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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-26.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー「ばーーーーーっかじゃねーの、僕!? 」


 

 

「はァ~~~……。

 政治、ちょお面倒くさい……」

 

 ぐったりしつつエッグチェアの背もたれに寄りかかり天井を見上げると、その反動でか溜め息とともにどストレートな本音がポロリこぼれる。

 いや、本当、マジで。

 

 政治、ちょお~~~~~~~~…………………………面倒くさいッッッ!!!!!!

 

 いや、あのね。うん。

 町づくり系箱庭シミュレーションゲームとかはさ。

 ぶっちゃけ基本は都市デザインシミュレーションであって、例えばこう、ここを工業地帯にします、こっちを農業地帯にします、とかやって、それらの影響や収入やその他諸々から、やれ財政が良くなった悪くなった、人口が増えた減った、人気が上がった下がった……みたいなもんじゃない。基本は。

 はいここにビル建てまーす、としたところで、そこに居る住人が反対運動する事もないし、あちらを建てればこちらが不満を言う、とかもそんなにはない。

 要するに、ほとんどはお気楽独裁者ゲームでしかないわけよね。

 

 けど、ここクトリア市街地には現在おおよそ四、五千人前後の住人が居る……っぽい。

 ぽい、というのはまあきちんとした調査がされてないからで、諸々の勢力の関係者や構成員を大雑把に合計するとそんぐらい、というもの。

 大きな勢力に属していない、つまりは地下街やらその周辺に隠れているホームレスの方々を含めれば、実際どのくらい居るのかはよく分からない。

 それにまた、郊外にある集落や独立勢力を含めればさらに増えはする。

 

 とは言え、単純にその内訳のほとんどは廃虚に住み着いてる貧民の集まり……てのが実情。中には貧民か山賊かの境界が曖昧な連中も居るし、小規模なギャングチームみたいな奴らは郊外にも市街地にもわらわら居る。

 とにかくこのクトリアは、貴族街という内城門内にいる三大ファミリーと呼ばれる人達の勢力がずば抜けて強いばかりで、所謂中流階級がほとんど居ない、貧民ばかりの格差社会だ。

 こんな状態で「ようし、あたらしく建国しよう!」とかさ。

 ばーーーーーっかじゃねーの!? 

 僕、ちょお~~~~~~~~~、ばーーーーーっかじゃねーのッッッ!!??

 

 もう、本当ちょお面倒くさいッッッ!!!

 

 何が面倒くさいか、とかいうと基本そりゃ全部面倒くさいんだけど、何よりも……まず、利害調整?

 そこ。マジそこ、面倒くさい。

 

 まず貴族街三大ファミリーが面倒くさい。

 彼らは元々、それぞれにお互いを敵対視していた武装勢力で、それを“ジャックの息子”こと、この今僕が仮住まいとしている“妖術師の塔”に住んでいた正体不明の魔術師が仲介して協定を結ばせてなんとか休戦させていたのだという……事になっている。

 で、図らずも開始させてしまったダンジョンバトルにより、クトリア四方の魔力溜まり(マナプール)を起動させ支配したことで、僕は古代ドワーフの流儀に従い“ジャックの息子”により王権を授与された。

 とは言えこんな見知らぬ土地でハイ、王様! とか言われても、あてにはそないなことは出来まへーん、てなもんでしてね。

 全部知らぬ存ぜぬ決め込んで闇の森に帰還したって構わないはず……なんだけど、も。

 

 欲が出たね、うん。

 いや、権力欲とか金銭欲とかじゃなくね。

「何か、ひとりで全権担う王様とかは無理ゲーだけど、周りに面倒くさい事丸投げしつつ、面白そうなところだけいっちょかみする的なことなら、出来るんじゃね? てーか、それこそちょっとしたリアル町づくり系箱庭シミュレーションっぽくて、面白そうじゃね?」

 と。

 そーゆー欲が出たね、うん。

 

 もう一度、自戒を込めて言っておこうかな。

 ばーーーーーっかじゃねーの、僕!? ちょお、ね。超絶、馬鹿!

 

 

 貴族街三大ファミリーは、何にせよ基本的にはもうヤクザとかマフィアみたいなもんと思って良い。

 チンピラ、ギャングの山ほど居る街の中で、そのトップに居る組織。

 身内意識がめちゃくちゃ高く、また基本的には体育会系で上の者の命令が絶対。利害の合わない相手には血で血を洗う抗争も辞さない。

 んで基本的に体育会系ではあるけど、上がダメだとなるときっちりがっつり落とし前もつけてしまえたりもする。

 

 何でも僕が来るちょっと前に、クランドロールと言う売春業の元締め組織で下克上的なトラブルがあったらしく、現ボスのちょっと気のよさそうな薄ハゲおじさんは前のボスとその腹心を集団で囲んで短剣でめった刺しにして殺したらしい。

 めちゃ怖い! 気のよさそうなスケベおじさんっぽいのに、めっちゃ怖い!

 

 クトリア王都解放後に貴族街を占拠した彼らが今まで殺し合いをしていなかったのは、一重に“ジャックの息子”とその私兵である古代ドワーフのからくりゴーレム軍団が怖かったからでしかない。

 つまりいくらその“ジャックの息子”に「王の名代」としての立場を保証されたからと言って、僕自身に対してどうかというのはまた別の話。

 要するに、当然ながら舐ーめらーれてーるー。

 

 勿論それを全面に出してくるほど彼らもバカじゃない。表向きは「へへー!」ってな態度は崩さない。

 崩しはしないのだけれども、だ。

 ダークエルフの魔術師、古代ドワーフの作り出した“試練”とやらを乗り越えた凄腕との噂、評判。それらで下駄を履いても、やはり見た目が「ひょろひょろチビ」であることもあって、どこかこう、甘ァ~く見られている感は否めない。

 

 なので、「何も言わずただ監視し続けているだけ」だった“ジャックの息子”時代よりも、彼ら同士の水面下の争い、牽制しあいをうまく抑制出来る感じがしない。

 そしてそれは、貴族街三大ファミリーだけのことでもないのよね。旧商業地区と呼ばれている内城壁外の地区でも、色々ゴタゴタは起きているっぽい。

 建国特需で賑やかな反面、喧嘩や強盗みたいな犯罪行為も増えているらしいのだ。

 

 ……はァ~、政治、面倒くさい……。

 

■ □ ■ 

 

 面倒くさいのは「現状」だけでもない。

 ぱらりぱらりとページを捲ると書かれている、このクトリアの歴史も、だ。

 

 分類し並べられた何冊もの本。それらはこの“妖術師の塔”の書庫にあった本の、ほんの一部だ。

 ……ダジャレじゃないよ?

   

 ここんところこの塔の図書室にある蔵書をまず下調べして分類整理し、その中から特にかつてのクトリア法や歴史に関する本を片っ端から読み込んでいる。

 

 一応、ね。一応、本好きを自称はしてます。してました。していたとしておきましょう。

 ただ僕、今更言い訳させてもらうと、所謂活字中毒的な「とにかく活字さえ読んでれば満足。また、活字を目に入れてないと禁断症状が出る」タイプの本好きではなく、広く浅く乱読もするけれども、基本は好きなもの、気に入ったものを繰り返し読み込む事の方が好きなタイプで、そんなに興味持てない題材だと読み解く効率がかなーり下がる。

 一度ハマると寝食忘れて読みふけるけど、気が乗らないとちょっと読み進めるのにも疲れちゃう。

 

 で、しかもまたこの塔にある蔵書の法律関係の本は基本クトリア語か帝国語で書かれてるので、翻訳しながら読み解くしかない。

 中には古クトリア語、つまり帝国貴族の後ろ盾を得て興った第二期クトリア王朝時代ではない、第一期クトリア王朝時代の本もあり、その第一期の古クトリア語は今のクトリア語よりも帝国語に似てない。

 なので、もう、ちょお疲れる!

 


 クトリアには今現在、所謂王家の家系や貴族の家系というのが居ない。全く居ないワケではないけれど、知られてて残っているのはだいたい下級貴族。ぶちまけて言えば「名だけ貴族」だった者達くらいだ。

 かつてのクトリア王朝では王家を中心とし、少数の大貴族と数だけはそこそこの都市貴族、そして自由市民、奴隷、という身分制度があった。

 大貴族の特徴は、荘園領地を持っていたこと。

 これも一応形式としては「王家から何らかの資源の得られる土地を借りて、その経営をして利益を王家に納め、その何割かを俸給として貰う」というシステムだった。

 

 都市貴族はそういう領地を持たない。代わりに例えば徴税官とか護民官などの役職を持つ。つまり貴族とは名ばかりで、要は役人なのだ。

 この辺、実はかつての帝国の制度と結構近い。

 後期クトリア王朝が帝国の後ろ盾の元に再興したこととも関係しているのだと思う。

 

 で、ザルコディナス三世だ。

 彼は大貴族を遠ざけ、一部の都市貴族を優遇し、王家に権力を集中させようとしていた。

 キッカケは、彼が王となり早い時期にあったモルダールの乱と呼ばれる事件にあるのだと言う。

 モルダールはここクトリア王都から北西方面の山間にあった沼沢地の村落で、その周辺では良質の粘土と泥炭が採集出来た。

 粘土は建築資材や陶器の素材として重宝される。

 泥炭は燃料として見ればあまり効率の良いものじゃないが、肥料としても使えるし、魔術含めた諸々の手段でより上質な燃料に加工も出来る。

 クトリアの庶民、貧困層では家畜の糞を練って乾燥させた糞団子の方が一般的な燃料らしいが、それよりは上質な燃料ではあるらしい。 

 

 そのモルダールを荘園領地を管理していた大貴族のオクローネ家というのが、本来納めるべき収益をごまかして私服を肥やし、それらと泥炭を利用して魔術により作った“不滅の火”という兵器を使って反乱を起こしたのだという。

 結局はクトリア軍により鎮圧されたのだけれども、それを期に荘園領地を持つ大貴族への監視が厳しくなり、その逆に今度は都市貴族が力をつけていく。

 

 この辺はアデリアからも聞いたヴォルタス家の歴史とも符合している。王家の権力を脅かしかねない有力貴族を徐々に弱らせつつ、邪術士や都市貴族を巧く抱え込んで自らの富と権威を増す。そしてアルベウス遺跡の魔力溜まり(マナプール)から強引に魔力を引き出し続けてクトリア全土の魔力循環を歪め、魔獣を増加させ作物の育成も衰えて、結局は国土を荒廃させてしまう。

 

 ただこのモルダールの乱、他の文献や資料と読み比べると色々と怪しい所が多い。

 オクローネ家を処刑し、モルダールの地は王家直轄の地になり、邪術士の一団が代官として赴任する。

 ここがまずちょっと変だ。都市貴族に代官をさせるのではなく、邪術士の一団。単に泥炭を採掘する以外の何かしらの目的があるようにも思える。

 そしてその後数年でモルダールは廃村となる。泥炭が採れなくなった、というより、どうもまた何かしらの事件が起きたらしく、邪術士達がほぼ全滅したとか、死霊の群れに襲われたとか、山火事で燃え尽きたとか、どうにもハッキリしない。

 モルダール自体が泥炭採掘の役に立たなくなって後も暫くは何かしらの調査隊を派遣していたかの記述もある。

 

 そして報告書の気になる一文は、「モルダールにて血晶玉(けっしょうぎょく)を得る」というもの。

 この奇妙な言葉は、僕の知る限り他で読んだことがない。

 類似する言葉として「血晶鋼(けっしょうこう)」というのはある。これも所謂魔法の金属の一つなのだけど、ミスリル銀やドワーフ合金以上に謎めいていて、遙か東方の火山で算出される血のように赤い鉱物だとか、神の血液から産まれるとか、或いは神ではなく不死鳥または吸血鬼、巨人の血……とまあ、諸説紛々。

 ま、少なくとも巨人の血ではないだろうことは確認している。もしかしたら“大いなる巨人”の方かもしれないけどもね。

 

 

 何にせよ、そういう胡散臭い様々な事があり、有力な大貴族は後期クトリア王朝末期にはほぼ居なくなっていて、その後“滅びの7日間”に、“邪術士の専横”時代には、大貴族以外の都市貴族達も殆どが殺されたり離散したりしている。

 プレイゼスにはその都市貴族の中でも特に下級の者達の家系も混ざっているらしいけど、かといって今更「元貴族様でござい」と言って表舞台に出れるか、というとやはりそんな事はない。

 落ち延び逃げ延び20年以上過ぎた下級役人みたいなもので、何の権威も権力も残っては居ないのだ。

 

 とは言え、だ。

 全く居ないワケでもないのが難しいところ。

 まずジャンヌだ。彼女は何せ、ザルコディナス三世の孫にあたる。あくまで血縁上はね。

 そしてお亡くなりになった元シャーイダールの探索者のハコブも、東方ディシドゥーラ王家とザルコディナス三世の血縁。

 記録にあるだけでも20人以上の子を作っていたのだから、他にも生き残りが居ないとは言い切れない。

 お前は暴れん棒将軍か!? と突っ込みたくもなる精力絶倫ぶりだが、そもそもザルコディナス三世は不死を求めて自らの血縁の肉体を乗っ取ることで「生まれ変わりによる永遠の命」を果たそうという計画でいたようなので、その「素材としての子供や孫」を多く確保しておきたかったのだろう。

 

 なので、後々そういう「我こそはクトリアの正統支配者なり!」と言い出す何者かが現れたときのためにも、それらのクトリアの、またクトリア王家や貴族の歴史やら系図やらなんかもきちんと整理、確認しないといけないわけで───。

 

 それがもう、ちょお、面倒くせェ!!

 

 助手、欲しい!

 

 

 と、思っているところに、扉を開けて一人。

 

「はいはい、次の分類済みの本を持ってきましたよー」

 

 有能ではあるけど、その結果僕へとガンガン仕事を回してくれる助手が、両手に本を抱えて現れた。

 

「デュアン、早い……」

「いやいや、お褒めの言葉感謝です」

 褒めてない!

 

 闇の森ダークエルフ、ケルアディード郷では叔母のマノンに付いて外交官見習いをしていた青年、デュアン。

 そして今開けられたら扉の横のあたりに立っているのは、僕の護衛として来ているエヴリンド。

 現在この“妖術師の塔”へ住み着いているのは僕を含めたこの三人。

 

 で、そこにまた一人の来客が訪れる。

 

 



 意外!! それはデュアン!!!



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