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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-141.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー(68)「う~ん……諜報組織が欲しい」


 

 場所としては赤壁渓谷のやや奥まった谷間。族長の天幕があった野営地の中心地からは、大雑把には1ミーレにやや満たないほど。まあ1キロちょいぐらいは離れているか。野営地の中心近くとは言えないが、普段彼らが水源としている川との距離と比べればかなり近い。

 そこへの案内役はどなたかといえば、もちろん僕の使い魔である精霊獣、水馬ケルピーのケルッピさん。

 

 水の精霊獣のケルッピさんは、【水源探査】の魔法が使え、遠くからでも川や湖を見つけることができる。そしてその探査できる水源は地表に表れてるものだけに限らない。つまり地下水脈の場所を見つけることもできるのだ。

 全体としては山間の渓谷である赤壁渓谷には、当然地下水脈自体は豊富にある。ただ、どこまで掘ればそこに突き当たるのかというのが問題で、人力で簡単に掘れるような深度にはなかなかなかったりするワケだ。

  

 で、お次は熊猫インプの出番。

 

「えーと……ここ? こっち? ここから……分かった。じゃ、よろしく~」

 

 ケルッピさんの特定した地下水脈の位置を、魔法のツルハシでカンコンキンと掘り進める熊猫インプ。穴掘り採掘はもともとインプの得意技で、さらにはダンジョンバトルの時にもやりまくってたもんだから、ますます得意になっている。

 ついでに魔法のつるはしを使えば、人力ではとても掘り進めないような硬い岩盤だって、時間をかけさえすれば結構掘れてしまうのだ。

 

「これで……どれぐらいかがるのだっぺが?」

「う~ん……どうでしょう? 水脈の深さは大まかにしか分かりませんし。まあそれでも、何日もかかるって事はないかなー……って感じですかね? 深夜か、遅くとも明日の朝にはなんとか出てるかな」

 

 結局僕らは、カーングンス達が水源としている川に毒を仕掛けられた事への対抗手段として、新たに井戸を掘ると言うことにした。ここならば川と違い、井戸の場所さえ見張りをつけて監視しておけばそうそう毒なんぞを仕掛けられることもない。

 ただ遊牧民である彼らには、元々井戸を使うという文化がない。厳密には何カ所かの湧き水を井戸として整備したりはしてるそうだけど、井戸を掘る、という文化がない。

 彼らの生活は季節毎に家畜の餌場に合わせて移動するのが基本で、今現在の野営地もいくつかある野営地として使う場所の一つに過ぎない。時期が来れば別の場所へ移動し、そこで放牧、狩猟、採取をしながら天幕を建てて生活する。

 

 その辺含めて、今後の事を考えるのならば野営地として使う土地のすべての場所に井戸を掘るというやり方もある。とはいえ今回はそこまではできない。まあいつか機会があれば……というところだ。

 

「少なくともこの井戸がきちんと完成すれば、この近辺に居住している間は飲み水の安全は確保できると思います。もちろん、リカトリジオスの工作員に狙われないよう十分な警戒が必要ですが」

 

「警護はオレらの持ぢ回りでやる」

「それど、この谷間の入り口辺りに若巫女様とオレ等の天幕を移すこどにするしな」

 つまり、彼らの天幕のある場所を通過しなければ井戸には至れない、と。

 

「それに、若巫女様なら毒の浄化をする呪法が使える。万が一毒を使われでも、なんとが出来っぺ」

 

 水源への毒の混入を防ぎつつ、混入されてもある程度の浄化ができる。毒の仕掛けが見つからず、広範囲に毒が広がっている川とは違い、水源がはっきりしてる井戸ならば浄化も容易い。現時点でできることとしては最善だろう。

 

「だが、仮にリカトリジオスの工作員が、交渉を有利に進めるため、またはクトリアとの結びつきを断つために、カーングンスへの破壊工作を狙ってるなら、他にも色々行ってくるかもしれん。

 例えば……そうだな、牧草地に毒を撒いて家畜を弱らせ、殺したり……てのも考えられる。他の攻撃にも警戒は必要だな」

 とのイベンダーの言葉に、

「や~っぱよォ~、 隠れてる工作員とっ捕まえてボコっちまった方が早えんじゃねえの?」

 とアダン。

 

 それに対しては、

「難しい所だぞ。この広い台地、渓谷で数人の工作員を探し出すのもそうだが、その工作員を全部始末してしまえば、奴らは新たに別の工作員を送り込み、別の攻勢に出てくるかもしれん。

 工作員がいることを前提に細々とした妨害を防ぎ続けるのと、そいつらを始末して、次にある大々的な攻勢を招くのと、どちらが対処しやすいか……」

 とエヴリンドが返す。

 

「気遣い助力には感謝する。だがこれ以上はオレ達で何どかするよ。奴らがどーた手を使ってぎでもオレだぢが防いでみせる」

 マーゴのその言葉に、他のカーングンス達も頷く。

「……何よりおめ方は既に私の命を救っている。そしてさらにこの井戸だ……。もし他のカーングンスの同胞が、リカトリジオスどの同盟を選び、おめ方へど矢を向げる事になっても、私達だげは必ずおめ方の恩義に報う」

 若巫女様ジャミーのその言葉に、さらに周りのカーングンスが頷き返す。

 

 ただ……どーだろう?

 ヒドゥアに誓っての内密な話だから、その内容は今ここではジャミーと僕とエヴリンドしか知らないし話せない。けど、カーングンスの過去と母ナナイとの関係等々、そういった諸々の話を含めて考えると、この先彼らがリカトリジオスと同盟を組むというのは正直考えにくい。

 うーん、しかし、カーングンスの過去は別として、アーブラーマ・カブチャル・カーンと母のナナイが旧知であることぐらいの情報は、話しても問題ないような気がするな。その辺はちょっと後で確認しよう。ここまで秘密にしてると、なんか後々めんどくさいことになりそうだ。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 井戸掘りそのものは深夜までかかり、その間に若巫女様達の天幕の移動もさせる。

 土魔法で囲いを作り、はねつるべなどの仕掛けは、まあ彼らにおまかせ。作り方に関しては“再読の書”を使い設計図的なものを読み出して別紙に書き写しておいた。まあ、頑張って下さい。

 

 翌朝、治癒術のおかげもあり、アダンの顔の腫れも引いてきて、僕らは一旦モロシタテムへと戻る事に。

 ヒドゥアの誓いの内容も再度確認し、母ナナイとカーングンスの関係の一部に関しては口外しても問題ないと確約。

 

 今回の一件は、成果も課題も多く、今後の予定について色々と変更修正が必要な気がする。

 

 まずはカーングンス達との取引と、さらには同盟の可能性ができたというのは大きい。

 政治的なことを言えば当然ながら、リカトリジオスとの同盟をせず、クトリア共和国との同盟をしてもらえるのが一番ありがたい。

 というか考えれば考えるほど、リカトリジオスとカーングンス達との同盟が成立してたら、致命的なまでにやばいんだよね。

 帝国式で集団戦闘に強い精強な歩兵部隊を抱えるリカトリジオスと、巧みな馬術と騎射の技を持つカーングンス遊牧騎兵……。

 その両者に西と東から攻め立てられれば、クトリア共和国は完全な袋のねずみだ。

 

 と同時にやはりこの動き、リカトリジオス側がクトリア攻めに強い意欲を持っている事の証左でもあると言える。

 その狙いは何か? いやつまり、クトリアを攻め落とすことにどのような利点を感じているのか?

 それはやはり魔力溜まり(マナプール)にあるのだろう。

 というかぶっちゃけ、魔力溜まり(マナプール)以外にクトリア攻めをする利点が考えられない。

 なにせちょっと前まで……と言うか、今だってほぼ瓦礫の山に人が住んでるだけの町ばかりで、産業らしい産業もありゃしないんだからね。

 

 そしてもう一つ……。

 “災厄の美妃”の持ち手と思われる刺客の存在。

 

 ロジウス・ヴォルタスの話では、おそらく“災厄の美妃”の持ち手であろうと推測されていた、顔に大きな傷のある猫獣人(バルーティ)は、数年前に死んでいると言う。

 事細かな詳細までは聞くことはできなかったけれども、もしその話が本当ならば、僕たちを襲撃したのは本当の“災厄の美妃”の持ち手ではない……か、あるいは新たなる持ち手ということになる。

 “災厄の美妃”はその持ち手を次々と変えてゆく呪われた武器だ。その条件が何なのか知らないが、テレンスの話では“血の髑髏事件”の際には別の持ち手が、当時のティフツデイル王国の英雄、マグヌス・ドラゴネティス将軍を暗殺したらしい……とのこと。

 それが約6年前。それから程なくして代替わりをし、更にもう一度代替わりをしたとなると、なかなか過酷なヘビーローテーションではあるけれども、それが早いのか遅いのか、それとも持ち手の代替わりとしては通常通りなのかは分からないが……ありえないと言える根拠もこちらにはない。

 

 リカトリジオスの狙いと動向。

 “災厄の美妃”の背景と持ち手の情報……。

 何よりその“災厄の美妃”の持ち手の動きが、リカトリジオスの戦略と合致しているのかどうか……そこが問題だ。

 

「う~ん……諜報組織が欲しい」

 

 かねてからの懸案であるそこに行き着く。

 

 それらの諸問題について頭を悩ませつつ、再びアーブラーマ・カブチャル・カーンへと別れの挨拶を述べ、僕らは各々ラクダやケルッピさんへと騎乗し出立の支度。

 

 と、そこで……、

 

「さあ、新たなる旅路へいざ行がん!」

 

 僕らと並んで馬に跨る二人の人物と、さらに二騎。

 厳密には一頭の馬に二人の人物の乗った騎兵と、それを囲む二騎だ。

 二人乗りの一人、手綱を操るのは若巫女様の付き人をしていたマーゴ。何故か苦々しいような顔をしている。

 そしてその後ろに乗っているのは、マーゴより頭二つほど背の高い一人の青年、アーロフ・カブチャル。

 

「……あれ、どちらへ……?」

「どぢらへ……とは、面白いごど言うなあ、レイフ殿。俺はカーングンスの外交官兼情報担当だ。

 当然、今後の条約締結を前提に、そぢらへど交渉に行ぐに決まってっぺ?」


 ……言われてみれば至極当然の話。


「何にしろ、噂に名高えクトリア貴族街のお楽しみどやらは、今がら楽しみだな!」

  

 ───遊ぶ気満々ですやん!?

 


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