”アバッティーノ商会の連中からしこたま聞き出した話によれば、俺達が乗っ取ったこの商会は、奴隷商の中じゃあまあ小物な方だ。特にコッチ方面に弱く、まだプント・アテジオの闘技場に有力な奴隷闘士、闘技者を送り込んだことはない。

 つまりお前は、弱小商会からの新入り新参者の初登録として行くわけだ」

 うむ、と鼻息荒く頷く。


「何を力んでンだよ、分かってんのか? そりゃつまり、おめーは中に入ったら孤立無援だってことだぞ?」

 横からサッドがそう付け加えてくる。ふん、分かっとるわい!

 

「……分かっとるわい、みてーな面してやがるが、孤立無援ってことは、いつ、どこで誰に命を狙われるか分かんねえってことなんだからな?」

 え? 何で? 闘技場で闘うんでないの?

 

「……分かってなかったみてーだな。

 確かにあそこは闘技場で、表向きは闘技場の中で戦う奴隷闘士が集まってる。だが、裏じゃ当然、勢力争いに権力争い。寝首の掻き合いに裏切りに……と、そういうモンが渦巻いてるもんなんだよ、ああいう所ってなぁよ。

 一応表向きのルールじゃ、闘技場の試合以外での私闘は禁止されてるって言うが、そりゃ言い換えりゃ見えねえところなら何でもやれるって事だ。

 例えばてめえが寝てる間に、同じ房の連中が寄ってたかって息の根を止める、朝になったらなんだか分からないウチに変死してました……みてえな素知らぬ顔。そんなことだってあり得るんだ」

 

 え、ちょっとやめて!? なんかそれ、海外ドラマの刑務所ものとかでよくあるやつじゃん!?

 

「そうならないために派閥を作るんだよ」

 

 ラシードがニヤリと笑いながらそう続ける。

 

「まず第一に力を見せつける。それも相手の反感を買うような攻撃的なやり方じゃあ駄目だ。こいつには敵わない、敵対するより味方で居た方が得だ……そう思わせるだけのものを見せてやれば良い。

 まあその辺に関しては、お前は心配いらないだろうけどよ」

 ラシードは何故か、俺がそう易々と負けたりはしないだろう、と言う事には確信を持って居るらしいが、サッドはまだ怪訝な顔だ。

 

「力を見せたらその後は懐柔だ。いいか、力を見せる前にやるなよ? そりゃ媚び売りだと思われ舐められる。力がある、その裏付けの後に、周りの連中に得をさせて手なずける。

 まぁそこで使うものに関しちゃあ、俺たちのバックアップによるな」

 

 う~む、ちと不安になって来た。どーなんじゃ、この計画。

 その気持ちが顔に出てたか、セロンがドン、と胸を叩き、

「安心しろ、俺が影から密かに護衛をする。闇の森ダークエルフレンジャーの名に懸けてな」

 と請け負う。

 

 へっ、と小さく悪態をつくサッドに、ハハっ、と楽しげに笑うラシード。

「その辺は十分頼りにしてるぜ。俺とサッド、あとサッドの手下達は、街での調査や工作をメインでやる。あんたにゃガンボンとの連絡役含めてのサポート全般を頼みたい」

「心得た!」

 ラシードに言われ、セロンは嬉しげにそう返すが、うーんむ、セロン、結構いいように使われてません? チャラく見えて意外と単純?

 

 何にせよ、それがラシードからの第一指令……てな事だった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 そんなこんなで、差し入れ付け届けで生活に余裕が出て来てまた数日。同房の者達ばかりではなく、他の銅級闘技者達の無派閥、または弱小派閥の中からもアバッティーノ商会派閥になびく者たちが出てくる。やはり食い物の力は偉大である。

 と言うか、もはや大きな派閥に属して無かった銅級闘技者のほぼ全体が、アバッティーノ商会派閥になったと言える。

 数だけならば最大派閥。ただ、所詮は数だけ。闘技者の実力からすればまだまだ下のランクだし、バックアップの資金も恐らく敵わない。

 今、差し入れ付け届けでまるでアバッティーノ商会がかなりの大資本を持ってるかに見えて居るのは、他の商会と違って実際には何の商売もしてないからだ。

 口八丁手八丁でラシードが手に入れた資金。そして、サッド率いる“闇エルフ団”がそれまでに蓄えていた、あるいは今現在進行形で狩猟などをして手に入れた物資、食料。そういったものをこの作戦のためにつぎ込んでいる。

 

 けどまあその辺の事情は周りは知らないから、アバッティーノ商会が拳闘試合に本格的に乗り入れて、覇権でも狙っているのか、或いはあの……つまりはこの俺、“東方オーク”のガンター(偽名)には、誰か特別なスポンサー、資金提供をしてくれる大物が背後に居るんじゃないか? と思われている。

 

 で、そうなるとまた……ラシード曰わく、別の動きが出てくる……と。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「デビュー戦が決まった」

 この闘技場の闘技者の管理人であり総支配人である奴隷頭の南方人(ラハイシュ)の大男、ポロ・ガロがそう告げる。

 普段ならただ掲示されるだけの対戦を、わざわざ総支配人自ら俺たちを呼び出し知らせてくるのには、相応の理由がある。

 

 元々、マッチメイクはだいたいが彼の役目。だが、もちろんそこには色んな思惑都合が関係してくる。

 

 一番にはこの闘技場の“所有者”であり、このプント・アテジオの代官の思惑。そして闘技者の実力、人気やキャラクター。あとは商会派閥の要望、取引等々……。

 

 ラシードは各方面に様々な付け届け、まあワイロを送っているので、あんまりハードな試合にはならないだろう、と、そう予想している。

 いや、予想していた。

 

「ほ、本当ですかい……?」

 おののく、意気込む、嘆く、イキがる……。反応はそれぞれ。だが一様に驚く同房の7人。

 

 告げられた俺のデビュー戦の内容は、対多頭蛇(ヒドラ)の魔獣戦。しかも、俺と一緒に呼び出された同房7人のチームによるもの。

 8本の首に対して8人の銅級、“廃棄”奴隷闘士……。

 

 いやこれ、完全に人喰いショーじゃん!?

 怪獣が現れて、さあ何人、いや、何分で全部食えるかな? の企画じゃん!? やべーやつ! バブル期のバラエティー番組のノリでやらかすやべー残酷ショーじゃん!?

 

 ドユコト!? と、そう獄長ポジションの入れ墨南方人(ラハイシュ)の大男ポロ・ガロへと問わず語りに視線を送るが、憐れんでいるのか、それとももはや何ら感情もないのか、全く変わらぬ岩のような顔で見返してくるのみ。

 え、もはや俺たち、後数日で「かわいそうだけど多頭蛇(ヒドラ)の糞になるだけなのよね……」的なあれ? そう言う目?

 

「ガンターの兄ぃ、おいら、ガンターの兄ぃとなら、やれる気がするっすよ……!」

「ばか、何言ってんだよ、いくら、お前、ガンターの兄ぃでも……」

「へあぁあ~……、こりゃ、ついに最期のときが来やがったぜ……」

「なあ、アバッティーノ商会に、酒の差し入れしてもらえねぇのか? 酒がありゃ、戦えるぜ、俺ぁよ」

「へっ……どうせ酔っ払っていい気分のうちに食われりゃ楽だって考えだろ? 俺も乗るぜ……」

 

 うむ、うむむむ……む!

 いやまあ、その気持ちは分かる、分かるが……。

 

 すっくと立ち上がって周りを見回す。ほとんど俺より背の高い7人はそれぞれに注目し、視線が俺を追う。

 立ち上がり鼻息ひとつ、ふん! と気合を入れ、7人をそれぞれチラ見してからスタスタと歩き出す。

 何かもわからず戸惑い気味きついて来る7人。行く先はまずは武器庫。対魔獣戦では素手格闘ではなく、当然武器の使用が認められる。

 基本的には窓口を通じて貸し出しされるものを使うことになるが、ここに所属商会などから預けられている武器を使うことも出来るし、場合によっては商会側に発注も出来る。

 それらをじっくり検分し、頭の中で試行錯誤。

 今の俺には、オーク城塞や疾風戦団での経験のみならず、蘇った前世の知識に、そこからさらには、闇の森ダークエルフ郷でのブートキャンプやユリウスさんたちゴブリンとの戦い、レイフとともに移転した先でのダンジョンバトル等々での経験がある。……つまりは、かなりの歴戦なのだ。

 特に、対魔獣戦の経験値は、ここの護民兵団とやらにもそう引けはとるまい。

 

 それらの経験、知識等々などを総動員して、この激ヤバマッチをなんとかしないといけない。

 多頭蛇(ヒドラ)。ハリウッド映画ばりの巨大アナコンダとでも言うかの大蛇でありつつ、魔力を得て成長するに従い頭が増えていくという魔獣。

 性質はほぼ蛇と同じ……ではあるが、魔獣なのでそれらよりは凶暴で攻撃的。だが、特に成長したものでなければ、大抵の場合は特別な魔法の力などは持たない。毒の息を吐くのはかなりの古株か、より濃い魔力の洗礼を受けた個体だ。

 脅威はその巨体とタフネス。そして、その巨体で獲物を絡め取ると、全身の骨を砕くほどの強烈な締め付けをしてくること。

 必要なものは何だ? 機動力? 強力な攻撃力? どんな装備どんな武器を使えば立ち向かえるのか?

 

 武器庫の武器のみならず、ラシード達が用意して送ってもらえるものとして事前に許可されたもののリストを睨みつつ唸る。

 ふと、そのリストに書かれたある文字列に目が止まる。

 え、いや、アリなん、これ?

 アリならそりゃ……うん、めちゃ助かるけどさ?

 


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