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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
325/496

3-125.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー(55)「ノーモアウォーでお願い出来ませんか~?」


 

「へ? なして?」

「……ま、ちょっと野暮用だよ。

 “シジュメルの翼”を使えばほんの半日で行って帰ってこれるしな」

 ノルドバでのひと騒動があった翌朝の食事中、突然JBがそんなこと言い出した。

 

 僕らはノルドバでの会見後、ダミオンの故郷モロシタテム、アダンの故郷グッドコーヴへとそのまま歴訪する予定でいる。

 で、そのためにもダミオン君にアダン氏も、JB同様に臨時の護衛という体で同行してもらっている。

 なので……まあ、JBがほんの半日ほど抜けたとしても、そんなに問題は無いと言えば無いのだ、が……。

 

「……ふざけてるのか、貴様?」

 

 ひぃぃぃぃ!? 激おこエヴリン丸!?

 

「どうあれ貴様は護衛の任務を受けた。受けておきながらその途中で、勝手に抜け出すなど許されるわけがないだろう」


 いや、まあ、それは確かにそうなんですけれども……ね?

 

「ま、ま、エヴリンド、そう、ね、あまり、強く言わないで。

 JBにも何かしら事情はあるんだろうし、話を聞いてからでも、ね?」

 

 ひとまずそう宥めようとするけれども、いやいや、エヴリンドさん、護衛対象をそんな目で睨んじゃあいけませんよ?

 

「……理由は、まあ、ちょっと、今は言えねえんだ、悪いな」

 エヴリンドのあの鬼の睨みにもひるまず、だがそれでも何やら言いづらそうにそう答えるJB。

 

「……あ~ッ!? まてよJB、まさおめー……」

 朝っぱらから大角羊のラムチョップをカジカジしながら、唾を飛ばしつつアダンが叫ぶ。

 

「女か!? 女ができたか!? 新しい女ができたのかお前!?」

 ただの下衆の勘繰り!!

「そうなんですか、JBさん?」

 続けてそう聞くダミオン君に、

「違うわ、そんなんじゃねえよ。てーか、古い女もいねえよ」

 とJB。

 

「え、そうなん?」

 アダンの下衆の勘繰りについついそう乗ってしまったのは、新しい女云々というよりも、古い女もいねえよ、の方が気になったから。

 いや、だって彼、どう考えてもモテそうだもん。

 

「いねーよ。てか、色恋だ何だのにかまけてられるような余裕があるわけねーだろ」

「か~~! お前は本当、昔っからそんな事ばっか言ってんな!

 あのな、恋ってのはな、余裕があるなしでやるもんじゃねえんだよ?

 ただそこにある愛を感じ、そこに飛び込んでいく……! 否応なしにまきこまれていく……! そういうもんなの、分かる? 分っかんねえかな~!?」

 大げさなジェスチャーで額に手を置きながら、愛について力説するアダン。う~ん、まあ、正しいっちゃ正しい。

 

 というか、そうか、なるほどね。JBはアレか。「今は仕事は忙しくて、彼女とか作ってる暇ないっすよ?」とかナチュラルに言っちゃうタイプ……ってことか。

 ……もったいないな~。中身も外見も、めちゃイケメンなのに。

 ま、こればっかは人それぞれか。

 

「……ほう、それは良かったな……」

「んお? お、おうよ。ま、愛……ってものが何なのかについて知りたいんなら、俺に聞いてくれりゃあ何でも答えられるぜぇい?」

「それよりも、貴様ら二人も、名目上とはいえ護衛として同行してるということを忘れちゃいないか……?」

「……え? いや、別に忘れちゃあいねえ……よ?」

 

「……ならば、なぜ護衛が護衛対象と一緒にだらだら飯を食ってるんだッ!?」

「うひぃっ!?」

 激おこエヴリン丸からのど正論説教、第二弾です、はい。

 

「まあ、まあ、まあ、実際、護衛任務ってのも名目上でしかないし……」

「……だとしても、だ!

 いいか、レイフ! お前は一応、この一行で最も責任ある立場としてここにいるんだ。

 それだけ周りの者達にも注目される。護衛として周りに認識されてる者が、そのお前を差し置いてのんきに骨付き肉をほおばって、グダグダと愛だの恋だのと戯言をほざいている……。

 そんな様を見られているということがどういうことか……考えろ!」

「ひぃぃぃぃッッッ!?」

 激おこエヴリン丸からのど正論説教、第三弾!?

 

「かははは! ま、確かにエヴリンドの言う通りだな! 護衛が野暮用で抜け出したり、雑談しながら一緒に飯食ってたりしてたら、周りに示しはつかん!」

 同じテーブルについて食事を取ってるイベンダーが、笑いながらそう言う。

 イベンダーは今回の同行者の中で唯一名目も含めて護衛という役割がない。彼はあくまでクトリア共和国議会名誉顧問。つまり僕と同じ立場の交渉役だ。

 

「な~んだよ、おっさんまでそんな細けぇ事言うんかよぉ~!

 だいたい護衛なんつったってよォ、三悪どもも退治したし、昔から交易路になってるこの界隈にゃそうそう凶悪な魔獣だのなんだのてのも出てこねえんだから、正直名目だけにしても退屈きわまりねえだろ」

 エヴリンドにはややビビりつつも、慣れ親しんでるイベンダーには不満たらたらでそう漏らすアダンに、そのアダンとエヴリンドの間で横目にちらちら見つつ、「アダンさん、それ以上はっ……!」と、恐らくそんな感じのことを念で送り続けているダミオン君。

 

「……ほぉぉぉ~、そうか。

 この辺では護衛任務など退屈しのぎにもならんか?」

 ……あ、表情が薄笑いに変わった……。

 

「ならば、食事の後にはワタシと軽く、気持ちの良い汗をかく……と言うのはどうだ?」

「……え!? お、俺と、ふ、2人っきりで、気持ち良くなって汗塗れに……ッ!?」

「……いや、アダン、絶対に今お前が思ってるような意味じゃねーぞ、それ……」

 うん、僕もそー思う!

 

 とりあえず、例の町の広場のところで食後のお茶なんぞを飲みながらエヴリンドとアダンが“気持ちのいい汗”をかいてるところを眺めつつ、軽くイベンダーと今後の打ち合わせ。

 その両サイドにはJBとダミオンが居て、きちんと名目上の護衛任務をこなしてる。

 

「ま、特に予定に大きな変更は無しだな。モロシタテムには今のところ問題はない。

 “鉄塊”のネフィルによる襲撃で受けたダメージはまだまだあるが、センティドゥ廃城塞の解放から、狩人ギルド設立による経済効果もある。

 クルス家を中心とした自主自治がしっかりとある上で、かつそれらの経緯からも共和国建国には好意的だ」

 

 実際、共和国編入と言う事に関しては、今の所最も不安材料のない郊外居留地だからね、モロシタテムは。

 

「グッドコーヴは……アダンの話くらいしか情報がないからなあ。良いとも悪いとも言えん」

「イベンダーは行ったことは無いのですか?」

「あいにくと行く機会が無かった」

 あらまあ、そうなの。

 ダミオンとJBそれぞれに話を向けると、ダミオンは曖昧に、「子供の頃に何度か、取引について行ったりしては居ます」

 と言い、JBは、

「俺も数えるほど……だな。一度、アダンと一緒に奴の実家に寄った事はあるが、そん時以来か」

「何があったんです?」

「一昨年くれーにオオヤモリが大量発生したことがあってよ。間引きのために人手が欲しいみたいなことでな」

 ははあ、なるほど。地元猟友会の人手不足から、遠方に助力を求め……みたいな事か。

 

「それらの時の印象でも良いのですが、何か感じた事とかはありますか?」

 とりあえず彼らを通じてのグッドコーヴについて聞いておこうかとそう尋ねる。

 

「……この辺はアダンさんに聞けば詳しいのでしょうが、基本的にグッドコーヴはヴォルタス家の庇護下にあります。ただ、あくまで彼らの自治に助力している、というかたちであって、支配下にしている……というのとは違います」

 一つ一つの言葉を慎重に選ぶかのようにそう言うダミオン君。

 

 庇護下にあるが支配はせず、というのは、ある意味では今のノルドバにおける王国軍との関係とも似てはいるか。

 

「つまり、グッドコーヴとの交渉は、やはりロジウス・ヴォルタス次第……ということですか……」

 現ヴォルタス家の当主はロジータだが、あくまでもそれも名目上。海運業を含めたヴォルタス家の方針を決め舵取りをしているのは長男のロジウスらしい。

 そしてそのロジウスにボーマ城塞で突き付けられた課題───クトリア共和国での水軍をどのように編成し、またどう位置付けるのか、そこにおいて武装船団を持つヴォルタス家をどのように扱い、どれだけ厚遇するのか。

 その課題への回答はまだ無い。

 

「あいつはなかなかどうして、見た目に反して骨のある男らしいな」

 楽しげにそうロジウスを評するイベンダー。いやまあそうだけどね。もう、正直、僕、すでにちょっとばかし苦手意識もっちゃってるけど。

 

「あ~、例の、件、どうでしょうね、イベンダーさん?」

「う~む……、まあ、まだまだかかるな」

「予算? 時間?」

「どっちもだ」

 

 水軍兵力としての水兵の育成はかなり時間がかかる。そして仮に素人を1から鍛えていくにしても、水兵を鍛える教官が必要。

 ボーマ城塞では金色の鬣(こんじきのたてがみ)ホルストが、王の守護者ガーディアン・オブ・キングスや探索者の若手、新入りなどを軍事教練するのに協力してくれているが、彼はあくまで陸上で戦う兵士を鍛える教官で、水兵……操舵から船上での戦いの指導は出来ない。 

 つまり、最低限船乗りの指導者が必要になる。

 

 だけども、もう一つ重要なものがある。

 船乗り、水兵が揃っても、乗るべき船が無ければ意味がない。

 で、イベンダーと相談していたのはその船の件。特に小型、中型の魔導船についてだ。

 

 魔導船とは、要するに動力に魔晶石を核とした何らかの魔術的構造機関を利用しているもの。

 この世界での軍船として最もオーソドックスなガレー船などは、漕ぎ手として大量の人員が必要。

 帆船の類はガレー船に比べると軍船としてはまだポピュラーではないが、ガレー船に比べて操舵技術が必要なものの、人員は少なくて済む。

「大量の人員が必要だが、風頼みのみの帆船よりは容易に扱えるガレー船」か、「熟練の操船技術が必要だが、ガレー船よりは必要な人員が少なくて済む帆船」

 この2つに対して、「製作がもっとも困難でハイコストながら、高性能で必要人員数は最も少なく出来る」魔導船……と。

 数より質、ハイコストだが高性能を目指し、イベンターとはその路線で計画を考えている。

 ただ、イベンダーに出来るのは魔導船の機関部の設計と製作。船大工ではないので船体そのものを作ることはできない。そしてクトリア領内でそれを頼めるとしたら……。

 

「グッドコーヴで、船大工の人達ときちんと契約が結べるかどうか……」

 そこになる。

 

「ま、そいつばかりは行ってみない事にゃ分からんな……お、またやられた」

 広場での「気持ちの良い汗」を流す“手合わせ”の方は、今の所エヴリンドが三本きっちり取っている。

 

「……盾使いだと聞いてたが、盾に“守られて”るだけのようだな?」

「……うぐ、ふぇっ、な~に言っ……おぐぅえ……ただ、ちょっとばかし、朝飯食いすぎ……て、チョーシ、でねえだけ……だぜ」

 

 かなりスタミナを消耗し、息も絶え絶えと言う感じのアダン。

 この結果は、所々見ていただけではあるけども、魔法の補助とかは全く無く、単純にエヴリンドの体裁きの上手さだ。

 盾で守りつつも時折その盾による攻撃……盾で相手を押しつぶしたり、叩き付けたりと言う戦法を得意とするアダンに対して、エヴリンドは絶妙な距離感でそれらを除け、かわす。

 盾による攻撃は面の攻撃だ。距離さえ間違えなければ当たりやすく、また相手の体勢を崩す威力は強い。場合によっては気絶や骨折まで狙える。

 が、半面、外されたときの隙やスタミナの消耗も激しく大きい。

 エヴリンドはその「僅かな距離感」を狂わせる体裁きが上手い。相手の呼吸を見切り、攻めの起こりに合わせて絶妙に間合いをずらす。

 これは勢い任せで攻めてくる対魔獣との戦いよりも、駆け引きや技法を用いる対人での戦いで大きく生きる技能だ。

 

「はっ! 言い訳だけは一人前だな! なら、もっと食らわせてやろう!」

 一気に間合いを詰めて一直線に打ちかかるエヴリンド。その動きに応じてアダンは再び腰を落とし盾を使いそれを受けようとする。

 が、エヴリンドの攻めは誘いだ。盾を構え身体が硬直した瞬間に、その死角となるアダンの左側へ回り込みつつ、手にした木剣……ではなく脚でわき腹への蹴り。しかもやや後ろからだから、正面からの攻撃を待ち構えていたアダンにはさらに死角。

 

「……のお……ぐぇ……おぼッッ!!」

「……うわぁ」

「こりゃキツい!」

 

 アダンのさっきの弁明は、口から放物線を描き放たれた、キラキラと朝日に輝くそれにより、少なくともただの嘘でたらめによる言い訳でないことがここで証明された。

 

 ……朝から食後に見せないでくれ……。

 

 □ ■ □

 

「───と言うワケで、このメモにあるもの諸々を持って来て欲しい。必要になるのは多分グッドコーヴでだから、まあ明日のモロシタテムか、それ以降のグッドコーヴに持って来てくれれば大丈夫だ。何ならグッドコーヴに先入りしててもらってもかまわん……よな?」

「……え? あ、まあ、そうですね、ハイ」

 アダンのキラキラオーロラアタックの後始末も終え、さらにはノルドバでの魔力中継点(マナ・ポータル)建設も終え、昼飯終わりでややまだ日の高いウチではあるけれども、ここを発ちモロシタテムへ向かう。

 で、その前にイベンダーが、「少しばかり作業場に忘れ物をした」との理由で、JBにクトリア市街地の遺跡調査団本部へ行ってもらうように頼んだのだ。

 

 誰が聞いても口実。早朝にJBが言っていた「野暮用」とやらの為の理由付けだ。


「……あー、なんか悪ィな、おっさん」

「何がだ? あ、あとメモの内容が分からんときは、アルヴァーロに聞いてくれ」

「ああ、わかった」

「それと、|“キング”にもよろしくな《・・・・・・・・・・》」

 

 とか、そんなやりとりでひとまずお別れ。エヴリンドはもう言うことはない、とでも言うかの態度だけどもね。

 

 そして、僕の使い魔、水馬ケルピーのケルッピさんを中心に、エヴリンド、ダミオン、アダンの乗るラクダと、傍目には一人全身ドワーフ合金製鎧に身を包んで徒行軍しているように見えるイベンダー。

 真夏のキグルミ以上に蒸し焼きにされそうな全身ドワーフ合金製鎧だけども、そこには様々な術式を付与してある。

 歩行補助のパワーアシストに内部温度調整なんかも完備され、むしろ何も着てない時より快適で疲れないらしい。

 さらには僕が妖術師の塔でも使っている床から浮き上がって移動してくれるエアチェアーの術式を参考にして改良し、地表スレスレをホバー移動も出来たりもする。完全にSFのパワーアーマーだわ。

 でも、そのアシスト機能にトラブル起きたら、即、死ねるよね。コワイ、コワイ!

 

 ケルッピさんの【霧の結界】による空冷ひんやりゾーンをやや広めにとってのひんやり移動。

 早めの移動と言う事もあって、夕暮れ過ぎにはモロシタテムが見えてくる。

 

「……あれ、おかしいですね。連絡は行ってるはずなのに……?」

 町が見えてきてそう訝しむのはこの町出身のダミオン・クルス。

 東地区、ノルドバと、先触れによる事前通達から歓迎準備がされてたのだけど、今見える範囲でもその気配が無い。

 それどころかむしろ……。

 

「あ、あれはデーン……?」

 頭髪を丸々剃り上げた若い男が一人、門からこちらに走って来る。

 

「ダミオン! あー……と、評議会の使者の方? とにかく、ちょっと急いで、門の中へ!!」

 あ~ららら、これは、なかなか……嫌な予感ですよ……?

 

「ちょ、ねえ、デーン、何があったのさ!?」

 ダミオンの慌てた問いにデーンと呼ばれた青年は僕らを先導しながら、

「カーングンスだ! 奴らと……戦争だ!」

 と叫び返す。

 

 え~、マジで~……!? ノーモアウォーでお願い出来ませんか~?

 

 

  

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