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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-174.J.B.(114)Because We Can(やってやっがらよ)


 

「俺ァ行かねぇぞ。あの連中を助けるのは俺の仕事じゃねえ。俺の雇い主はあくまでベニートだ。カーングンスの連中は自分で何とかしてくれや」

 やはりニヤつきながらそういうデーニス。全く予想通りの反応だが、実際こうまでハッキリ言われちまうと、「その通り」としか言いようがない。

 

「……分かった、二手に別れよう。お前等はベニートと船着き場へ行ってそこから逃げ出す準備。俺はその間にボンクラどもを解放してくらぁ」

 俺からすりゃあベニートもカーングンスも雇い主じゃあねぇ。本来はその両方とも助けなきゃいけない義理は全く無いが、この流れでマクマドゥル達カーングンスを見捨てて行くなンてなぁ出来るわけもねぇ。

 

 だが、

「無駄、奴らは他の奴隷達への見せしめとして吊るされてる。衰弱して、逃げる体力もない。放っておけ」

“ただれ傷”はそう突き放し、続くデーニスはと言うと、

「ベニートくれーならこっちはなんとかなるだろうよ。見つかりさえしなきゃな。だがおめーはどうだ? 1人で奴らの真ん中を突っ切って、ボンクラ間抜け2人を助け出すッてなぁ、かなりの難題だぜ?」

 と、明らかに忠告、心配てなツラじゃ無く、ニヤニヤと楽しんでる顔でそう言ってくる。

 

 が、まあ俺としても当然、勝算なしで言ってるわけじゃねぇ。“シジュメルの翼”があるから、2人ぐらいならなんとかなる。

 

「問題ねぇ。言った通り、おめーの居なかった半年の間に起きた変化のおかげでな」

 今この周りにゃほとんど気配は無し。こうなりゃ陽動も兼ねてかましてやるぜ。

 “シジュメルの翼”に魔力を通し、空気の膜を大きく広げる。後はいつものあの調子だ。エンジンふかして体を浮かせて、お馴染みのリズムにビートを刻む。

 

「おお、マジかよ!?」

 笑い出しそうなデーニスの声を後目に、俺はマーゴへと念話で簡単な状況確認に伝達。

 後は一気に加速するだけだ。

「ちょうど良い。船着き場までは俺が露払いしといてやるよ」

 

 ◇ ◆ ◇

 

 洞窟の中の空気を切り裂くようにして、俺は“シジュメルの翼”で飛行する。大まかに話に聞いていた内部構造通り、洞窟内にはかなりの広い数カ所の空洞と、それらを繋ぐようにして複雑な通路が続いてる。この洞窟の奥の方には、思っていたよりも兵士たちが残っていない。

 二手に別れる算段をつけてから、マーゴへと“伝心の耳飾り”で連絡して、表からの陽動を次の段階へと進めてもらったのが功を奏しているようだ。

 

 次の段階、ってのは魔獣の群れの偶発的な襲撃ではなく、何者かが意図した計画的な襲撃であるとここのリカトリジオス兵達に認識させるということだ。

 手はずとしちゃ半分はハッタリ。レイフ曰わく、「魔力コストは低く、愚直に命令をきっちりと聞いてはくれるが、単体としてはかなり弱い」白骨兵による隊列での包囲だ。

 遠目に鎧甲に盾や弓で武装させ囲い込めば、それが低コスト召喚兵の白骨兵だとは気付かれない。

 つまり、リカトリジオス兵側からすれば、魔獣を操る謎の軍勢が突如として現れ襲いかかってきたように見える。ただの魔獣の群れならば、それはまあある種の不運。だがそこにその魔獣を操る軍団までが現れたとなれば話は別だ。

 どうあれ、ほぼ全軍で当たらなきゃマズい事態。

 その実体が、十人隊が総掛かりで突撃すれば容易く粉砕できる程度の張りぼて見掛け倒しの白骨兵集団だとしても、だ。

 

 それでもある程度は洞窟内部にも兵が残ってる。

 たまに遭遇する数人連れには、素早く“シジュメルの翼”の【風の刃根】をお見舞いし、ついでにすれ違いざまにドワーフ合金製のメイスで一撃。特に足を集中して狙うことで行動能力を奪う。また、手枷足枷の奴隷らしき連中を見かけたときも、同じく“風の刃根”で枷を壊して解放する。

 

 船着き場……と、一応は言えるくらいには整備された、地下水路に繋がる広い空間。確かにちら見だけでも既に三艘ほどの船がある。船、と言うよりは大型の筏をやや船っぽくした程度だが、十人隊が二部隊ほどは乗船出来そうだ。

 

 その周りのリカトリジオス兵を急襲し、【風の刃根】で半数を無力化したところで手枷足枷を外してやった奴隷達がなだれ込んで来て乱闘になる。質に体調は劣れども、数と勢いは奴隷達の優位。俺からの加勢もあり、あっと言う間に片が付く。

 

「お前ら、奴隷は他にもいるか?」

「後は牢に居るのと、外に磔にされてる連中だけだ」

 奴隷は主にここでの造船作業をさせられてたらしく、殆どが洞窟内。

「これから、俺のツレが牢屋内の奴を解放してコッチに来る。性格は悪いが凄腕だ。

 外の騒ぎも別のツレが起こしてるから、中に戻ってくる兵士は少ないだろう。それまでに、船で脱出する準備を整えとけ」

 手早くそう指示して先へと進む。

 

 洞窟の出口辺りに来ると、中の騒ぎを嗅ぎ付けたのか、入って来る3人ほどのリカトリジオス兵と対面。真正面からの対峙、ここは一発デカいのをかましてやるか……とも考えるが、だがまだコッチに注目を集めるのは早すぎる。

 真ん中の1人にそのまま“シジュメルの翼”の隼兜で頭から突撃。真っ直ぐは進まず上方へと起動修正して洞窟の天井に叩き付ける。

 そいつを担いだままくるりと反転、他の2人にぶつけて倒す。

 倒れはするが、戦闘不能と言うワケじゃない。そこへ後ろから来た奴隷達が集団で囲い込む。

「おい、こっちには来なくて良いぜ。逃げるなら水路からだ」

「いや、別にあんたを助けに来たわけじゃない。ただ、こっちの道を少し塞いでおきたくてな」

 見ると、やや後方の狭い場所に、材木をうまく使った簡単なバリケードが作られ始めている。応急措置だが、それなりには効果がありそうだ。

 

「なるほど、賢いじゃねーか。

 見ての通り俺は空を飛べるから、俺のことは気にしなくてもいいぜ」

「そうみたいだな。だが、いいのか? 磔にされているのは5人。あんた1人でどうにかできるのか?」

 5人? そいつはちょっとばかし、計算をしくじったな……。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 こっからは最初の想定通り、こそこそ隠れながらの様子見から。

 その想定以上に、外部からの魔獣軍団による攻撃はうまくはまってるらしく、洞窟内部の制圧は一気に進み、その外にある砦部分でも、リカトリジオスお得意の集団行動もうまくできずにばたついている。

 

「エキヤ、ニケ、ワ ンドゥ! アグハオダ ニケ! クジュク イクァ モクィッド クジャク イクェ アトゥバ!」

 久し振りに耳にするガチな犬獣人(リカート)語だ。俺が奴隷にされていた部隊のものとほぼ違わない。

 盾兵部隊で前線を固め、投げ槍兵で牽制、と言う戦術は、かつての“帝国流”を模倣している。

 この“鬼の角岳洞窟”砦全体は、奥に位置する洞窟を中心にぐるりと囲むような高く険しい岩場があり、その両端に文字通りに鬼の角の様な高い岩がある。高さとしちゃあ、二、三階建てのビルくれぇか。そこに遠目に目立たない程度の木組みで足場を作って物見櫓代わりにし、さらには幾つかの足場はしっかりとした作りで、投げ槍、投擲部隊が陣取れるようにもしてある。

 前面に出て攻めて来る魔獣の主力は岩蟹の群れだ。移動は見た目に反して直線的で早く、固い殻は犬獣人(リカート)の曲刀では倒し難い。

 となれば“腕長”トムヨイ同様に、投げ槍での刺突で対処したい。盾兵で岩蟹の突進を止めつつ、左右からの投げ槍その他の投擲……てな対処は理にかなってる。

 ただしそこへ白骨兵からの遠方の射撃が来るのが厄介だ。弓は犬獣人(リカート)には不得手な武器。白骨兵の矢の威力は投げ槍より軽いが、集団からの射撃はその数が問題。矢の雨のおかげで、思うような攻めも守りも出来なくなっている。

 

 突破もされず、かと言って押し返せもせずという膠着状態は、まさに俺のリクエスト通り。

 マーゴの奴、初めての割にはうまいことやってやがる。いや、もしかしたらコレは、帝国流用兵術に詳しいボーノの助言もあるか?

  

 洞窟部分から出て、岩場に囲まれた真ん中の広場は、そのリカトリジオス兵たちの陣からはやや離れた後方。そこに、確かに何本もの磔台があり、遠目にも10人くらいの人の姿。待て待て、さっきは5人っつってたよな?

 “シジュメルの翼”の風魔法で、空気の細かい動きを探る。意識を集中させ雑多な様々な喧騒、振動の中から探りだすのは、磔にされた連中の心音、呼吸音……そういったもの。

 わずかに聞き取れるのは、せいぜい2、3人。そしてどちらもかなり弱い。

 こりゃ参った。マクマドゥルとかいう奴も、生きてるかどうか分かりゃしねえな。

 何にせよ、ここまで来たらやるしかねぇか。

 

「よぉマーゴ、調子はどうだ?」

『……あ、あぁ!? 何……だ、おめ、コッチは……ああ、くそ、まだやられだ……!』

 “伝心の耳飾り”で話しかけるも、こりゃなかなか大変そうだ。

「そっちから見えるかどうか分からねーが、今から広場で磔にされてるマクマドゥル達を助け出す。

 だから、できるだけ奴らの注目を外に向けてくれ」

『何……!? い、生ぎでいだんか、あのボケ!?』

「悪いが、まだ分からん。とにかく頼むぜ」

 

 さてそれが上手くいくかどうか。

 しばらく様子を見、一際外の騒ぎが大きくなったのを確認してから、そろりそろりと広場の中心へ向かう。

 

 ある程度近づくと、マクマドゥルがどいつかは分かる。カーングンス特有の革の胴当てに、膝丈までの右前合わせの服と帯に下穿き。かなり汚れちゃあ居るが、そのシルエットだけでも十分だ。

 

 心音、呼吸音は……と探ると、まあまだ死んじゃあ居ねぇのは確か。

 そしてより近づくとまたハッキリわかるが、その男もまた、“若君様”アルークほどではないが、もともとかなりの偉丈夫。しなやかでしっかりとした筋肉質の体つきだが、いかにも蛮勇を絵にかいたような髭面の顔を含め、すでに生気がなくやつれ衰えている。

 

 高い磔台へとよじ登ると、両手首がデカい釘で打ち付けられて居るのが分かる。

 こりゃ外すのは面倒だ。小さく耳元で声をかけると、ううん、とも、ぐぅむ、ともつかない呻き声。

 

「おい、聞こえるか? お前、マクマドゥルかアンダスか知らねーが、そのどっちかだな?」

「あぅうぐ……。な、おめ、誰……だべ?」

「とりあえず俺はマーゴのツレで、デーニスと今ここに忍び込んで来てる」

 そう言うと、やや間があってから、

「マー……ゴ? 何……で、アイツ……が?」

「詳しい話は後だ。とにかく……この杭を外すぜ。悲鳴あげンなよ?」

 声を出すなと言ったところで難しいだろう。それでも、マクマドゥルらしき男は小さなうめき声は漏らすものの、悲鳴はぐっと押し殺す。こいつもなんだかんだ言って、カーングンスお得意の“血の試練”だかを乗り越えてきたハズだ。根性だけはかなりのもんだろう。

 

 ゆっくりと降ろしてから、他の息のある奴らへと向かう。

 同じくカーングンスの服を着たもう1人……今降ろしたのがマクマドゥルだとすれば、こいつはアンダスとか言う奴のはず……の方は既に事切れている。

 後はクトリア人系の女が1人、やや壮年に近い南方人(ラハイシュ)の男が1人に、犬獣人(リカート)が1人。後は既に物言わぬ躯。生き残ってたこの3人も衰弱しなかば虫の息で、少なくとも戦闘なんざ出来る状態じゃない。

 

 マクマドゥル……らしき男は、アンダスだろう躯へと向き合い、深くうなだれている。


「あんた、マクマドゥルか? アンダスか? とにかく……仲間の事は残念だった。だが、悪いがあんまりここに長居も出来ねぇ。洞窟の奥で地下水路から逃げる準備をしてるから、アイツ等が外の魔獣とやりあってるウチにズラかろう」

 降ろした奴隷連中には、最近そこそこ腕を上げてきたマーランによる魔法薬を飲ませて最低限の体力は回復させた。あとはコイツだけ、と、薬瓶を手渡そうとするが、男はうなだれたままピクリとも動こうとしない。

 だが、コイツの再起動を待ち続けてばかりも居られない。今は砦の入り口近くに陣取り魔獣相手に掛かりっきりのリカトリジオス兵が、少しでも背後へと意識を回せば、僅かな天幕くらいしか遮蔽物もない広場に居る俺達はほぼ丸見え。今すぐにでも洞窟内へ逃げ込みたい。

 

 俺はとりあえず動けるようになった3人に、慌てず騒がず洞窟へと向かうように指示。異議もなくそれに従う3人を見送り、再びマクマドゥルらしき男へと移動を促す。

 ようやく意を決してかのようにすっくと立ち上がった男は、前方、リカトリジオス兵達が守りを固めてる陣へと視線をやると、そのまま一歩踏み出し、よたつく足元もおぼつかぬままに歩き出す。

 

「おい待て、そっちじゃねぇ。逃げるのは地下水路からだ。洞窟の方へ引き返すぞ」

 そう言って肩へと手をかけると、

「逃げねぇ……!」

 と言いながらそれを振り払う。

 

「馬鹿やろう、死ぬ気か?」

「仲間磔にされ、殺されで、黙っておめおめ逃げられるがよ……! 死ぬ前にやづらの1人2人……10人20人ぐらいぶぢ殺してやる……!」

 

 元々、数日磔にされ意識も朦朧としてるだろうし、体力もねぇ。よたつくというよりも倒れこむのをなんとか足を前に出すことで防いでいる……そんな有り様だ。1人2人どころの話じゃねぇ。近づくまでもなく投げ槍の的にされて死ぬだけだ。

 ええい、糞、忌々しい!

 まずはとにかくと、背後から羽交い締めにして取り押さえつつ、無理やり野郎の口に魔法薬を注ぎ込む。

 ぐほぇっ、と嗚咽しながら半分ほど吐き出すが、まあそれでも効果はある。血色が良くなり、体にある程度も力が戻ってくる。

 

「言っておくが死なせるために体力回復してやったんじゃねーぞ。まずちょっとこいつを耳につけろ」

 羽交い締めにしたまま、かなり強引にだが俺の耳につけてた“伝心の耳飾り”を、野郎の耳にくっつけてやる。

 伝心の相手は当然マーゴ。

「な、何だ……!? 何……はぁ!? おめ……マーゴが!?」

 突然頭の中に響くマーゴからの声に、野郎は慌てふためきつつも反応する。伝心だから声に出す必要は無いが、コイツはそんなこと知らねえからガチャガチャと喚き散らす。

 

「あ、いや……な……だが……!」

 

 何やらごちゃついてやりとりしてるが、逆に今の俺にはマーゴの声が聞こえない。

 もたついたそのやりとりが終わらぬウチに、俺は“シジュメルの翼”の防護膜を広げつつ男をひっつかむ。

 

「お、ぐわ、何……!?」

 騒ぐ男に、

「時間切れだ」

 と指し示す先にはこちらに向けて投げ槍を再投擲しようと構えるリカトリジオス兵。既に2本が俺達の居た辺りの地面について突き刺さっている。


 男から再び伝心の耳飾りを奪って、自分の耳に付け直す。

「マーゴ、奴らに見つかった。俺とこいつはこのまま空から脱出する。他は裏口だ。……っていうか、こいつどっちだ? マクマドゥルか、アンダスか?」

『マクマドゥルだ。アンダスは……仕方ねぇ、今はどうにもできねえべ』

「ああ。で、どうだ脱出の援護はできそうか?」

『ふん、問題ねえ。オレ達がうめぇ事やってやっがらよ!』

 自棄になったか吹っ切れたか。頼もしいのかどうか分からないマーゴの返答。

 何にせよ、今はこれで突き進むしかねぇな。

 

 

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