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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
233/496

3-33.J.B.- Sensitivity.(感性)


※間違えて3-34.を先に書き込んでしまいました。

こちらが先です。





「はァ~……どーーーしたもんかなァーーーー」

 三度目か四度目か。数えるのも鬱陶しいようなアダンのため息。

 ウザい。実にウザい。

「うるせえなあ。今更どーしたこーした言うような話じゃねえだろうよ」

 面倒臭くもそう返してやるが、そこにまた再び盛大な溜め息と繰り返しの戯言。

 まったく本当にマジの本気で、鬱陶しいことこの上ない。

 

 アダンのバカがグチグチ言ってるのは、またもやアデリアと揉めたとかそんな話だ。

 探索者になる! とかなんとか言ってクトリアへやってきた当初は、安請け合いしてでかい口きいてたアダンにべったり、といった感じだったアデリアだが、特にセンティドゥ廃城塞でジャンヌと共に転送門をくぐり行方不明になって、その後俺、ガンボン、グイドにドゥカムという珍妙なメンバーで“巨神の骨”へと調査に行って諸々の後にクトリアへと帰還してからというもの、アデリアの興味の対象は目に見えてレイフというダークエルフへと向いている。

 元々ピクシーのピートをはじめとした妖精、精霊、エルフというある種の神秘的存在への思い入れが強いアデリアだったが、何でもその中でもダークエルフには格別な思い入れがあるらしく、その上実際レイフは色々な意味でアデリアを助けてくれた恩人でもある。

 とにかくまあ、口さえ開けば「レイちゃん、レイちゃん、ほんまレイちゃん可愛えんやもん~」と連呼している。

 

 んでまあ、最初の頃は、やはり「アデリアちゃんの恩人だぜ!」という様な態度だったアダンだが、次第に「レイちゃん、レイちゃん」連呼してるアデリアにイラついてきて……まあ、衝突するわけだ。

 イラついて嫌みなことを言いアデリアに怒鳴りつけられ、そんで翌日にはぐだぐだと愚痴を言う。

 実に、鬱陶しい。

 

「……なあおい、アダン。この際だから言うけどよ」

 この辺、俺だけの見解じゃあない。ブルも、イベンダーのおっさんも、ニキ、ダフネ、マーランと、ほぼスティッフィを除いた全員の統一見解でもあるのだが……。

「そもそもお前、別にアデリアと付き合ってるとかでも何でも無いよな?」

「あ、あ、あ、あぁ~~~!? な、何言うてますのん!?」

 うるさい。音量的に。

 

「それにアデリアも、元々別にお前のこと好きとも何とも言ってないよな?」

「あーあーあーあー!」

 耳をふさぎわめき声を上げても、事実としてそれは変わらない。もっと言うなら、「言ってない」以前に、明らかにアダンのことをいわゆる恋愛対象としてはまるっきり好きでは無いはずだ。

 元々ヴォルタス家は船乗りの家系で、子供の頃から周りに居るのは荒くれ男ばかり。そしてあの男勝りという言葉では物足りないくらいの母、ロジータの娘。その中で天真爛漫かつ自由闊達に育ったアデリアとしては、アダンのお調子者なノリは単純に馬が合うし付き合いやすい。恋愛対象としてではなく、船乗り仲間と同じ様な相手として。

 

 けれどもそのアダンはここのとこ、レイフにばかり入れあげてるアデリアにイラついて、むしろ束縛するような事ばかり言う。

 そこがアデリアのかんに障るわけだ。アデリアに対して頭ごなしの束縛は禁句。しかも本人にとって今一番入れあげてることに関してだ。

 そうなー。言うなれば……ロックスターに熱狂している奴に対してそのロックスターの悪口を言っちゃうよーな事を、アダンはやらかしてるワケだ。

 

「諦めな。お前に、脈は、無い」

 まるで噛んで含めるように一音一音をしっかり発音してそう言うのは、横のテーブルの長椅子に座っているニキ。マグの果実水を飲みつつ、もう呆れたのを通り越した顔でアダンを見てる。

 

「くそォ~~~……! なァ~んでェ~でだよォ~~……」

 テーブルに突っ伏して嘆くが、まあなあ。アダンはぶっちゃけ、女好きでとにかくモテたいとアピールしてるわりに、こう……肝心なところで決断力が無いというか、煮え切らない。

 バカなんだからバカらしく、「当たって砕けろ!」の精神でガンガン行けばまだ良いものの、どこか最後の部分で変な格好の付け方をしたがる。

 例えば「物凄い大活躍をして、相手から惚れさせてやろう」みたいな変な意地の張り方をする。

 んで、しかもその上さらには、結構気が多い。

 

 この間はこの間だでダミオンの姉のデジリーのことをやたら持ち上げていたし、また相変わらずマランダの『牛追い酒場』の三人娘は俺に気があるっぽい、だとか寝言をほざいたりする。

 聞くところによるとアダンの実家は結構女が多い上塩づくりではその女たちが重要な働き手。なのでクトリア市街地のたいていの男たちよりも女を尊重する意識は強いし、女相手にバカみてえにでかい態度で威張り散らしたり乱暴をしたりは全くない。お調子者ではあるが、そういう所は好漢だ。

 それで、確かにてらいなく女と仲良くなれる面はあるんだが、その先からイマイチ進めない最大の原因は、そういうところなんじゃねーかな~~……と。

 ま、俺だけじゃなく周り全員の統一見解な。

 

 とにかくそのアダンのしょーーーもない悩み事なんてのは本当にどうでも良く、今俺たちは新しい『クトリア遺跡調査団』の中庭に面した食堂のテラス席で朝食後のまったりタイム。

 

 組織再編に本部移転にと色々あった中で最大の変化の内の一つは、基本的な生活が地上、つまり「日の当たる場所」になったっていうことだ。

 このテラスでの食事もそう。中でもこの格子屋根のつけられたこのテラス席は、俺たち全員のお気に入り。仕事の予定の無い日なんかは、朝飯食って腹ごなしのトレーニングをしたら、のんびりと昼飯に日陰で夕方まではだらだらと休息。そして日の落ちる頃に雑務をちょいちょい片付けて、その後はまた酒を飲みながらの夕飯。たまにはまた歌と演奏と踊りなんかしてちょっとしたお祭り騒ぎ。

 そこにブルの元で働いてるシモン達や、マルメルス他の新入りに下働き連中。たまには多めに穫れた獲物を安く売りにトムヨイやグレント達狩人が来たり、噂を集めたり広めたりしにミッチが来たり、本当にごくごく稀にドゥカムが顔を見せたりもする。

 そしてたまには数人でマランダの『牛追い酒場』へ繰り出したりもする。

 

 とにかくまあ、ここ最近で……というだけでなく、俺がクトリアへと来て以来、ここまでのんびりまったりして過ごせる日々なんて初めてというくらいだ。

 まあ、なのでアダンのしょーーーもない愚痴トーーークなんてのも、全体的にまったりしている俺たちはそこそこ大目に見てはいる。

 突っ込むけどな。勿論。鬱陶しいし。

 

 新人研修も一通り終わり、今後は一応しばらくそいつらの補助をしに地下へ潜ったり、また訓練をしたり、交代でセンティドゥ廃城塞かボーマの地下遺跡を探索に行ったり回収をしたり。その辺はまた『ブルの驚嘆すべき秘法店』の荷運びとのスケジュールの兼ね合いもある。

 ヴァンノーニ亡き後唯一の古代ドワーフ遺物専門店だが、実のところまだまだボーマとの酒取引の方が収入としてはデカい。こちらは定期的な取引が続くが、古代ドワーフ遺物は売れるときと売れないときのムラがあるし、今まで俺たちは表に出ていなかった分知名度的に劣る。特に王国からの客層をまだまだつかめてない。

 

 なのでまあ、こういう「基本的に暇」という日が数日続くこともあるわけだ。

 

 その暇な一日の開始を告げる鐘の音。二の鐘、つまりは朝の8時くらいの時刻。

 その鐘の音とだいたい同じくらいに、ちょっとばかし珍しい客人の姿が見えてくる。

 俺たち南方人(ラハイシュ)の濃い褐色肌なんかとは比べ物にならない程に黒い、いや、青黒い肌の一人の男だ。

 

「やあやあ、どうもどうも、はいはいはいはい、どーもでーす」

 頭にターバンみたいに布を巻き、ゆったりとした衣服を身に付けたそいつは、例のレイフの元へとやってきたダークエルフのお仲間、確か名前は……、

「デューっち!」

 そうそう、デューっち……いや違う、

「デュアンでーす。よろしくデース」

 アダンの叫びにこれまた妙な返し。

 何と言うかこう、軽いというか何というか、うん。

 

「えーと……どのような、ご用件で?」

 一応。一応この『クトリア遺跡調査団』の団長ということになっているマーランが代表してそう聞く。なにぶん適度な真面目さと適度な社交性というバランスを持ってる面子が俺らには居ない。基本的には社交性は低く内に籠もりがちではあるが、実力と勤勉さを考慮すればマーラン以外まとめ役を出来る奴が居ないので仕方ない。ま、本人今の所かなり不安げではあるが、立場が人を作るという言葉もあるしな。

 

「はい、えー、まずイベンダーさんに、お伝えします。本日レイフとの会議予定でしたが、後日に延期お願いしますね」

 イベンダーのおっさんは、この組織再編において中心的な役回りをしては居るが、実は正式な調査団のメンバーとはならなかった。

 本人曰くこちらもまた『名誉顧問』。相談役だの名誉顧問だの、色んなところでそういう役職肩書きばかり増やしているが、実際今の所大活躍なのは間違いない。

 魔鍛冶師、魔導技師としてだけじゃなく、商人として、また交渉人として、まー色んな奴らの仲介だの利害調整だのやんややんや。

 

 特に今一番関わっているのはクトリア共和国建国に向けての法案づくりで、そのために“ジャックの息子”により王の名代として承認されたレイフとはかなり密なやり取りをしている。

 まあおかしなもんだ。

 長年邪術士によって支配され、その後は王国駐屯軍も実効支配には至らず、貴族街の三大ファミリーが事実上牛耳りはするものの、君臨すれども統治せずで無法の街のままだったこのクトリアが、つい最近やってきたよそ者のドワーフとよそ者のダークエルフによって新たな国として再編されようというんだからな。

 

 レイフに関しては、“ジャックの息子”の代理人と見なされている事も、またその見た目が所謂いかにも恐ろしげなダークエルフ魔術師というイメージを見事に裏切るような、小柄でほっそりとした大人しげな雰囲気であることもプラスのイメージとなってるのは間違いない。

 イベンダーの方はというと、やはりあの持ち前の口達者に、相手の懐に入り込む距離の詰め方の巧さがデカい。

 表に出てくるのはレイフの方で、裏での交渉ごとではイベンダーが動き回るという役割分担がバランス良く、今の所「よそ者に勝手な真似はさせるものか!」という反発はそんなに大きくはない。

 何せあのクトリア人至上主義とも言えるパスクーレの奴ですら、表立った非難は今の所してないんだからな。……まあ、奴は今、「キングのソウルを継ぐ」のに忙しいからってーのもあるんだろうけどよ。

 

 それに俺たちのこの『クトリア遺跡調査団』設立に関しても、イベンダーとレイフには諸々便宜を図ってもらっている。半官半民のように「市街地地下遺跡及び上下水道の保守点検」を基本業務に出来たのは、ぶっちゃけ完全な癒着だな。

 まあ今後の法整備いかんによってはどーなるかはまだ微妙ではあるが。

 

 

「あー、はい。イベンダーは……ええと、今、どこ?」

「あ、はい。あの、アルヴァーロと、作業場の方に」

 マーランの問いに答えるのはダミオンで、奴の立場は今、組織再編後に新規採用した新人達全員のまとめ役。見習いで入ったはずが、いつの間にやら見習いのまま役職付きだ。ある意味俺ら古参メンバーより大変で忙しい。

 で、アデリアの弟のアルヴァーロは、新人でも見習いでもなく……んー。ここに寝泊まりさせている研究生? みたいなもんか。

 元々イベンダーに弟子入りして魔鍛冶と魔導技師としての技術を習う、という約束をしていたものの、魔人(ディモニウム)討伐やらアデリアの転移やらに、挙げ句はクトリア共和国建国とゴタゴタ続きでイベンダーがなかなかボーマまで行く機会がとれなくなり、じゃあ仕方ないとアルヴァーロがこちらへと来ることになった。

 そして合間合間にイベンダーに課題を出されて、それを日々研究研鑽している。

 

 アルヴァーロのこの真面目さは、ダミオン始め結構な新入りや新規採用連中にはそれなりに良い影響を与えてるらしい。

 クトリア貧民出身の連中は、クルス家のガエルが言うとおり「真面目に働いて自分の生活を良くしよう」という意識には欠けている。

 勿論新入りの採用の際には、そういう面でどーしよーもねえような連中はきちんと弾いてはいる。いるがまあそれでも、誰もがアルヴァーロほどに熱心に仕事に取り組んでるワケでもない。

 今はここの警備隊長になったマルメルス同様の元囚人や、センティドゥ廃城塞の元捕虜、ジャンヌ達と居た元孤児に、元地下街組と、結構色んなところから新人を入れはしたが、程度の差はあれやっぱどこかしら気が抜けている。

 その辺に良い刺激を与えてくれているのはかなり有り難い存在だ。

 

「呼びますか?」

 マーランにそう問われて、

「えー~……そうですね、うん、特には。後ででも伝えておいてください」

 とデュアン。そう言いつつこの食堂テラス席の長椅子へと座り込み、

「それはそれとして、少し、色々、皆さんとお話ししたい。良いですか?」

 と来る。

 

「おお? うむ? な、何だァ?」

 アデリアのこともあってレイフをはじめとするダークエルフにやや警戒心と嫉妬心を持っているアダンがそう身構えるが、それをちらりと横目に受け流しつつ、

「皆さん、クトリア古くから居ます? 特に市街地、地下街詳しい。私、色々、皆さんから学びたい」

 そう言いながら肩掛けにした鞄から取り出すドワーフ合金製の金属プレートと、同じくドワーフ合金製のペンのように見える棒。

 

「んん? 何だそれ?」

 のぞき込むと反対側にはガラスのようなものがピッタリと重ねられはめ込まれ、一見すると手鏡のようにも見える。

「これは、何度も書いて記録できる魔導具です」

「へー。何か似たようなの、たまに遺跡で見つかるねえ」

「壊れた鏡かと思ってたぜ」

 どう使うものなのか? ての含めて結構みんな興味深く覗き込む。唯一関心なさげなのはスティッフィだけだ。

 

「そうですね、基本はこの様に使います」

 右手の金属製ペンを使い、さらさらとガラス面をなぞると、そのガラス面とその下にピタリと合わさった金属面との間に青黒い粒子のようなものが浮かび上がり、それが文字の形を描き出す。

「うわぁ! なにこれ、すごく便利そう!」

 一番に食いつくのはやはりダフネ。書庫管理のみならず書類や記録等々、本と書き物に関すること全てを担当している事もあり、実用性を考えての事だろう。

 

「これ、でもサ。全面書き終わったらどうすんの?」

 ニキがそう聞くと今度は金属ペンの反対側でポンポンとガラス面のどこかを軽く叩く。叩くとそれまでに書いた文字など全てが再びさあっと青黒い粒子に変化して消える。

「でも、消したら意味なくね? 記録になんねーじゃん?」

「記録しておくことも出来ます。こうすると……」

 アダンのその問いにまた金属ペンの先で別のところを叩くと、それまでに書いただろう文字が浮かび上がる。

 こりゃ確かに便利だが、なんつーかアレだな。魔法! すげぇ! てな感じはあんまりしない。まあ前世のテクノロジーでは日常化してそうなものに似てるからか。情報記録端末的なもんだろうしな。

 

 この魔導具への興味関心からの食いつきもあり、デュアンの聞き取り調査はなかなかスムーズに進む。

 デュアンの聞いてくる内容はバラエティーに富んでいるが、聞かれてるウチにちょっとばかし傾向が見えてくる。

 一つはいわゆる悪所。マランダの『牛追い酒場』なんかを始めとする、いかがわしい遊びを提供するような場所絡み。もう一つは……ふーんむ。この辺はイベンダーのおっさんの方が詳しい……か?

 

 そうしているウチに、アルヴァーロとイベンダーのおっさんが連れ立ってテラスへとやってきた。

「おお、おっさん! 客だぜー!」

「ん? 何だデュアンか? どうした?」

「ああ、イベンダー、今日の午後、予定変更です。

 打ち合わせはまた後日改めてでお願いします」

「ふん? そうか? 何か他の予定でも入ったか?」

「ええ、まあ」 


 何やら煮え切らないデュアンの反応に、イベンダーのおっさんはふうむと一呼吸。

「もしかしてアレか? 王国の外交特使」

 そう聞く。

「特使?」

 そう聞き返すと、

「うむ。ザルコディナス三世の亡霊との戦いで、緊急措置としてアルベウス遺跡の魔力溜まり(マナプール) をレイフが支配しただろ?

 ありゃ王国との協定からすれば、“ジャックの息子”が支配権を移譲されたものを盗み取った事になる。ま、厳密にはあそこは“ジャックの息子”が王国側に貸し出していたようなもんではあるが、その辺含めて改めて詰めなきゃならん。

 それでエンハンス翁のみならず、王国本国から何人か来ると言う話があってな」

 との説明。

 

 あの時はとにかくあの糞亡霊ジジィをどーにかしなきゃなんねえ状況だったから、そんな細けぇ事なんて考えてられなかったが、確かにうやむやにしとけねえところだろうな。

 けどその問いに対しては、

「あー、それでは無いです。私的な問題」 

 とかなんとか、またもややや煮え切らない対応。

 その隣でアルヴァーロがかしこまってデュアンに挨拶をしたりしつつも、デュアンは何やらすぐに切り上げてそそくさと立ち去って行った。

 

「何か、思ってたより気さくな感じだねェ」

「うーん、そうねー。正直ドゥカム師よりすっごく話しやすい」

 偏屈変人躁気質を絵に描いたドゥカムと比べたら殆どの連中は話しやすいが、まあ確かにデュアンの奴は巷に言われる「闇の魔力に魅入られたダークエルフ」という雰囲気はまるでない。

 それを言えばレイフからして全くそんな風ではないし、世の風説なんてのは確かに当てになんねえわな。

 

 けれどもそれはそれとして、何だか妙に煮え切らない態度でもあった。

 俺はイベンダーのおっさんを引っ張って隅へと移動。

「何かあいつ、ちょっと変な感じじゃなかったか?」

「ふむ? 何故そう思う?」

 そしてさっきの話とそこでの違和感について確認する。

「つまり───そうか。ここ……ここ……そして……うむ、なる程なあ」

 おっさんの左手の篭手に取り付けてある魔繰鏡なるこれまたちょっとした万能デバイスみてえな魔導具でクトリアの地図を確認しつつふむふむと。

「な? まあ、あいつも魔術師らしいからその辺を気にすること自体は不思議じゃねえんかもしれねーけどよ」

「普通にそれらを調べたいだけなら、俺に聞けば済む話───ではあるよな」

「そう、そこな」

 

 悪所の他にデュアンが気にしていたのは、言わばクトリア市街地の魔力スポット。

 例えばここ、『クトリア遺跡調査団』本部や、以前の『シャーイダールの地下アジト』にブルの店。『ミッチとマキシモの何でも揃う店』に、今は無人のヴァンノーニファミリーの『銀の輝き』跡。

 他にも『黎明の使徒』本部、ティエジ達の住居に“腐れ頭”の隠れ家。そして俺とクーロがサルグランデの陰謀を“客人”から聞き出すときに使った、クトリア地下街のいくつかの場所にある『シャーイダールの隠し部屋』等々など……。

 つまり、魔法の使い手が居たり、魔法の守り、結界などが備えられている場所だ。

 

 特に地下街の隠し部屋。ここの存在は俺たち以外殆ど誰にも知られていない。魔法の守りのみならず、仕掛けも込みで隠していたり、パッと見にはただの瓦礫の山のように入り口を偽装したりもしている。

 そういう場所周辺のことを把握していて、合間合間に聞き出そうとしていた。

 そんな感じがするんだよな、どーにも。

 ───んーーー……、考え過ぎか?

 

「こりゃ、ちっとばかし調べてみた方が良さそうだな」

 と、俺の思考の先を見越したかにおっさんがニヤリ。んーー? おっさんその顔……。

「楽しそうだな……」

「ん、んー? 何を言う? 真剣だ、真剣」

「いや、ぜってー面白半分だろ、その顔は」

 

  


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