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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第一章 今週、気付いたこと。あのね、異世界転生とかよく言うけどさ。そんーなに楽でもねぇし!? そんなに都合良く無敵モードとかならねえから!?
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1-28.野営地跡での会談(2)「ごめん、俺、ちょっと意味、分かんない」


 

「───そう言うことか……」

 初めて、ここに来て初めて。ユリウスさんから本心と思える驚愕の表情が漏れ出る。

 言いながら、ユリウスさんは右耳に付けられた魔装具に手をやり、思案顔。

 この動作は、【伝心の耳飾り】に魔力を通している仕草だ。

 以前幾つかをトゥルーエルフの地下墓地で見つけてきたというそれは、セットになっている耳飾りを身に付けた者達同士で、言わば無線のように離れた場所でも思念での会話を可能とする。腹心達は皆一様に同じ魔装具を着けていた。組織内での無線通信ネットワークは完成している。

 今、おそらくは先程待機させておいた賢者(セージ)と思念でやり取りをしている。

 賢者(セージ)のもの見えぬ眼には、レイフの“二重の魂”……つまり、転生者である証……と思われる現象が視えているのか……を。

 

「……で、それで何を話したいンだ?

 お互いの子供の頃の思い出話でもするか?

 よくやった遊びや、何歳までサンタを信じてたかに、初恋の相手は誰かとか好きなテレビやアイドルの話でも?」

 同じく日本語でユリウスさんがレイフに返す。

 

 多分、ユリウスさんはレイフがここに来てその事を持ち出して来たことの意図を計りかねている。

 俺だってそうだ。誰だってそうだ。

 銀ピカさんもセロンも事の展開にやや戸惑っている。タカギだけは変わらずにプギプギ安らかに寝ている。

 二人とも俺との会話を含め、ユリウスさんが時折、エルフ語でもオーク語でも帝国語でもない、全く未知の言語で会話を出来ることは知っているハズだ。

 そして多分彼らユリウスさんの腹心達他、この群れのゴブリン達はユリウスさんの“高い能力”を全面的に信用していて、今更自分達の知らない言葉を使いだしてもそれ自体を妙だとも思うことはないだろう。

 しかしとは言え、ここに来てのこの展開に関してはやはり想定外だろうとは思う。……俺も想定外だったし。

 

 では、レイフの輿を運んできたローブ姿のダークエルフ達はどうなのか、と視線をやるも、フードを目深に被っていることもあり、何かしらの反応、変化があったのかどうかも見て取ることは出来ない。

 交渉の全権を任せられていると言う話だから、既にこれらのことも織り込み済みではあるのだろう。

 

「まずは僕から、情報の開示をする」

 レイフが切り出す。

「僕の【固有スキル】について、だ」

 

 え? え? 何て? 今、何て!?

 突然のその話題に、俺は多分口をあんぐり開けて固まった。

 あるの、それ! 聞いてない聞いてない! いや別にあらゆる全てを教えてもらっていた訳ではないけども、そういうのあるなら結構序盤に教えてくれてても良くない!? 良くなくな~い!?

  

「……ほう」

 リトルパニクる俺を後目に、渋い顔でそれを受けるユリウスさん。

 僕ら三人にしか出来ない話、と言いつつも、もうこの時点で俺だけ置いてけぼり感がハンパ無い。

「僕のスキルは───【忘れ得ぬ世界記憶アンフォーゲタブル・ワールド・メモリー】。

 この魔術具の本に、この世界のありとあらゆる出来事の記憶が記され僕だけがそれを参照する事が出来る」

 懐から取り出した、厚い革張りの本。そう言えばいつも、レイフは懐にその本を持ち、度々それを読みながら話をしていた。

 まさかそれが、そんな非戦闘系のチートスキルの関連アイテムだったとは……!?

 

「そして念の為付け加えると、このスキルを貴方が“奪った”としても使えない。

 このスキルにはアーティファクトのこの本が必要で、しかもこれは持ち主の魔力でしか開かない。他人が開くことは出来ないんだよ。

 つまり、現状としては僕にしか使えないスキルだ」

 

 スキルを奪う……というのは、ユリウスさんの言う彼の特殊な固有スキル、【捕食吸収】を指しているのだろう。

 であれば、少なくともレイフはユリウスさんのスキルについては既に把握して居るのだ。

 

「なる程……、俺のスキルについては知っている……てか?

 じゃあ一つ聞きたいんだが、コイツのスキルは、その【忘れ得ぬ世界記憶アンフォーゲタブル・ワールド・メモリー】とやらには載っているのか?」

 コイツ、つまりは俺、を指さす。

「彼にはまだスキルは生えてない。おそらくまだスキル派生条件を満たしていないんだろう」

 まだか!? まだ、だったのか!?

 じゃあ俺にもこれからチートスキル発生の可能性アリなのか!?

 期待感も上がってくるが、混乱の方が大きい。

 半信半疑だったユリウスさんの言う「転生特典チートスキル」のことを、レイフのこれらの言葉で肯定されてしまったのだ。

 

 ユリウスさんは、というと……やはりどうにも判断しかねている、というべきか。

 余裕な態度を見せたいようだけども、やや精彩を欠くようにも見える。

「その本には書かれてないのか? コイツのスキル発生条件は?」

「残念ながら、僕の【忘れ得ぬ世界記憶アンフォーゲタブル・ワールド・メモリー】は、“既知の事実”しか書かれない。

 だから、誰かの心の奥底に秘められた秘密や、まだ起き得ていない、確認されていない現象については分からないんだよ」

 万能でも全知でも無い、ということか。

 

「良いのか? それはお前のスキルの弱点じゃないのか? そいつを俺になんかバラしちまって?」

 俺も思った。何故こんなにもレイフは自分の秘密ともいえる事をバラしているのだろうか。俺にも秘密にしていたのに?

「僕はこのスキルで貴方の秘密を既に知っている。だから、貴方がこの位の事を知っても、まだ情報の非対称正においてはフェアとは言えない」

 情報戦においては、既に完全に上回っている、と宣言している。

 それが事実なら、ユリウスさんが事前に仕込んでいたかもしれない様々な策略は、全て看破され対策を打たれている……ということになる。

 この場にこうして堂々とやってきたのも理解出来る。

 

 僅かに。僅かにだが、ユリウスさんに焦りの色が見える。

 全てに対策を練られて居たとすれば、こここの場においての「開戦」は、あまりに不利だ。

 

 ユリウスさんはやや大袈裟に肩をすくめ、

「なーる程ね。表に出るにはそれだけの準備はしている……と言うことか」

 と言いながら、どっかと腰を下ろした。

「それじゃあ俺の方から改めてお前に言うようなことなんか何も無いンじゃあないか?

 お前は既に、俺の手の内は全て分かって居るんだろう?」

 まるでお手上げ、と言わんばかりに、胡座をかいて両手の平を上に向ける。

 

「そうであれば話は簡単だけどもね。

 けど、僕が貴方と話したいのは、これまでのことではなく、これからのことだ」

「ほう? それはどういう意味だ?」

「改めて、まずはそうだな……貴方の目的について、だ」

 

 目的……。

 ユリウスさんは俺の前で宣言している。

 この世界に覇権を求めているのだ、と。

 既に口にしている以上、レイフもそのスキルで知っているハズだ。

 

「改めて言う必要はあるのか? もう“知って”るんだろう?」

 ユリウスさんも俺と同じように思ったらしく、そう返す。

「改めて貴方の口からちゃんと聞きたいのは、“思想”に関してだ」

「思想?」

 思想?

 ……さっきからユリウスさんと俺の思考がシンクロしている。

 

「同じ目的、同じ行為をしている様でも、その根底にある思想によって意味合いはまるで変わってくる。

 だから僕は、貴方の根底にあるものを聞きたい」

 表情一つ変えず、淡々とそう述べるレイフに対し、ユリウスさんはやや眼を細めると、

「……なら、まずは逆に聞く。

 お前の目的とその思想とやらは何だ?」

 

 ……確かに、それは俺も気になる。

 レイフは初めて会った俺に対しても親切で、前世の記憶の覚醒したばかりで勝手の分からないで居る俺がこの世界できちんと生きられるようにと様々な手助けをしてくれた。

 けれどもそれが何故なのか、どんな目的によるものなのか……。

 そのことを俺は全く知らない。

 

 ここに来て、今度は初めてレイフの表情に変化が出た。

 右手を軽く顎に当て、やや小首を傾げるような仕草で暫し思案顔。それからおもむろに、

「……最もシンプルな“目的”は、“この世界で楽しく生きること”……に、なるかな」

 と答える。

 それを聞くとユリウスさんは、ハッ! と笑い声を上げ、

「そりゃ良いな。これで“この世界に平和をもたらすことです”とか言い出された日には、どうしてやろうかと思ったぜ」

 楽しげに言う。

「流石の僕も、そこまで“傲慢”じゃあないよ」

 

「それで、具体的には何をしたい?」

 ユリウスさんは姿勢を前のめりにして食いついている。

「それは……元々のこの世界で生まれ育ってきていた『ダークエルフのレイフ』とも、『向こうの世界の僕』とも共通していて、『ダークエルフのレイフ』はその為の勉強も色々としていたのだけども、一つには『街づくり』をしたいんだ。

 ダークエルフの集落は、木々とその地下を魔法で加工して造られている。

 それをさらに工夫し発展させて行きたい」

 確かに、そんな話を前にも聞いていた。

 

「……なーる。

 お前アレか。経営シムとかそっち系が好きだったクチか?」

 動物園とか遊園地とか、コンビニとかレストランとか、もっと大きなくくりでは街とか国とか文明とか、仮想の箱庭の中に自分好みの施設を作り、経営して利益を出し発展させる。

 そういうタイプのシミュレーションゲーム。

 確かに、レイフはそういうのが好きそうなタイプだなあ、と思える。

 

「まあね。

 シム系、タイクーン系はあらかたやったし、中世の城塞都市経営するとか、ダンジョンを造るなんてのもやり込んだよ」

 俺はその手のヤヤコシイ系はぶっちゃけ苦手だった……気がする。

「つまり、『リアル街づくり箱庭経営シミュレーションゲーム』をするためには、ダークエルフ郷の氏族長の子、という地位は捨てられないわけだな」

「それは勿論」

「なら、話は早い。

 お前も、俺につけ」

 再び、今度は両手を広げて迎え入れるかのようにして、ユリウスさんが宣言した。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「正直俺のところには今、行政官が居ない。

 内政を出来る人材が足りねえのさ。

 俺だって元人間としての知識も知恵もある。だがゴブリンにどんだけ教えたところで所詮はゴブリン。たかが知れてらぁな。

 その点、お前らダークエルフは戦うことよりは魔法とか政治とかの方が得意なんだろ? その上お前の【固有スキル】がありゃあ、この世界の情報戦じゃあ負ける事なんざあり得ねえ。

 俺たちが組めば、思った以上に早く確実にこの世界のテッペン取れるぜ?」

 

 ユリウスさんの思考はあくまで覇権ありき、のようだ。

 俺が転生者だと知ると俺を誘い、そして今はレイフのことも誘う。

 当初の計画では、ダークエルフ達を侵略し力づくで支配下に治めて、それから闇の森外部へと侵攻していこうと考えていたらしいが、同じ転生者で、非戦闘系ではあるが超強力なスキル【忘れ得ぬ世界記憶アンフォーゲタブル・ワールド・メモリー】とかいうものを持つレイフの事を知るや否や、全く180度反対の方向転換を図る。

 なんというか……凄く柔軟だ。

 

 それを受け、レイフは右手を前に出し押し止める。

「だからこそ、貴方の“思想”が重要なんだ」

 結構な勢いを押しとどめられ、ユリウスさんはやや鼻白んだ様に眼を細めると、

「ふーん……。

 まあ、思想……思想ねぇ~~……」

 結構あからさまに白けた様な反応。

 

「ま、別に俺だってお前とそうは変わらないぜ?

 何がどーしてこーなったかは分かンねェけど、こうやって別世界に生まれ変わってすげェ力手に入れたんだから、第二の人生は目一杯楽しく生きてやろう、ってーだけだ。

 ま、てか人生っつーかゴブリンだからゴブ生? 

 あー、俺ら全員人間じゃねェか。ゴブ生、オーク生、ダクエル生?」

 うん、なんとなくリズミカル。

 

「その上での取捨選択はどうする?

 君の前世も多分、僕らとそう変わらない時代、変わらない環境だったみたいだしね。

 いくら生まれ変わって『人間を辞めた』ところで、半分は前世における人間としての価値観や意識、感覚が残っている。

 君の覇権主義を押し進めれば当然、人間の勢力とも争う結果になるだろう?」

 実際には、まだ小競り合いという段階だが、既にそうはなっている。

 

「そりゃまあ、最初から抵抗感が無かった……と言えば嘘になるわな。

 けどこの世界は前世の平和ボケした状況とは全く違う。だろ?

 命の価値は低いし、群雄割拠で弱肉強食だ。

 相手が人間だろうとそうで無かろうと、殺し合いになったときに命を黙って差し出してやる気はさらさら無いぜ」

 弱肉強食。

 ユリウスさんはよくこの言葉を口にする。

 俺のように転生してからも安全に守られていた訳ではなく、独りきり、ゴブリンの群の中で生き抜いて来たことからの実感なのだろう。

 

「政治的不安定に関しては確かにそうだ。それに僕だって当然“殺されそうになって”も戦わずに済ませられる程“強く”はない。

 帝国が壊滅して30年にはなるけど、その間帝国に変わる安定した政治体制は生まれていないし、曲がりなりにもある程度の秩序を保って居るのは本当にごく一部でしかない」

「だから、俺がやるのさ」

 自信満々にユリウスさん。

「新たな帝国創りを、な。

 俺は過去の残骸を壊し尽くす。

 お前は新たな街でも国でも創りまくれ。

 破壊と再生だ。

 この世界で邪悪だ呪われただのと蔑まれている俺達が、下克上で成り上がってやんのよ」

 成り上がり、とか、下克上、というのもユリウスさんがよく使う言葉だ。

 元々ゴブリンの群の中で下位の若手だったところから、旧リーダーを打ち破っていることがユリウスさんの原点でもあるからだろう。

 

「その辺り……幾つか認識の齟齬があるんだ」

「あぁ?」

 齟齬?


「確かにこの世界では、一般的にゴブリンは邪悪で野蛮だとされている。

 けれども、ゴブリンという種族そのものが、本質的に邪悪ということはない」

 

 レイフのいうこの理論は、何度か俺も聞いている。

 

「そもそも、『生来的に邪悪』とは何なのか?

 という話でもある。

 『生来的に凶暴』というのなら分かる。

 凶暴さというのは簡単に言えば脳内で闘争に関わる麻薬物質がより多く分泌される、ということであったり、いわゆる遺伝的な本能に根ざす行動に依るものでもあるわけだからね」

 レイフが突然、これまで以上の饒舌さで語り出した。

 

 こういうときのレイフを良く知っている俺からすると、「あ、始まった」という感じだし、同時に「え? 今その蘊蓄必要?」とも思うが、ユリウスさんの方はというとかなり面食らっているようだ。

「例えば熊やライオンは、群のリーダーが打ち倒されたり、或いは目当ての雌が子育て中だったりすると、その時点で生存している『他の雄の子』を殺してしまう。そうすることで、雌が子育て中の母ではなくなり、新たに子を得ようとする為に発情を始め、それでようやく自分自身の種付けが出来るようになるからだ。

 これらの行為は、『人間的』な尺度で捉えれば、『邪悪で凶暴で野蛮』に見える。

 けれどもそれは単に、『個体として自分の遺伝子を残そうとする本能』に忠実なだけでしかない」

 

 何ートン博士動物記だよ!? 

「邪悪、だとか、野蛮、だとかの価値尺度は、あくまで『人間的』なものでしかなく、その尺度でゴブリンを語るのであれば、それは前提として『ゴブリンは人間と同等かそれに準ずるだけの知性と文化を持っている』という立場にならなければならない。

 つまり、人間がゴブリンを自らと同等な存在であると受け入れない限り、ゴブリンの行い、習性を善悪正邪で語ることは出来ないんだよ」

 

 止まらない弁舌に、ユリウスさんがやや慌て気味に、

「いや、待て待て待て、ちょっと待てって。

 御説ごもっとも、よく分かった。しかしそれは……今重要か?」


「この上なく」

 

 何を当たり前のことを、と言わんばかりのレイフ。

 

「ユリウス・カエサル。皇帝の名を掲げ、人間の知性を持つゴブリンという立場で覇を唱える君にとっては、これはこの上なく重要な問題なんだよ」

 

 ごめん、俺、ちょっと意味、分かんない。

 

 

 







 ……え? 戦争?

 そんなん全然まだまだですよ?


 そして恐らく明日にはまた続きをアップ出来ると思いますが……戦争? そんなん全然まだまだですよ?



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