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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-56.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー「ここ、テストに出ますよ!」


 

 

「マジで俺、気合い入ってますんで。北方(ギーン)人、熊髭戦士団の魂、刻んでますから。ヨロシク!」

 “大熊”ヤレッドの息子、ヤマー君の“気合い”の入った挨拶。

「あ、はい……」

 その彼の気合いにやや引き気味でそう返す僕。

 父親である“大熊”ヤレッドは顔を押さえて深いため息。その横のイシドロはカカカと大笑い。

「ははは! ヤレッド殿の長男は、将来有望ですな!」

「……何が有望だ……。まったく、妙なものにかぶれおって……」 

 

 妙なもの……というか、熊髭戦士団は北方(ギーン)人系の有名な戦士団ではある。

 ただ、確か“大熊”ヤレッドは確かに家系としては北方(ギーン)人系の移民ではあるが、元々帝国領の地域出身で、ヤレッドの祖父の代くらいにクトリアへ来ている。ザルコディナス三世の暴政が始まるより前。なので類縁に熊髭戦士団との関係者は特に居ないはず。

 つまりこれは……アメリカ生まれアメリカ育ちの日系三世、四世ぐらいの高校生が、突然自分の民族的ルーツに目覚めて「俺はサムライだ!」とか言い出すような……まあそんな感じだろう。

 

 ……まあ、そういう時期ってあるよね。うん。ブラックヒストリー的な? 感じで?

 

 

 サツアイ済みまして改めての会談。

 今回は王の守護者ガーディアン・オブ・キングスを正式なクトリア市街地の警察組織兼衛兵隊として再編したいという構想についての話がメイン。

 この件そのものは既に以前会ったときに打診はしてある。なのでまずは大枠としての可否と、その後より込み入った具体的内容について。具体的内容と言ってももちろんこちらの構想を押し付けるのではなく、構想、理念を提示し、それらが彼らの目から見て可能なのか、または有効的かの見解を求め、また個別の人選や何やらについて考えを聞く。

 

 で、その特に人選の部分で、どうやらヤマー君はこちらに売り込みをしたいらしい。


「ヤマー! だから今はその様な話をする場ではないと言っておるだろう!」

「だからよォ、親父は古いンだよ! 親父の世代はよ、そりゃあ“キング”様々だ。けどな、そりゃ邪術士共のはびこってた時代のアタマだ。これからは俺っちみてーな新世代が時代を作ってくんだよ!」

「時代の話じゃない、お前の話だ!」

 

 事前の調査だと、確か“大熊”ヤレッドは娘三人、息子二人と五人の子供のいる子沢山。

 その内三人は一応成人か成人に近い年齢。

 ま、言ってもせいぜい高校、大学生くらいですがね。

 “キング”自身がまずはカリスマ性の高いリーダーで、ナンバー2だったパスクーレが攻撃隊長という中で、“大熊”ヤレッドはどちらかというと実務派タイプのまとめ役。

 その実績もあって、新たなリーダーとして“キング”に後継者指名されたらしいのだけど、それらを見てきた息子ヤマーのこの考え、発言は、ある意味正しく父と子のアイデンティティと自己実現を兼ねた確執であり、そしてある意味目指すべき一つの指針を示している。

 

「よろしいですか?」

 僕は右手を軽く挙げつつそう言葉を挟む。

「彼の言うとおり、これから時代は変わります。

 望むと望まざると、変革は起きます。

 重要なのは、それがどのように変わるのかです」

 

 そう言われ、ヤマー君は我が意を得たりと嬉しそうに。反して“大熊”ヤレッドはやや渋い顔。

「……そうは言いますがな、レイフ殿。

 物事にゃ変えて良いもんとそうでないもんがありますわ」

「守るべきは理念です」

 

 “大熊”ヤレッドは元々家系的にも本人的にも、そのいかにもという風体に反して、勇猛果敢な戦士というタイプではない。

 北方(ギーン)人系の中でも特に早いウチに帝国領へと併合された地域に生まれ育った石工の家系だという。

 特に石像、神像作りに長けていた彼の祖父、父は、まだ帝国貴族との関係の深かったクトリア王朝に技術者として好待遇で招聘されていた。当時はそういうことが帝国とクトリアとの友好関係の維持交流として盛んに行われていたらしい。

 言うなれば、職人、芸術家の家系で、彼自身もそういう素養は持っている。

 ただ現在三十路後半の彼は、それらを活かした前半生を送ることは出来なかった。

 

 邪術士支配の時代には、“キング”達と共闘しつつも、表向きは職人として石像作りや建物の補修などをしていたらしい。彼が現在子沢山なのもある意味そういう形で邪術士支配の時代にもある程度の保護を得られる立場にいたから、という面もある。

 ただその事が彼自身には後ろめたく重荷でもあり、屈辱でもあるようだ。

 志としては“キング”同様に邪術士支配への反抗心を持っていても、傍目には「邪術士どもの犬」と見られ、罵られたりもしていた。

 以前はパスクーレともその辺りで揉めたりもしていたが、それらの反動からか、パスクーレ並かそれ以上に“キング”へと心酔もしている。

 

 柔和で穏健な実務家タイプに見える表向きと、ある種の芸術家肌、職人肌な繊細さとはまた異なる、やや苛烈ともいえる“キング”への傾倒を内に秘めた、なかなかに複雑な内面を持っているようだ。

 それがまあ、デュアンと僕の、事前に調べていた“大熊”ヤレッドへの人物評。

 

 それは彼の内面にあるある種の義侠心、自らの生まれ育った地としてのクトリアへの郷土愛というものでもあるが、“キング”という個人への忠誠心でもある。

 つまりそこが、ヤマー君との違いだ。

 

 ヤマー君の言う「新世代」は、上の世代に比べれば“キング”個人への忠誠心は薄い。

 もちろん“キング”は市街地では誰もが知るカリスマで、少なくとも古くからの住人で彼を軽視する者はほとんど居ない。

 それでも、「共に戦ってきた」という意識の強い親世代と、クトリア王都解放後、病み衰えた今の“キング”の印象の方が強い子供の世代とでは温度差があるのは当然で、さらには今後増えてくることも予想される流民、移民などのいわば“よそ者”達ならなおさらだ。

 

 つまり、正式なクトリア共和国の衛兵隊として再編される上では、この“キング”の信奉者達の集まり、という状態を変えていかなきゃならないし、“キング”のカリスマ性に頼った治安維持というのも難しくなる。

 

「パスクーレ氏が“キング”の魂を継ぐ役割を担った、と言うことは聞いています。

 けれどもそれは、彼だけの役目では無いのではないでしょうか?

 彼……“キング”の信じ守り続けてきた理念は、全てに共通しているはずでは?」

 イベンダーやJBからも聞いていた“キング”の人物評からすれば、彼がこの期に及んで自らの権威権勢に執着するとは思えない。

 とは言えこんなことを、いきなりよそ者の、しかもダークエルフの魔術師なんぞに言われても、まあ「はい、そうですね」と言うはずもない。

 なので今回は“キング”と旧知でもあるというイベンダー達の仲介も得て、“キング”本人とも面会をする手はずになっている。

 その辺に関してはイベンダーが「うむ、問題ないぞ、任せとけ!」と言っていたので、一応大丈夫だろうとは思っているけど……。うん、大丈夫……だよね?


「しかし理……念? と言ってもなあ、レイフ殿!

 俺らはまあ、結局のところ、もめ事を仲裁して悪党をぶん殴るだけだぞ? あ、あとはたまには魔物とかもな!」

 ガハハ、と笑いつつそう言うイシドロ。クルス家の一族の中でも抜きん出て単純……んー、サッパリとした性格と聞いているけど、実際こう会って話していると、確かにそのものズバリ、ストレートなまでに竹を割ったような性格に思える。

 

「そうですね。それは皆さんの大いなる役割であり、また誇るべき行いです。

 私はあなた方と、そして“キング”のこれまでの偉業に賞賛を惜しみません。

 と、同時に、私は皆さんはもっと、より多くの事を成し遂げられると信じてもいます」

 どストレートなまでのおべんちゃらではあるけど、実際そうなってもらえないと困るのだ。

 それはこの王の守護者ガーディアン・オブ・キングスに今所属して居る者達だけに限った事でもない。

 

「その為にも、私は新たな人材を含めて適材適所に組織として再編するための試験制度を導入する事を提案します」

 

「試験制度?」

 “大熊”ヤレッドは訝しげに、イシドロは目を見開いて。そしてヤマー君はこれまたストレートに嫌そうな顔でそう繰り返した。

 ここ、テストに出ますよ! いや出ないけど。

 

 □ ■ □

 

「いいね。そりゃ良い。俺は構わねえぜ、それでよ」

 大きなベッドに横たわり、上半身だけ起こしたままの姿勢で“キング”はそう言う。

 イベンダー曰わく死病にて余命少ないと聞かされていた彼の姿は、確かに病み衰え血色もそう良くはないが、それでも陰鬱な風などまるでなく、機嫌良さげに見える。

 

 “キング”の私室には今、僕を含めた訪問客が5人に、キングとパスクーレ、“大熊”ヤレッドにイシドロ、そして成り行き上と若手代表的なポジションとしてヤマー君とが居る。

 これだけ居ても狭くは感じないくらいの室内は採光も良く、豪華では無いが質の良さそうな家具調度品も揃えてあり、ついでにバーカウンターのようなものもあってやはり暗さなど微塵もない。

 

「俺、マジ気合い入ってますんで! ぜってー、それ受けますから! 熊髭戦士団、ぜってーっスから!」

 世代的に直接関わってくる事も殆どなかっただろうヤマー君は、またも妙に空回り気味にそう宣言すると、横に居た父の“大熊”ヤレッドにやはり軽く後ろ頭を叩かれる。

 

「なあイベンダー。この案にはアンタも絡んでんだろ?」

「そりゃな。だが基本はレイフの考えだ。俺らはそこに幾つか助言したくらいだな」

 お互いに愉快そうな顔でニヤリとする2人。イベンダーの“キング”への態度は、クランドロールでのクーロ、プレイゼスでのパコとのそれに似たような気安さがあるが、こう、何とはなしにそれらとも違ったものがあるようにも感じられる。

 

「ですが……“キング”。この試験での再編成というのでは、今のメンバーから取りこぼされる者も出るやもしれません……」

 そう悩ましげに言う“大熊”ヤレッドは、何気に横で鼻息荒くしている息子のヤマー君を一瞥。どうやら不肖の息子の試験結果が不安なようだ。気持ちは分かる。

 しかしその不安げな“大熊”ヤレッドの言葉を受けて“キング”はと言うと、

「そうならんようお前らが鍛え直してやれ。

 良い機会だ。中には解放後ここ数年でたるんで来ている連中も居る。ある程度はふるいにかけてやった方が良い」

 とにべもない。

 

 それもまた、言うまでもなく今回の試験制度の目的の一つでもある。

 大きな組織、しかも所謂身内びいきな体育会系集団となれば、集団の威を借りる人品良からぬ者も少なからず混ざる。

 “キング”というカリスマを中心としている間はそれなりに抑制出来て居ても、その支柱がなくなればタガも外れやすい。

 伝え聞く範囲でもそういう輩の横暴はあるようで、それらを一旦リセットするというのも必要だ。

 

「お前ら、若手の心配ばかりしてる場合じゃあねえだろ?

 お前ら自身、その試験に受かれるかどうか分かりゃしねえぜ」

 そう横合いから口を挟むのは、長年“キング”の右腕として活動してきたというパスクーレ。

 耳に入る評判はどちらかというとあまりよろしく無いが、“キング”の引退の際に「魂の後継者」として指名されて以降、それまでの素行の悪さはかなり減っても居るらしい。

 

 その言葉に憮然として応じるのはイシドロで、

「そりゃあアンタは良いかもしれんが、俺は……うぅむ……試験……とはなァ~~……」

 腕組みでやはり悩ましげに言う。

「お前はコッチの方に……」

 と、右手の人差し指で自分の頭を差しつつイシドロに言い、

「……不安があるし、ヤレッド、お前は太り過ぎだ。ここ何年か、チンピラ相手にでもマトモに戦ってたか? せいぜい穴掘りネズミが良いとこだろ?

 若い連中にばっか戦わせて、呑気に市場で飯食ってばかりいたツケだ」

 と腹周りを撫でさするようなジェスチャーで言う。

 

 実際先ほどのステージでの動きでも、確かにパスクーレの動きはキレキレだった。実年齢では確か三十代半ばにはなると聞いてるが、肌艶含め結構なヒゲマッチョぶりで、その身体能力はかなり高そうだ。

「……そりゃあお前さんは、もう実務は引退したも同然だからな」

「好き勝手言えるだろうが……」

 おそらく自分達の不安をストレートに指摘されただろう二人が恨みがましくそう言うと、

 

「───ああ、確かにそりゃ考えもんだな。

 パスクーレ、お前もきちんと試験を受けろ。俺の“魂”を受け継いだお前が試験を通らない、なんて事になったら、王の守護者ガーディアン・オブ・キングスの名折れだ。

 パスクーレ含め、お前ら全員、絶対に受かれよ?」

 

 との“キング”の言葉に、文字通りに顎がはずれんばかりに口を開けて絶句する。

「え……あ、いや、お、俺は、まだ、ステージの方が……」

「出来るよな?」

「……お、おう……」

 今度は“大熊”ヤレッドとイシドロの二人が苦笑いしつつパスクーレを観る。

 

 ……まあ、おそらく多分、この三人を落とすほどに難しい試験にはしないと思うけどもね。

 あー……でも、法律関係の方はまだ分からんかー。何せ法律自体がまだきちんと決まってないし。

 

 

 王の守護者ガーディアン・オブ・キングスをクトリア共和国衛兵隊として再編する、というのもあるが、今回はそれだけの試験ではなく、さらにはその中から能力と人品と諸々を加味した上で、貴族街内部をも含めた別の治安組織を組織する、という計画もある。

 衛兵隊はクトリア市街地及びその近郊を中心にし、他の各集落にはそれぞれに保安官のような法執行官を置く予定で居る。

 その上でさらに、貴族街を含めたクトリア全土をカバーする治安組織。言うなれば州を跨いで活動するFBIのような存在を作っておく。

 

 この人選が何よりも一番重要だ。

 実のところ、イベンダー達が受けてくれるとそれはそれで楽ではあるんだけどもね。

 難しいのは、なるべくどのような派閥、勢力に対しても公正かつ公平な立場で居られて、それでいて大きく対立もしないということと、当然ながら能力に秀でてる必要があること。

 ただ全ての構成員に各勢力との公正さを求めるのは不可能なので、むしろ各勢力からだいたい同数の、偏りなく人集めした方が良さそうだとも思う。

 そこもまあ、下手すると内部で派閥抗争が常態化する危険性もあるんだけどもね。

 

 まあこの辺はまだまだ何とも言えない。何より試験制度、そしてその内容をきちんと作るところからだ。

 試験も単純に一定の点数以下を切り捨てる、というものにするつもりはない。

 一番は、その人物の適正資質を見極めて、適材適所な組織作りに役立てること。

 それこそ、知識方面には弱いが腕っ節には自信のあるイシドロには攻撃部隊のようなものに入って貰えれば良いし、肉体的には“弛んで”来ては居るが人をまとめる力には秀でてる“大熊”ヤレッドにはやはりそういうのに適した役割をして貰いたい。

 

 さらには調査や捜査に向いた者達、魔術や魔導具の扱い、知識に長けてるタイプ、これといって秀でた点はなくとも平均的にそつなく仕事をこなせるタイプ……と、そういう人材も必要になるだろう。

 また、現在王の守護者ガーディアン・オブ・キングスのメンバーも含めて、試験の結果があまりよろしくもなかったようなタイプで、かつ本人の希望意欲があるのなら、予備隊として纏めておこうという試案もある。

 それで再試験まで実務をこなしつつ勉強する、という感じ。

 王の守護者ガーディアン・オブ・キングスを母体とする事の利点は、クトリア市街地では絶大な人気があり、端的に言って「格好良い」と認識されている事だ。

 予備隊であっても残りたい、試験をクリアしてでも入りたい、という人間は少なくないだろうし、その分は質の向上につながって行く。

 

 それも含めれば、特にイシドロやパスクーレ等の知名度の高い面子には、是非とも試験は受かって貰いたいものではある。

 

 

 それら含め、今ある幾つかの試案について話し合い、今日の王の守護者ガーディアン・オブ・キングスとの会談は無事終了……と、思い、きや、だ。

 

「すまんな、待たせてしまい」

 僕としては最近のとある出来事でやや……かなり株の下がってしまった人物、マヌサアルバ会の会頭、アルバ・オクローネさんとその護衛数人、そして何故か、ティフツデイル王国からの外交特使団団長のテレンス氏とその護衛数人……という珍客が来訪する。

 

「おおう、丁度良いタイミングだ……と言いたいが……ふぅむ、こりゃどちら様で?」

 口振りからするに、アルバの来訪は知って居ただろうイベンダーが、初お目見えのテレンス氏へと視線。

「こちらは私の“古き友人”のテレンス氏。ごらんの通り今はティフツデイル王国の外交特使をしておられる」

「“古き友人”……?」

 誰の言葉か、誰もが思っただろう疑問。

 

 んんん? 確か前回、マヌサアルバ会の白亜殿で会ったときには、初対面であるかの口振りだったハズだけど……と周りを見るが、やはり誰もがそれに訝しげだ。

 

「勿論、その頃は外交特使なんかではなかったがね。

 初めて会ったときには、『国際的なフリージャーナリスト』だった。確かそうだろ?」

 

 この言葉に、新たな反応を示したのは四人。

 僕、イベンダー、JB、そして……“キング”。

 

「今日の目的はその件についてだ。我々共通の過去の話と……これから先の未来の話」

 

 仮面に隠された顔からは、やはり細かい表情、心の機微は伺い知れ無い。

 けれどもその、いつも通りの堂々たる高慢さを滲ませた言葉の響きに、口調とは相反した深刻さが僅かに含まれているような、そんな気がした。

 

 

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