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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-151.マジュヌーン(84)静寂の主 -ふっ飛んでJUMP

(※誤字修正)





 



 

 いつもなら、ダーヴェと小作人達に、バールシャムの孤児院、“慈愛の館”から引き取ったガキどもが、雲ひとつない青空のもと、朝の新鮮な空気を吸いながら畑の世話をしている時間だ。

 今日もまた、鮮やかな空は変わらねぇ。

 違うのは、吸い込む空気に混じるのが土と作物の匂いじゃなく、血と臓物と火、そして多数の犬獣人(リカート)の匂いだと言う事。 

 

 サーフラジルの密林地帯で起きた山火事は、今はここラアルオームにまで飛び火している。元々山火事を起こしたのも、猪口に言わせりゃリカトリジオス……その傘下に降った静修さんの企てだと言うし、目の前でリカトリジオス兵達の指揮をとっている大賀もやはり、その静修さんの策の上で動いているんだろう。

 

「……何故だ? 何で……こんな事を……?」

 絞り出されたその言葉は、あまりに当たり前な問い。

 

「ふん、今更か?」

 だがその問いには、呆れたような大賀の返し。

「そう思うんだったら、ハナから反リカトリジオス同盟など組まなきゃ良かっただろうよ?」

 

 違う……、と、そう叫びかけるが、上手く声にはならない。

 確かに反リカトリジオス同盟は俺が作ったワケでもねぇし、俺も加わってるワケじゃねぇ。だが、カリブルをはじめとする同盟の連中と共に、幾度となくリカトリジオスとぶつかり、その策略、作戦を妨害し、潰してきたのも事実だ。

 

「“不死身”のタファカーリの奴をお前が潰したってのは、俺たちにとっては“朗報”だった。だが、そうなりゃ奴の戦略を引き継ぎ発展させたシューが、お前を含めた“砂漠の咆哮”の反リカトリジオス同盟を潰しに行かなきゃ面子が立たない。

 リカトリジオスは、決闘もそうだが、面子にも拘るからな」

 

 “不死身”のタファカーリの廃都アンディル拠点化策は、南征を止めて東征……つまりはクトリア方面へと進軍する策の要だったと言う。

 なら、それを引き継いだと言うシュー……静修さんは、やはり東征を基本戦略としているんだろう。

 なら何故今、残り火砂漠の南方のサーフラジル、ラアルオーム、そして“砂漠の咆哮”の野営地にこの農場を攻撃する必要かあるのか?

 それが……面子のことも含めて、“反リカトリジオス同盟”を潰しておく為だけと言うのか……?

 

「……静修さんは……」

 その疑問への問いではない言葉が、俺の口から漏れ出ていく。

 

「リカトリジオスからは抜けられねぇのか?」

「抜ける? 何でだ?」

 お互いに道は別れた。だがそれでも、静修さん達がリカトリジオスにさえ居なきゃこんな風に争い合う必要はなかった。

 だが大賀の答えは簡潔かつシンプル。

 

「リカトリジオスから離れる理由の方が無い」

 

 つまり、大賀も、猪口も、そして静修さんも、今のリカトリジオスの在り方、その中で自分たちが“出世”し、勢力を伸ばして行くことを、完全に受け入れている……ということだ。

 

「だいたい、お前らはこんな猿共の街で呑気に畑仕事なんざしてるから分かってないみたいだがな。

 そもそもこの世界……獣人種や俺らの生きて行ける場所は、元から少ない」

 

 

「俺は“オーガ”と呼ばれる種族だそうだ。人間からは“食人鬼”と呼ばれてる。ふん……まるで害獣扱いだな」

 大賀はそう言いつつ、両手で顔を撫で下ろす。

 

「俺たちをこの世界に生まれ変わらせたあのジジイは、相当悪趣味な野郎だ。どいつもこいつもろくな生まれ変わりはしちゃいない。

 食人鬼(オーガ)として生まれ変わり、クトリアの邪術士の実験材料にされてた俺が、あのまま地下に残ってたら恐らく“害獣扱い”のまま殺されていた。

 俺が今ここで生きてるのは、間違いなくシューの導きに従ったおかげだし、この世界の人間社会に居場所の無い俺が生きてくには、リカトリジオスで地位を上げて行くのが一番良い。

 そこは、俺も、シューも、イーノスも同じだ。お前らにしても……その方が良かったかもしれんがな」

 

 三年……。

 俺らの知らない静修さん達の三年。

 その間に何がどうしてこうなってるのか俺にはわからねぇ。だが、外側から見るリカトリジオスの在り方からは、マトモなトコロにゃ思えねぇ。

 

「あんたらだって、ココで畑仕事しながら酒造りして過ごす事だって出来るんだぜ」

「ハッ!」

 俺のその言葉に、大賀は鼻で笑って返す。

 

「そりゃおまえ、役不足ってやつだ。

 俺やシューの持つ力は、それよりデカい事に使うべきだ。そうだろ?」

 

 岩みたいにいかつい大賀の顔立ちは、基本は人間に似てはいるものの、獣人たちのそれみたいに表情が読めねえ。だが今のは簡単に分かる。

 

「そのデカい事ってのが……コレか?

 辺鄙な農場を襲い、ぶっ壊す事か?」

 

「これは手始めで、見せしめだ。

 東征する上で、廃都アンディルを拠点化すると同時に、後顧の憂いを断つ必要があった。

 一番は“砂漠の咆哮”だ。その中の反リカトリジオス同盟とやらもな。

 “砂漠の咆哮”自体は領地を持たない流れ者の集団だが、だからこそ神出鬼没にチョロチョロ動き回られちゃあ困る。今回の作戦じゃ、ラアルオームの野営地だけじゃなく、“砂漠の咆哮”が利用してる全ての野営地を、リカトリジオス軍が急襲し壊滅させている。

 アールマールの猿獣人(シマシーマ)は砂漠に進出しないし、それより南の蹄獣人(ハヴァトゥ)部族も問題にならん。猫獣人(バルーティ)中心の“砂漠の咆哮”だけが、残り火砂漠周辺の邪魔者だった」

 

 全ての野営地……。“砂漠の咆哮”が常時利用している残り火砂漠内の野営地は、20以上はある。

 そこの常駐兵力は“砂漠の咆哮”の戦士だけではなく、狩人や隊商護衛なんかも含めれば相当なものだ。リカトリジオスが兵力を分散させて同時に攻めたというのなら、そうそう簡単に落とせるもんでもねえはずだ。

 だが……。

 

「内通者か……」

 

 カリブルの従者、アラークブの顔が思い出される。

 内通者を先に忍び込ませ、また作り出しての作戦行動ってのは、サーフラジルでもやっていたリカトリジオスの常套手段。

 特に“砂漠の咆哮”の野営地は、隊商、狩人、商人、野鍛冶師と、普段から利用する者達が多い。

 その中に内通者を仕込むのは、そう難しい話じゃあねぇ。

 

「ああ、だからお前らの動向も筒抜けだった」

 こっちは暗中模索、手探りしながら何とかリカトリジオスの動きを探ってたが、リカトリジオスは……いや、静修さんはそうじゃ無かった……て事か。

 

「それにな……」

 ここで、大賀はその横に立ち尽くしていたダーヴェの肩をポンと叩く。

「田上の奴は、元からシューの部下だ」

 

 言われて、俺はギョッとしてダーヴェの方を見る。

 やはり元から表情の読めない犀人(オルヌス)の顔からは、何の感情も伺えない。

 


「どういう事か分からない……て顔だな。ま、そうだろう。

 だが、今のまんま言葉通りの意味だ。こいつはもとよりシューの部下。そしてそいつは前世でも現世でも、てことだ」

 

 前世でも、現世でも……?

 混乱する。どっちの事も、意味が分からねぇ。

 

「田上の家は貧乏子沢山で、スポーツ特待生になれたつっても、レスリングに専念しようとすりゃあ負担になる。そこを援助したのが宍堂家だ。

 その代わりに、宍堂の親父は田上に、お前の友人になって監視役をするよう頼んだ。その報告を受け、指示をしてたのはシューだ」

 

 アマレスのスポーツ特待生。しかも田上は猪口と違ってかなりガチで取り組んでいた。

 その田上が、いくら人付き合いに長けた樫屋を間に入れたとは言え、俺みたいに周りから疎まれ嫌われていた厄介者の不良と連むようになる……。

 その事を、妙だと思ってなかったと言えば嘘になる。

 

 だが、ガチガチの体育会系でスポーツエリートの割に、妙にヌボーっとした所のあるつかみどころのない田上の性格もあり、初期に感じていたその疑問はすぐにどこかへと消えた。

 

 だが……。

 

「マジか、田上……」


 俺のそのか細く弱々しい問いに、やや間があってから、

 

「ゾうだ……」

 

 と返ってくる。

 

「さっき、現世でもと言ったよな。

 お前はもしかしたら、俺達全員ただの邪術士の奴隷か実験動物だったと思ってたかもしれないが、一部は違う。シューにイーノス、そして田上……。

 こっちは奴隷や実験動物じゃなく、それを管理する看守役だった。

 そしてシューは、その中でも隊長格。元々、田上もイーノスも、その部下としてお前らを管理したり、逃亡奴隷や侵入者達を捕らえ、追跡し、場合によっちゃあ処刑する……。

 そっち側の立場だったんだよ」

 

 “不死身”のタファカーリの話を思い出す。奴は邪術士専横時代のクトリアへと侵入し、捕らえられている犬獣人(リカート)猫獣人(バルーティ)などの獣人種達を解放する作戦に従事していた。だが、それを追跡してきた敵部隊の中に、巨大な蹄獣人(ハヴァトゥ)が居たとも言う。勿論、それがダーヴェかどうかは分からねぇ。

 そして仮それがダーヴェだったとしても、それは前世の……田上の記憶を蘇らせる前の事だろう。

 

「そんななァ……どっちも“前”の話……だろ?」

 俺はそう返すが、だがその声に力はねぇ。あるのは虚勢と、不信と、焦燥感。

 

 現世での、田上としての記憶を蘇らせる前の事は……どうでも良い。だが、前世での事は……どう受け止めて良いのかすら分からねぇ。

 

 俺の血縁上の父親、宍堂静太郎が金で付けた監視役……。

 その話が本当なのか……本当なら……いや……。

 

「マジー……」

 

 再び、ダーヴェがそう言葉を向ける。

 

「戦ヴな……勝ヂ目ヴぁ……無い」

 

 降伏し、リカトリジオスに降れ……。

 そう言う事か?

 

「そう言う事だ。

 降ればどうあれお前らは助かる。特に……真嶋、お前は“不死身”のタファカーリのとこで“血の決闘”をして勝ってるらしいしな。そこそこの好待遇で入れるだろう。

 田上も……まあ問題なく勝てるよな。お前のその犀人(オルヌス)の肉体に、前世で培った技もありゃ、リカトリジオスの十人隊……いや、二、三十人隊程度なら素手で蹴散らせるだろ?」

 

 ああ、そうだろうな。強い事、決闘での勝利。それはリカトリジオスで最も尊ばれるものだ。

 

「───カリブル……猛き岩山(ジャバルサフィサ)の連中はどうなる?」

 俺たちの農場の隅、岩ばかりの荒れ地に住むブサイク面とその部族……、そして助け出した少年兵や奴隷兵たち。

 

猛き(ジャバ)……ああ、脱走兵どもか。

 奴らはダメだ。脱走兵、脱走奴隷は全て処刑。これは動かせん」

 

「マハ……女たちは?」

「女はリカトリジオス兵にはなれん。奴隷だ。だが、お前のお気に入りのオンナがココに居るなら、決闘で勝ち取ることでお前の専属奴隷に出来るぞ」

 

 ……まあ、そうか。そうだろうな。聞くまでもねぇ、知ってたぜ。リカトリジオスがどんな所で、どんな原理で動いて居るか。

 そりゃ、当然……。

「……そんなモン……」

「よグ、考えロ、マジー……」

 ぬぅ、と、俺の眼前へと迫る巨体。ダーヴェはこちらの呼吸を盗むかに、いつの間にか俺を射程圏内へと収めてる。

 

「いいガ、勝ち目ヴぁ、無い。だガら、戦ヴな」

 そしてダーヴェの野太い腕が俺の襟首を掴むと、そのまま持ち上げた。

「……てッ……てめぇ……ッ……!?」

 じたばたともがくが、がっちり掴まれ手も足もでない。

 

「いいガ、何があッデも……戦ヴな……逃げろ」

 最後に一つ、そう小声に耳元で呟くと、そのまま右手を振りかぶって遠くへと俺を投げ飛ばした。

 

 

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