表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
182/496

2-137.ダンジョンキーパー、レイフィアス・ケラー(20)「そこが───付け目だ 」


 

 闇の泥土がぬらりとまとわりつく感覚に身震いをする。

 ねっとりとした物質的質量を持つかのようなその魔力には、加えて様々な記憶や感情が散れ散れに混ざり合い溶け合い、そしてまた浮かび上がっては沈んで行く。

 美しいクトリア王宮の庭園。華やかな後宮の女達。勇壮なクトリア兵と賑やかしい交易船。

 それらの活気と美しさのある風景の中にさえ、重苦しく禍々しい感情の闇がまとわりついている。

 

 ハイエルフや聖光教会は闇そのものを嫌う。

 しかし闇そのものは善でも悪でもない。闇はただの闇だ。光の陰、陰と陽。

 昼があるから夜があるのと同じく、光があるから闇がある。

 闇だけに染まった世界でヒトは生きられぬが、それは光だけの世界でも同じだ。

 

 闇はある種の安らぎと安寧をもたらすものの、同時に恐れと邪心をも引き出す。

 闇を恐れるのは未知を恐れるのと同じだ。それ自体は生き物……光の反射により世の(かたち)を認識する生き物にとってはごく自然な反応。

 そしてやましい邪心を露わにするのは、闇に呑まれているからだ。

 闇に対する恐れを克服しようとした結果、その奥深くに紛れ、同化し、自らの(かたち)を失った者の末路。

 

 多くの人々はダークエルフを邪悪な闇のエルフだと言う。

 しかしダークエルフの価値観では、闇と共にあることと闇に呑まれることはまるで違う。

 そして闇に呑まれて邪なモノと化すのは、ダークエルフを邪悪と恐れる人間達の方が多い。

 まさに───この記憶の断片の主、ザルコディナス三世のように。

 

 

 恨み、不信、憎しみ、妬み……。様々なネガティブな感情の泥濘の中、目指す先にあるのは火のように赤い光───いや、輝きだ。

 怒り? 勿論ある。鮮烈なまでの怒りの炎。

 だがしかしその輝きの奥深くにある怒りは、決してザルコディナス三世の持つどろどろとした悪意に彩られたものとは違う。

 

 その主はジャンヌ。

 あの巨人がデジーと呼んでいたかつての影の密偵“災厄の美妃”の一人、デジラエ。密偵でありまた寵妃の一人として子を身ごもらせられたが、その子がまた将来ザルコディナス三世の為の影の密偵として仕えさせられることを嫌い密かに反旗を翻した。その裏切りの罰として、邪術で生きながら魔力溜まり(マナプール)へと変えられてしまった女性。

 そして密かに連れ出され匿われていたデジラエの娘の子であるジャンヌは、当然ザルコディナス三世の血縁上では孫にあたる。

 

 その事をジャンヌ本人は知っていたのか? それは分からない。

 ジャンヌがクトリア市街地の孤児だとは聞いているが、孤児となった経緯は聞いていない。

 それらの過去の中で、母や周囲の誰かから祖母にあたるデジラエについて耳にしたことはあるだろう。少なくとも、その名前については知っていたのだから。

 

 細かい経緯、また自分の祖父がザルコディナス三世だということ。それらを知っていたのかまでは分からない。分からないが……それでもこの“祖父と孫の邂逅”が、穏やかで心温まるものになるとはとうてい思えない。

 

 糸をたぐり寄せるようにして赤い輝きの先へ、ゆっくり這うように進み探りを入れる。

 細く、危うい繋がり。彼女が今憑依させているウィスプが僕の新しい使い魔であるというただそれだけのもの。

 しかしその細くて危うい、今にも途切れそうな繋がりのみが、文字通りに命綱。

 その鮮烈な光へと近付くにつれて、記憶の切れ端がさらに増え、またない交ぜになり、混沌とした闇の澱、淀みのようなものも増えていく。

 

 ───黙れ! 王権を持つものは誰か!? 余に逆らうというのか!?

 いくつもの生首が城壁へと飾り付けられる。

 ───この美しい国に再び繁栄をもたらすのは我のみぞ!

 佞臣はおもねり媚びへつらう。

 ───お前たちのような亡国の徒になど我は負けぬ!

 ザルコディナス三世の中の自画像は、あくまで気高く誇り高き王朝の主。

 

 しかしその記憶から見えてくる実像は───強大な力を持つ暴君と言うよりは、ただ闇に怯え、猜疑心と虚栄心に飲み込まれた愚かな男。

 文献、人づてに聞くザルコディナス三世のイメージとはやや違っている。

 “退廃王”と呼ばれ、為政者としては無能だが、芸術文化を愛し放蕩にふけっていたとされる前半生は、この記憶に見られるものよりは鷹揚で悪意は無い。

 そして粛正に次ぐ粛正で暴政と後の邪術士による専横の時代を生んだイメージからすれば───あまりに弱々しい。

 

 いや、独裁者など得てしてそういうものではあるのかもしれない。

 弱いからこそ攻撃的になる。臆病だからこそ思い通りにならぬ相手を排除しようと躍起になる。

 しかしそういう類の攻撃性、執着、妄執は、ときとしてとてつもなく厄介なものへと化ける。

 絶対的な安全を求めて死体の山を作り、その上の瓦礫の玉座でさらに縮こまる。


 

 問題は……その目的だ。

 

『───おお、我が血を受け継ぎし肉よ……』 

 

 執拗な、舐るように取り囲み攻め立てる。悪意にまみれたザルコディナス三世の魔力は、そのままでは決して強大とも言えない。

 元々が強力な魔術師と言うわけではない。ある程度の資質はあったのだろうが、魔術を学べるだけの能力も機会も意欲もなかったし、何よりその必要性がなかった。

 

『我を受け入れよ、我と一つになるのだ』

 

 しかし今は違う。魔力溜まり(マナプール)の力を引き出し、それらを我がものとして扱えている。

 どのようにしてそうなれたか? 

 それは彼が死ぬ前から計画されていたのか?

 

『我が意志を受け継ぎ、新たなる世を生み出すのだ』

 

 恐らくはそうだ。自らの死を想定し、その対策を練っていた。しかしそれは───何かしらの想定外の出来事により完全には“巧く行かなかった”。

 

 それをやり直すこと……そしてその為に……ジャンヌ───自らの血を引く者を必要とした……。

 

『我が器となり、我が肉となり、我がものとなるのだ───』 

 

 あくまで当て推量。確証のある話じゃない。だがそれなら───説明はつく。

 ジャンヌを殺すのでも無く、わざわざ攫い、そして今も生かしたままにしている事の理由。

 つまり、生きたままのジャンヌが───その肉体が彼には必要なんだろう。

 

 自らの血を継ぐ者の身体に乗り移り、支配し、再び生者として蘇る───。

 恐らくはそういう邪術だ。

 

 

 最初は小さく、遠くに見えていた赤い輝きが、次第に大きく近くになる。

 遠目に見えるその輝きの中に、白熱したもう一つの塊。そのシルエットには覚えがある。

 強い意志。常から不機嫌で、敵対する者全てを焼き尽くしかねない怒りの炎。けれどもそれでいて、仲間と認めた相手は必ず守り通そうと言う決意の炎。

 その炎が、泥土のように纏わりつく闇を払い、防ぎ、はねのけ続けている。

 

 今のジャンヌはヒトでありヒトではない。幻魔と密接なまでに融合し、半ば一体化した彼女は、まるで半神半人のような存在だ。

 

 そしてそれに纏わりつく闇の魔力の源もまた、ヒトではない。

 肉体は既に存在していない。純粋な魔力そのものと化した怨霊、亡霊───それらに類する何か。

 

 攻防は一進一退。しかしそれも時間の問題だ。

 何せ“悪しき者”ザルコディナス三世の方もまた、元々の魔力は多くなくとも、今や魔力溜まり(マナプール)の魔力と混ざり合い溶け合い同一化している。そして尽きることなく湧き出るその魔力を使い続けることが出来る。

 

 しかしジャンヌは違う。

 彼女自身の魔力の豊富さに、憑依させている幻魔が異世界から引き出してくる魔力で強力な魔力の防壁を作り出し抵抗しているが、それらは魔力溜まり(マナプール)が継続的に生み出す魔力に比べれば心許ない。

 根比べとなればいずれジャンヌが負ける。

 

 つまり───それがタイムリミットだ。

 そうなる前に、彼女を取り戻さなければならない。

 

  

 ◆ ◇ ◆

 

 整然と、きれいで整った広い通路。快適で利便性に富んだ居住空間。ついでながら意匠にも工夫を凝らし、工房で作った便利な魔導具で保存した豊富な食料、食材。

 そんなものを設えつつの「快適なバトル」。

 

 過去だ。そんなのはもうここにはない。そんな余裕は、時間的にもコスト的にも一切ない。

 

 ごつごつした岩穴。荒く、固く、冷たく、まるであらゆる生命、全てのぬくもりを拒絶しているかの無機質さ。

 だが違う。

 ここには土の魔力がある。

 強くはない。鉱物、岩盤。土の魔力というのは複雑で奇妙だ。単独でそこにあるときは、所謂有機物の生命とは異なる。けれどもセンティドゥ廃城塞の奥の盆地がそうであったように、水、火、風、光……他の魔力と混ざり合い触れあうことで、芳醇な生命を育み癒やす。

 

 今僕の横の毛皮の毛布の上で這い蹲りうなされ、脂汗を垂らし意識朦朧としている南方人(ラハイシュ)の男性。アデリア、ジャンヌ曰わく「シャーイダールの探索者」のJB。師匠と呼ばれてる魔鍛冶師で魔導技師のドワーフが改修した古代ドワーフ遺物を背にして飛行の魔術を自在に操り、元々は孤児でジャンヌとは腐れ縁……。

 実際に会った印象としては、彼女らの語る人物像からはさほど離れてはいないように見える。

 

 そう背は高くないが、しなやかで鍛えられた筋肉質な身体は均整が取れていて美しい。艶やかな褐色の肌に、顔立ちもまた整っている。端的に言えば───ルックスもイケメンだ。

 うん、イケメンだなー。いやマジでイケメンだわ。

 ダークエルフとしての価値観にかなり染まっている上に、今生では人間との直接の面識があんまり無いんだけど、いやー、彼、どストレートにイケメンだわ。まあこの世界の人間社会の価値観でどうなのかは分からないけどさ。前世的に言えばめちゃイケメン。

 

 む。いや話ずれたな。

 まあイケメン南方人(ラハイシュ)の彼が今めっちゃうなされてるのは、僕が処方した死目虫茶を飲んだから。

 濃縮された闇属性魔力エキスとでも言うべきそれは、そりゃ飲めば常人なら即ぶっ倒れる。二、三日はうなされ寝込むレベルのシロモノ。単に超絶臭くて超糞不味い、ってだけではなく、ね。

 

 死目虫は僕が使い魔として呼び出す熊猫インプのいる世界に近い闇属性魔力の固まりのような次元の生物で、召喚しても闇属性魔力の濃度が低い場所では存在出来ない。闇の森ですら存在し続けるのは稀なのだ。

 この領域にそれが居ると言うことは、それだけ闇属性魔力が濃密なほどにあふれているという事。

 そんな所に何の備えもなくJBが出て行けば───即座にぶっ倒れるか、最悪は死ぬ。

 

 彼はガンボンと真逆。というか、おそらく本質的な人間性においては近いものもあるのだろうけども、その生き方、行動力はまるで“矢”だ。

 何か目的、目標が定まれば一直線。思慮が浅いとか短慮というワケでもないのだろうけども、それでも今は、ジャンヌを助け出すという目的のためなら、どんな無茶でもしかねない。

 なのでその無茶をさせないためにも、大急ぎで闇属性魔力への最低限の耐性をつけてもらわなければならない。

 

 死目虫茶を飲ませるのもその一環……ではある。ではあるけども、実はそれだけではない。

 魔術師の師弟において行われる魔力循環の訓練。つまり僕の魔力と彼の魔力を繋げて、半ば強制的に循環を促すというもの。

 ジャンヌやアデリアにはトレーニング後のマッサージと共に、少しずつゆっくりモードでそれをしていた。

 けど今回はあんまり時間をかけられない。

 なのでその辺りも、ちょっぱやお急ぎモードで進めなきゃなんない。当然その分……JBは苦しい思いをすることになる。

 

 

 うなされ半ば朦朧としているJBの後ろから、そっと抱きつき添い寝するように寄り添う。

 手を触れて【大地の癒やし】を使い体力回復をさせつつ、同時に全身をぴたりと合わせながら僕の中の魔力を膨らませてJBの全身を包み込む。そうして作り出した魔力のプールに浸して、身体中からゆっくりと魔力を進入させ、強制的に循環をさせる。

 何というか……色んなところに管のついた針をぶっ刺して、一気に全身の血液を入れ替えてまた戻す……みたいな無茶苦茶強引な循環訓練だ。


 とにかく先に身体に覚えさせる。

 これは、心理的抵抗が大きいとまず出来ない。師弟でも実はけっこう厳しい。たいていは血縁、または恋人、配偶者(パートナー)同士でやるような“濃い”やり方。

 

 つまり……JBの意識がしっかりしているときにはまず出来ない。精神的に拒絶される。

 

 そのために、意識朦朧とするレベルの死目虫茶を飲ませ、魔力酔いに闇属性魔力による激しい苦痛、ついでに臭くて苦い味とのトリプルパンチで何も考えられないほどの状態にして抵抗力を失わせて、魔法による回復と同時に強力な魔力循環を同時に行う……という、まーーー無茶な事をしている。

 

 説明? してませんよ! してらんないもん! 臭くて糞苦い死目虫茶で闇属性魔力への耐性をつける、とまでは説明してあるけど、その先は面倒くさいし何だしで割愛してる。

 それに……だいたいさ、結構肌を合わせるように密着して行うとか、本来は配偶者や恋人同士とかがやるようなやり方だとか……色々気まずいじゃん!

 ほぼほぼ初対面なのにさ!

 こういうことはあちらさん、一生知らなくて良いんです! 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 まあそんなの強引かつ性急なやり方を続けて、地道にかつ、確実にJBの魔力循環と魔力耐性を急ピッチで上げていく。

 死目虫はこの辺りにはけっこう居て、大蜘蛛アラリンの張った巣にもほいほいかかる。というか要所要所にアラリンの糸を張ってないとほいほいやってくるのでヤバい。

 こいつらは麻痺毒を持っていて、刺した相手の動きの自由を奪い、それから強力な溶解力を持つ唾液を注入して肉を溶かして液体状にしてから吸い出して食べる……というのを繰り返す、見た目以上にエグい生き物だ。

 大きさは大したことないし、それらの能力を除いた殴り合い的な戦闘能力は高くないが、一度麻痺毒を食らったらもうおしまい。後は生きたまま溶かされチューチュー吸われ続けるというまさに生き地獄を味あわさせられる。

 

 これは“悪しき者”が召喚した番人なのか? というと……どうも違う気がする。

 多分だけど、この異常に濃い闇属性魔力によって、異次元ダークワールドとの境界が薄まってしまい漏れ出てきたんだと思う。

 もちろんそこから従属化して支配下にした個体なんかもいるかもしれない。けど多分それは少数、または稀な例。

 少なくとも、僕がやってたみたいに機動力のある魔虫部隊を編成して索敵警戒……みたいなこととして放っているわけではなさそうだ。

 

 何故そう思うかというと、“悪しき者”は僕らに対してまだ何らアクションらしいアクションを仕掛けていないからだ。

 “嵐雲の巨人”は、僕らをこちらへと転移させる際に、なるべく安全なところに行けるように調整はするが、確実とは言えないと言っていた。

 この転移は、領域を支配している“悪しき者”の隙を突いて行われる。本来転送されるべきダンジョンハートへ行けば即座に返り討ちになるから、まずはバレないようにするしかない。

 

 なので転移先は“悪しき者”の支配領域に近くはあるが外れている空間。転移して即「壁の中にいる!」とかならないようにはしてくれたが、その程度。

 実際そこは、本当の本当に隙間の隙間みたいな場所で、そこからある程度の空間を確保するのにも一苦労。

 熊猫インプを召喚して最低限の広さの小部屋を四つほど。四畳一間から六畳程度の小部屋を不規則に並べた感じだ。

 それから大蜘蛛アラリン、水の精霊獣ケルピーを召喚。ケルピーは特に食べ物や居住区を必要としない……一応水辺が必要だけど、取り合えずは無くてもなんとかなる。

 けど大蜘蛛アラリンはその辺気難しい。自分の空間と餌が無いとおむずがりになるので、やや離れた位置に専用の居住区に魔造チキン。

 

 で、それらをこの領域で支配している魔力溜まり(マナプール)無しでやる、というのが……めちゃめちゃ厳しい。

 今まで自由自在にダンジョン作りが出来ていたのは、魔力溜まり(マナプール)の魔力と、それらを効率化してダンジョン作りの出来る 知性ある魔術工芸品インテリジェンス・アーティファクトの“生ける石イアン”の力があったからだ。

 ぶっちゃけて言えば全部道具(アイテム)の力。僕自身の魔力、魔術だけではとうてい無理なこと。

 ただ“生ける石イアン”は今まで支配してきた魔力溜まり(マナプール)の魔力をある程度は使うことが出来る。同じ領域内で支配している場合のせいぜい一割程度ではあるけど、各ダンジョンで合計8つの魔力溜まり(マナプール)の魔力を、ややロスが多いが使えるには使える。

 

 それでも……やっぱ今まで通りとはまーったくいかない。

 設備がしょぼいのも、見た目が悪く狭くて小さいのも、諸々の状況含めてかなりのハンデ。

 

 その状況で、来てしょっぱなにぶっ倒れたJBの治療、看護と並列して、この狭苦しく息苦しい防衛と居住の為のダンジョン作り、そしてジャンヌの様子の確認に居所の探索……等々などを、行っていた。

 構造としては僕らの寝起きするメインの部屋と通路で繋がった向こう側に倉庫、資材置き場。

 その資材置き場から左右に伸びた通路の向こうに二カ所、それぞれケルッピ区画とアラリン区画がある。つまり防衛線でもある。

 ついでにトイレはケルッピ区画の近くに併設。ケルッピ区画はまた水場で水源も兼ねているので、その辺も考慮してだ。

 

 このミニマムライフな状態でまずは2日程、一方ではJBに死目虫茶を飲ませ続け、もう一方では熊猫インプに入り組んだ細い道を掘らせ続け、数カ所を拠点化して確保する。

 その間、敵らしい敵は現れてない。まだ“悪しき者”の領域に入らないよう慎重に周辺を探り探りで掘りつつ、点と点を網のように繋げていく。

 “悪しき者”は、“大いなる巨人”曰く、長い間その意識を彼等の力で半ば封印されていた状態だったとのことで、まだ領域そのものを拡張したりはさほど出来ていない。

 なので、そのそう広くない“悪しき者”の支配領域をぐるりと囲むようにしていく。

 

 とは言え、ここまで周りをうろつかれていて、全く気がつかないのも変な話だ。

 まあ僕の場合も基本的には“生ける石イアン”の察知に頼っていたのであまり言えたもんじゃないが、それでもきちんと警戒していれば気取られるくらいのことはやっている。

 使い魔であるウィスプとの繋がりを使ってジャンヌの様子を探る為に遠隔視したのも一回だけじゃない。

 それでもこちらに気がつかないのは、やはりジャンヌの肉体を支配し奪うことに集中しすぎて、周りが見えていないのだと思う。

 そこが───付け目だ。

 

 それからある程度自律行動の出来るようになってきたJBに、大まかな状況説明をしつつ少しずつ拡張を続け、JBにはリハビリを兼ねての死目虫調達をお願いしておく。

 実際は大蜘蛛アラリンの巣にかかる分だけでも十分なんだけど、少なくとも僕が支配領域化したところを自由に動き回れるくらいじゃないと、ガチで闇属性魔力に満ち溢れた“悪しき者”の支配領域じゃあ何も出来ない。

 遅くなりすぎてもいけないが、拙速では相手の領域にすらまともに立ち入れないのだから。

 

 だからまず、第一段階。

 JBが“悪しき者”ザルコディナス三世の領域の濃い闇属性魔力内でも活動できるようにする。

 次は第二段階。

 ザルコディナス三世の領域へのルートを作る。

 そしてその次の第三段階───ヒット・エンド・ラン……じゃない、ヒット&アウェイ。攻めて……逃げる!

 


 いや、逃げますよ? 基本、逃げる前提ですよ?

 だって全く得体が知れないし、勝てるかどうかも全然分からないもん! 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ