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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-126.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー(56)「なんとも貴重な人材」



3-126.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー(56)「なんとも貴重な人材」

 

 カーングンス遊牧騎兵。

 巧みな馬術と騎射の能力で知られる、勇猛果敢な遊牧民。

 彼らは東方人、シャヴィー大帝国のティフツデイル侵攻の際に従軍し、けれども滅びの七日間とシャヴィー大帝国の崩壊後、混乱渦巻く元大帝国の版図へとは戻らず、クトリア東方に居残った部族だ。

 

 彼らの存在は、モロシタテムにとっては長年厄介の種ではあった。

 かつてはクトリア東方の玄関口として繁栄していたモロシタテムだが、東方人の侵攻、そしてモロシタテム経由で大山脈の“巨神の骨”を迂回してのかっての帝国版図へとの交易路は、彼らカーングンス達により塞がれてしまった形になっている。

 そのため、王国軍管理による王国領とクトリアとの転送門交易が開始されるまでは、ほとんど交流が途絶えていたのだ。

 

 門を潜りそのまま町の広場にまで案内されると、中には手に手に武器を持った町の住人に、恐らくは狩人たち。

 狩人は狩人ギルド管理の元、センティドゥ廃城塞の内部の盆地、別名ドリュアスの森に狩猟に行く事が増えてきたのだけども、その経由地としてこのモロシタテムへも頻繁に来るようになっているという。

 限定的ながらもかつての宿場町としての活気が戻ってきたと沸き立ってもいるそうだが、そこにこのカーングンスとのトラブルが来ては、そのプチバブル景気の盛り上がりもしょんぼりだ。

 

「親父殿!」

「おお、デーン! それにダミオン!

 そちらはもしかして……」

「あ、はい、ラミン叔父、こちらはクトリア共和国評議会の議長で“ジャックの息子”の代理人でもあるレイフィアス・ケラー殿です」

 ダミオンからの紹介を受けて右手を胸に当てつつ一礼。

「初めまして。レイフィアス・ケラーです」

 

「ああ、これはご丁寧に。

 私はこの町にて幾つかの事業を営んでおります、ラミン・クルスと申します。

 しかし緊急時故、丁重なお持て成しは出来かねますこと、ご容赦下さい」

 

 もちろんそんな事は今望んでない。何より状況が知りたいのだ。

 

「なあに、杯を酌み交わすのはまた後でかまわんよ。

 久し振りの再会を祝うのもな。

 まずは、状況を教えてくれんか?」

 

 ラミンとも知己であるイベンダーが、そう気さくに聞く。

 

「ええ、そうですね。

 ひとまずこちらへ」

 広場に集まる武装した人々にラミンが一旦待機しつつ落ち着くよう指示しながら、暫く進んでやや大きめの邸宅へ。

 クトリア特有の焼煉瓦とモルタルによるシンプルな平屋作りだが、前世で言うと中南米とかにある大農園なんかの様式にも見られる感じかな? 四角い広い平屋の真ん中に、これまた広い中庭がある。

 漢字で言うなら「回」の形だね。そこをさらに抜けた先に離れがあり、今回はそこへと通される。

 離れの方は二階建てにちょっとした塔がついていて、一階は当主ラミンの執務室兼応接室のようだ。

 扉の前では私兵らしき二人が番をしていて、ラミンへと一礼。

 

 大きめのアーチ型扉をくぐると、中には二人の女性が居る。

 一人は、年の頃は恐らく三十代くらいか。なかなか長身で背筋もピンとしたご婦人で、緑と青の色鮮やかなトーガ。もう一人はまだ若い。服装に立ち位置などからも、恐らく側仕えの侍女か使用人。

 つまりは、このご婦人がラミン氏の妻、カミラなのだろう。

 

 挨拶、自己紹介もそこそこに、

「旦那様、外はどの様になられましたか?」

 と問う婦人だが、よく見るとやや骨っぽくもある面長で整った容貌の彼女には、頬から口にかけてざっくりと大きな荒い傷跡がある。

 

「おお、カミラ殿か。その後ずいぶん回復なされたようだな」

 そう言うイベンダーに、

「おかげさまで。頂いた魔法薬は十分に効果を発揮してくれました」

 軽く頭を下げるカミラ夫人。

 

「カミラ、気がはやるのは分かるが、まずは座って頂こう。

 さあ、こちらへ」

 なかなか豪華な模様の織り込まれた絨毯の敷かれた所に、数脚のテーブルと木製の重厚な長椅子。座面にはクッションと毛皮が敷かれているが、座り心地はそう良くもない。

 

 護衛、使用人を除く4人が着席し改めて状況を聞く。

 最初のデーン氏の口上、「カーングンス達との戦争だ!」と言う印象からすると、問題はまだそこまで大きくはないものの、なかなか面倒なもののようだ。

 

「ここから東北に行った川沿いのやや高い場所に、廃墟となった塔があります。恐らくかつては監視塔だったのでしょうが、屋根も無く半壊し、今は使用はされてません。

 ですが、山賊、野盜の類が寄りつくことがままありますので、定期的に巡回警備をしているのですが───」

 

 そこで、数人のカーングンス達に遭遇した。

 

 そこにカーングンスが居ると言うのは珍しい、というか、まずあることじゃない。そこは東カロド河の西岸側で、カーングンス達がその場所に来るには渡河してこなければならない。

 東カロド河のこの渡河点、船着き場はモロシタテムの圏内で、普通ならモロシタテム近郊を経由せずに渡河することは無い。

 ボーマ城塞近くのそれとは違い、河口付近で川幅が広く、橋などはないからだ。

 

 勿論、センティドゥ廃城塞の方にまで北上すれば徒歩、騎馬、または小舟で渡河できる場所は幾らかはある。

 この河口付近からさほど離れて無い場所でも、カーングンス達の馬術なら難なく泳いで渡れるかもしれない。

 

 簡単に言えば、その廃塔にカーングンス達が来るのは、不可能ではないが、彼らの勢力圏からははずれているし、何かしらの意図、理由なく来る場所ではない、と言う事だ。ちょっと道に迷ったのでここで一休み……なんてことは、まずありえない。

 

 なので、モロシタテムの巡回警備隊は色めき立った。

 特別な意図……つまり、遂にカーングンス達が、カロド河を渡って我々の町への侵略、略奪をしに来たのだ───と。

 

「現在、彼らとはどうなって居ますか?」

「気づかれぬよう遠巻きにして包囲……いや、監視……というところです。彼らの中に怪我をしている者がいるらしく、彼ら自身から動こうという気配はないようで。

 しかし、我々の巡回警備隊も包囲はしているものの、数で圧倒出来る程ではなく、また怪我人も居るとは言え、勇猛で知られるカーングンスに武力で敵うかと言えば……正直難しい」

 

「まあ、ここの警備隊も、ほとんどは普段は畑仕事や牧童をしてるような素人連中だしな。

 しかし、王国軍の巡回部隊はどうしたんだ? “鉄塊”のネフィルの件以降、近くの野営地に兵を残して常駐しているのだろう?」

 

 そのイベンダーの問いに、

「確かに王国軍の部隊も居ますが、彼らが優先するのは王国民の保護です。王国民が立ち寄ることの少ないモロシタテムの野営地には兵力は少なく、また、今駐留している者達も、山賊野盜ならば動きもしますが、カーングンスとなれば慎重にならざるを得ない」

 

 王国側からすればそれも道理だ。特にカーングンス相手となれば、駐留部隊の一隊長が軽々には判断出来ない。全面衝突へと発展した場合のリスクが計り知れないからだ。恐らく今は伝令が出て上官の判断待ち……と言う所だろう。

 

「いずれにせよ……無闇な衝突は避けねばなりません。外の者達も今は興奮し意気が上がっていますが、万が一カーングンス遊牧騎兵と本格的な衝突になれば、我らなどひとたまりもない」

 眉根に深い皺を寄せ、そう吐露するラミン氏。

 

 ある程度事前情報としての人物像は知っていたが、確かに彼は、町のリーダーとしての責任感と、冷静な判断力を兼ね備えているようだ。

 

 う~ん、困った。

 王国軍駐留部隊の懸念は、まさに今の僕にも当てはまる。

 クトリア共和国として、最悪でもこのタイミングでの衝突はマズい。もちろんどのタイミングでも衝突しないに越したことはないのだけど、その中でも今ここで……と言うのは最悪だ。

 まして、モロシタテムに侵攻、略奪に来られたとしても、“鉄塊”のネフィルによる襲撃からなんとか立ち直りつつあるこの町では太刀打ちなど出来る訳もない。

 

 どんな形であっても、とにかく衝突を回避しなければならない。

 そのためには……。

 

「で、結局その廃塔に居る連中の目的は何なんだ?」

 

 ……と、そこへイベンダー。

 

 そうだ。そもそもそれが分からない。モロシタテムへの襲撃、略奪、というのもこちら側からの勝手な憶測に過ぎないのだからね。

 

「……この町で、彼らに詳しい人は居ますか?」

 ほとんど交流は無かったが、存在だけは畏怖すべき対象としてのみ知られて居る。だが全く誰も関わってないとは限らない。

 

「……一人」

 そこで、ラミン氏の横に座っていたカミラ夫人がそう切り出す。

「一人、居ました」

「居ました?」

「私の父です。“鉄塊”のネフィルにより殺された、以前の警備隊長。

 父は数人のカーングンスの一部と個人的な親交があり、交渉役もして居ました」

 

 それは……なんとも貴重な人材を亡くしたものだ。

 

 □ ■ □

 

 夜の中を移動しながらケルッピさんの上で軽食をとりつつ本を読む。と言っても出発前にざーっと読んで「目にした」カミラ夫人の亡き父、ロランド氏の残した日記、記録、手紙類を、魔導具の“再読の書”で再現して読んでいるのだけども。

 

 カミラ夫人の父、ロランドの残した情報から分かるのは、まずカーングンス達にも幾つかの派閥があるらしい、と言う事だ。

 

 大きく三派閥。

 主流派は族長、大カーンの派閥。

 部族社会のカーングンス達の中では、当然最も発言力も強く人数も多い。

 

 もう一つは、族長の跡継ぎ息子、“若君”様のもの。

 勇猛果敢なカーングンス遊牧騎兵としては騎馬も武勇も秀でて有能。見た目もすらりとした美丈夫。カリスマ性も高く次期族長としとての信望も厚いらしい。

 

 最後は“呪術師”の派閥。

 呪術師達はある程度の魔術や錬金術を使え、また加持祈祷に占いなども司り、部族の決定事にも強い影響力を持つ。

 

 カミラ夫人の父が交流をしていたのはその中の呪術師派閥の若手らしい。

 

 この辺、なかなかこう……かなり危うい話になる。

 

 ロランドの日記、記録の中では色々と表現をぼかしているが、どうやらその若手たちが作る結構……いや、かなりヤバイ薬を裏取引する便宜を図っていたりしてたらしいのだ。

 

 暗号解読するように文章の中を読み解いていくと、その取引相手は魔人(ディモニウム)やその他の山賊野盜に始まり、王国軍の一部や、他の居留地や市街地の悪たれ共……。

 そして恐らくはノルドバの老婆ヒメナ、東地区の“聖人”ビエイムと思われる者達の記述もあった。

 

 つまり、どういうことか?

 

 あくまで推測。推測にすぎないという断り書き付きで言うのならば、クトリアの奴隷商を含めた悪党ネットワークのこの町における中心人物、またはそれらを繋ぐハブというのがロランド氏であった……と、そう言うことが出来る。

 

 では、彼は“聖人”ビエイムや老婆ヒメナ等同様に、町の人間や旅人を密かに奴隷として売り私腹を肥やすような悪党外道だったのか? と言うと……どうもそうではないようだ。

 

 日記などの端々に、彼らへの強い嫌悪感や、また、協力していることに対する悔恨の念などが伺える記述が見られる。

 言うなればこれは、彼個人が密かに行っていたある種の町の防衛戦でもあった。

 つまり、カーングンスの若手呪術師たちと繋がりを持ち、彼らの作り出す錬金魔法薬、さらにはいわゆる麻薬などを、山賊野盜や他の町の悪党どもへと仲介し取引させる事で、モロシタテムへの攻撃をさせないよう裏取引をしていたのだ。

 

 おそらくは、ラミン氏や娘のカミラを始めとしたこの町の他の誰にも知られることなく、密かに、ただ一人で続けていた。

 

 この話を、例えば妻を奴隷として売られたノルドバのボーノや、仲間の娼婦とともに攫われて拷問され、顔の半分を焼かれたサリタ等にすれば、「ふざけるな!」と言うだろう。

 それは……当然だ。ロランド氏のやっていたことは、別の町に住む彼ら彼女らを生贄として捧げることで、この町を守ろうとしていたということになる。

 この町にとっては利。だが、他の町の住人にとっては害でしかない。

 

 けれども、限りある選択肢の中、自ら守りたいものにとっての最悪を防ぐため、一人孤独に戦い続けていたというその事実に対しては…… 少なくともこの僕の立場で、それを軽々に責めることはできない。

 

 ふぅ……と、僕は深くため息をつく。

 ロランドがカーングンスの若手呪術師たちと麻薬密売等といった行為で密かに繋がっていたのだとしたら、今廃塔で目撃されているカーングンス達がその若手呪術師か使いであるという可能性もなくはない。

 

 だが、確か“鉄塊”のネフィルによりロランドが殺されたのは既に半年は前のはず。まさかロランドが殺された事を知らない……とは考え難い。

 だとしたら、その後釜に座った誰かがいて、その者との取り引きをするため来ているのか?

 その可能性も……有り得なくはないな。

 

 もちろん別の可能性もある。ロランドが“鉄塊”のネフィルにより殺されたという事は、それまで密かな協力関係でもあった彼らとロランドの間で何かしらの不都合、不和が起きたということでもある。

 例えば、彼ら三悪達はボーマ城塞奪還のために新たな兵力を必要としていたと言う。その兵力としてロランドに対して町から何人か使える男をよこせ、と要求するも、それだけは断ると突っぱねられる。

 そのことで、三悪等からの不興を買い、ならば町ごと略奪し、奴隷としてしまおうと行動を起こされた……。

 

 その場合、その時点で既にモロシタテムは、密かに作られていたクトリアの悪党ネットワークからは外されたことになる。

 言うなれば、どのヤクザの縄張りでもない無防備な街がここに存在している……ということだ。

 そこに、これまでならばそのネットワークの一端でもある事から襲撃、略奪の対象ではなかったこの町へ、わざわざ川を渡ってまで襲いに来た……。

 その可能性もなくはない。

 

 何にせよ、この状況ではまだ情報が少ない。彼らの目的も、またロランドとの関係も全て推察。

 だから……まあ、直接彼らとコンタクトが取れるよう現場付近へと向かっているのだ。

 

「そろそろです」

 軽装備ながらなかなか使い込まれた兵装を身に纏う、案内役のモロシタテム警備兵の一人がそう告げて来る。

 遠目にも見え始めた廃塔と、その周りの岩や瓦礫。近辺に隠れて居る兵の数はざっと見て10数人か。

 

 そこに、案内役警備兵2人を足した僕ら一行を加えれば、数だけでも20人近く。

 ただし巡回警備兵も半分以上は普段は畑仕事なんかをしているただの労働者。

 ものすごーく雑に低めに見積もって、アダン、ダミオン、イベンダー、エヴリンドを合わせて20人分くらいの戦力とし、そこに僕の魔術と使い魔でさらに10人分。ここの巡回警備兵全員と合わせて……40人分としよう。

 

 あちらのカーングンスは、目撃報告からは5人から10人。しかし騎馬もあるため……それを含め15人から30人分の戦力として考えるなら、まあ現行戦力では僅かにこちらが有利ではあるが……とは言え無闇に仕掛けたくはない。

 

 さて、どーしましょ……と言いつつ、まあ、最初にやる事は決まっているのだ。

 僕はエヴリンドの手を借りつつケルッピさんから、他の皆もラクダから降りる。訓練されたラクダなら騎乗戦闘も可能ではあるけど、僕らが借りてるラクダにそれは無理。ラクダは馬より体格は大きいが、闘争心には欠ける。

 やや離れた所にラクダを繋いで、僕は僕でケルッピさんの召喚を解き住処へ一旦お返し。代わりに呼び出すのは熊猫インプ。

 

「……まずは、偵察してきますので」

 包囲していた巡回警備兵達によると、カーングンス達は夜営を始めて休んで居るらしい。

 

 呪術師の若手だとしたら、こちらの魔術、魔力を察知される可能性もある。あるが、ここはあんまりまごまごともしていられない。かなり遠巻きにしてはいるが、無駄に時間をかければ今ここに居る巡回警備兵も見つかる可能性もある。

 

 座り込み、精神統一して使い魔の熊猫インプへと【憑依】を行う。

 僕自身の周りはエヴリンド達に囲んでもらいガード。

 そして【姿隠し】で不可視になり、【消音】で音を消す。

 その状態で歩き出しつつ、さて様子を伺おうかとしたところ……、

 

「お、ちょっと待て……これは……もしかしたら利用出来るかもしれんぞ?」

 左腕の例の魔繰鏡を見ながら、イベンダーがそう言った。

 

 

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