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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-60. J.B.- I Can Make You Dance.(踊り、踊らせ)


 

「あー、もうマジ糞ダリィわ」

「うるさい、口閉じてろ」

「ああ? テメー、マジ熊髭魂なめンじゃねェぞゴルァっ!?」

「兄貴のは熊髭ていうか……ダサ髭……偽髭……嘘髭」

「何か言ったか、あぁ!?」

「別に……暑いね……」

 

 ……やかましい。

 やかましいことこの上ねえ。

 

 だいたい総勢三十人とちょいとばかし。久方ぶりのボーマ城塞までの行きの道。

 荷牛と荷車、駱駝、そして徒歩と、俺一人なら“シジュメルの翼”でひとっ飛びだが、今回は酒取引含めての荷物運びと、これまた久し振りの“腕長”トムヨイ達狩人勢ともご同行。

 で、その上さらには十人ばかりの若僧共をも引き連れてのもの。

 その若僧共と言うのがまあ、“大熊”ヤレッドの二人の息子、ヤマーとヤーンに、長女のダグマを含めた、王の守護者ガーディアン・オブ・キングスの若手……つまりは未来のクトリア共和国衛兵隊候補生達だ。

 ほとんどが成人して間もないか、じき成人になるかというくらいの年齢で、生意気盛りのハイスクール生ぐらい。

 だからまあ、とにかくやかましいことこの上ない。

 何だよ、遠足の引率かよ!? とも愚痴りたくなる状況だ。

 

「あのー……JBさん?」

「ああっ!?」

「ひっ!? す、すみません……」

「あ、ああ、ダミオンか……悪ィ、何だ?」

 苛立ち紛れについ声を荒げてしまって謝りつつそう聞くと、

「あの、もしかしたら、その……三人ばかり……い、居ないかも……?」

「あぁ~!? だ、誰と誰と誰だ!?」

「や、分からないですけど、た、多分クレトとプリオと、もう一人多分王の守護者ガーディアン・オブ・キングスの誰か辺りの姿が……」

 王の守護者ガーディアン・オブ・キングスの若手だけかと思いきや、一人はそうだがあと一人は孤児仲間から見習いになったクレト。で、もう一人は旧ヴァンノーニの現地採用組でシモン同様の『ブルの驚嘆すべき秘法店』への再就職組プリニオ。

 

「おい、シモン! 秘法店組、全員居るか!?」

「ふぇ!? え、な、何!? どうした!?」

「おいコラてめー、何ボーッとしてんだよ!?」

「あ、いや、別にいや……なァ!?」

「おお、おう! 別にな!?」

 秘法店組の連中は、明らかに気の抜けたというか……ボーッとした状態。

「シーモーーーン……。俺ァ言ったよな!? 今日は朝早いから、酒盛りもほどほどにしとけッてよ……?」

「あー? おめ、馬鹿言うな、そりゃ、ほどほどにしてたよ、ほどほどによォ? なァ?」

「お、おう。ほどほどに、して……うぅ、うげぇ~~~……!!」

「うわ、汚ェ!? こいつ吐いたぞ!?」

 

「あーあ……。どーすんよJB?

 とりあえず一旦休憩すっか?」

 呆れ顔のグレントに、相変わらずの間延びした声で「おぉ~、だーいじょうぶ~?」などと聞きながらゲロった秘法店組へ近付く“腕長”トムヨイ。

 

「あー……もう、しゃーねえ。あそこの岩陰まで行って一旦休憩。あと人数確認!

 それと……悪いなカリーナ。ちょっと(アヤカシ)飛ばしてはぐれた連中捜してくれねーか?」

「あいあーい、了解、あいりょーでーす!」

 まだボーマ城塞まで半分も来てねえのに、糞前途多難だぜ……。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 こんな状況になる最初のキッカケは、王の守護者ガーディアン・オブ・キングスの現団長であるところの“大熊”ヤレッドによる頼みからだ。

 

「スマン、JB。ウチの息子どもを鍛え直しちゃあくれんか?」

 

 そう机に手を突き拝むようにして頼み込まれたのは、例のアルバ主催の“前世の記憶持ち連中の秘密会議”の翌々日。

 その秘密会議での話……の前に出ていた、王の守護者ガーディアン・オブ・キングスを母体としつつも、それを新たなクトリア共和国衛兵隊として再編する計画についての話の中で、レイフの提案した試験制度のことがその理由だ。


「いや、いやいや待ってくれよ、ヤレッド。

 鍛え直すってんなら俺よかイシドロの方が適任だろうし、イシドロ以外でもそっちにも人材はいるだろ?」

 横で腕組みしつつ無駄ににこやかな笑みを浮かべているイシドロは、それに対してまた呑気に、

「いやー! どうもなー! 俺は人にモノを教えるのは巧くないようでなー!」

 カカカ、とまた笑うが、いやいや、だからって……何で俺だ?

 

「イシドロの奴は、なんというか……元々感覚で戦い方を覚えた様なヤツでなー。こいつの教えは、『そこでズバー!』だの、『ガツンと気合いでかましてー!』だの、何を伝えたいのかがさっぱり分からん」

 ……あー。所謂天才タイプにありがちなヤツか……。

「じゃ、パスクーレはどうなんだよ?」

「……ありゃもっとダメだ。とにかく怒鳴るか殴るかしか教え方を知らん。それに今は“魂”の修行だとかでこっちの事なんか構いもせんわ」

 こっちもまあ、想像はつくなあ。

 

「それにな。正直に言うが、そもそも俺達は“キング”に惚れた男達の集まりだ。腕っ節自慢が集まっちゃあ居るが、正式な訓練なんぞ受けたことのあるヤツはほとんどおらん。

 その上ヤマーはあんな態度だし、そうで無くとも俺の子だとなると、イシドロやパスクーレぐらいでもなきゃ遠慮して厳しく接してもくれん。さらには……若手の中にはアイツに変に感化されとる連中も出ておる。

 だが、お前さん達はあのハコブ直々に色々と教わっとるだろ? 惜しい男を亡くしたが、奴の薫陶を受けとるお前さん等ぐらいしか、頼れる相手もおらんのだよ」

 

 ……確かに、ハコブの教え方は巧かった。最期の最期に知った事ではあるが、ハコブ自身幼少期から未来の王となるべく文武両道で鍛えられて居た筋金入り。放浪の時期にも訓練は欠かさず続けていたらしいし、それも自己流ではなく勇猛で知られた戦士の国ディシドゥーラ流のものだ。

 それらを教えられた俺達は、この廃墟の町クトリアでは信じられないくらい高度な訓練を受けていることになる。

 だが……だ。

 

「正直に言うとよ。俺たちも最近見習いが一気に増えちまって、そいつらを鍛えるンで手一杯なんだよなあ」

 ふるいにかけた上での見習い採用ではあるが、まあそいつらもなかなか厳しいもんだ。

 

「ううぅむ……。だが、そこを……何とか、なあ?」

 

 やや泣きそうな表情でそう言うヤレッド。

 元々はチンピラ然としすぎてて避けていたパスクーレや、見回りメインであまり交流のなかったイシドロと違い、市場の取りまとめをしていたヤレッドとはそれなりに深いつきあいだ。特にリカトジオス軍の奴隷から逃れてクトリアへと来たばかりの頃は、色々便宜して仕事を回して貰ったりと世話にもなってる。

 その辺踏まえればそうそう無碍にも断れないってーのはあるんだが……うぅ~む。

 

 と。

 俺がそうしかめっ面して唸っていると、

「おいおいおい、お前さん、誰か忘れちゃあおらんか?」

 と宣うのはイベンダーのおっさん。

「……いやいや、待てよおっさん。正直に言うが、おっさん、戦い方に関しちゃあアンタ人に教えられる程じゃあねえだろ?」

 魔鍛冶師、魔導技師、そしてそれらを使いこなすワザに関しちゃピカイチだが、その辺を全て取っ払った生身の戦いに関しちゃ、控え目に言ってちょっとイマイチ。腕力はあるが技術は無い。

 

「俺じゃない、俺じゃない。

 俺たちの知り合いで、きちんとした訓練を受け、その上本人も歴戦。今でも訓練教官としてバリバリの現役という、正に逸材が一人おるだろうよ?」

 ん? あー……そうだ、確かに居たな。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 で、俺はまずその日のうちに“シジュメルの翼”を使ってボーマ城塞へ向かい、この件について打診する。

 しかも話の流れが一転、二転して、最終的には“大熊”ヤレッドの三人の子らの他、数十名の王の守護者ガーディアン・オブ・キングスの若手連中と、ウチの見習い達までを鍛えて貰えないか、という話にまでなっていた。

 その面倒な依頼に対して、かつての王国剣闘奴隷の英雄、“金色の鬣(こんじきのたてがみ)”ことホルストは快諾。

 で、今現在いつもの狩人面子に、新生した“クトリア遺跡調査団”&“ブルの驚嘆すべき秘法店”面子との移動に合わせて、ヤマー達王の守護者ガーディアン・オブ・キングスの衛兵隊候補の若手面子をも連れてボーマ城塞へと移動中……なのだ、が。

 

「ふ、ふへ、へへ……。闇と死の申し子、たる、俺っちに、この程度の……暑さなど……」

 ワケの分からん強がりを口にするヤマーの横で、それぞれにしらけた目を向けているのは姉のダグマと弟のヤーン。

 ヤマーは体型、顔立ちともに母親似らしいが、弟のヤーンは全体にずんぐりした、「小型の“大熊”ヤレッド」みたいな風貌。で、姉のダグマは、スラリとした体型とくっきりとした目鼻立ちは恐らく母親似で、ややいかつい骨格は父親似か。

 

「JBさん」

 ヤマーを軽く睨みつつ、そう俺へと言って来るのは姉のダグマ。

「ボーマ城塞へ行き金色の鬣(こんじきのたてがみ)ホルストさんの指導を受けるのには異存はありません。

 ですが、それならば本部のラクダを使えばもっと早くに到着するはずです。

 この愚かな弟の妄言と泣き言を聞きながらの徒歩移動には合理性があるとは思えません」

 ややそばかすのある生真面目を絵に描いたような顔立ちで、“黎明の使徒”のリーダー、グレイティアをも彷彿させる鉄面皮でそうスラスラと述べる。いや、グレイティアに比べると、弟のヤマーへの苛立ちがやや零れちゃあいるか。

 

 今回王の守護者ガーディアン・オブ・キングスから借りてきたラクダは四頭。それぞれ俺たちと狩人達が二頭ずつ使っている。

 王の守護者ガーディアン・オブ・キングスの若手連中は全員徒行軍。なおかつ移動には緩急をつけつつもほぼ今まで休みなしだ。

 はっきり言うと、普段ならこんな風には移動しない。

 

「へぇ、なるほど合理的……ねぇ~。なかなか難しい言葉知ってンじゃないのサ」

 横からそう口を挟むのはニキだ。荷運びの新入りと秘法店組を除いた俺たち探索者組での古株は俺とニキとダミオンのみ。他の連中は今回お休み……というか別件だ。

「で、それを誰に言うのサ?」

 そう逆に問われて、ダグマは口ごもる。

「悪党相手に? 山賊? 魔獣?

 『すみません、徒歩であなた方を追うのは合理的でないので、ラクダを取ってくるまでお待ちください』って?」


「そ、それは別の話です。我々は訓練を受けるために移動しているのですから、状況が違います」

「いや、同じサ。アンタ達の追うべき連中はアンタ達の予定に合わせちゃあくれないンだからね。

 特にこれからは城壁内でチンピラ小悪党相手に睨みを効かせてりゃあ良いッてワケじゃないんだろ?

 場合によっちゃ、郊外山野に隠れてる山賊や魔獣相手に出向かなきゃならないかもしんないンだからサ」

 魔獣相手、てのはまあ分からねーが、山賊相手は十分あり得る話だ。

 

「俺たちも元々は遺跡探索の“穴蔵鼠”だ。ほとんど城壁の外での活動はしてきてなかったぜ。

 けど色々あってボーマ城塞との行き来をするようになってからは、また色々学んでったんだよ。

 特にこいつら……」

 と、そこで近くに居たグレントを指し示し、

「クトリアの名狩人達へと教えを請うてな」

 と続ける。

 

「お、おおぅ!? な、何だよ急に?」

 話の流れを把握してなかっただろうグレントはそうやや慌てるが、構わず俺は話を続ける。

「地下じゃ俺たちに適う奴らはまず居ねえ。市街地で悪党追っかけて捕まえるなら、そりゃ王の守護者ガーディアン・オブ・キングスの独壇場だよな。

 で、やっぱり郊外でのことなら狩人だ。

 今回の行軍のやり方もトムヨイ達に考えてもらってやってる。

 市街地と違って強い日差しを遮るものもなく、道も無い荒れ地での行軍の仕方を身体で覚えてもらう為だ。

 訓練はボーマ城塞で始まるんじゃなく、既にもう始まってんのさ」

 

 ……と、まあそんな事をのたまっているワケだが、まあ何が困ったかと言やあ、その俺たち探索者組の新入り一人と、秘法店組の一人も行方不明になってはぐれている、という所。

 まあそいつらも訓練対象だ! クソ!

 

「……分かりました。私の認識が甘かったようです。失礼しました」

「いいって。気になった事はまず聞いてくる方が良いからサ」

 

 ダグマの方はと言うと、言われたことを飲み込んで素直にそう引き下がる。

 年の頃としちゃ俺とほぼ変わらない。確か二つ下の17歳くらいか。男の俺とて人のことは言えねえが、平均的にはそのくらいの年には結婚して子育ての準備をしてる、ってのがまあクトリアじゃあ女の生き方とされてるもんだ。

 探索者だあくどい飲み屋の支配人だ何だとあまり普通じゃない女が周りに多いから忘れそうになるが、だいたい20歳も過ぎて未婚の場合、特に女は完全に嫁き遅れ扱い。つまりウチの女どもはほぼ全員そう。

 

 その上王の守護者ガーディアン・オブ・キングスは元々が完全な男社会で男の組織。とにかく“キング”に惚れ込んだ厳つい男達の集まりが母体だ。

 その中で、再編される衛兵隊にはレイフの提案で希望者なら女性も試験を受けられるようにする予定でいる。

 これは別に理念的な理由からじゃなく、衛兵隊を前世で言うところの警察組織のようなものと位置付けた上で、女性で無ければ対処し難い問題があると言うことを知っているからだ。

 

 そしてその前提で、最も意欲的に挑んでいるのがこのダグマ。

 幼い頃から“大熊”ヤレッドの娘として身近で王の守護者ガーディアン・オブ・キングスの活動を見てきた上で、彼女なりに思うところ考えるところ色々あるようで、とにかく現在新生されるクトリア共和国衛兵隊の中の初の女性隊士候補の筆頭となっている。

 

 まあ勿論、“大熊”ヤレッドの娘と言うことでそれなりに丁重には扱われてはいるが、それでも「女だてらに無理をするな」という声はある。

 これもまた、俺の周りの探索者や狩人連中になかなかの烈女が多い事もあり忘れがちだが、この世界でも基本的には、エルフや獣人種達とは違い、人間の男女間での身体能力の差はかなり大きい。

 一般的な市政の人々の生活だけでなく、軍隊や兵士、傭兵のような荒事をするような場面では特にその差はデカい。

 ダグマは確かに人間の女としては骨格が良くなかなか身体的にも優れて居るが、それでもやはり「女にしては」というカッコ書きはついちまう。

 その辺の複雑な心境もまた、あの妙な気合いばかり空回りしている弟のヤマーへの苛立ちに出てるのかもしれねえ。

  

 

 で、一応休憩をかねてはぐれた奴らの捜索を頼んで居た狩人であり“(アヤカシ)使い”のカリーナが、やや……いや、結構な焦りと共に経過を告げてくる。

 

「あー、JB。見つけたけど……ちょっとけっこう、もしかしたら……ヤバい事になるかもしんない」

 

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