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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-59.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー「彼はいったい───何者なんだ?」


  

 “災厄の美妃”。

 混沌のまつろわぬ神々は、それぞれに己の力の象徴たる武具や魔導具をこの地上にもたらしていると伝わっている。

 それらはそれぞれに意志のようなものを持ち、自らに相応しい持ち手を求め探して居る……とも伝えられている。

 例えばウィドナの糸車、ヒドゥアの闇夜の天幕、エンファーラの悲痛なる獄炎……。

 いずれも、実在すら怪しい伝承の秘宝だ。

 

「あ? 何だそりゃ? ……あ、いや待て、聞き覚えあるぞ。

 そりゃあ、ザルコディナス三世が昔組織した女の密偵組織じゃねーのか?」

 

 JBがそう指摘するのは、ジャンヌの祖母にあたるデジラエも属していた秘密の密偵組織。その名もまた“災厄の美妃”だった。

 けれどもザルコディナス三世が組織したそれは、言わば名を借りて付けられただけのものでしかない。

 

「ありゃあ元々はな、神々の武具として現世に齎されたものの一つで、別名“エルフ殺し”という黒く歪に曲がった刀のことだ。ザルコディナスはそれを真似たんだろう」

「“辺土の老人”が地上に齎したとされる“災厄の美妃”は、その別名の示す通りに、魔力と生命を吸い取り、また術式すら破壊してしまうと言われています。なので別名が“エルフ殺し”。魔術を得意とすればするほど、その刃により力を奪われ、死へと誘われる」

 普通なら、魔術を使えることはそれだけで魔術を使えない戦士相手にはアドバンテージになる。

 しかしもしその相手の戦士が“災厄の美妃”を持っていたのなら、その相手に魔術戦を挑んだその時点で負ける。まさに魔術師、エルフの天敵のようなもの。

 

「そりゃ……成る程、確かに厄介そうだがよ。

 けど、その……何だ? “災厄の美妃”とか言う刀一本は、王国とクトリア共和国との同盟とかより問題になるほどのモンなのか?」

 JBのその疑問もごもっとも。国と国の問題よりも、例えそれが神の作ったものとはいえ、たかが刀の一振りが問題となるとはそうそう信じられない。

 

「だからこそだ。刀一本それ自体はたいした問題にはならん。

 しかしそれを何者が持ち何に対して使われるのか───それが問題なのだ」

 

 例えば───“災厄の美妃”を持つ戦士……いや、暗殺者が一人、闇の森へと向かう。

 隠し道も簡単に露見するし、闇の魔力の呪いも暗殺者には効かない。

 ダークエルフの魔法の力は無力化され、魔法に頼るのが当たり前になってる我々は、悉くに後手に回るだろう。

 そうなれば、全郷の氏族長クラスのダークエルフを暗殺者一人で皆殺しにする……。

 それは、暗殺者の技量によってはそう不可能なことじゃない。

 

「“災厄の美妃”は持ち手を選ぶ。その基準が何かは分からぬが、その為持ち手不在の事の方が多いとされる。

 しかし持ち手が現れ、その力を十分に発揮できうる状態にまで高められたときには、歴史的な破壊と混乱が巻き起こるとも言われて居る」


「私は───あいにく“災厄の美妃”に限らず、魔術や魔導具にはそう詳しくありません。

 しかし、確か聞いたことがあります。“血の髑髏事件”の際に暗殺された王国の英雄、マグヌス・ドラゴネティス将軍は、黒く輝く歪んだ刃により殺されたらしい……と」

 

 “血の髑髏事件”は、王国軍がクトリアの邪術士討伐を行うきっかけとなった事件だ。

 皇帝の血脈の者を邪術士が狙い、それはマグヌス将軍により未然に防がれたとされているが、しかしそこに邪術士の目論見とは別に“辺土の老人”グィビルフオグの思惑が絡んでいたとしたら?

 つまり、王国軍を動かし、クトリアへと攻め込ませる事がグィビルフオグにっての計画の一部だったと……。

 

 ぶるぶる、と頭を振る。

 確かにそれは、可能性としては十分あり得る。あり得るが、結局それを考えても意味はない。

 今、問題なのはアルバの言うとおり、その持ち手が何かしらの意図を持ち動いている可能性があるということと、その刃の向かう先がどこなのか……と言うことだ。

 

「───恐らく、“血の髑髏事件”の頃とは持ち手は変わっている。

 5年ほど前のことだ。我が会の者がとある死霊術士を追っていたときに、“災厄の美妃”の持ち手と思しき者と遭遇している。

 その“災厄の美妃”の力は明らかに弱いもので、伝承を元に造られた数ある複製品の一つだろうと思ったそうだが、“辺土の老人”の思惑と、クトリア王都解放の時期に多く現れた“生まれ変わり”の存在……。それらを加味して考えれば、その者が新たな真の持ち手という可能性も無くはない」

 

 アルバの言はあくまで推察に推察を重ねた宛推量。証拠も根拠も薄いものだが、全くあり得ないとも言い切れない。

 

「……その持ち手は、どのような人物でしたか?」

 テレンスのその問いに、アルバが

「曰く、“痩せこけ餓えた若い雄獅子のような風貌で、顔の真ん中、眉間に大きな疵痕のある猫獣人(バルーティ)”だそうだ」

 と答える。

 それを聞きまた少し考えて、

「……確実、とは言えません。しかし可能性を言うのなら───確かマジュマと言う名の彼が、猫獣人(バルーティ)へと生まれ変わっていました。傷痕のことは分かりませんが、風貌は似ています」

「真嶋……か」

 恐らくは前世で担当していたクラスの生徒だろう者の名を呟くアルバ。

 記憶を辿るかのように目を閉じるが、それがどの様なものかまでは伺い知れない。

 

「だが、その持ち手とやらが猫獣人(バルーティ) かもしれない……てのは、ある意味朗報だな。

 クトリアじゃあまだ猫獣人(バルーティ)はそう多くはない。それとなく探りを入れていけば、情報は集まるだろうしな」

 そう言う“キング”は特に、組織的にそれらの情報を集める事の出来る立場だ。僕らよりもその辺には向いているだろう。

 

「───だが、あくまで“それとなく”だ。

 もし本当に“災厄の美妃”の持ち手なのだとしたら、迂闊に近寄るべきではないし、また変に気取られるのも不拙い」

 それはもう、特に───。

「特にレイフ、君はな」

「いや、はい、うん、絶対、間違いなく、近付きません、ええ」

 作戦名、いのちをだいじに! ですよ、ええ。

 

 それから不意に、

「レイフ……それにJBにイベンダー」

 改めてアルバが向き直りそう言う。

「それと、今はここに居ないあの……愉快なちびオークのガンボンもか……」

 急に出されたその名前に、僕は少し驚く。

「我々……“キング”もテレンスも私もだが、私達はどう足掻こうとも“辺土の老人”により送り込まれた“破壊の種子”だ。もちろん、その芽を発芽させぬまま生涯を終えることは不可能ではなかろうが……それでも、いや、だからこそ私は思う。

 私たちではきっと恐らく……“破壊の種子”を芽吹かせてしまった同郷の者達を止めるのは難しい」

 これを敗北主義と言ってしまうのはそれはそれで違うだろう。

 

「“鉄塊”のネフィル達を止められたのも、JB、君の力があってこそだ。私はそう思っている」

 “破壊の種子”を芽吹かせてしまったかつての生徒。その生まれ変わりの魔人(ディモニウム)達とアルバ、マヌサアルバ会、そしてJBにイベンダー達は死闘を繰り広げ、そして殺してもいる。

 

「これは───或いはただの希望的な考えに過ぎないのかもしれないが、私は思うのだ。

 彼らを止めることが出来るのは君たち……つまり、“辺土の老人”によってこの世界へと送り込まれたのではない生まれ変わりの者にしか出来ないのではないか? ……とね」

 そう吐息を吐き出すような声で言うアルバの横顔。その仮面の奥にあるだろう素顔のことを、僕はただ想像する事しか出来ない。

 

□ ■ □

 

 ひとまずは、アルバ主催による第1回クトリア転生者会議はその様な内容で無事閉会される。

 時刻にすればもうとっくに夕飯時。間に軽く摘まむものなどはあったが、さすがにお腹ぺこりんのぺっぺこりんである。

 

 部屋を出るとエヴリンドのみならず、アルバの護衛にテレンス氏の護衛、さらには“大熊”ヤレッドやパスクーレという王の守護者ガーディアン・オブ・キングスの面々までもがかなりやきもきした顔で険悪な空気。

 そりゃあ……うん、ですよね。彼らの立場からすれば、守るべき、護衛すべき対象が一切の護衛を無理を言って排除した上で密談して数刻だ。しかも魔法で防音してたから声すら聞こえない。

 いやー、申し訳ナイト!

 というか……すみませんエヴリンドさん、めちゃ顔怖いンですけど。痛い、痛い、視線痛い!

 

 

 が。

 ここでまた少しばかり問題が起きる。

 それぞれがそれぞれの護衛達をなだめ取りなし何とはなしに場の空気を治め、さてそれでは解散か……と言うところで一階の玄関ホールまで降りると、また新たな人物達がこの場へと乱入してきたのだ。

 

「一体こんな所で何をしていたのだ?」

「……ああ、これはレオン殿に、アスタス殿」

 やや慇懃にも思えるほどに丁寧な対応で挨拶を交わすのはテレンス。

 豪華で彩り鮮やかな装束に、テレンスの態度からも分かるのは、彼らが王国の人間で、恐らくは外交特使の一員だろうことと、仮にも団長であるテレンスに対するレオンという偉丈夫の物言いから見て、彼の家系は恐らくはレオナルディ家よりも上の立場だろうと言うこと。

 

「テレンス、このような場で非公式な密談とは、外交特使団長としてあるまじき振る舞いではないか?」

 危惧していた通りの詰問だが、テレンスはまるで悪びれた風もなく、

「密談と呼べるほどのものではありませんよ。

 こちらの“キング”氏とは、私が6年前のクトリア解放戦で訪れた際に縁が出来まして、個人的に再会しに来ただけです」

 と、全くの大嘘……いや、真実を混ぜた嘘を並べ立てる。

 

「では、何故マヌサアルバ会の会頭と、ダークエルフ共まで同席している?」

 猛獣のような鋭い眼光で射竦めるように視線を回すレオン氏。

 この言にエヴリンドはやや警戒を強めて身構える。

 

「“キング”氏は今のクトリアでは重要な人物ですからね。どうしても面会者が立て込んでしまいます。

 今回も私がやや無理を言って少ない時間を割いて貰いました」

 ううーむ。前世がフリージャーナリストだと言う割に、立て板に水と言わんばかりにスラスラと嘘が出てくる。これはこちらの世界での経験で培われた能力なのだろうかどうか。


「いずれ分かることですが、彼ら王の守護者ガーディアン・オブ・キングスはクトリア共和国の新たな衛兵隊として再編されます。今回もその為の会談です」

 僕の方は嘘はついてない。部分的に情報を伏せているだけですからね、ええ。

 

「私はただの見舞いだ。だが、悪いが具体的な事は差し控えさせて貰う。それではまた」

 アルバはそう言うと振り返りもせずにその場を立ち去る。素早く賢明な判断だ。ここでやいやい言い争ってもこちら側には益はない。

 僕もそれに習おうかと体の向きを変えて退出の意を伝える挨拶をしようとしたところ、レオン氏が再び口を開き、

「廃墟の山猿を衛兵隊にとは───森の蛮族らしい馬鹿げた試みだな」

 と言ってのけ、さらに空気が強張った。

 

「貴様ら人間の王族など、まさにその山猿の末裔ではないか」

 真っ先にそれに反応したのは王の守護者ガーディアン・オブ・キングスの面々ではなくエヴリンド。

「───何だと!?」

「違うかい、坊や。お前が母親の股ぐらから糞とともにひりだされ何年だ? 私はお前の母とその母よりも前からお前たち人間の愚かな様を見続けている。

 その間にお前達がしてきたことは、ただただ同族同士で殺し合い憎しみ合い踏みつけ合いを繰り返してきただけだ。その挙げ句が、“滅びの七日間”だろう」

 

 ぎゃわーーーーー! と、声にならない叫びを上げる僕。いや、ちょっとエヴリンドさん、ど直球すぎでしょう!? いや、まあ、そりゃあね? エヴリンドさんはここにいる三人のダークエルフ面子の中では確かに一番ダークエルフとしての誇りを持っていらっしゃる。なのでそりゃあレオン氏のど直球暴言を看過できないのは分かります。そうなるでしょうよ、まああんな事言われちゃあ。けど、ね。けどですよ、ええ。今そのモード入られたらッ!! 入られたらッ……!!??

 

 食い付かんばかりの形相になるレオン氏に、それを冷たく見返すエヴリンドさん。

 目を剥くデュアンにJB、テレンス氏。驚きつつもややニヤケているイベンダー。

 いやいや、ニヤケてないでなんとかして! と、他力本願なことを思いつつ、いや、とは言え今、エヴリンドは僕の護衛で、帝国人の考えからすれば僕がエヴリンドの主人と見なされる立場。

 護衛と護衛対象とは役割が違うだけで上下の差などない僕らダークエルフには、その価値観考え方はないのだけど、そんなのが彼らに通用するワケもなく、ここは何とか僕がとりなして場を治めなきゃいけないと焦るも上手い言葉が出てこない。

 

 しかしその空気を打ち破ったのは、全く予想外の人物だった。

「はっは! してやられちゃいましたね、レオン殿!

 我々の帝国などたかだか400年余り。エルフの方々からすればせいぜい三、四代。下手すれば初代皇帝を見知った者とておりましょうからね」

 軽快にそうからから笑いつつ言うのは、レオン氏と共にテレンスを探しに来てたであろうもう一人の外交特使らしき人物。たしかアスタス殿と呼ばれて居た男だ。

 

 この二人、いや、テレンスを含めての三人は、それぞれになかなか個性的というか、雰囲気含めてかなり違う。

 テレンスは全体には中肉中背でやや凡庸としたいかにも文官ですというような地味な雰囲気。

 それに反してレオンはというとモロに軍人あがり然とした厳つい偉丈夫で、また帝国人らしい力強い鷲鼻に彫りの深い濃い顔立ち。

 そしてこのアスタスと言う男はというと、すらりとした貴公子風の優男で、丁寧に切りそろえた口髭さえなければ、やや男っぽい女性かとも見間違い兼ねない雰囲気だ。

 服装や装飾に関してもほかの二人に比べてかなり洒落めいて居て、ふんわりと大きめでひだと羽根飾りのある真っ赤な帽子や、これまた幾重にもひだのついた肩掛けの刺繍入りのトーガ等も、かなり贅を凝らしたものに見える。

 

「アスタス、聞き捨てならんぞ、貴様! 我が帝国の歴史を軽んじるか!?」

「軽んじるも何も、彼らエルフの寿命が我々より遙かに長く、そして歴史はさらに長いのもただの事実ですよ。

 それに我々は既に帝国ではなく王国です。かつての版図の三分の一も保持していない」

 同じ帝国人……そう、厳密には既に王国人であるアスタスにそう言われて、さすがのレオンも二の句を継げない。

 しかしアスタス、そこで言葉を止めることなくさらに続けて、

「我々はエルフの方々からはもっと学ぶべき事がありますよ。そうでしょう……レイフ殿?」

 涼やかな、それでいて愛嬌のあるアーモンド型の瞳でちらりと僕を見、

「何せ、彼らエルフは、“滅びの七日間”どころではない破壊をもたらしただろう古代トゥルーエルフ文明の末裔なのですから。いかにして破壊と滅亡の時代を乗り越えたか。それらを学ぶのにこれ以上の師はいません」

 

 ヒィ、と思わず息をのむ。

 同国人であり同じ外交特使だろうレオンを言葉で斬って捨てたその返す刀で、エヴリンドをも切り捨てた。

 気の良い青年の仮面でずけずけと入り込むデュアンや、虚実と利害を混ぜ返して煙に巻き、いつの間にか自分のペースに持ち込むイベンダーの社交術とも似ていてかつ非なる、鋭く弱点を突く舌峰。しかもその双方相対する者同士をきっちり同等に黙らせて、素早く場を治めてしまう。

 そしてそれなのにも関わらず……。

 

「それにしてもレイフ殿。お噂には聞いていましたが、想像していた以上に可憐なお方ですね。

 正式な会談はまた先になりますが、ここでお会いできたことは光栄の至り」

 

 す、と全く自然にしてスマートな仕草で僕の手を取り、一礼。

 取られた手のひらが燃えるように熱く感じる。そして何よりも、思わず見とれてしまうほどの洗練された動き。

 

 もそもそと口ごもるかの無様な返礼らしきものを口にするのが精一杯の僕を後目に、

「さぁ~て、早く大使館へ戻りましょうかね! ねえレオン殿、早くせねば例の肉、すべて食べられてしまいますよ? 僕はもうお腹ぺっぺこりんのぺこりんこんですな!」

 と、他愛もない事を言いながら退出を促す。

 不承不承の不満げな顔を隠しもせず忌々しげな一瞥を残し立ち去るレオンに、慌てるようにそれについて行くテレンスも軽く一礼し、王国外交特使団の面々は早足気味に王の守護者ガーディアン・オブ・キングス本部建物から出て行った。

 

「……いやァ~、驚きましたなあ」

「うーむ、全くだ」

 デュアンとイベンダーがそれぞれに感嘆の声を上げる。

「レオンという人物は、まず間違いなく強硬派だろうがなあ。しかもありゃあガチガチの帝国復興主義だ」

「何だそりゃあ?」

「過去の栄華よもう一度……というタイプですよ。つまりかつての帝国の版図を再び取り戻そう、いや出来るならむしろさらに広げてやろう……という人達です」

「なーる……」

 

 と、JB含めた三人がそう呑気に感想を言い合う中、その横でいつも以上に苦い顔のエヴリンドへと熱い視線を送る数人がいる。

「……アンタ、マジ、気合い半端ねェすわ……!!」

「は? あぁ、な、何だ?」

「いやー、痛快な啖呵だったぞ!」

「あのレオンとか言う野郎の糞高ェ鼻っ柱が、見事にブチ折れてたな!」

「王も所詮は山猿の末裔……いや、確かにその通りですわ!」

 ヤマー君のみならず、イシドロ、パスクーレ、“大熊”ヤレッドと、王の守護者ガーディアン・オブ・キングスの面々がエヴリンドへと絶賛の嵐。

 

「いや……お、おい、待て、そんなに、ち、近くに寄るな!」

 

「おおっと、そうだぜ! 姐御に失礼があっちゃあなんねえぜ!」

「うむ、そうだな! おい、お前等! エヴリンドの姐さんには、絶対に失礼な真似をするんじゃないぞ!」

「少しでもそんな真似をしたら、この俺様が許さねえからな!」

「うぃす! 分かりやした!」

 

「あ、あ、姐御ォ!?」

 

 むくつけき男どもの妙な熱気と賞賛に戸惑うエヴリンドに、それを見てニヤニヤの止まらないデュアンとイベンダー。呆気にとられてか呆れてか言葉も出ないJB。

 

 僕はと言うと……取りあえず心の中でエヴリンドに軽く同情をしつつも、もっと別のことが気になって仕方がなかった。

 

 彼───アスタスが僕の手を取ったその一瞬。その一瞬にだけ手に伝わった熱。

 それはただ手の平の体温が僕に伝わって来たという話ではない。

 魔力……。明確に、その一瞬だけその手に炎の魔力を込めて触れたことで伝わった魔力の熱だ。

 

 彼の派手で豪華な衣装にも、或いは何等かの付呪等はあっただろう。その上で、力のある魔術師ならば、魔力循環をコントロールする事で自らの魔力を察知されにくくするというのもよくある話。

 しかしそれだけではなく、あの瞬間だけ手の平に火属性の魔力を込めつつも、他の者には察知されぬようにするというのは、よほど魔力のコントロールに長けて居なければ出来ない事だ。

 彼はいったい───何者なんだ?

 




 次回、JBパートへ。




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