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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-27.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー「ううむ……ど正論。確かに……その通りだ」


 

「おい、レイフ」

 “妖術師の塔”におけるキーパーデスクでウダウダしていると、不意にそう声をかけられる。

「客だ。例のドワーフ」

 そう実に事務的かつ素っ気なく告げてくるのは現在僕の護衛役として常に侍っておられますエヴリンドさん。

 そうです、闇の森ダークエルフで、元ケルアディード郷氏族長であった僕の母、ナナイの護衛役をしていたあのエヴリンドさんです。

 

 アルベウス遺跡での大騒動があり、僕が“ジャックの息子”から王権を授与されてなんじゃかんじゃあって数日後に、彼らは王国の管理している転送門経由でやってきたのだ。

 つまりエヴリンドとデュアンの二人が、だ。

 まあ当初の目的は当然、僕の帰還のサポート。

 

 僕は僕で、ダンジョンバトル開始初期にはそこそこマメに魔導具の手紙鳩を使って状況報告をしていた。

 土の迷宮あたりで在庫が尽きてしまったのだけど、その後も外へと出たガンボンが、疾風戦団経由で連絡をしてくれていたらしい。

 ただ、このガンボンの手紙……めちゃめちゃ悪筆。

 紙自体の質もあまり良くなかったらしいけど、字がとにかく汚い汚い。その上文章もいまいちまとまりがなく誤字脱字も多い。

 なので、「あいつの手紙、解読するのかなり面倒だったぞ」……との事らしい。

 

 ガンボン自身は風の迷宮、つまりは巨人族との共闘から、僕とJBとジャンヌが“闇の者”と呼ばれていたザルコディナス三世との死闘に至る前に、その辺のことを手紙に書いて送っていて、援軍の要請もしていた。

 が……やはりその意図はきちんとは伝わっていなかったようではあり……うん、ことの顛末はごらんの通り。

 

 もちろん母ナナイを初めとしたケルアディード郷の皆も、疾風戦団の人たちも、それぞれに対応策を練り救援には来てくれた。

 まずエヴリンドと見習い外交官であり見習い呪術師であるデュアンの二人がサポートに。アルベウス遺跡の事が全て始末のついた後にではあるけど、それは時間的な問題なので仕方ない。

 揉めたのは、母ナナイからは「帰還のサポート」として送られたのに、僕がクトリア王の名代になんかなってしまったため、まだ全然帰還しないつもりでいる、という事に関してだけど、結局は彼らに折れて貰った。

 それとイベンダーからの連絡でケルアディード郷よりかは状況把握をしていた疾風戦団の人達も来たんだけど、彼らは彼らでまた、もう一人の行方不明者である戦乙女のクリスティナさんの消息に関する情報諸々もあり、まあ色々と忙しいようだ。

 

 

 で、そこへとやってきた来客はというと、彼。

 

「おおう、どうだ? はかどっとるか?」

 

 室内へとどっかどっかと入ってくるイベンダーは、相変わらずの全身金ピカドワーフ合金鎧。全体に様々に複雑な付呪を重ねてあって、もはや鎧そのものが一つのからくり式ゴーレムみたいなものにまでなっている。

 

「あ、へーい。なんとか、まあ、ぼちぼち……デスヨ?」

「ふむ、はかどっとらんな?」

「いやいや、はかどってますよ、はかどってます。俺をはかどらせたらたいしたもんスよ?」

「……こりゃあかなり言語が不明瞭だ。そうとう参ってるようだな」

 

 参りもしますよ、ええ。


 

「ふふふん。そう思ってな。ちょっとした差し入れだ」

 肩掛けにしていたドワーフ合金製のケースを下ろしてバチンバチンと厳重な蓋を開けると、もやっと白い煙、いや、冷気が立ち上る。

「何だそれは?」

 警戒心露わにイベンダーの背後でそう鋭く聞くエヴリンドに、

「おう、お前さんの分もあるぞ? どれにする?」

 と、中にはこれまたドワーフ合金製の小瓶が何本も。

 

「お、おお、それは、まさか、まさに、またもや───」

 ヤダー、ちょお嬉しいサプラーイズ?

 

「ヌカっと爽やか!」

 

 いや、「スカッと」でしょ、と突っ込むのもまどろっこしく、はめ込まれたキャップを開くイベンダーの手からそれを受け取り、エヴリンドの制止も無視して一口。

 爽やか~……ゲェップ!

 

「しぃ~びれるゥ~~~!」

「おい、何だ? しびれ毒か!?」

「違うよォーん。コーラだよォーん」

「何だそれは!?」

「も、良いから飲んで。飲んで飲まれて飲まれて飲んで」

 エヴリンドもイベンダーから小瓶を受け取り訝しげに匂いを嗅ぎつつ一口。

「…ぶ、ブフォッ!? な、なんだ、これは!?」


「ヌカっと爽やか!」

「コーラだよォーん……ゲェップ!」

 はァ~~~……リフレッシュした~~……。

 

 しかしまあ、この世界でコーラを再現するとか、なんつうかさすが前世はアメリカ人、という感じですわ。

 あ、うん。JBとイベンダーのその辺の話は、かなりビックリしたけどもね。

 

 

 スカッと爽やかリフレッシュして、ついでに屋台で買ってきたというケバブみたいな食い物をも頂きつつ、改めてイベンダーは応接用の長椅子へと座る。

 以前籐の長椅子に座ったらフルアーマーの重さで壊れかけたので、イベンダー用に木製の頑丈な長椅子を運び込んでいる。

 というか、魔力通し続けていないと普通に歩くのもままならないほどの魔導鎧って何よ? とは思うけどさ。

 

「ま、具体的な法律作りの草案はぼちぼち進めて行くとしてな。

 例の問題についてなんだが───」

 マッドな魔導技師としてだけではなく、スーパーバイザーとしてのイベンダー氏も実際かなり頼りになる。

 今の課題、問題は、新法を作る上での利害調整。

 まず何より貴族街三大ファミリー同士のそれ、だ。

 

 “大神殿”のクランドロール。

 彼らは基本的には売春業をメインとしている。まあ、現代で言えばキャバクラからおさわり、ストリップバー、そして所謂本番アリの娼館まで全て含めた性産業全般。

 

 “大劇場”のプレイゼス。

 こちらは舞踊、歌劇、軽業、漫談その他諸々、かつてのクトリア王朝全盛期にも盛んだった様々なショーエンターテイメントを売りにしている。

 この辺は実は旧帝国領の現ティフツデイル王国なんかよりもはるかに発展していて、廃虚瓦礫の廃都でありながら、転送門経由でクトリアまで観光しに来る王国貴族や富裕市民が大勢いるのも頷ける。

 

 そして、“白亜殿”のマヌサアルバ会。

 こちらはグルメ、浴場、そしてなんと美容マッサージなんかを売りとしている。総合リラクゼーション施設、とでも言うような商売をしているファミリー。

 

 実際初めて現地に来てみて、ここが娯楽と退廃と背徳の都、なんて言われるのも当然だなあ、と納得してしまう。

 これがほんの5年前までは邪術士達に支配され死と恐怖に彩られていた街とは本当に信じられない。

 とまあ、その辺のもやもやっとした事柄を考えていると、そのスーパーバイザーのイベンダー氏がこう言葉を続けてくる。

 

「まずは、一通りのご招待の件を日程調整しておいた。まずはクランドロールからだな」

「───はい?」

 

 すみませんスーパーバイザーさん、話が見えないんですけど?

 

「取り急ぎ今夜だ。まずは今夜クランドロールの“大神殿”へ行くぞ。そして後日プレイゼスの“大劇場”、その次はマヌサアルバ会の“白亜殿”」

「え、いや、どして? いやいや、良くないでしょ、そういうの。今まだ、法案立案の最中なわけで、そう言うときにそう……何ですか? 接待? 的な? 利益誘導的な? 忖度? 癒着? そういうの、いかんヤツでしょ?」

 

 法案の中には、彼らにとっては痛いと思われるようなものも当然出てくる。

 例えばまずクランドロールに関して言えば売買春や性産業へのある種の規制。

 この世界の人間社会における一般的倫理観では売買春が即悪徳、不道徳と見なされることはない。けれども売春業への蔑みが無いわけではなく、がそして蔑まれ見下されれば差別や暴力にも晒されやすくなる。

 

 けどそこに突然現代人感覚の人道主義や人権やらを持ち出し啓蒙しようとしても、当然うまく行かない。

 思想というのは本質的には生物の進化と同じで、社会全体がある段階に進まないと次の思想的段階へと進めないものだからだ。

 例えば近代的な人権や平等、または近代民主主義が生まれ、受け入れられる為には、産業革命が興り中産階級が生まれ、同時に教会や王侯貴族の腐敗が蔓延している必要がある。

 そしてそれはニーチェが言うところの「神は死んだ」という、「神の権威による王権の神聖視」もある程度にはなくなっている必要もある。

 王政、貴族制への懐疑、否定と、中産階級の発達による市民意識の発達。その両輪が必要だ。

 

 王、為政者の腐敗だけでは、中国における易姓革命みたいに「天命を受けて腐敗した王を倒して新たな王を戴こう」にしかならない。

 言い換えれば「為政者の首がすげ変わるだけ」で、制度や思想のアップグレードにはまだ弱い。

 その点で言うと、今のクトリアは「王政への懐疑、否定」はある。なので新たな政治体制を共和制にする、というのは多分すんなり受け入れられる。

 けど極端な富裕層と貧困層の格差からは、市民意識を喚起するには程遠いい。

 なのでせいぜい出来るのは、新たな貴族制には繋がらない形での議会の設立、くらいまで。

 その議会とて、要は有力者たちの寄り合い所、言い換えれば部族政治の発展系ていどのものだ。

 

「まーったく、お前さんいつの時代の……いや、どの世界の話をしとる? ここはクトリアで、今までの政治は完全な人治政治だぞ。しかも今はその治める有力者が大小細々したものまでやたらと居やがる。言い換えりゃこのちっぽけな城壁内自体がすでに群雄割拠の戦国時代だ。

 貴族街三大ファミリーを唯一縛れてたのは“ジャックの息子”の三者協定だけで、内城壁外の連中も王の守護者ガーディアン・オブ・キングスが目を光らせてなんとか秩序らしきものを保っているに過ぎない。

 そこに形ばかりとは言え法治主義を持ち込みたいのなら、まずは現場百編。相手のことやここでの生活を肌で感じて知らなきゃならんし、ほどほどに仲良く良好な関係も作らにゃならん。

 ただ昔の法律書をひっくり返しても、今必要な政治は見えてこんぞ?」

 

 小瓶のコーラをズチュッと飲みつつ、スーパーバイザーのイベンダーさんがそう言う。

 ううむ……ど正論。確かに……その通りだ。

 

「まずは三大ファミリーをうまいことまとめるところからだ。だから、奴らの懐に入り込む」

 

 うーん、ど正論だけど……不安だなァ~~。

 頼みますよ、スーパーバイザーさん。

 いやホント、マジで。


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