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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-102 マジュヌーン(54)死者の都 -青のレクイエム

 

 アラークブを連れて農場に戻り一通りの経緯説明をし、俺がアラークブと共にカリブルを追うと告げると、マハとムーチャはやれやれといった感じで同行を承諾。アスバルは最後まで渋りつつも、最後にはいやいやながら付き合うと言った。

 アスバルの奴は、自分だけ行かないことで浮くのは嫌だってのと、頭のどっかで、最終的には自分だけ飛んで逃げられるから大丈夫、という気持ちがあるのは明らかだが、しかし上空からの偵察が得られるってのは結構でかい。

 

「なあ、マジー。確かにカリブルのおっさんのことは心配っちゃあ心配だがよー。だからって、ミイラ取りがミイラになるんじゃねーぞ」

「相手ヴァ、軍隊。むりヴォ、ズるな」

 

 心配そうにそう言うカシュ・ケンとダーヴェの二人に、

「分かってンよ。どうしょーうもねえって事になったら、さっさと逃げるさ」

 と返す。

「ちょっ、ちょ、お二人さん!? もーちょっと俺のことも心配してくれても良いンじゃねえの?」

 アスバルがそう不満げに割って入ると、

「おめえは飛べるからって、一人だけ勝手に逃げようとすんじゃねーぞ!?」

「一人ヴァ、みんダのだめ、みんダヴァ、一人のだめ」

「厳しくね!? 俺にだけ厳しくね!?」

 と、総攻撃。

 

 そこへのマハの、

「ンー? そんだけみんなー、アスパラのことを頼りにしてるって事ダノー?」

 との言葉に、

「うわぁ~、マハっちマジ天使!」

 と抱き付こうとしてまた投げ飛ばされる。しかし気づけ。名前、間違えられてるぞ。

 

 農場のことはカシュケンやダーヴェたちに任せ、とにかく必要最低限の装備に水と食料を持ち、速度重視で駆けつける。

 廃都アンディルの正確な位置を知ってるのはアラークブだけだ。奴の先導で進む道行きはほぼ休み無し。

 早くはないが、過酷な環境への耐性と長距離移動のスタミナには定評のある甲羅馬(シャルハサ)だからなんとかなったが、こいつらを育ててなかったら倍以上はかかっただろう。

  

 9日目の夜に差し掛かったあたりで、アラークブが俺たちを止める。

 道のりは、残り火砂漠をほぼ縦断する かのように北へと向かった。廃都アンディルの場所は位置的にはシーリオから見て西南西ぐらいの方向。途中いくつかの“砂漠の咆哮”の野営地を経由して水と食糧を補給するが、距離的にはボバーシオ文化圏寄り。と言うより、話によるともともとアンディルはボバーシオの南方人(ラハイシュ)の王国の一部だったらしい。

 

 止まったのはやや小高い、荒れた岩山のようなところ。 ゴロゴロとした沢山の岩と石に、枯れ木のような低木、それといくらかのサボテンが散見される程度。

 

「そろそろ。一旦、拠点を決めて、偵察する」

「そろそろ、ってのは場所的に近いってことか? 時間帯的にってことか?」

 どっちの意味が良く分からずアラークブにそう確認すると、

「両方。あの先の崖の下、アンディルある」

 と。

 甲羅馬(シャルハサ)を降りて崖まで進むと、確かに眼下に見えるのは、荒れ果て廃墟と化した街の様子。

 街そのものの規模は思ってたよりも広い。オアシスの宿場街シーリオと同じかそれよりやや大きいぐらいだろうか。崩れた城壁に囲まれ、いくつかの物見の塔も見える。

 街の中心部らしき辺りには、ここからでも分かるぐらいの大きな建物が幾つか見える。真ん中のはかつての宮殿だろうか。ほとんど崩れてはいるが、面影は伺える。

 

「うぇ~、あそこかよ~、食屍鬼(グール)が山盛り居る、てなのはよ~」

 そう泣き言を言うアスバルに、

「よし、とりあえず半径4、5キロぐらい、ひとっ飛びして見回ってきてくれや」

 と、指示。

「休ませてよォ~、今、超おケツ痛いんだぜ~」

「周囲の安全確保は最優先だろ? 休んでる間にリカトリジオスに発見されたらどうすんだよ?」

「くそ~……! あのおっさん、みつけたら捜索費用請求してやる~!!」

 不満の矛先をカリブルに定めて、アスバルは渋々ながらも上空へと偵察に飛ぶ。

 

 俺たちはその間に四方へと散って、周辺の偵察と索敵。

 半径500メートルくらいの範囲には敵もカリブル達の姿も無し。数匹のオオイワトカゲやマダラツノヘビを捕らえ、サボテンフルーツを採り食料の足しにする。

 

「良い岩陰、見つけた」

 アラークブが案内した先はこの岩山の 中腹近く。大きな岩がうまく目隠しになり、また岩の裂け目の奥にちょっとした空間がある。

 

「見ろ、野営の跡だ」

 その裂け目の前辺りには、手ごろな石を組んで焚き火をしたであろう痕跡。

「これはどっちだ?」

「この石の組み方、カリブル。 彼の部族のやり方」

 一番カリブルと長いこと行動を共してるアラークブの見立てだ。疑う根拠はねえだろう。

「4、5日は前ってとこか?」

「ここ数日じゃないのは確かだナー」

「足跡も一応消してるっぽい。10人くらい?」

「亀老師の言ってた人数と大体同じだな」

「裂け目の奥、荷物残ってる」

 つまり、ここを拠点として探索をしていたが、数日前に戻れない状況になっている。

 俺達と違い超お急ぎモードで移動したわけじゃないから、日数の差も妥当な辺りだろう。

 

 問題は奴らが今どこにいるか。そしてアラークブの言うリカトリジオスの中規模部隊が、この周辺にいるのかどうかだ。

 ひとまずは、乗ってきた甲羅馬(シャルハサ)達を低木の近くに集めておき、この場所で一旦火起こしをして休みつつ軽く食事の準備。

 持参してきた炭に火をつけ、小鍋で湯を沸かす。砂糖とバターとスパイスたっぷりの茶を淹れながら、先程捕った蛇やらトカゲの皮を剥ぎ下処理をして串に刺し、塩もみしてから火に炙る。

 

「それで、とりあえず今後の方針はどうする?」

 猫舌の俺、マハ、ムーチャがカップの茶をフーフー冷ましつつそう切り出すと、アラークブは、

「少し休んだら交代して、捜索をはじめる」

 と言う。

 だがそれに対し、

「ダメ。夜は食屍鬼(グール)が狂う。特に、今は闇月が強い。捜索は昼間」

 と、ムーチャが即座に否定。

「見つからなければいい。遅れる、それだけ、カリブル、危ない」

 負けじと返すアラークブだが、確かにどちらの言い分ももっともではある。

 

「なあ、ムーチャ。食屍鬼(グール)ってのは、こう……なんつーか、遠出とかするもんなのか?」

「遠出?」

「あ~、つまりよ。

 あの廃都アンディルの住人が呪いで食屍鬼(グール)になった……って話だよな?

 そいつらは街の外まで出てきて襲ったりするのか? つまり今俺らがいる岩山ンところとかまでとかよ」

 そう聞くとムーチャは、

「基本的にはない。食屍鬼(グール)は土地に縛られる。隊商が呪われて食屍鬼(グール)になれば、それまでの交易ルートを延々行き来することもある。

 けど、街の住人ならほとんどは街の中から出て来ない。

 気を付けるのは、余所から来てここで食屍鬼(グール)になった奴ら。けど、聞いた話、そいつらもあまり外には出ないらしい。多分、町の呪いに、魂が縛られる」

 なるほど、てことならば……、

 

「じゃあ、夜の間は街の中に入らずその周りを探索して、夜が明けてから街の中へ行くか」

 

 この辺が妥当な折衷案だろう。

 それを聞き、肉の焼き加減にしか注意がいってないマハを除いた二人はこくりと頷く。

 

 しばらくして、

「大規模な軍みてえなのは、今んところ周りにはいねえぜ~……て、おお、肉だ、肉!」

 と、降りて早々、火にくべられた肉を手に取ろうとするアスバル。その手をマハに軽くひっぱたかれ、

「めっ! まだ生焼けダモー!」

 と叱られる。

 

「バター茶とサボテンフルーツ食ってろ。

 で、他に何か気づいたことあったか?」

「さ~ね~? 特に変わったことはなかったと思うけどぉ~?」

 肉へと視線をやりつつ、バター茶を啜りサボテンフルーツをもちゃもちゃ食べるアスバル。それらを同時に口に入れているから、パッと見の高貴な美しさが完全に台無しになるくらいに汚い。

 

「数日前、カリブルたち、ここで野営した。遠くに行ってなければ、まだ、この辺いる。何か見なかったか?」

 アラークブがそう詰め寄るが、

「ねーよ、ねーって。

 だいたい、俺、お前らと違って夜目あんま利かねえんだからさ。こんな遅くなってちゃ、細けぇことなんかわっかんねーってばよ」

 肉から視線を外さずにそう答えるアスバル。だが、困った事に奴の言い分はもっともだ。空から広範囲を見渡せはするが、夜目が効かないのは種族的なモンだから仕方がない。

 

 

 夜のうちは三交代。寝る奴、見張り、そして探索だ。

 ただしアスバルは前述の通りに夜目が利かない。なので探索はなしで見張りを二回やらせる。

 

 俺とアラークブが最初の見張りをし、ムーチャとマハがその間に周囲を探索。

 アラークブとは入団試験の時以来ほとんど会ってない。まして、こうやって二人きりになるなんてことはまずなかった。入団試験の時ですら、コイツと話したのはほんの数えるほどだ。

 なもんで二人きりで見張りをしてても、これと言った会話はない。正直なとこ別にこいつと仲良くおしゃべりしてぇってワケじゃねえが、男二人炭火を見つめながらむっつり押し黙っているのもばかばかしい。

 

「なあ」

 石を並べた簡易かまどの中の炭火の火を見つめながら、俺はそう切り出す。

「カリブルとはもう、2年以上ぐらいだよな」

 おそらくは肯定のつもりで、こくりと頷くアラークブ。

 

「彼とは、多くの月日を、多くの夜を、多くの戦いを共にし、多くの栄誉と、多くの勝利を手にした」

 マジメーン君である俺は、多くのつまらなくて細かい仕事を地味~にこなして、半年程で二ツ目に昇格したが、カリブルの奴はほとんどが戦い、戦い、戦いの連続だ。

 害獣退治、魔獣退治に始まり、山賊討伐や賞金首を追いかけるなんてのを沢山こなし、二ツ目への昇格は1年とちょい。俺よりは遅いが、その内容、密度は決して薄くねえ。

 つまりはそのカリブルとずっと従者関係を続けていたアラークブだって、かなり濃い経験を積んでる。

 

 ハディドに言わせれば、最終試験で落ちた三人、ムーチャ、スナフスリー、アラークブ達は、実力的に俺たちと格段の差があったわけではないらしい。

 奴らがやった最終試験は、“灰溝の蟻塚砦”にある火焔蟻の巣の中から卵を盗んでくるというもの。

 スナフスリーは諦めが早く、ムーチャは色々と如才のないあいつには意外なことに、方向感覚がいまいちだったため道に迷い時間切れ。

 ただ、アラークブが何故失敗したのかが、試験官をしてたハディドからもいまいちよく分からないらしい。

 まるで、わざと最終試験に落ちたんじゃねーかと思えるぐらいに、だ。

 

 仮にそうだとしても、そんなことする理由はさっぱりわからねえ。

 何にせよ、隠密斥候といった能力適性に関しちゃ、俺とアラークブがあの時の新入り候補の中じゃ2トップ。次いでムーチャ、アスバル辺りが来るが、それら含めて、トータルの実力に関しては折り紙つきだ。

 

「……奴の悲願についちゃ、知ってるか?」

 奴の故郷、部族がリカトリジオスに襲われ、そのほとんどが殺されるか、奴隷として捕まってしまったこと。

 その過去は俺が軽々しく吹聴して良いような軽いモンじゃねえが、長いこと従者として一緒にいたアラークブなら知っててもおかしかねえ。

 その問いに対してもアラークブは小さくコクリと頷き、肯定の意を返す。

 

「……だから、早く、見つけたい。

 リカトリジオス部隊と、会ってしまえば、無茶な突撃、してしまうかもしれない」

 アラークブの言うその疑念、危惧は、確かによく分かる。

 あの単細胞バカの武人気取りの行動パターンなんざ、いつだって二つか三つぐらいの選択しかねえ。

 

「……ああ、だな。全く世話の焼けるおっさんだぜ」

 苦笑いしつつそうぼやくと、アラークブは意外にも大きめの声できっぱりと、

「違う。カリブルは、おっさんではない。 彼はまだ18」

 と、そう返してきた。

 

「……え?」

「18だ」

「……マジか?」

「そうだ。18だ」

 

 言われて思い出してみたが、確かにカリブルの語った過去の話しじゃあ、奴は子供の頃に捕虜になり、戦奴として訓練をさせられ続けていたんだよな。

 そりゃ……そうか。まだ若いわな……。

 

 

 

 しばらくして、マハ達と交代し俺とアラークブが周囲の探索へと向かう。

 俺たちはマハとムーチャが調べたのとは逆方向に進む予定だったが、そこでアラークブが、さらに二人それぞれ別々の方向をへと行こうと提案してくる。

 曰く、二人とも探索巧者なのだから、 別々の場所を調べたほうが効率が良い、と。まあ確かにそれはそうだ。

 それにまぁ、俺には俺でちょいと別の目論見もある。 

 

 それぞれに別れて廃都アンディルの外周を回るように調べる。

 アラークブはやや城壁寄りで、俺はより離れた辺りだ。

 

 闇の月と、ごく普通の半月が浮かぶ闇夜の下、俺は気配を消しつつそろそろと進む。

 そうしてしばらく進んでいくが、ほとんど大きな生き物の気配はない。やはり砂漠に潜む、虫、トカゲ、蛇、まれに穴掘りネズミらしい気配がするぐらいだ。

 その、しんと静まり返った砂漠の冷えた空気の中、まるで泳ぐようにして路なき路を進んで行く。

 

 だがしばらくすると、今まで嗅いだ事のない独特の匂いと、やけに不穏な気配が近づいてくる。

 リカトリジオス? カリブル達? いや、違う、この臭いは犬獣人(リカート)でも猫獣人(バルーティ)でも、猿獣人(シマシーマ)でもない。

 

 獣人種に共通する、ある種独特の獣臭さとは無縁。しいて何の匂いに近いかと言えば、そう、アスバルの奴にちょっと似ている。

 人間か? と言うとそれとも多分違う。何にせよ初めて嗅ぐこの匂いに対し、俺は警戒しつつ岩の陰にひっそりと隠れる。

  近づいてくる匂いの主は、俺に対して気配を隠そうとかそういう感じがまるでない。それだというのに、一直線に俺めがけてゆっくりと、いや、ゆったりとでも言うかの足取りで歩いてくるのが分かる。

 腰に差した山刀の柄を握り、いつでもそれを抜き放てるように身構えながら、俺はその臭いの漂ってくる暗闇の一点を凝視する。

 

 しばらくして現れたその姿は、やはり俺のこの目じゃはっきりと像を結びやしない。ぼんやりとした輪郭のその中でも、しかし月明かりに照らされた肌の色、その青黒く艶めいた色合いに、俺は意識を強く持っていかれた。

 

「───我が主よ。この豊かな闇の月と、中天に輝く白銀の月。その光を浴びながら、新たなる舞台の幕を、いざあげましょうぞ……」

 

 中性的だが落ち着きがあり、だが妙に陰鬱な男の声。黒いトーガにフード。そこから窺えるのは、青黒い肌に映える白銀の長髪。

 そして、痩せたしなやかな体にピッタリとした黒皮の胴当てと、腰には山刀、ベルトには幾つかの投げナイフで、背には狩猟弓。

 そいつはその言葉どおり、まるで大仰な舞台芝居のように優雅な一礼を俺へと向ける。

 

「───なるほど、てめーが援軍……てワケか」

 

 出発する前、リムラの三兄妹を通じてサーフラジルのムスタの隠れ家である安酒場へと、“闇の手”の都合のつく奴らをアシストに送って欲しいと手紙を送っていたが、その答えがこの青黒い肌のダークエルフの男ってことらしい。

 

 

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