1-24.「今度こそホンマの異世界ハーレムや!?」
「ありゃーケッサクだったなー! ガンノスケ~~~!!」
果実酒を飲みながら、ご機嫌で笑うユリウスさん。
場所は昨夜同様の客間で、時間帯も同様の夕飯時だ。
テーブルの上には昨日よりも多くのご馳走が並べられ、さらにはすぐ横に設置された石組みの焚き火と鉄板で、次々と肉が焼かれている。
正直、味付けに関してはダークエルフ郷でのものには遠く及ばない。肉は単純な塩焼きだし、野菜類も同様。
使われている調味料は塩か蜂蜜、または果実の汁くらいで、言葉を選べば「素材を生かしたシンプルな調理法」で、有り体に言えば「質より量」である。
まあそれでも、食えるときに食えるだけ食うのが俺の正義。はい、食いますよ、ええ、ええ。
ユリウスさんがGO-KI-GEN-DA-ZE! なのは、昼間の俺と雄牛兜との「試合」に対してのトークによる。
正直、「剣と魔法のファンタジー世界」に転生しておきながら、何をあんな地味~な関節技とぶちかましの血みどろ試合をしているのやら、と我ながら思わなくもない。プロレス用語で言うならば、かなり「しょっぱい試合」だったと思うのだが、ユリウスさん的には意外にも高評価だった。
「何だよあれ? グレイシー? グレイシー柔術か何か? 総合でもやってたの?」
総合、というのは多分総合格闘技か何かだろう。残念ながらそんなに高度なことはしていない。
「じゅ、柔道……やってた……みたい」
ユリウスさんの妙なテンションにやや引きながら、もそもそと答える俺。
「ほー。柔道にあんな技あるんだなー。いやーー、面白ェわ」
実は柔道にはあんな技はない。というか基本、禁じ手である……はずだ。
ほじくり返すと、あの辺りの危険技を友達とおもしろ半分に練習していた記憶がある。そして顧問にこっぴどく叱られたような記憶もある。
「ま、でもおおよそハッキリしたな」
不意に、やや真面目な顔をして語を切り替える。
「お前の【スキル】は、多分パッシブ系のスキルだ」
また、スキル……だ。
「つまり、【粘着糸】や【外骨格化】みたいに、意識して使うタイプじゃなくて、無意識に常時、あるいは条件付けで発動するタイプのやつだよ。
身体強化系か、自然治癒かな? あの感じからすれば」
どうだ、と言わんばかりに推論を述べるが、俺はそれに関して懐疑的だ。
むむ、む、と。
むむむむ、と。
懐疑的なのだよ、俺にしては珍しくも。
何故かと言えば、ユリウスさんの言う「あの感じ」の、最後に俺が立ち上がった場面。
あれは単に、俺がこっそりと魔法を使ったからでしかないからだ。
◆ ◆ ◆
話は昼間に巻き戻る。
俺は雄牛兜にこっぴどくやられ、満身創痍で立ち上がれない程ダメージを受けていた。
それなりにはスタミナも耐久力もあるだろう、とのアランディ隊長によるお墨付きも意味が無いほど、雄牛兜の馬力は異常だった。
これはユリウスさん曰わく雄牛兜の【スキル】で、【狂戦士化】とやらの効果らしい。
追い詰められたときに自動発動するパッシブ系スキルだそうで、身体能力が数分だけ飛躍的に上がる。
その代わり使用後には驚くほどにスタミナが消耗するそうで、最後に彼が倒れ伏して居たのもそのせいだ。
俺はじゃあ、何をどうしたのか? というと、単純極まりない。
仰向けに倒れ、指一本動かせずに居たときに、俺が使える数少ない簡易魔法の【自己回復】を、左腕に込めて使っただけ、だ。
この世界では魔法の発動には一旦その魔力を集める依り代を必要とするらしい。
それは多くは杖であったり、指輪であったり、魔剣であったりもする。
その依り代を自分の肉体の一部にすることも出来るが、多くの場合それは効率が悪く、魔力のロスが増える。
なので魔術を専門とする者は、効率よくロスも少なく魔術を発動出来る術具を求め、使用する。
或いは術具無くしても有効な術式の開発を目指し、研究する。
俺は魔術師ではなく、誰かから簡単な魔術の使い方を教えて貰っただけなので、専門の術具も無いし、効率も悪い。
悪いが、それでもあの状態から「なんとか立ち上がる」くらいまでは、【自己回復】することは出来たのだ。
そしてこれは、後になって知ることになるのだが、出発前にレイフから貰った御守りのブレスレットが、術具としての効果を持っていたということも助けになっていた。
で、立ち上がってからどうしたのか? についてだが……突進してきた雄牛兜を、正に柔を良く剛を制すと巴投げで投げ飛ばした……と言えれば格好良いのだろうし、出来ればそうしたかった。
のである、が。
実際には、「なんとか気力を振り絞り立ち上がったは良いものの、結局へたり込んで、背中を丸めたダンゴムシのようにうつ伏せになってしまっただけ」なのだ。
そしてそこに見事なまでのタイミングで雄牛兜が突っ込んで来たため、「足元に丸まった肉塊」に躓きつんのめって、正面の木板の囲いに衝突、大破させた。
つまるところ、俺の今回の「勝利」等というのは、正に偶然と運とタイミングによるもの、でしかない。
「なーに言ってンのよ。勝ちは勝ちなんだから、素直に喜んどけっつーの」
俺の脳内ナナイさんが励ましてくれる。
「運を味方に付けるのも実力のうち……だが、そんな勝利に慢心するようではまだまだ鍛え方が足りんな……!」
脳内アランディ隊長は更なるハードトレーニングをプレゼンしてくる。
「ふん……お前の豚肉達磨にも、そういう使い道なら利用価値があったみたいだな」
エヴリンドさんは脳内でも異常に手厳しい。ある種のご褒美です。あ、俺はそんなドMとかではないので違います。
脳内レイフはというと、いつもは饒舌なのに、何だか困ったような、心配しているような、微妙な笑みを浮かべてじっと見ている。何時もの蘊蓄はどうした、と言いたいけれども、これは俺の脳内イメージなので、俺の知らない蘊蓄を語ってくれることはないのだ。そりゃ、当然。
◆ ◆ ◆
……とかなんとか、脳内イメージからの叱咤激励毀誉褒貶を頂いてから、目が覚めたのはほぼ夕方。
最近夢見すぎか、俺は。
昨夜あてがわれた部屋の中で目覚めた俺は、幾分心身が楽になっていることに気付く。
雄牛兜が身動き出来なくなり、けれどもその後にも使い続けていた【自己回復】の効果もあって再び立ち上がった俺に対し、ユリウスさんによる勝利宣言がなされると、そこでもとよりごく少なかった魔力も、使い果たしていた気力体力も完全に切れて、結局のところぶっ倒れてしまった。
それからの記憶は当然無いのだが、そのままここに運び込まれたということなのだろう。
ぼんやりと、周りの気配を感じる。
枕元では仔地豚のタカギがプギプギ寝息をたてて眠っている。
そしてその他にも、この小部屋の中に別の誰かの気配が在ることに気付く。
一人は、セロンだった。
セロンは俺の寝床の反対側に、これまた急拵えで作られたであろう藁と毛皮を敷いた簡単な寝床に寝かされていた。
俺は首だけを回してそちらを見る。
寝ているセロンは、微かにうなされ苦しそうではあるものの、血は止まっているし、見たところ命に別状は無さそうだった。
そしてもう一人……俺に背を向け、両手を動かしながらセロンに覆い被さるようにして座っている者が居る。
その者は毛皮の服を身に纏い、剥き出しの両腕両足には複雑な文様の入れ墨が施されている。
入れ墨のある両腕は規則的に動かされており、 その動きに合わせてゴリゴリと固いものの摺り合わせるような音が聞こえてくる。
背を向けていたその人物は、俺が動いたことに気がついたのか、こちらを振り返ると、
「お目覚めになられましたか」
と、妙に粘ついたような丁寧さで話しかけてきた。
俺はその顔を見て、ぎょっとする。
醜い、とか、異形である、ということではない。
だが、異様ではあった。
それは恐らくは男で、そして皮膚や声の調子からは年長者のように思えた。
ゴブリンは人間よりも短命だと聞くから、実年齢としては30代40代だったりするのかもしれないが、その雰囲気は既に熟年から老齢にかけてのものに思える。
しかし俺が驚いたのは当然そんなことではない。
彼が、丁度バンダナを巻くかのようにして毛皮で両目を覆っていることと、そしてそれで覆い隠せていない範囲までの顔の火傷跡から、恐らくは失明しているであろうことが分かったからだ。
現に、彼は俺の方へと向き直るが、正確に俺の顔を見て話しかけてきては居ない。
ぼんやりと、おおよその「俺の顔がありそうな方向」を向いているだけだった。
そして、俺は気付く。
彼はあの試合場で、場外に引きずり出された後の意識の混濁していたセロンの元にいたゴブリンだ、ということに。
「驚きましたか?
私は御覧の通り盲目です。
しかし目明きの者より多くのものが“視え”ますれば、貴方様のこともよりハッキリと視えております」
俺がその容貌に驚くであろうことを想定しての発言なのだろうが、それは正に言い当ててはいた。
「私はあの御方より、賢者の名を頂いておる者です。
治癒術等を嗜みます故、この様に盲しいて戦力にも成らぬにも関わらず、あの御方の側に侍る栄誉を頂いておるのです」
つまりは、治癒術師として俺とセロンの治療を命ぜられた、ということなのだろう。
ゴブリンシャーマンとなれる程年を重ね経験を積み知恵を得るゴブリンはごくわずか……と言っていたけれども、この群れにはシャーマン、魔術の使い手がかなり多い気がする。
男は手にしていた木の器から、緑色のどろどろした粘液を手で掬うと、べちゃりとセロンの身体へと塗る。
「奥方様には及びませんが、私も薬師の技をもっております。
貴方様にも同様の軟膏を塗らせて頂きました。治癒の助けになるでしょう」
言われて見てみると、俺の身体には何枚もの葉っぱが貼り付けられて、その下には同様の緑の軟膏が塗られているようだった。
恐らくは、薬草と獣の脂を混ぜ合わせたものだろう。初歩的な塗り薬だ。
「先程───」
その治療の様子を漠然と眺めていると、賢者と名乗った男は作業の手を止めることなく話を続ける。
「私には目明きに見えぬモノが見える、と申しましたが、それは決して虚偽誇張等ではありません。
しかし、かといって以前より見えていたということでも無いのです。
この【スキル】は、あの御方により齎された祝福なのです───」
また、【スキル】だ。そしてこの男は、それがユリウスさんにより齎されたとも言う。
男は語り出す。彼とユリウスさんとの出会いの話を。
◆ ◆ ◆
出会い、と言っても、実際には同じ群れの中で育ち暮らしていたゴブリン同士、元々知っている間柄ではあった、という。
けれども世代が違う彼ら同士が、ともに行動するということはほぼ無かったため、そのときになるまで賢者はユリウスさんの存在をそれと意識することは無かったそうだ。
賢者は、群れの中ではかなり長生きなゴブリンであった。
しかし身体的には貧弱で、年長組の中でも所謂ホブゴブリン級とされる大きさに成長出来ないまま年をとっていた。
そんな彼がそれなりに重宝されていたのは、薬草や食べ物に対する知識が他の者達より豊富で、それをもって当時の群れのリーダーであったホブゴブリンに取り入っていたからだ、という。
「真に───その頃の私は、今以上に盲目で、暗愚であったと言えます。
あの様な愚かな蛮人に、ただ媚びへつらい従うことで生きながらえていたのですから」
そのリーダーは分かり易い暴君タイプのリーダーで、欲しい物は全て自分で独占し、その余り物を順位の高い順に下げ渡すだけのリーダーだったのだという。
ただ単に、他のゴブリン達より身体的に強い。ただそれだけで、群れを従え支配していた。
「それは、ある時の遠征から帰って来たときのことです」
遠征、についてはレイフ達からも聞いたことがある。
ゴブリンの群れに比較的強い個体が育つと、近場で野地豚や野鳩、兎等を狩り、木の実や食べられる野草を採取するだけではなく、より遠くへと狩りに行くようになる。
その際、本来の群れの生活圏を越えて、人里や街道へと現れては、人間やその他の種族達を襲うようにもなる。
そして食べ物や物品を奪い、また女は奴隷───いや、家畜として攫うこともあるのだ、と。
この群れでは、既に他種族の女を家畜化することを習慣化していたのだという。
レイフによると、それは本来的にはゴブリンの習性等ではなく、どこかで人間のやっていることを覚えて習慣化するらしい。
曰く、「ゴブリンのやることは、基本的に全て“サルマネ”なのさ」と。
「そのとき我々はかなりの収穫を得ていました。食肉用の獣も数頭捕れてましたし、その上で十人ばかりの人間の群れを襲い、多くの物品と、女を捕まえていたのです」
リーダーは得意満面で群れの元へ戻った。
女は総勢4人。それ以前に捕まえていた女達の多くは、既に病気や体力の低下で死にかけていた。新たな獲物を得られたことで、リーダーはまた再び「お楽しみ」が出来る。
しかし───。
「我々が戻ったときには、既に群れは全く違うモノになっていました」
それが、ユリウスさんの存在によるのだ、という。
群れに置いてきた若手の居残り組は、常ならば遠征組の持ち帰る食料が無ければ生きられない程に飢えているものらしい。
穴を掘り、ミミズを捕まえ木の根草の根をかじって飢えをしのぎ、ときには魔獣に襲われ食い散らかされていることもある。
だが、そうなっては居なかった。
ろくな装備も無く裸か腰布、石や木の棒で武装している程度だったハズが、自作した毛皮の鎧と木の盾に、石斧や投石器で武装していた。
既に何頭もの獣や魔獣を狩っていたらしく、飢えもなければ肌艶も良く、訓練によって身体能力も戦闘技術も向上していた。
「我々“年長組”の戦力的優位は、そのとき既に無くなっていたのです」
この辺りの経緯は、ユリウスさん側視点の話としては既に聞いていた。
しかしこれは逆。ユリウスさんによりチートスキルで無双されてしまった元リーダーと共にいた年長組側視点からの話だ。
とは言え、ここからの「下克上」の展開そのものには大差は無い。
違うのはこの語り手───賢者の視点とその後の振る舞い、顛末だ。
ユリウスさんが実権を握り、居残り組の若手たちの多くは彼に従った。
ただ、急激な変化にはついていけない者も当然居る。
まず年長組の半分は、ユリウスさんの「改革」に反発。徐々に離反し群れを出るか、刃向かい処刑された。
若手組にもユリウスさんを快く思わない者達は居て、闇討ちを狙い返り討ちにあった者も居る。
そしてその派閥争いは、若手より下の幼少組にも影響を与えていた。
つまり、これまでのリーダー独裁体制では、リーダーを頂点にして順位の順に下へと食べ物が下りて行った。
その点で言えば、幼少組は「平等に」飢えつつも、同時に僅かながらも食べ物が与えられて居たのだ。
しかしユリウス派と反ユリウス派に分断されたことで、物資も食料もユリウス派により独占されることとなり、反ユリウス派に連なる者は若手も年長組も自力で食べ物を得るしかない。となれば必然、反ユリウス派に連なる幼少組は、以前よりはるかに飢え苦しむことになった。
ユリウスさんはそのとき、恐らくは「造反組のあぶり出し」を狙っていたようだ。揺さぶりをかけることで従うか離反するかを明確にさせる。そんな話は前にも聞いていた。
彼曰く、それは群れを一つにまとめる上で必要な過程だったのだそうだが、派閥に組みしない幼少組が飢え苦しんでいたという話は聞いていない。
年長組の中の数人。賢者を含む数人が、それら飢え苦しむ幼少組を救うために、ユリウスさんが作った食料庫へ食べ物を盗みに入ろうとして───撃退された。
それはもう、完膚なきまでに叩きのめされた。
命乞いをするしか無い。例え何があっても二度と逆らうことはしないと示すしか無い。そう考えた賢者は、思いも寄らぬ行動に出た。
篝火として焚かれていた火を使い、自ら両目を焼いたのだ。
「今思えば、正気の沙汰ではありませんが───」
だからこそ、効いたのだろう。
忠誠を誓う。それを証明する為ならばこの目をも捧げる。
その誓いを受け入れたユリウスさんは、食料庫に盗みに入った年長組を許し、また派閥に関わらず食料を分け与えることを宣言した。
そしてその結果、群れを出た者達以外は自然とユリウス派として統合されることになった。
「───そのとき、あの御方はおっしゃったのです。
『お前はこれから、常人の目では見れぬ者を視て俺に伝えよ。
俺の第二の目となり、俺に仕え続けるのだ』───と」
そしてその通り、彼は常人の目に見えぬモノが観えるようになったのだという。
「あの頃は、まだあの御方のことも良くは“視えて”はおりませんでした。
しかしあの御方の第二の目としての力に目覚めてからは、あの御方が如何に特別な方なのかがはっきりと解るようになったのです───」
◆ ◆ ◆
何が特別なのか。何故特別なのか。
その理由が俺には解る。
賢者曰く、彼は生き物の持つ魂を観ることが出来るらしい。
内在する魔力やその属性、魂の力に、それを覆う感情等々。
物が見えない代わりにそれらを観る。
そしてユリウスさんが何故特別かと言うと、二つ以上の魂の力が重なっているからなのだ、と。
他のゴブリンとよく似た魂と、それに重なる、非常に強い魂。その質は人間のそれにもよく似ているが、同時にあらゆる他の生命の魂とも似た部分を持っているという。
そして───俺もまたユリウスさんに良く似た、二重の魂の力を持っている。
賢者は興奮気味にそう言った。
他の目明きの者達にはそれが視えない。だから本質が解らないが、自分は違う、と。
あの御方───ユリウスさんと似た構造の魂を持つ俺こそが、ユリウスさんに仕える為訪れた運命の存在に他ならないのだ、と。
賢者が言っている「強い力を持つ二重の魂」というのは、恐らくは俺やユリウスさんのような前世の記憶を持つ転生した者の魂のことなのだ。
別に確証は無いがそれが正解だろう。俺とユリウスさんの共通点なんてそれしかないのだから。
ユリウスさんがゴブリンの魂と人間によく似た魂を持っているのと同様に、賢者の見えない目には、俺もオークと人間によく似た魂が二重になって視えていると言う。
向こうの世界の俺と、こちらの世界の俺の二つの魂が重なり合ってこの「追放者のオーク、ガンボン」の肉体に宿っているから───。
そういうことなのだろう。
特別と言えば特別。
しかしその特別さというのは、賢者の求め想像しているような意味での“特別”さなのかは、俺には判断しようもないのだ。
そうして賢者の話を聞きつつ小部屋で休んでいると、程なくして銀ピカさんが呼び出しに来る。
タカギを抱えて再び客間へと案内されると、昨日よりも盛大な宴であった。
ユリウスさんはまたも陽気に飲み食いをし、女ゴブリンやその他、人間やエルフの女達までも侍らせている。
人間の女達はかつての元リーダー達が捕まえてきたのだそうだが、ユリウスさんが実権を握ってからは以前のような家畜以下の扱いを改めさせ、結果今では彼女達も又ユリウスさんの妻という立場になっているらしい。しかも彼女達自身の選択で、だ。
どういうこった。責任者出てこい。
そして今回の宴では雄牛兜も同席していた。勝者である俺を讃えると共に、敗者ではあるが「健闘し、素晴らしい闘志を見せた」雄牛兜のことも賞賛する。
そうすることで、妙な遺恨を残さないように……というユリウスさんなりの配慮なのだろう。
実際雄牛兜は既に俺に含むところ等何もないかの振る舞いで、中空の植物の茎で作られたストローで変に可愛らしくチューチューと果実酒を飲み、黒髪ロングさんと二人でまったりしてる。いや兜取りなさいよ。食事ですら兜の面を軽く上げただけで、絶対に雄牛兜を脱ごうとしない。どういうことだ。
しかしヤンゴブさんに関しては明らかに遺恨を残しまくっている。ハッキリ言ってユリウスさんの後ろで完璧に俺へとガンをつけまくっていて、正直めちゃくちゃ恐いです。
銀ピカさんはというと相変わらずの鉄面皮で、全く感情が読めない。とにかく誰がどうであろうとユリウスさんの側を片時たりとも離れない、という不退転の決意だけは見て取れる。
で。
俺、だ。
なんというかその、俺の此処での立場に、いささかの変化が出てきている。
「オツギシマス」
まだ片言なエルフ語でそう言いながら、一人の女ゴブリンが俺のマグへと果実酒を注ぐ。
「お肉、焼けマシタ」
俺の横に座りピッタリと寄り添う様にして、別の女ゴブリンが取り分けられた肉を葉っぱの皿に盛り付け差し出してくる。
転生後、初のモテ期が来た……!
相手は女ゴブリン達だけどっ……!
なんというかまた、あわあわとしている俺に、ユリウスさんはニヤニヤして笑いかけて、
「女ってのは強い男に惹かれるもんだからな」
昼間の一戦で、ゴブリン達の間では俺は強者認定されつつあるらしい。運なのに!
「ガボさん、強イ、ステキデス」
何だろう、何か、何というか……ある特定のサービスのお店で、「社長さん、ステキデス」とか言われているかの様な気分で、モテ期はモテ期だけど、何か凄くこう……微妙ッッ!!!! 凄く微妙な気分ッッ!!!!
そんな俺の心情を読み取ったのか、ユリウスさんが俺に顔を寄せて耳打ち。
「分かる分かる。俺も最初の頃はまだ人間的な感性残ってたから、こいつ等にモテだしてもすげぇ微妙だったもんな。
まあ成長していくと人間っぽくなってくし、馴れればこいつ等はこいつ等で愛嬌もあって可愛いく思えるンだけどな」
正直俺は、まだ俺の顔をベースにしたと仮定する女オークに対してそういう感情を持てる気がしない。
「ま、やっぱ最初は人間から……だよな?」
ユリウスさんがさらにニヤついた顔で詰め寄ってくる。
「勝者の特権、だ。
紹介してやるよ。人間の女たちを」
そう言って物凄いゲス顔で、異世界ハーレム展開へのルートを提案して来た。
え、え、何て? 今、何て?
今度こそ、今度こそホンマの異世界ハーレムや!?




