表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
202/496

3-2. マジュヌーン(精霊憑き)(2) -蜘蛛の糸


 

 挿絵(By みてみん)

 

「つーかよ、結局、飛行機は墜落したんかよ? したら何で俺ら生きてンだ? 飛行機の残骸とかどこだよ?」

 静修さんの方へと移動しつつ、俺はその最初の疑問を再び口にする。

 ついてきてるのは樫屋達最初の4人の他、副担任の在原や小森、大野、日乃川らクラスの連中。

 それと、

「あ、鉄人かねやん」

「カシケンかよ。おめーらも生きてたか」

「見りゃ分かンだろ。モリモリ元気イッパイだぜ?」

 金田鉄人というこいつは、野球部の時期エース候補───を自称している奴だ。部活命、てなタイプだから俺たちとはそんなに連まねえが、樫屋とは中学が同じの腐れ縁。

 この学校には一応スポーツ特待生とかいう枠で入って来てるが、正直野球が格段に強い、ってな学校じゃねえ。

 つまり本格的な野球高校には入れないが、そこそこ部活に力を入れてる程度の学校には入れるくらいの実力、ってことだ。

 

「金田、飛行機墜落したかどうか覚えてるか?」

 改めてそう聞くと、やはり樫屋達同様に首を振り、

「覚えてねーわ。なんかガタガタいってすげー揺れたのは覚えてっけどよォー。そっから先が……覚えてねえ」

 とまあ、如何にもスポーツ少年、ってな坊主頭を掻きつつ、ため息混じりに似たような反応。

 

「た、多分、その、どこかに、ふ、不時着とかしたんじゃないか……な?

 操縦士さんかアテンダントさんが見つかれば、詳しい事、分かると思うし……い、今は、ね? まず、クラスの……学校のみんながきちんと集まって……」

 横を小走りに歩きつつ、なんとか副担任の仕事として皆を落ち着かせようと在原が言う。

 

 歩きつつ合流した連中に一々聞いてはみるが、結局のところ肝心のことを覚えてる奴は一人も居ない。

 なんつーか、壮大なドッキリでも仕掛けられてるみてーだわ。

 

 そうこうしつつ着いた静修さんの周りには、既に俺たちみてーな奴らが集まりだしていた。

 今回一年生でアメリカ西海岸の修学旅行コースを選んだのは俺たちのクラスだけ。二年は居なくて、三年も一クラス。他のクラスはヨーロッパコースやオーストラリアコース、中国コースなんかに行っている。

 ま、それなりの金持ちの集まる私学だけに修学旅行先も豪華なもんだ。

 何にせよ総勢60人前後、各クラスの担任、副担任、付き添いの教員やツアーガイドを含めてそのくらいが、特に明確な目的意識無く静修さんの周りへと来ている。

 

 静修さんを「まるで漫画に出てくるエリートイケメンみてーだ」と言うのは、単に成績優秀、スポーツ万能、そして見た目も良い、ってだけの話じゃあねえ。

 所謂地元の名士の御曹司ってやつで、いずれ何等かのカタチで企業経営者となるだろう将来が保証されている、「生まれながらの勝ち組」だからでもある。

 それでいて妙に驕ったり横柄になったりもしない。人格的にも優れたリーダーの気質。

 何せ……所謂“父親の愛人の子”である俺に対しても、分け隔てなどないくらいだからな。

 

「静修さん」

 俺達は近づき、それぞれに声をかける。だが実際のところ誰も何を聞けばよいのか分かってはいない。

 母親違いの兄弟ではあるが、俺は一応「静修さん」とさん付けで呼んでいる。まあなんつうかある種のケジメみてえなもんだ。

「何があったンすかね」

 何にせよとにかく異常な事が起きている、ということくらいしか俺達には分からねえし、結局はただ不安だからこうして集まって来ているだけでしかない。

「ここ、どこなんですか?」

「救助とか来るんですか?」

 他の連中も口々にそう口にしているが、そいつ等含め周りには見向きもせず、静修さんはどこか遠くの一点を見つめているようだ。

 

 その静修さんの横に居るのは、同じく三年生の大賀。体育会系エリートの中でも群を抜くでかさで、ラグビー部のキャプテンでもある。

 厳つくて鬼みてえな面の男だが、こう見えて結構静修さんと馬が合うのか仲が良い。

 女子人気含めて周りに人の集まりやすい静修さんと並んで居ると、まるでハリウッドセレブとそのボディーガードみたいにも見える。

 

「うるさいぞ、お前ら。少しは黙ってろ」

 取り立てて凄むでもなく大賀が言うが、本人の意志がどうあれ、大賀の体格に顔付きでそう言われれば、そりゃ誰もがビビって押し黙る。

 

「───何見てンすか?」

 俺はその大賀の脇をするりと抜けて、静修さんの見ている方向へと視線を向けながら、そう聞いてみる。

 その問いを受けてからややあって、

「田上、お前は目が良かったよな。分かるか?」

 とある方向を指差した。

 言われた田上は眉の上に手をかざすようにさしその指差した方向を見つめる。

 見つめて、しばらくしてから、

「───椅子? に……爺さんと、若い男……?」

 とぼそぼそと言った。

 

 何だ? そう思い俺もその方向を凝視してみるが、高い岩場みてーなところの上に小さくポコンと豆粒みてえな影があるのが分かるのみ。

 椅子だの爺だのは見定められない。

 

「あ」

 それに倣っていた周りの連中の誰かが、誰ともなくそう小さく声をあげ、それからその驚きとざわめきが広がり叫び声にまでなる。

 理由はまさに見ての通り。

 その高い岩場がそのままに、ずずずと動き出し滑るようにしてこちらへと迫って来たからだ。

 悲鳴とパニックは俺たちの周りだけではなく、ここに来ている飛行機の乗客、乗務員全体に広がり、慌てふためき走り回り逃げ出しだす。

 

「何か分かンねーがこりゃヤベェ! 逃げた方が良いぜ!」

 俺がそう叫ぶと、静修さんも

「ああ、そうみたいだな」

 と答え、とりあえず右手へと走り出す。

 それに釣られるようにして、俺達を含めた学校の教員、生徒の大部分がそれに倣う。

 数十メートルほど走った頃にはその高い岩場は既に目前にまで迫り、その上にあった豆粒みてえな影の詳細が見て取れる。

 

 椅子、と田上が言ったのは、石造りの背の高い玉座とでも言うかのもので、そこに座る骨と皮のような老人と、その老人の横に侍るようにして立つ一人の美しい男。

 その二人の奇妙に不釣り合いでいながら、同時にあまりにもしっくりとくる組み合わせをほぼ全員が見て取れるだろうくらいの位置で、その岩場の動きがピタリと静止する。

 

 ざわめきはそれを機に再び引いていく。誰もがその老人へと注目し、何者なのかと声に出さずに問うている。

 

「ふむ……なかなか網に掛かってきたようよの」

 誰に言うとでも無いその言葉に、俺達を含めてその場にいたほとんどの者が引き寄せられる。

 老人はその血走った目でぐるり見渡し、

「善哉、善哉」

 と、再び口にする。

 

 声の主は、まるでそこに滲み出た世界の染みのように存在していた。

 やたらに仰々しい玉座みてえな石造りの椅子に、骨と皮だけの汚らしい爺さんがちょこんと座っている姿は、ぱっと見には間抜けで滑稽にも見える。

 まず目に付くのは真っ黒なぼろ布。そのぼろ布にくるまれているのが、土気色した枯れ木の様な肉体と、頭蓋骨に薄く皮を張り付けて、余った糸くずを適当に貼り付けたような頭。

 しわくちゃの顔は絵に描いたような老人そのもので、だが大きく見開かれた目だけは病的に血走り爛々と輝いている。

 

 誰もがその老人に注目をしていた。誰もがその存在から目を、意識を離すことか出来なかった。

 次第に、再びざわめきが広がっていく。誰もその老人に対してどう対応すべきか分からなかった。

 

「君達は皆、死んだ」

 

 その小さなざわめきの波紋に、別の大きな石が投げ込まれ、さらなる波紋で打ち消される。

 

「あの……あー、飛行機……というやつか。あれがな、堕ちた。それで君達は皆死んだ」

 

 その言葉が衝撃かどうか。反応はかなりまちまちみてえだ。

 叫び声やうめき声、または怒鳴り声も聞こえてくるし、ただ呆然として顔を上げ老人を見つめている者もいる。また明らかに真剣に捉えずに、へらへらと笑っている連中も居る。

 俺達は? というと、ほぼ大多数はただ口を開けて呆然しているばかり。ただやっぱり静修さんだけは、やや軽く眉根にしわを寄せてその老人と若い男を見つめている。

 遠くで誰かが英語か何かで叫んでいて、それを受けた老人が

「いいや、違うな。そういうものではない」

 と答える。

 再び別の場所でまた違う言語で誰かが叫び、それにも何かを返している。

 

 そのとき、不意に静修さんがまた大きな声で何かを叫ぶ。何か───というのは、それが俺には分からない外国の……多分中国語あたりの言葉だったからだ。

 老人はそれに対し、

「ああ、そう呼ばれることもある」

 と答えた。

 

「え? 何なんだ?」

 ストレートにそう疑問を口にするのは樫屋だが、心境としては俺も同じ。

「なあ、何て聞いたんだ?」

 静修さんへとそう聞くと、

「『你是上帝吗?』、中国語で『あなたは神か?』と聞いてみた。俺には中国語でそれに答えたように聞こえたが───」

「いや、普通に今まで通り、日本語だったぜ……?」

 周りの連中の多くがそれに頷く。

「つまり、他の国の奴らには、多分その国の言葉で聞こえているんだ。厳密には、問いを発したときの言葉……か」

 そりゃ───どういうこった?

 

 そのとき、どん! という落雷みてえな大きな音が響き渡って、ここに居た全員の声や動きがピタリと止まる。

 

「静粛に。口々にさえずるのを止め、我が主からの言葉を聞け」

 大声でもなく、ただ冷たく静かなその声は、横に居た若い男前のもののようだ。

 イケメン……なんて言う安っぽい俗な言葉じゃ言い表せねえくらい整った顔立ちは、なんつうかギリシア彫刻みてえな作り物めいた容貌で、皺だらけで干からびた骸骨みてえな老人とは対照的。だがただの優男とは思えないプレッシャーも感じさせる。

 

 静まったのを確認するかの暫しの間があり、それから改めて老人がゆっくりと口を開き、妙に粘ついたような不快な声で話し出す。

 

「───さっきも答えたが、私のことを神と呼ぶ者も居るし、あるいは別の呼び方をする者も居る。それらには全て意味はない。唯一神とやらを信じる者は私を神ではないと言うだろうが、それはどうでも良い。

 ただ私には君達にはない力があり、それを君達のために───つまり、不慮の事故で亡くなってしまった魂への特別な救済のため、その力を使おうと思っている。まず君達に知ってもらいたいのは、その事だよ」

 

 ▼ △ ▼

 

「ここで言う救済とは、君達のあまりに短く無念に満ちた人生に、新たな機会を与えられる、というものだ」


 小さなざわめきと、まばらな怒声、歓声。

 大野が後ろで小さく引きつったような歓声をあげたのと、また別のところにいた欧米人らしき男達から抗議の声ととれる叫びが聞こえたのはほぼ同時。

 

「彼らは、『神の国の門をくぐるのを邪魔をするのか、悪魔め!』と抗議していマス」

 横合いからそう言うのはさっきテレンスとか名乗った天パの眼鏡の白人男。

 その後ろをなんだか所在なさげにさっきの中東系の色黒髭男、それからもみあげのロカビリー男他数名も居る。別に俺達についてくる必要はなかった筈だが、まああのヒゲのアラブ人をリンチしようとしてた連中と一緒に居たくなかったんだろう。

 とは言えフツーは喧嘩相手の指の肉を噛み千切る不気味なガキと一緒に居たいとも思わねえもんだろうけどな。

 

「原理主義者達か」

「福音派ではアルと、思いマス。原理主義トマデ言えるカは分かりませんが、受け入れがたいのは分かりマス。魂ノ救済とは、本来、神のみの行いデス」

 静修さんが返す言葉に、天パの眼鏡が答えるが、何の話かは俺にはよく分からねえ。

 

「ああ、ああ、君達の言い分も分かる、分かるよ。だが───何れにせよこのままでは君達が君達の言う『神の国の門』をくぐることは叶わぬし、それは私のせいではないのだよ」

 だだをこねるガキを宥めるみてえな、妙に甘ったるい物言いが鼻につく。

「ここを何処だと思うね? 地獄? 天国? 或いは煉獄? いいや、違う。ここは辺土であり、“狭間の世界”だよ。

 何のことか分からんだろうが、それは事実だ。君たちの生きていた世界でも、君達が死後赴くはずだった世界でもない。それらの狭間、境界に存在する世界───そうだね、例えばソファーのクッションとクッションの間にある塵や埃の溜まる隙間───そんな場所だ」

 

「何だ? 俺達はゴミだってーのか?」

「舐めた爺だな」

 こういうところにはやたら反応の良い樫屋に、即座に応じる金田。こいつら含めて、どうも俺の周りにはこの異常自体に対して緊張感の欠けた奴が少なくないみてえだ。飛行機の中でハイジャックが起きる、爆発して墜落する……てのはまだ現実的な異常自体だったが、赤く染まった荒野に歪んでインクの染みみてえな気の狂った空の下で、動く岩山に乗って現れたイカれた爺の存在は、それを現実的な異常さとして受け止めるには無理がある。

 

「ああ、まさにそうだ。君達は狭間の世界へと落ちてしまったゴミだ。そしていずれこのままでは───塵芥のように霧散して消えゆくのみなのだよ」

 

 樫屋の、つまりは俺達の言葉を聞き取ったのか、爺がそう宣言する。

「私の言う救済とはそのことについてだ。

 このままでは神の国どころか、あらゆる世界のどの様な場所にも行くことはなく、ただただゴミとして消え去り、無へと帰す。

 それは───恐らくはあまり望ましい展開ではない。そうだろう? だからもし君達が望むのなら───別人としてではあるが、新たな人生を送れるように手配できる。無理強いはせん……がな」

 

 何を言ってやがんだ、この爺? それが俺の一番目の感想。

 実際、確かにワケの分からん場所に状況。だが俺に自分が死んだ事への実感なんざまるでない。

 そのときまた、俺達の後ろの方から上擦ったみてえな声で、「転生だ」と声がする。

「ひのっち、異世界転生だ!」

 日乃川をそう呼ぶのはキモオタ仲間の大野しかいない。基本的に俺や樫屋、田上なんかはいわゆるイジメとかいう真似はしない。かったりーしつまらねえし、何より静修さんの名に傷が付く。

 だが俺らより弱い癖にハンパにイキってチャラついてる足羽や猪口あたりの連中は、ちょいちょい大野達オタク連中を「いじって」馬鹿にしている。

 一度あまりにも連中が鬱陶しかったので足羽のやつを軽く小突いてやったら、それ以降大野と日乃川の二人は付かず離れずに俺たちの周りをうろつくようになりだした。

 ま、奴らなりの生きる知恵、処世術ってやつだな。別に助けてやるつもりなんざ欠片もねえが。

 

 その大野が好きなアニメやゲームの話をしている時同様の浮ついた声で、日乃川と何やら話している内容はほとんど分からねーけど、それに対してあの爺が返してくる。

 

「ああ、それだ、それだ。その、君達の概念で言う“転生”というやつだ」

 

 

 

 







【登場人物補足】 


 金田鉄人(カネダ・テツヒト) :野球部の次期エースを自称。あだ名は“鉄人かねやん”。

 足羽大志(アシバ・タイシ) :そこそこ面が良くそこそこ知恵がありそこそこ金持ち。大野達をいじめている。

 猪口雄大(イグチ・ユウダイ) :筋肉デブ。足羽と共にセコいいじめをしてるが、腹の底では足羽を小馬鹿にしている。柔道部。

 大賀高樹(オオガ・タカキ):でかぁぁーーーい! 宍堂の友人でラグビー部の主将。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ