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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
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3-5. マジュヌーン(精霊憑き)(5) -ZOO


 

 挿絵(By みてみん)

 

 樫屋が手にした金ピカの皿は、乾いた血やら土ぼこりやらで汚れてはいたものの、汚れを落として軽く磨いたらそれなりには鏡の代わりになるシロモノだった。何だかすげえな。一財産にはなりそうだぜ。

 その金ピカの大皿に映し出された俺の顔は、確かにこれは「猫の顔」だ。

 いや、厳密には完全に猫の顔……というのとは微妙に違うか。猫として見れば人間臭い。全体に薄茶色の毛に覆われて、ライオンの鬣っぽく見える髪があるが、これもライオンのそれなのか人間的な頭の毛なのかもよく分からねえ。

 例えばハリウッドのSF大作で、特殊メーキャップを使い作られた猫と人間の合成された猫怪人が出てくるとしたら、こんな感じになるんじゃないか……という感じだ。

 

「あの汚ぇジジィの言ってた事覚えてる? ほら、おめーら死んだから新しい人生くれてやる、みてえなの」

 樫屋の言葉を頭の中で反復する。死んだ───そう、飛行機が墜落して、次には何故か真っ赤な空のイカレた荒野。そこで骨と皮みてえな汚ぇ爺がべちゃくちゃ言ってやがったのがその話───別の世界で新しい人生を与えられる───とかいう戯言。

 そして……そうだ大野の奴が浮かれた調子で何か騒いで───特別な魔法の力……?

 

「何だ、その魔法の力? 猫に変身するとかってーのか?」

「いや、違うらじい」

 相変わらず重低音のだみ声になってる犀男の田上が答える。

「どうやら、そういう種族……のようです」


挿絵(By みてみん)


 引き継いで答えるのはパッと見はごく普通の人間。顔立ちからすると白人系の欧米人っぽい。鼻が高く、髪はやや茶髪よりの金髪。全体的にはこう……ちょっと角張ったホームベースみてーな感じ顔立ちの男。

 服装はこれまた細かい所まではよく見えねえが、映画か何かにでも出てきそうな古代の鎧か。革と金属板を組み合わせたみてえなそれに、腰には剣。

 そして手には……んん? これは何だ。ボード……片手で持てる程度の画板のような首から下げる紐の付いた木の板。右上の位置にインク壷が取り付けてあり、やはり金色のペンに何枚もの紙か挟み込まれて居る。

「何だそりゃ? てか、いや、あんたがテレンス……だよな?」

「ハイ、そうです。そして、私はどうやら、セクレタリー……ええ、軍、に、同行して、記録を取る仕事、しているようです」

 何だって?

 

 ここからテレンスの憶測を交えた経緯と状況説明が入る。

 まず俺たちは全員、あの爺が言った通りに飛行機事故で死に、そして元居た日本……地球とは異なる世界で生まれ変わった。

 大野の言うところの「異世界転生」とかいうやつだ。

 

 だが生まれたてにしちゃ身体がでけえ。赤ん坊とはとても思えねえよな、どいつもこいつもよ。

 で、テレンスに至っては成人してこの世界の軍隊に従軍して仕事までしていた。

 

「私は、ここで、また一度死んだような、記憶がアリマス」

 

 全く意味の分からん事を言い出すが、曰わく、こうだ。

 従軍して書記官としてこの地にやってきていたテレンスは、なんとこの世界のとんでもねえ魔術師だかの攻撃を受けて部隊が壊滅的ダメージを受けた。全滅したのかどうかは分からねえが、地割れを起こされ床が崩落し、それに巻き込まれて地下の奥深くへと落ちて行った。

 そのときにプツリと意識が一旦途切れる。

 で、それからどれくらい経ったか不明ながら、意識を取り戻したときに、「あれ? さっきまで飛行機に乗ってたんじゃなかったっけ?」と思い出した。

 

 今現在のテレンスは、その思い出した「前世の記憶」と、「朧気に思い出せるこの世界で生まれ、生きてきたときのぼんやりとした記憶」の両方があるらしい。

 この世界での記憶はかなり曖昧だそうだが、それでも基本的な事……例えば言葉や大まかな世界の知識なんかはあるし、何かの弾みで不意に思い出したりもするらしい。

 

 で、話を戻すと、

「マジュマさん、アナタはタブン、猫獣人(バルーティ)というシュゾクです。

 猫獣人(バルーティ)は、気紛れで、自由な精神を持つ、猫に近い外見のシュゾクで、匂いへの感覚が鋭く、俊敏で有能な狩人であり戦士デス」

「マジかよ。マジで怪奇・猫人間かよ」

 そう呆然と呟くと、

「俺なんが、ザイだ」

「俺はチンパンジーみてえだぜ」

 田上と樫屋が言う。

 

「タウエさんは、犀人(オルヌス)です。硬い皮膚を持ち、怪力で体力も高い。俊敏ではナイですが、突進力が高く、脅威的な戦士デス。

 カシヤさんは、猿獣人(シマーシー)。私の覚え書きにも、名前と外見への記述しかナイです。どちらも、本来もっとかなり南の方に住んでるはずです」

 

 揃いも揃ってまるで動物園かよ。ふざけた話だ。なんつうか、これが前世の業……ってなやつか?


「あー……まあ、何だ。まだしっくりともピンとも来ねえけどよ。

 何だ、その、俺とかが猫人間に生まれ変わった……てのは、信じらんねーけど信じるしかねえんだろーが……」

 口ではそう言うものの、別に何一つ納得はしちゃ居ねえ。つうか、出来るかよ、こんなの。


「テレンス、あんたはその、こっちの世界で生きてきた記憶も、形跡もまあ、あるんだよな?

 けど、俺は今、こー……色々アタマん中ほじくり返して思い出そうとしても、この怪奇猫人間として生きてきた時のこととか、イマイチ思い出してこねえんだがよ」

 そう。

 俺の意識は飛行機の中から、爺の居た気味の悪い荒野から、今ココこの瞬間に一直線で繋がってる。

 日本生まれ日本育ちの糞ガキの、真嶋櫂の意識そのまんまだ。

 

「それがよ、俺たちも殆どねーんだよ」

 俺のその問いに、樫屋の奴がそう答える。

「俺ば、ずごじだげ、ある。だが……良いぎおぐじゃ、ない」

 続ける田上は、その重低音のだみ声をややトーンダウンさせつつ言う。

 

「コレは、また、スイソクですが……」

 続けるテレンスの言葉は、確かに田上の言うとおり、あまり気持ちの良い話じゃあなかった。

 

 テレンスの従軍書記官としての知識、記憶からは、今居るこの場所はクトリアと呼ばれる街の地下遺跡だろうとのことだ。

 そしてこの街は長い間邪術士と呼ばれるとんでもねえゲスで邪悪な魔術師達の集団に支配されていた。

 その中でも特に邪悪な行いは、魔術によるある種の人体実験。

 つまり魔法の力とやらで生きた人間やら何やらを、無理やり魔物みてえなもんに変えちまう、ってなものらしい。

 

「恐らく、みなさんは、その実験の為に、用意された奴隷だったと、思われマス」

 その中でも俺たち獣人種とされるもの達は、さっきの解説通りにそれぞれ普通の人間よりも身体能力が高く、戦士としての実力が高い種族な上、本来住んでる場所がもっと南の方であるため、所謂「普通の人間の奴隷」よりも貴重な存在。

 つまり逃げられたくはないわけだ。

 それで、薬なり何らかの魔術なりを使い、意識をもうろうとさせたり眠ったままの状態にしたり……と、具体的に何かは分からないが、とにかくまともに思考や行動の出来ない状態で監禁されていたのではないか、と。

 閉じ込められ、意識もなく居たのなら、なる程確かに「この世界で生きてきた記憶」はなかなか思い出せないかもしれない。

 

「ただ、ワタシもソウでしたが、何かのキッカケで、色々思い出すかも、しれまセン」

 テレンスはそう締めくくるも、その推測通りだとしたら、思い出さねえでいるままの方がマシかもしんねえな。

 

 一通りテレンスを中心としたこいつらに話を聞いて、一応は現状と立場を把握はした。まあ推測が多いからどれも確証のない話だけどな。

 それからこれまた金ピカの壷に入れられてた汚ぇ水を飲まさせられたりもして落ち着いてから、改めて周りを見回す。

 実際、テレンスの推測はかなり当たってるんじゃねえかと思える。

 ちょっと見渡した感じでも、ここでマトモな格好……あー、服と呼べるものを身にまとっているのはテレンスのみで、他は裸か半裸に近いぼろ布ばかり。

 飢えてやせ細り、暴力による傷跡も多く、中には手足が切られてたり目や耳がなかったり、酷い有り様の奴らも居る。

 それを考えれば、確かに前世の感覚からすりゃあ俺たちは特撮ヒーローの敵怪人みたいな姿になりはしたが、そういう酷い、回復させられねえ怪我を負わされているというワケでもない。テレンスの言うとおり、「貴重な素材、奴隷」としては、丁重に扱われていた……と言うことなのかもしれねえな。

 

「なあ、ここに居ンのはみんなあの飛行機に乗ってた乗客か?」

 気になり改めてそう聞いてみると、

「イエ、ソウでもナイみたいデス。

 ワタシはただこの地下遺跡の中で見つけられたヒトを集めてきたダケです。地球の言葉、通じるヒト、それほど居ませンです」

 

「クラスの奴らや静修さんらは?」

 そう。爺の言ってた話じゃあ、元々親しい者やあのとき近くにいる者同士、縁が深ければまた巡り会う……みてえな事らしいが、実際のところ樫屋と田上とはこうして即座に落ち合えている。あの場所で数回話した程度のテレンスとも、だ。

 なら、テレンスよりは親しいはずのクラスの奴らや担任の駒井に副担任の在原、それに三年生の大賀や宮尾、何より静修さんもここに居てもおかしくはない。

 

「大野とかクラスの連中はあそこら辺」

 樫屋我指し示す一画には、明らかに憔悴し怪我だらけで、やせ衰えた普通の人間……そう見える連中が居る。

 大野と日乃川のオタクコンビは、チートだかスキルだか言ってはしゃいで居たが、どうもあの様子じゃそれどころの話じゃあ無さそうだ。

 

「静修さんは?」

 だがそいつらよりも気になるのはそっちだ。

 どんな風に生まれ変わってるのか? 

 俺たちみたいに人間じゃねえ存在になってるのか。

 テレンスみたいに前世とこちらでの記憶や生活を両方持ってるのか。

 大野達みてえにズタボロにされた状態なのか……。

 

 糞。あの爺の言ってた調子の良い謳い文句が思い出されてくるぜ。

 強く願えば? 特別な力や加護を得られる?

 まあ、俺なんかは特に何を願ったとも言えねえ方だが、オタクコンビなんかは間違いなく熱心に祈りでも捧げていただろうぜ。

 口先では調子の良い事をいって、期待だけ持たせて実際にはこのザマとは、俺の直感の通りにとんでもなく悪質な神様気取りの糞爺だぜ。

 

「多分、じぎに、戻る」

「彼も、ワタシ同様に、生き延びたヒト達を、探してイマス」

 それを聞いて、何だかかなり腑に落ちた。

 いや、樫屋と田上が、このイカレちまった状況に意外にすんなり順応して、落ち着いてるように感じるのはそのためだろう。

 俺たち同様、静修さんの前世の記憶や人格が蘇っているのなら、きっと率先して周りを引っ張り、鼓舞し、状況を良くするため行動を起こしているはずだ。

 静修さんが居る。ただそれだけでも俺達はなんとなく大丈夫だと思えるし、安心出来るわけだ。

 

「……く、痛つつ……」

 やや落ち着いて気が緩んだのか、また周りを無理に見回そうとして負荷がかかったのか、瓦礫に押し潰されていたすねやらわき腹の辺りやらがズキリと痛んだ。

 思ってた以上に俺の身体は怪我をしているようで、わき腹、肩、左の二の腕、右太股に左のすね……と、どうもかなり色んな場所が痛む。

「おお、大丈夫かよ真嶋くん」

「はぁ……けっこうヒデェ感じだな」

 顔をしかめて返すが、実際怪我のことを意識し始めたら、だんだんその痛みまで増して来た気がする。

 

「少し、調べてみます。痛いでしょうが、ガマンして」

 テレンスがそう言いながら身体を触りつつ確認する。痛む場所を聞きながら、ソフトな触り方だがやはり痛いもんは痛い。とは言えガキみてえに悲鳴をあげるのもみっともねえし、奥歯を噛み締め堪えるしかねえ。

「ぐっ……つつ……」

「ウーン……骨折という程ではアリマセンが、骨にヒビくらいはは入ってるかもしれません。でなくとも、打ち身はかなり、ひどいデスね」

 おおざっぱにだがそう告げる。

「よく分かるな」

「フリージャーナリストは、キケンなチイキにも行くマス。応急手当てと救命のレクチャー、ウケました」

 なんともマメな奴だ。そしてそういう前世の諸々の知識がこうして役に立ってるってのも面白ぇ話だな。

 ああ、糞。俺なんざそう言う意味じゃ、喧嘩の技くれえしか取り柄はねえし、今の身体の状態じあゃあ、それすら役に立ちゃしねえわ。

 

 そんなことをしていると、突然ホールの反対側方面が騒がしくなる。

「何だ?」

「三年組が戻って来たんじゃねえの?」

 樫屋の言う三年組、つまりは宍堂さんを中心とした数名は、けっこう早くからまとまって周囲の探索をしてたらしい。

 テレンスや樫屋、田上なんかもそれぞれに探索しながら再会し、このホールを仮の集合場所に決めてからまた別れて探索をした。

 樫屋は小柄で手足が長いから、人よりも何か使える物がないかを中心に探してたとかで、さっき鏡代わりにした金ピカ大皿をはじめとした集めた物資は、ホールの真ん中あたりにまとめて置いてあり、余裕のある別の奴らが大まかな種類毎に整頓してたりもする。

 

 三年組が戻って来たと言うのなら、当然静修さんも来てるはず。

 俺はよく見えるよう身体を起こし、さらには匂いを嗅ごうとして鼻をひくつかせる。

 ああ、糞。頭で考えている以上にこの新しい猫の身体に慣れて来てるな。

 そうして匂いを辿り出すと、ホールに居る無数の生き物の雑多な匂いの向こうから、嗅いだ事のない奇妙な匂い。

 乾いた、なんとなく獣臭い感じのする匂いだが、毛のある生き物の匂いじゃない。

 そして何よりも最も強く、激しく俺の鼻孔へと感じられるのは───。

 

「……おい、何かヤベェぞ。警戒しとけ」

「へ?」

「どうじだ?」

「───血だ、血の匂いだ」

 俺がそう答えるのと、向こうから数人の悲鳴が聞こえるのとどちらが早かったか……。

 

  



 やっぱりもふもふだニャーン。


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