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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-80. クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー「いや、まあ、なんとなく……ノリで」


 

「ぐへぇ~」

「遅い! 歩調を合わせろ!」

「ぐぞォ~……お、俺は……死と、や、闇の……」

「黙……れよおめぇ! 糞ウゼぇっ……てのっ……!」

「あ、あんだと、この……熊……髭……魂……なめ……」

「無駄口を叩くな! 隊列が乱れてるぞ! 3.2.1...はい、走れッ!!」

 

 なんとも……見ているだけで息があがりそうな暑苦しさだ。

 ボーマ城塞の訓練へと参加させて貰っている王の守護者ガーディアン・オブ・キングスの若手達と、新人探索者に“ブルの驚嘆すべき秘法店”従業員達。

 今現在訓練場でやってるのは、装備を身につけた状態でのダッシュ&ウォーク。要するにフル装備で隊列を組み、合図に合わせて行進とダッシュを繰り返す、という基礎訓練。

 これねー。むかーーーーし、ダークエルフ流でアランディ鬼教官に似たようなのやらさせられたことあるけど、かなーーーりキツイのよね。まああのときはさらに森の道無き道を駆けずり回らさせられたけど、こちらはまだ午前とはいえかなり日差しも強くなってきてじきに炎天下。湿度は高くないけど気温は高い。熱中症に注意と警告出るレベル。

 

「ふぅわー、めちゃしんどそうやんなー。あたし探索者見習い辞めて良かったー」

 僕の横で同じくその訓練の模様を眺めつつそう言うのはアデリアさん。とは言うもののアデリアさんは、現在ここボーマ城塞を取り仕切っているヴォルタス家の一員。そしてこのボーマ城塞でも、自主独立の精神から基本的には全住民が男女問わず基礎訓練を受けている……とかいう話だったはず。

「アデリアはホルスト氏の訓練を受けてないのですか?」

「へ? え? な、何いうてん!? そんなん、う、受けとったよ!? もちろん、当然やん!?」

 露骨にあやしいリアクションをするアデリア。

 

「せやなー。訓練日になると何でか急に体調悪ぅなってはいたけどなー」

「はァ!? そんなん、たまっ……たまやん、たまったま!? 偶然! 運悪く! 不測の事態!!」

 弟のアルヴァーロの指摘に、さらに分かり易くうろたえる。

「たまたま……下痢したり、運悪く寝違えたり、不慮の事故で足の指突き指したりしてたもんなァ~」

「突き指はホンマやもん!」

「───え、他は?」

 思わず突っ込んじゃったけど、アデリアさん、それほぼ自白ですよ。

 まあでも……僕もけっこう人のこと言えませんけどね。

 問題は僕らダークエルフは、軽い怪我や体調不良程度だと、普通に治癒術士に治療されて訓練に戻されちゃうところです。ていうかまず僕自身治癒術使えちゃうし。だいたい皆、真っ先に【自己回復】覚えさせられるしなー。

 

 今日の午前中は、まずはこの基礎訓練からだそうで、日が昇って来て日差しがきつくなる前に一旦休憩。

 その後屋内訓練場に移動して格闘訓練だそうだ。

 で、本日は何故だか色々な経緯があって、この訓練に母ナナイ、エヴリンド、そして狩人達とJB、ニキ、ダミオンの探索者まで参加している。

 母のナナイは僕の前だとかいう事でか妙に張り切って、指示を無視して勝手に運動場をぐるんぐるん走り回っては他の人たちのペースを乱してる。いい迷惑だ。また僕の前を通るときに手を振っている。めちゃめちゃいい笑顔で。最終的にはホルスト氏に参加を遠慮してもらうよう頼まれてた。当然だよ。

 

 エヴリンドさんは無理やりナナイに付き合わさせられたモノの、生来の生真面目さもありきちんとペース指示に合わせてる。合わせつつも自分なりのペース配分に魔法での補助も加えて、安定感ある動きだ。

 ダークエルフに限らず、エルフ達の基本的な身体能力は一般的な人間達よりも低い。その為人間と対峙する際には、魔力循環での身体能力の向上を含めて複数の魔法での補助を得てだいたい同条件。

 つまり内在する魔力を自身の身体的強化に使う者がエルフにおける「戦士」で、それ以外をメインにすると「術士」となる。

 

 この点、人間社会で生まれ育ったハーフエルフなんかはかなり不利になるんだよね。

 勿論ハーフだとある程度は人間の身体的優位を受け継いでる可能性もあるけど、それよりも周りの環境が魔術、魔力循環を学ぶのに適していないことが多い。

 なので人間社会で生まれ育ったエルフ、ハーフエルフ等は、魔術や力よりも、素早さや器用さ、知的能力を生かしたスキルを磨く傾向にある。

 都市部なら細工物師や織物師、または写本師なんかになることも多いし、裏社会で言えば盗賊や暗殺者になる事もある。田舎ならそれこそ狩人とかね。

 さらには独特の注目される外見も利して、演奏家や吟遊詩人なんてのも多いらしい。

 後はドゥカム師みたいに学者とかもあるけど、そもそも学者自体少ないし、ドゥカム師自身は魔術に関してもなかなかの腕前だしね。ちょっと例外的。

 

 何にせよ魔術込みでなくてもバカ体力のあるウチの母ナナイはそれ以上の例外中の例外で、魔力循環含めての補助を得てるとは言え、このハードトレーニングを難なくこなせているエヴリンドさんもかなーりスゴいのだ。

 僕や外交官見習いのデュアンなんかは、戦士としてはどーしょもなくポンコツの落ちこぼれ。

「え? 何か用ですか?」

「いや、別に」

 

 魔力循環込み、で言うと、やはり参加しているJBも、エヴリンドさんに負けず劣らずの動きを見せてる。同じく探索者のニキさんにダミオン君もなかなか。特にニキさんは女性ながらもこれだけの動きなのはスゴい。

 “ブルの驚嘆すべき秘法店”の人たちは……うーん、キビシい。

 確かプリニオという人が彼らの中じゃ一番身体能力が高いっぽいけど、資質はあるのにペース配分をうまく出来てない感じ。……いや、これは母のせいでもあるな、うん。

 同じく衛兵隊候補である王の守護者ガーディアン・オブ・キングスの若手たちも、探索者の新入り達も……まあ、全体的にキビシい。

 彼らとてそれぞれに訓練したり、またクトリアでサバイブしてきたという点ではそれなりには出来る強者ではある……はず。

 例え脚のことが無くても、普通に白兵戦をすれば僕の勝てる相手はほとんど居ないだろうし、今やってる訓練だってかつての僕以上には出来てる。

 けどまあ、それぞれに過酷なサバイブをしてきたことと、専門的な指導の元に訓練してきて、それを日常的に続けていると言うことは違うし、やっぱ差は出てくるんだろう。

 

「よし、ラスト一周、隊列は乱れても良い! ここまで全力疾走! 最後尾から10名は居残り訓練の追加だ!」

 ワーオ、と思わず声を上げてしまう宣告に、ボーマ城塞の警備兵達は「いつものこと」と猛然と走り出し、バテバテな新参者達が慌てふためく。

 間違いなく最後尾からの10名は新規参加の彼らから出るはず。

 

「おおー、ヤマー君、抜けてきましたね」

「必死やんなー。最後のこれ、ホンマきっついもん」

「あー……秘法店組のでかい人、もう走れてないねぇ」

「ルーズ? ルーザ? だっけ? 体格良いから、これ無理やろーなー」

「あ、探索者見習いの……ちっこい子の……」

「クーやんやん! あの子、結構すばしっこいねんで」

「プリニオだったか言う秘法店組の彼、比べるとあまり姿勢が崩れてませんねえェ」

「秘法店組の中では身体能力はかなり高いみたいだしね」

「秘法店組は他がひどいもんなあ……シオンとか」

「エヴリンド……、JB、ニキさん、ダミオン君……結構余裕でゴールしたね」

「ダミオンは怪しかったですやん。あ、ほら、倒れた」

「根性あんもんなー、ダミやん」

「あ、コケた」

「ヤマー君!」

「巻き添え!」

「おお、ヤーン君器用にかわす!?」

「彼、体型的には小熊っぽいけど、こういうとこ何気に如才ないよね。周りをよく見てる」

「あー……ダグマさん、凄くペース守ってたのに……」

「順調に行ってれば問題なく上位でしたよね……」

「うわ、シモやんヤマーと殴り合い始めた!?」

「うわ、うわ、巻き添え増えた」

「……え、あれ、ルーズ? ルザ?」

「おお、最後尾だったのに……!?」

「このまま……追い上げ……て……?」

「……あ、クレト君に抜かれた」

「惜しいッ!!」

 

 こう、全体的にかなりひどい有り様で最後尾からの10人が決まる。

 

 □ ■ □

 

「うわははは! どうだ! 自慢の母の勇士は!」

「あ、はい。超、大人気ない感じしました」

 訓練場を見渡す低めの城壁の上に居た僕たちの方へと、意気揚々やってくる母ナナイにそう返すも、横からアデリアが、

「ほんま、めちゃ格好良かったですぅ!!」

 と半ば飛びつかんばかりに食い気味で言うと、

「なはは、そうかそうかー!」

 とご機嫌で返す。

 む、僕のコメント聞こえてなかったな? まあいいけど。

 

「ま、久々に良い運動になったぜ」

 汗を拭いつ水を飲みつつ、JB達探索者メンツもやってくる。

「お、風小僧だな? お主もなかなかの走りであったぞ。ナハハハ」

「あ……いやー、まあ、ありがとよ」

 一人勝手な独走状態で走り回ってた我が母にそう言われても、JBとしても複雑なリアクションにならざるを得ない。

 

「あ、そう言えば、JB。貴方は入れ墨魔法で魔力循環出来ますよね」

「まあ、そうだぜ。おかげさまで走るのは得意だし疲れにくい」

「他の人たちはどうですか?」

 気になったのはまずニキさん。彼女は体格的にはそうゴツい方ではなく、筋肉質で締まってはいるがやや小柄。雰囲気としてはランナーやスイマーに近い感じ。なので走りに向いてるようには思えるけど、今回みたいなフル装備での行軍練習だと、装備の重さを支えるガタイの良さも重要になる。けど、小柄ながらもかなり順当なペースで走りきっていた。単に訓練との積み重ねとスタミナの賜物……と言うには好成績すぎに思えるのだ。

 

「あー……一応一通りの魔力循環訓練はしていた……かな? なあ、ニキ?」

「あ? ……まあ、そうだね。アタシらの班は魔術の専門家は居なかったけどサ、……まあ、ハコブに指導はされはしたね」

 ああ、先日ザルコディナス三世の亡霊との戦いで諸々あってお亡くなりになってしまった彼らのリーダー的存在だったハコブ氏。確かに彼は熟練の魔法戦士だった。その彼の手ほどきならかなりのものかと思いはするが、うーん……魔力感知で見たところ、正直どーなんだろ。

 

「ね、エヴリンド、デュアン───」

「まだのびしろはあるな」

「ですねぇ。あとあっちの彼ら、適性検査からやってみても損はないでしょうね」

 新人探索者、秘法店組、衛兵隊候補に、加えてボーマ城塞の警備兵達。

 魔力適性がほぼ無いような人間でも、魔力循環の基礎の基礎をやって損と言うことはない。

 身体能力向上という面では、特に人間の場合は循環訓練より普通の訓練した方が効率の良いこともあるが、循環訓練をしておけば魔力耐性は確実に上がる。

 なので、特に魔獣の多いクトリアでは、より魔獣の少ない王国領よりもやる意義はある。

 また魔力循環を鍛えると周囲の魔力の流れに敏感になる。

 つまり、感覚が鋭くなり攻撃の気配や先読みにも有利。特に魔獣の気配が察知しやすくなるのは微妙に便利なはず。

 

 そして勿論、人間の場合はせいぜい多くて10人に1人と言われてはいるが、ある程度以上の魔力適性があれば魔術を使えるようになる可能性もある。

 今ここにいる衛兵隊候補は10人。例え簡易魔法を一つ覚えられる程度の適性だったとしても、覚えておけば有用だし、そうね~……。

「……魔法衛兵隊……?」

 衛兵隊の中に魔法を使える者達を集めた専門の部隊を作るのも……ありっちゃありか。

 

「エヴさんや、デュアさんや」

「……何だその妙な略し方は」

「やっておしまいなさい」

「───一応言いたいこと伝わってきましたけど、どうしたんです?」

「いや、まあ、なんとなく……ノリで」

 

 ま、魔力適正検査からの循環訓練。今後の課題の一つですね、はい。

 

「お、何だ? 何か面白そうな話か?」

「いや、いやいや、母上には関係ないことです、はい」

 この人、魔力適正検査と循環法を教えるとか言って、普通の人間なら一発でぶっ倒れるレベルの魔力いきなり打ち込むとかやりかねないからなあ~。どーゆースパルタだよ!? 的なの。

 

 ■ □ ■

 

 魔力適正検査と循環訓練の時間をとってみよう、という話をボーマ城塞の警備隊長であり訓練教官でもあるホルスト氏に提案すると、特に問題なくすんなりと通る。

 彼自身、魔力循環訓練の意義は知識としては知っているものの、訓練させるノウハウをあまり知らないため実施出来て居なかったらしい。

 まだアニチェト・ヴォルタス氏が存命中はある程度の循環訓練も出してたらしいけど、アニチェト氏は戦士向けの循環法にはあまり詳しくなかったようだ。

 確かに、そこは僕も弱い。

 つまり、彼らへの訓練法指導に一番適しているのは……。


「……何だ?」

「姉御、出番です」


 エヴリンドだ。

 

 というわけで早朝からの行進訓練、一部の追加訓練と休息、そこからの室内へ移行しての格闘訓練……の予定を急遽変更して、魔力適正検査と循環訓練を実行する。

 適正検査のやり方にも色々あるけど、今回は特に準備もないので一番単純で一番……僕らが面倒くさいやり方。

 僕ら術士が被験者に魔力を通して、どのタイプの魔力に反応するかを視るというもの。

 今回訓練に参加している人数だけでも───うわあ、100人近くは居る。

 20人五班に分けての格闘訓練の最中に、一班ずつ整列してもらって魔力を通して行く。

 

 で、やはり平均的に見て、一班に2人ぐらいの率で、魔術や魔力循環による強化が出来そうな程度の魔力適正の持ち主が居た。ただ、「魔術師」になれる……とまで言えそうな人はやはり皆無。この辺、人間とエルフの差異を強く感じるなあ。

 まあ、ある程度の弱い適性でも、努力次第では簡易魔法以上の術を使えるようになるはなれる……らしい。

 その辺はどーしても、伝聞知識になるけどもね。

 

 面白かったのは、ヤマー君。彼、自称の通りになんと闇属性魔力の適正がある───と、思いきや、土属性魔力の適正があった。実は闇もちょっとある。けど土の方が強い。つまり僕タイプ。

 そして同じくその姉のダグマさんにも、ヤマー君より強めの土属性。

 この二人は、巧くすればある程度の魔術が使えるようになるかもしれないくらいには適正がある。ヤーン君は残念ながらあまりない。

 これ、多分家系的に何かあると思うので、“大熊”ヤレッドさん含めたご両親も調べて見ても良いかもしれない。

 もう1人、ちょっと面白かったのは、秘法店組の巨漢……というかまあ、おデブさん。ルーズ氏には光属性魔力と闇属性魔力の適性が少しあった。光属性は人間の中ではけっこうレア属性で、光と闇の両方の属性を持ってるタイプはさらにまれ。

 複数属性を持つこと自体はそれほどまれではないけれども、正反対の属性を持つというのは結構難しいものがあり、うまく鍛えないと魔力による悪影響が起きやすいのだ。

 クトリアには光属性に強い“黎明の使徒”の皆さんも居るし、闇属性に強いマヌサアルバ会も居るので、彼らにご指導願うのも良いかもしれない。

 しかし、闇と光の属性両方って、ヤマー君以上に中二病心くすぐるタイプだよね。

 

 午前中は適正検査だけで終わり。

 昼食と休憩を経て午後三時くらいから循環訓練の指導に入る予定……だが、そこはエヴリンドさんに基本丸投げ。

 僕は僕でやることがある!

 そう! このボーマ城塞の書庫にある蔵書の読破だ!

 

 


 更新で~す。


 今回分更新の途中から、デバイスがGalaxyスマホになってま~す。


 それはそれとして、活動報告の方にハロウィンイラストアップしておきました。 気が向いたらどうぞ 見てやってくださいませませ、。

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