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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-170.J.B.(110)Gangsta's Paradise(チンピライフ)


 

 上空から見れば確かによく分かるんだが、“巨神の骨”に近づけば近づくほど、木々の量は増えていく。

 この辺、クトリア側から登る内側の方と、赤壁渓谷側やボバーシオ側、つまり外側から登る方とでは随分と違っている。

 まあもちろん、どちらも森、密林と呼べるほどの量はないンだが、それでもドゥカム、ガンボン、グイド達と“巨神の骨盤”の第四の遺跡を探しに行ったときに比べれば、明らかに2倍、3倍、いや、4倍ぐらいは木々が豊かだ。

 この植生の違いは、気候や地形の影響もあるんだろうが、おそらくはレイフの言っていた「クトリア全土の魔力循環の歪み」とやらも関係してるんだろう。

 

 空からざっと見渡して大まかな位置関係を把握。それから一旦また地上へと戻り、地図と突き合わせて確認する。

「どうもこの地図……いまいち精度が悪いな」

「そうなのが?」

「測量術を使ったような精密な地図は国の軍事機密だ。一般に出回る地図なんてこんなもんだろう」

 ボーノに言われて、まあそりゃそうかと考える。

「何にせよ、目指す先はこのまま北東方面……って所でいいんだろうな」

「うん、まあ、良いと思うよ、うん」

 頼りなさげな物言いだが、この面子の中では唯一地の利に詳しいスナフスリーへと確認。しかしやっぱ、ちと頼りない。

 

 今、まだ朝も早いボバーシオ近郊を、一旦川沿いに進んでヤマー達の下ったコースを逆に進むのは、俺、ボーノ、マーゴにスナフスリー、そしてブレソルの5人。ブレソルを連れてくるべきかは悩んだんだが、例の女猫獣人(バルーティ)の船に乗せられ降りた位置ってのも確認しときてぇ。身体能力的にはプリニオの方が良かったとは思うが、あいつとヤマー達の記憶力はちと当てにならない。あの中で唯一場所を覚えている可能性があるのがブレソルだ。

 残りはイスマエルの工房に置いてきて、「なんでもいいから適当にコキ使ってやっててくれ」と言っておいた。ヤマーとプリニオがまた喧嘩しだしたら厄介だが、かと言って奴らの見張りのためだけに誰かを置いていくワケにもいかねぇしな。

 

「どうだ、この辺?」

「う~ん……疲れてたし、朝方でまだ薄暗かったしなぁ~……あ、待てよ……?」

 首をひねるブレソルだが何かを思い出したかに目を見開くと、近くの木を調べ出す。

「あー、あったあった! これこれ、これ見てくれよ!」

 ブレソルが指し示すのは木の幹に刻まれた傷。自然にできたものでも、間違ってつけたようなモノでもない。明らかに意図的に付けた傷跡だ。

 

「ほう、なかなか賢いな。迷わないよう目印をつけておいたのか」

 素で感心したようにボーノが言うと、

「え? いや、違うよ。元々ついてたんだよ」

 と、ブレソル。

 

 瞬間、俺を含めた四人に緊張が走る。

「うん、少なくとも3アクト(約100メートル)周囲にはそんな大きな気配はないよ」

「……この道には大勢の軍が移動した形跡は見当たらない。行軍ルートではなさそうだ」

「魔力の痕跡も特にねぇ」

 スナフスリー、ボーノ、そして前夜の浮かれた格好を半分だけ改めたマーゴがそれぞれの見解を告げる。

 

 “シジュメルの翼”で空気の動きをさぐっても同じ結論。ひとまずは問題ない、か……。

 

「え? 何? 何だよ?」

 ただ一人、事情が分からぬブレソルが不安気にキョロキョロする。

「その傷は明らかに意図的に付けられたもんだろ。お前やヤマー達が付けたんでなきゃ、別の誰かが付けた事になる。そして真新しいって程でもねーが、すげー古いってんでもねぇ。

 元々あまり人が来ないこの近辺で、つい最近通ったお前達以外となりゃ、一番可能性が高いのは……」

「リ、リカトリジオス……!?」

 ボバーシオ包囲をしながら、それより東、“巨神の骨”の近くへと細かく部隊を送り込んでいるらしい……との推測は、どうやら正解のようだ。

 

 より一層の警戒をしながら先へと進む。

 ここでもスナフスリーの索敵能力、ボーノの経験からの観察力、マーゴの呪術がそれぞれに役に立ち、また俺自身も“シジュメルの翼”の風魔法による索敵や、時には飛行での斥候役を勤める。

 その分移動速度はどうしても遅くなる。昼近くになり、日射しも暑さも激しくなって来ると、隠れられる場所を探して休憩。

 既に敵地との想定で、十分な警戒をしつつ交代で休む。

 

「今のところ、やはりこの道自体に行軍の痕跡は無いな」

「まあ、ブレソル達が初めて来て辿った道って事は、ある意味一番往き来しやすい道なんだろう。だとしたら、ボバーシオ側に知られたくない任務をしてるンなら、もっと分かり難い経路で移動してるンかもしんねぇな」

 ボバーシオ包囲をする部隊とは異なる別働隊。狙いは不明だが、あちらさんとしてもある種の特命任務……てな事か。

 

「なあ、JBよぉ、本当の本当に、この辺に……その、リカトリジオスが……居るンかよ……?」

 例の木にあった傷跡が何者かによる目印だと分かって以降、リカトリジオスの存在が急にリアルに感じられたのか、ビクついたブレソルがそう聞いてくる。

 

「さあな。それを確かめる為にこうしてんだ」

 とは言え……。

「可能性は高い」

 俺の言葉を、ボーノが引き継ぎ補足する。

 

 大柄な身体を縮こまらせるブレソル。俺たちとは違い、何の覚悟も準備もなく成り行きで来ちまったもんだから、そりゃ当然だ。丸顔の頬を両手でぶるりとなで上げつつ身震いする。

 

「安心しろ。ヤバくなったら俺が抱えて逃げてやる」

 適当にそう安請け合いするが、まあ予定としてもそうするつもりで来ている。他の3人なら、十分自力で逃げ出せるだろうからな。

 

「……待て」

 そこで突然、右手を軽く上げて俺達へと警戒を促すマーゴ。それから、耳と鼻をひくひくさせるスナフスリーが、

「……うん、これは……う~ん、……妙な匂いだね」

「リカトリジオスか!?」

 相変わらずのとぼけた調子でそういうスナフスリーに、素早く弓を構えつつ鋭く問い返すのはボーノ。

 

「ああ……うん、それは……どうかな……? 匂いがあるような気もするけど……何かと紛れて、よく分からない気もするし……」

 いつにも増してなんだか煮え切らない反応のスナフスリーは、さらに耳を動かしそばだてる。

 

 その最中、何かが俺のすぐ脇の地面を抉る。

 “シジュメルの翼”の防護膜を広げて警戒態勢。片側は岩場で、攻めてくるとしたら三方。俺を中心にそれぞれの方角をブレソルを除く3人が警戒するが、いや、違う、これは……、

 

「上だ!」

 

 見上げようとすると、正に中天に輝く太陽が目に突き刺さる。気配を感じられたのは“シジュメルの翼”の風魔法による感知。

 どうする? 何が来てたとしても、【突風】を使えばはね飛ばせるが、そんな派手な魔法を使えば辺りに大声で自分たちの所在を宣伝するようなもの。

 ならば、まずは守り。“シジュメルの翼”の防護膜を上方に向けて分厚く張る。

 それと同時に放たれるのは一本の矢。

 つむじ風を纏い、周囲の空気を乱しながら飛んで行く。

 

 カーングンス呪術騎兵、マーゴの放ったその矢が、上方からの何者かの攻撃を風の圧力で弾き飛ばした。

 俺の【突風】ほどデカくもうるさくもない。多分これは、攻撃の為の魔力じゃなく、敵の矢などをよける防御の為の術だ。それが、見事に功を奏した形。

 

「北東、高台の上」

 スナフスリーがボソリと呟くその先に立ち上がっているシルエットは、恐らくは一人の人間。そいつが大きく跳躍したかと思うと、正に岩場を駆けるようにこちらへ近付く。

 それぞれ応戦すべく態勢を整え武器を構えるが、俺はそれに待ったをかけた。

 

「一旦待て。ありゃ多分……俺の“知り合い”だ」

 

 カーングンス達からの話の中でもそこはかとなくそんな気はしていた。

 時期、タイミングも合う。

 何より、こういうヤバげな仕事を喜んで受けそうな奴でクトリア在住となれば、だいたい限られてくる。

 

「よーう、JB! 久しぶりだな、ええ? 元気してたかー?」

 

 やたらに陽気なその声の主の名はデーニス。大柄では無いが程よく筋肉質な鍛えられたら体つきに、やや童顔とも言える丸顔。

 その、全体に丸くて大きな垂れ目はパーツだけとれば愛嬌のある顔立ちとも言えるが、それとは不似合いなボサボサの無精髭。さらには適当に切っただけの雑な髪型は、これまた適当に後ろだけ半端に伸びていて、見た目は完全に野人と人間の中間だ。そして丸っこい童顔とはその髭以上に不似合いで目立つのは、額にある横一直線の大きな傷跡。

 その上、使い古しの革鎧にボロのようなトーガは、泥塗まみれ汚れまみれでスティッフィも逃げ出すレベルには汚くて臭い。

 『牛追い酒場』の“三人娘”の一人、ラミラの双子の兄であり用心棒。その癖、しょっちゅう勝手に放浪しては居なくなる厄介者、暴れ馬のデーニス。

 何が厄介かと言えば、無軌道で衝動的で享楽的ででたらめな性格な上、けっこう強いと言うところ。

 実力的に言えばデーニスが『牛追い酒場』に用心棒として常駐していれば、カストなんかがでかいツラしてることはありえなかった。


「やっぱ町ってなあ窮屈でいけねぇ。な、お前もそう思うだろ、JB?」

 笑いながらそう言い、俺の肩をばんばん叩くデーニス。

「痛ぇよ。あと俺は全然全くそんな事は思わねーっての」

「嘘付け! あのちまちましたせせこましい瓦礫の街は、俺やお前にはスケールが小さすぎるんだよ!

 実際、だからお前だってこんなところまで来たんだろう? どうした? 穴蔵ネズミはもう引退したのか? 俺はもっと早くそうするべきだってずっと言ってたよな?」

 

 さて、デーニスは恐らくベニートの護衛を引き受けて、半年以上は前にクトリアを出ている。だからその間に起きた変化を知らないはずだ。

 

「デーニス、おめーが居なくなってからクトリアはずいぶん変わった。クトリア共和国として再建されて、貴族街三者協定も改まって今や議会制だ」

 そう告げると一瞬だけやや目を見開いて驚いたような顔をしたものの、再び笑う。

「ははっ! だから言ったろ? 町なんてな偶に立ち寄って酒飲んでサイコロ振って女と遊ぶ為の場所だ。ちょっと居ないだけで全然変わっちまう!」

 

 それを聞いて、スナフスリーだけはうんうんと頷く。根っからの放浪者気質、とにかく一所に落ち着けないてなのは同じタイプか。

 

「だがよ。おめーは良くっても、雇い主にとっちゃ大問題だろ?」

 雇い主、つまりはプレイゼスのボスのベニート。奴にとっちゃ貴族街の政変は他人事じゃあない。

 かまかけの意図もありそう聞くが、

「ま~、そ~だろーなあ。

 けど、今はソイツを伝えてやるのも一苦労だぜ」

 特に隠し立てする気も無さそうに、肩をすくめてそうヘラヘラ言うデーニス。

 だが、

「何せ、アイツは今やリカトリジオスの奴隷だ。まずはこの先の野営地……いや、もうありゃ砦だな。とにかく、そこから救い出してやらねーとな」

 との続けての言葉に、俺達一堂それぞれに驚きの反応を示す。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「でよ、シャーイダールってのはまだ生きてンのか?」

 ひとまず落ち着いてから、デーニスがベニートに雇われボバーシオまで来ることになった経緯を聞くと、突然そんな話をし始める。

 何だ? コイツ、何を知ってる?

「何だよ、それが何の関係があんだよ?」

 素知らぬ顔でごまかしてそう聞き返すと、デーニスの奴はさらに意外な事を言い出す。

 

「へへッ……。まあな、俺だって半信半疑だがよ。聞いた話じゃあシャーイダールってのは、本当は6人居るんだッてのよ」

 

 ……何? なんだそりゃ、どういうこった?

 

「意味分かんねーぞ、どこ情報だよそれ?」

「おう、俺にも分からん。分からんが、どーもベニートの奴はそいつを信じてたらしくってな。特に多大な魔力を秘めた“シャーイダールの仮面”を手に入れようかと考えた……らしい」

「らしい……?」

「ま、本人はハッキリとは言わなかったからな。半年ダラダラ一緒に行動して、色々探ったところ、どーもそーゆーことらしーンでな」

 デーニス自身真偽定かならぬと思っている情報。どこから仕入れたかは不明ながら、ベニートはそれを信じていたようだ……と。

 

「じゃあ、つまりアレか? ベニートはその、“シャーイダールの仮面”を探す為に、ボバーシオまでやって来たってーのか?」

「多分な。6人のシャーイダールのうち、3人だか4人だかは、王国軍の王都解放のときにボバーシオ経由で残り火砂漠方面へ逃げ出した。で、クトリアに唯一残った1人が、おめーのボス……ってワケよ」

 

 この話が真実だと仮定してみよう。

ナップルはもともとシャーイダールの相棒で、そのシャーイダールが出掛けていなくなったから仮面を被りその代役をしていると言っていた。いや、仮面そのものがシャーイダールだ、みたいな認識だったのか? まあとにかくそんな話だ。

 そして俺達はその「本物のシャーイダール」には一度も会ってねぇし、経緯は分からねーが、多分元々の仮面の持ち主であるシャーイダールはとっくに死んでんじゃねーのかな、ぐらいに考えていた。

 それはつまり、もしも本物のシャーイダールが生きていたら、ナップル……本人は“相棒”だなんのと言っていたが、多分アレはせいぜいが下僕、使用人、下働きぐらいのモンだったんだろうが……とにかく勝手に自分の名前を騙ってる奴がいたら、多分許してはくれないだろうとの推察でだ。

 だが、ナップルが結局は殺された事で、その仮説は怪しくなる。本物がついに偽物を始末した……そう言う可能性が出たからだ。

 たが、ここでこの、「シャーイダール実は6人説」を当てはめると、また別の絵図も見えてくる。

 例えば、王都解放のときに逃げ出した別のシャーイダールが、クトリアに居残った1人に会いに来たか……またはハナから殺すつもりで来たか……。

 

「……おい、JB、聞いてっか?」

「んあ? おう、聞いてんよ」

「いいか、こっから先だよ、面白れーのはよ? あのベニートの奴にしょっちゅう飲ませて酔わせて、少しずつ聞き出した話を俺がまとめると、つまりはこういうことだ」

 ふふん、と鼻息荒く してまくしたてる。

 

「なんでもな、そのシャーイダールの仮面六つを全て揃えると、古代ドワーフによって作られた秘密の魔力溜まり(マナプール)のある遺跡への入り口が開かれて、クトリア全土を支配できるようになるってんだよな! どうだ、笑えるだろう!?」

 

 さあこの流れで、この話を笑えるのは一体誰だ? ある意味喜劇、ある意味悲劇。なんにせよ、今一番真相に近い答えを知ってるのが俺だということだけは……確かだろう。


 

 

 





──────


 今回初登場のデーニスは、2-8.J.B.(5)Get down to it.(とりかかれ!) にて、カストの情報を語る“腐れ頭”との会話中に、「『牛追い酒場』で住み込みで働いている双子の兄妹」 としてほんのちょっとだけ触れられています。妹のラミラは、2-105.J.B.-How I Could Just Kill A Man.(いかにしてあの男を殺したか) の方で登場済みです。

 

 


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