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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-189.追放者のオーク、ガンボン(77)「優雅なティータイム」


 

「…… 大丈夫か、ガンボン? やつれてないか?」

「ぐぅ……」

「ぐぅ?」

「う、うん」

 あまりの空腹に思わず「ぐぅ」と口にして返事してしまった。やだお恥ずかしい。

 

 面会の相手はセロン。刑務所感あるとは言ったが、外からの面会にとりたてて制限があるワケではない。

 ここの闘技場のシステムでは、基本的にそれぞれの奴隷闘士は商会や金持ちの奴隷主に所有されている。つまり、各奴隷闘士は所属団体を代表して送り込まれた闘士達……といった感じだ 。

 この闘技場やら宿舎やらはあくまでそれらの管理運営をしてるだけなので、その奴隷主達からの面会や差し入れは基本的には自由。

 

「まあ、とにかくまずは報告だ。

 ラシードはこの街の有力者たちと上手く交流を続けている。高級奴隷とされた者たちの流れも少しずつは把握出来てるそうだ」

 コクリと小さく頷いてそれに返す。

「サッドは裏町、貧民窟やらで色々調べている。それに、幾つかの場所には忍び込んで情報を得てきてるらしい。まあ、まだ大きな収穫はないようだけどな」

 

 意外……と言うか、どうなのか。

 あんな風に反対していたかに見えたサッドだが、実際の作戦にはかなり積極的。ここまでの道中、案内役兼手先技に軽業隠密で活躍していたアリックさんが、“闇エルフ団”拠点で待機……と言うかお別れ? した事もあり、隠密働きで大活躍しているらしい。

 

 で、セロンは基本的には俺とラシード達との繋ぎ役。ダークエルフ丸出しだと目立つので、やはり頭巾を被って肌も隠しては居るが、むしろそれが余計に「ただ者ではない」感を醸し出している。

 

「こっちは、まだ、特にない」

 逆に闘技場に潜り込んで3日ほどしてるのに、俺の方は特に収穫無し。

「一番危険な役割だ。あまり無理しないでくれよ」

 と、セロンはそうは言うが、しかしそうも言ってられない。

 何よりも、ここではランクによって処遇や出来ることに違いがありすぎるので、まずはランク上げに邁進しなければならない。が。

 

 グー……。

 

 この空腹問題。

 

「……あー、差し入れと付け届けは十分にある……と、思う。不足だったら連絡をくれ」

 

 おお? 本当でスカイ?

 

 ■ ■ ■

 

 どん! ばん! どどん!

 

 とばかりに出される「追加メニュー」。

 今までの豆と魚介クズのスープだけではない。30センチくらいの丸いライ麦パンがどーん! と積まれ、豆と魚介クズのスープの代わりに野菜と魚介の濃厚シチューが鍋ごとどぎゃっ! と出されて、その横には肉肉肉肉、肉のタワー……。ついでに、いちじく、ブドウ、あとこの辺りでは特産でもあるというプンドの実とかいう柑橘系っぽい味だけど見た目が膨れた掌みたいでキモい果物などなど。

 正直、味の方はさほど期待出来ないかもだけど、量に関しては半端ない。と言うかやり過ぎ。

 

 当然、周りの奴隷闘士たちは色めき立つ。見事に、ざわ……ざわ……ざわ……、と言う感じだ。

 いやいや、そりゃあ確かにグーっときてフハッ! ってなもんで、腹ぺこりんのぺっぺこりんだ、と文句は言いました。言ってました、はい。

 けど、これはやり過ぎ、盛り過ぎ、多過ぎですやん? 飢えた狼……飢えた犬の群の中でこれはあかんやつです、はい。

 

 飢えた狼を敢えて犬と言い替えたのは、この食堂は銅級ランクとその一つ上の鉄級と言う、まあ新入りとその一つ上、ポンコツ負け組かその一歩手前、と言う二軍どころが三軍、四軍だらけの場所。そんで、そのランクの駆け出しやら負けの込んだポンコツ奴隷闘士には、こんな好待遇がされることはまずあり得ない。

 つまりはそれだけで、この食堂に居る全ての者に、「コイツはただ者じゃあない」と言う印象を与えまくりなワケだ。

 で、そうなると反応は大きく二つ。

 

 嫉妬、妬み、または厄介な芽は今のうちに潰しておこうという敵意。

 またはその逆。

 これだけの差し入れがあるということは、奴隷主は相当こいつに期待しているはずだ、それならそのおこぼれに与ろうという、媚びへつらった態度。

 

 その両方がありありと伝わってくるこの空間、確かに待ちに待ち望んだ大量の食事だけどめちゃめちゃ居心地悪い……!

 

 その居心地悪いテーブル周りに、遠巻きからじりじり近づいて来る他の奴隷闘士達の中、数人が進み出て俺を囲む。

 リンチか!? カツアゲか!? とも思うが何のことはない。俺と同房の7人の奴隷闘士たちだ。

 その7人は俺の周りをまるで護衛するかに囲んで周りに睨みを利かせる。

 護衛みたい……と言うか、完璧に護衛。

 初日の定番イベント、「新入りを全員でフクロ叩きにして、ここでの序列ってものをわからせてやるぜ!」系のヤツでしこたま殴り蹴りされたものの、まあ最初はちとビビったりはしたが、いや、マジでびっくりするほどにこう……大したことなかったんですよ、ええ、ええ。

 まあ最低ランクの奴隷闘士ばかりなので、実力のほどもやはり最低ランクなワケで、そりゃあちびとは言え怪力頑強でタフネスなオークボディを持つ俺からすれば、たいした打撃にはならない。

 しばらく様子を見てたけれども、次第に彼らの方がスタミナ尽きてヘロヘロになってきたところ、うーんと少し考えてから、おそらくボスだろうと思われる一人の比較的体格のいい男にちょっと組み付いてそのまま寝技に持ち込んだ。

 軽く頸動脈を締めて落としたところ、いきなり殺された!? と驚き慌てている彼らの前で、今度は活を入れて蘇生させる。まさに活殺自在也。

 その様子にさらに驚き、また敬服した彼ら7人は、それ以来まぁ、こんな感じでなのすよ、はい。

 

 で、彼ら護衛に囲まれはしたものの、やっぱ居心地が悪いことには変わりないしまた彼らがそう出たことでさらに状況に変化も現れる。

 

「そいつが…… 噂になってる景気のいい新入りのオークかい、あぁ?」

 遠巻きに囲んでいた最低ランクの奴隷闘士たちの群れの中、まるでモーゼの十戒のようにそれを割りながら入ってくるのは、一ランク上の奴隷闘士たち数人。

 ランクは首輪の色ではっきり分かる様になっている。俺たちはちと薄汚い赤茶色で、彼らのは綺麗な白色に染められている。

 

 護衛気取りで周りに居た7人も、これにはたじろぐ。「なんだよ役に立たねえなあ」などと言う無かれ。彼らは最低ランクの銅級とその上の鉄級とは完全に格が違う白銀級。と言うより、白銀級からこそが本物の“闘士”、と言う感じだ。

 

 腰の引けた7人を下がらせ、俺は白銀級の奴隷闘士たちを無言で招き寄せる。

 その余裕ぶった態度に彼らはやや驚き、だがやはり余裕ぶった態度でそれに応じる。

 まあこういう時は、余裕のなさを見せた方が負けだ。そして俺は今、余裕が十分にある……と言うワケではないが、一応の計算がある。あるのだ!

 

 この宿舎は奴隷闘士たちの管理と試合の運営を担うだけで、俺達奴隷闘士の所有者ではない。が、それでもここにはここなりのルールがあるし、そのルールに反した奴隷闘士を罰する権限もある程度与えられている。

 当たり前ながらも私闘は禁止。闘うなら観客の前で、金を取ってやらなければ駄目だ。

 だからここで即座に殴り合い、……となる可能性はまずない。

 どんなに遺恨が出来ても、決着は闘技場で……と言うワケだ。

 

「あんた、アバッティーノ商会の所属だって? そんな小さな商会にしちゃあ、随分と奮発してくれてるみてーだなぁ。こりゃ是非ともご相伴に預かりてぇもんだな、ええ?」

 

 サッド達“闇エルフ団”が捕まえ、ラシードが成り代わっているアバッティーノ商会は、このヴェーナ領でやっている奴隷商の中では小物だそうだ。その辺含めて、サッドやラシードの“丁寧な聞き取り”で調べ上げている。

 だもんで、その辺の裏事情を知ってる者からすれば、確かにこの俺の高待遇ぶりはちょっと異常に見えるかもしれない。

 数人の地下アイドルを何とか抱えている弱小芸能プロダクションが、急に大金かけた猛プッシュを始めたみたいな感じだしね。

 

 が。まあそんな話を振られたところで俺には返しようがない。今の俺に出来る受け答え、それは……。

 

 どん! どどん! と、大量の料理を脇に押しのけて差し出すのはあまり長くはない俺の右腕。

 長くはないが、結構太い。

 その右手のひらを広げて誘うのは、当然、

「……やろうってのか?」

 コクリ、と頷く。

 

 体育会系の共通肉体言語、パワーとパワーの比べ合い、U-DE-ZU-MO-U、腕相撲だ。

 

 だん!

 1人目!

 だん!

 はい、2人目!

 だんだんだん!

 3人、4人、5人、はい終了!

 

 言ったでしょう? ちびオークだからといってなめちゃいけません!

 単純な腕力だけでなく、いわゆる押し引き、腕相撲のテクニックだって前世の経験で知っているのだ。

 

 で。

 

「あぁ……? おいこりゃ……どういう……?」

 

 同房の奴隷闘士達に指示しておいたのは、「俺と腕相撲で勝負した相手には、勝ち負け問わず肉とパンを分け与える」こと。

 

 どういうことだ? どういう意味だ? と問われても、俺は無言でうんうんと力強く頷き返すだけ。沈黙は金。ただ飯を食うことを促すのみだ。

 

 その様子を遠巻きに見ていた他の者たちも、だんだんとここで行われるやり取りを把握し、今度は列をなして並ぶようになる。

 腕相撲すれば勝ち負け関係無く飯がもらえるシンプルかつ単純なシステム。理由や意図など分からなくても、貰えるもんなら貰っておこうということだ。

 40人近くいた銅級、鉄級の全ての奴隷闘士達に一切れのパンと肉をそれぞれ振る舞った上でも、まだまだ残りがある。

 その残りのウチ、とっておける分は取っておくし、それ以外は同房の者達と分けて食べる。

 久しぶりに満腹になるまで飯が食えて大満足。

 

 シンプルな力比べである腕相撲に負け、その上なぜか飯をもらってしまった白銀級の奴隷闘士達も、なんだか拍子抜けと言うかなんと言うか、居心地悪くバツも悪そうな感じで「おう、行くぞ」なーんて言ってから立ち去って行く。

 

 最後に、これまた差し入れられた携帯用簡易コンロで沸かした湯で甘味入りの薬草茶を煎れて、同房の皆様方との優雅なティータイムを経て、本日の食事は終了ー、となりました。

 


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