2-134.魔導技師、イベンダー(2)「カストなんぞ殺すからだ」
まったくもって実に厄介だ。
物事、問題ってのはそりゃこっちに都合良く順番通りにゃあ来てくれやしねえ。そりゃまあそうだ。幾つもの事が連鎖して並列で起きてきて、一つ目の問題に対処しようとすると別の二つ目が立ちふさがり、かと言ってその両方を同時に巧く対処するベストな方法なんてのがいつも簡単に見つかる訳もない。
こちらを立てればあちらが立たず、あちらを切り捨てりゃあこちらをしくじる。
そう言うときは、できりゃなあなあで無かった事にもしたくはなるが、それで後に禍根を残す……てなのもそりゃあよくある話。
喫緊の問題のために後回しにしてた事が後々命取り……うん、しかもその命ってのが俺自身のモンならまだマシで、別の誰かのもんだとなれば……そりゃもうしまらねえ話だぜ。
改めて言っておくが、俺のカリスマスピーチも必ずしも万能じゃあねえのさ。
事の始まりに遡りゃ、俺がまだタルボットという名で疾風戦団の魔導技師としてやんややってた頃の仕事からだ。ああ、つまり例の“闇の主討伐戦”ってやつだわな。
こいつを請けるってな話しが出たときには、戦団内でもかなり意見が割れた。
基本的に戦団は傭兵団じゃあないから、戦争には無闇に関わらないってのが基本方針。その上相手が闇の主となりゃ、それは闇の森ダークエルフ十二支族との戦になりかねない。そうなりゃ表向きの「戦争、傭兵働きはしない」のに加えて、「闇の森ダークエルフとは争うな」という暗黙のルールにも反する。
が、どういう密約駆け引きか、この闇の主討伐戦には魔術師協会も闇の森ダークエルフ十二支族も関わらないと言うことになった。
となると───あとは具体的にどういう関わりをするかになる。
で、討伐軍全体の指揮官となったリッカルド・コンティーニ将軍からの“依頼”は、あくまでも闇の森の地下遺跡の掃討と探索。
つまり直接的に闇の主とやり合え、ってな話しじゃない。
それでまあ、俺としては一も二もなく参戦した。もちろんお目当てはトゥルーエルフの遺物、埋葬品だ。
こいつは涎がでるほどのお宝だからな。
まあその欲目に祟り目。訳の分からん怪物と遭遇し、捕まって引っ張られ、あれよと言う間に───ダーーン! 地割れに陥没、真っ逆様。完全にパニクった頭で最期に思ったのは……とにかくこんな事じゃ死ねないと言うそのことだけだ。
そしてその生き汚い執念のお陰か、紆余曲折あって俺は再び覚醒した。
しかも───“ベガスの救世主”たる前世の記憶とやらを蘇らせて、クトリアで、だ。
この前世の記憶ってのも厄介なもんだ。
蘇った当初はほとんどその前世記憶の方が主体になってて、俺はその前世のときの名……イベンダーを名乗った。つまり、科学者にして商人、運び屋にして探鉱者、そしてベガスの救世主としての、ネバダ砂漠で砂にまみれ這いずり足掻いて生きてきた一人の男としてのそれだ。
次第にタルボットとしての人生……ドワーフ生? を思い出していき、それはセンティドゥの廃城塞へ再訪したことで完全に蘇り、そのとき初めて「魔導技師のタルボット」としての俺と、「ベガスの救世主、イベンダーとしての俺」が、矛盾や違和感無く一人の人格として統合されることになる。
それがまあ───厄介な諸々の問題の始まりでもある。
一番目は何よりもガンボンとクリスティナ……あとまあついでにサッドのことだ。
サッドについちゃあ分からねえ。そもそもあいつは恐らく怪物によって陥没した地下まで引き込まれて居ないし、だから当然こっちにも来ちゃいねえだろう。ま、奴の性格からすりゃあ真っ先にとんずらして逃げてる可能性が一番高い。
ただクリスティナは違う。あの鉄面皮の元聖女見習いは、間違いなく俺と共にこっちにまで来ていて、センティドゥで“三悪”共に捕まり、俺とは別の檻に監禁され、記憶にある奴らの会話の通りであるならばどこか余所へと売られていってる。
連中は非合法の奴隷商とつながっていてそのルートは多岐に渡っているが、元聖女見習いで光属性の魔力を強く持つ彼女の売られただろう先は限られる。
俺はその後独りで脱走し、迷路以上に複雑な地下下水道を行ったり来たりの果てにアダン等に拾われて、シャーイダールのアジトで意識を取り戻し……今に至るわけだ。
けれどもそれ以上に、記憶、人格が統合されたことで、クリスティナの行き先のみならず、他のミッシングリンクも色々と繋がってくる。
そこがまあ───問題だし厄介の本丸だ。
□ ■ □
階段を降りきったホールから三方を分担しての調査。ここでのチーム分けに関しては、ちょっとばかし俺から“提案”をさせてもらってはいる。勿論質問をするかたちで道筋を促して、という意味でだ。
闇の魔力の濃度によってチームを分けるってのは、口実でもあるが嘘でもねえ。と言うか、それとなくその事を指摘することで、ハコブにこのチーム分けを決めさせた。
実際、技能のみならず装備も含めて俺とハコブの二人だからこそ、この真ん中の区画の調査は滞りなく順調で、封印や仕掛けを発見、解除して、怪しげな場所を数カ所は見つけている。
ここの責任者のエンハンス翁は、学者、研究者としては確かに超のつく一流だが、魔術の使い手としては三流、魔導技師としては……二流半くらい……てなところか?
けど問題なのはむしろは管理責任者としての資質がかなり低いこと。完全に口下手人あしらい下手な学者肌で、人を使って何かをするってのはドゥカム以上に巧くない。
で、そのドゥカムの話じゃ助手達もそれぞれ癖も問題もある上に、有り体に言えばこの深部から下の調査に対してのやる気が無い。
要するに助手も王国軍も、遺跡深部の調査、研究なんてのは二の次三の次。何より優先しているのは魔力溜まりの安全かつ効率的な維持、運用だけ。
つまり、ここの魔力を引き出しての魔導具作りや施設の補修や設置、そして何より魔晶石の回収だ。
取り決めでクトリア貴族街の支配者“ジャックの息子”に三割程度は渡してるらしいが、それでも財源確保にも軍の戦力増強にも使える魔晶石。
それらが最優先の職務である以上、調査だ探索だは疎かになる。
そこがまあ、探索こそ本業のシャーイダールの探索者達との差になってくる。
さらに言えば、是が非でもこの奥の区画を探り当てて“悪しき者”を見つけ出し、JBにジャンヌ、ガンボンの連れであるレイフというダークエルフを救い出したいという意志、モチベーションが違う。
モチベーション……動機……理由……何故? そう、まさにそいつが重要だ。
「奥の壁画のある小広間と……そうだな、あの角の手前。角の手前は隠し区画ではあるが……蜘蛛型の搬入通路かもしれんな」
「本命はあると思うか?」
「ん~~~……低めに見積もって……九割か?」
「だが……」
「ああ、センティドゥと同じだ。此方からは簡単には開かんだろう」
センティドゥ廃城塞での隠し区画、つまり盆地の内側への通路は、別の場所で何らかのスイッチが入ることで開く仕掛け扉だった。
ここの構造も恐らく同じ。そしてその「別の場所のスイッチ」は、間違いなく隠し区画の内側。
JBかジャンヌ、叉はレイフというダークエルフの魔術師。連中が中でなんとかしなきゃ開かないだろう。
───正攻法で言えば、だ。
この手の魔導を用いた制御扉みたいなものは、その仕掛けを管理する頭脳に相当するものがある。
言わばコンピューター制御のロックだと考えれば良い。
この封鎖区域に入るときに使った魔術鍵とも違う。あれはシンプルに通常の鍵と魔法の鍵の二段構えのものだ。盗賊なんかによる物理的な鍵開けを防止できるってだけでしかない。
こっちのは、別の場所で作動した仕掛けが同時にこの扉を制御している何かしらの魔導器ヘと信号を送り、それらによって開け閉めの動作をする。
ガンボンの話やドゥカムの考察を鑑みれば、センティドゥ廃城塞での制御扉は、それまでの水の迷宮、火の迷宮、そして土の迷宮と呼んでる各迷宮で例のダンジョンバトルとやらをクリアし、レイフってのが魔力溜まりを支配すると言うこと。それが鍵。
多分だがボーマ城塞の奥にも同じ制御扉があった。俺達が易々と中へと入れたのはそのためだ。
レイフが魔力溜まりを支配した後だからな。
じゃあ俺達は、中でレイフが敵キーパー……恐らくは“悪しき者”と呼ばれるそいつをなんとか倒して、内側から制御扉のロックを外すのをボケーッと待ってなきゃいけないのか? いいや、それじゃあ遅すぎる。
こっちでやれることは無いのか? ある。
何か? 分かり易い言い方をすれば、ハッキングをするってことだ。
扉を制御している魔導器を見つけだし特定して、そいつを騙して、「もう開けて大丈夫だ」と思わせる。
で、それを誰がやるかと言えば、当然俺の仕事になる。
□ ■ □
「あれだな。あの……像のある飾り柱の右から二番目。あれが魔力中継点だ」
「様式がかなり違うな」
「偽装だろう。こいつは他のよくあるただの魔力中継点とは違う、特別な端末だ。
ま、俺達みたいな胡乱な輩に見つかって手出しされないようぱっと見で分からんように作ったんだろうが───こうまで魔力が漏れてちゃあ丸分かりだ」
「“悪しき者”───ザルコディナスの尻尾……だな」
ある程度の道を引き返し、制御扉の制御核にアクセス出来るだろう魔力中継点の場所へ。
やや広いホールは、全体が長方形の形で、真ん中に向けてすり鉢状にやや下がり、天井が高い。
その中央部に一列の飾り柱があり、その一つがお目当てのもの。
制御扉の核になる魔導器を直接書き換えられれば確実だが、そいつの具体的な場所を探り当てるのはまた一苦労。そもそもそれ自体が制御扉の向こう側にある可能性が高い。
けれども大きな仕掛けのあるこういう古代ドワーフ遺跡はたいてい幾つかの魔力中継点でそれらを統括コントロールしている。だからその魔力中継点の一つから侵入も出来るわけだ。
さて、どうする? どう……いや、いつ切り出す?
制御扉を開けてから? それはまずい。やっこさんの腹の内がまだ確定出来てない。だがもし最悪の想定通りだとしたら……あー、だとしたら、どっちにせよダメだな。
なら、決裂したとしても最悪を回避するには……結局このタイミングしかねえってことになる。
左手の篭手に設えた魔捜鏡。こいつはもはや魔“捜”鏡じゃなく、魔“操”鏡とでも言うべき代物にアップグレードしてある。
どういうものか? 強いて言うなら小型で持ち運びできる魔力中継点。
だが魔力中継点ってのはそもそも術者または魔力溜まりの魔力を中継し範囲を広げるのが主目的。俺自身にたいした魔力はなく、魔力溜まりを支配してるわけでもない俺が持っててどうするのか、ってーと、俺ではなくこの鎧の魔力を外の何かに中継するのに便利、ってなものだ。
この鎧自体もかなり改良に改良を重ねてアップグレードしてある。
最初にJBに対して、この鎧を「パワードスーツだ」と言ったが、まさにそういうものへと着実に近づいている。
具体的に今一番大きいのは、例の暴走した“ハンマー”ガーディアンの核を再利用して、この鎧の魔力制動を統括する核にしているということだ。
言い換えれば、着脱式の新たなドワーベン・ガーディアンみたいなもんだ。
そこにいたるまでかなりの試行錯誤もあったし、本来のガーディアンにあった性能、特に擬似的な思考能力を与えるようなものはなくなっている。ドゥカムが穴を開けていたからこそ出来たことなので、困ったことに再現性はかなり怪しい。もう一度ドワーベンガーディアンの核をいじくり回して同じ事が出来るかっつーと……ま、無理だろうなあ。
とは言えそれによって、鎧の戦力としての性能もパワーアップはしてるが、それ以外もかなり高性能になってる。
それが小型持ち運び式魔力中継点でもある魔操鏡を利用しての、魔力による他の魔力中継点や魔力封印、防壁、魔導具等々への解析、支配の力。
要するにハッキングツールだ。
ドゥカムやレイフとかの魔術師なら自前の魔力でやってのけることだが、ドワーフで魔力もさほどない俺なんかは自力でやれることに限界がある。あー、いや、限界点が低い。
けどこいつがあれば……そうそう、こんな風に───。
「───さて、と」
一息ついて一旦休止。うむ、こりゃ実際喉も渇くし汗も滲む。
「どうだ、いけそうか?」
「雑作もない……と、言えりゃあ良いが、ふぅー……。さすがに手強い。
まあ手も足も出ないってなほどじゃあないから、なんとかはなると思うがな」
ハコブと俺との二人きり。薄暗がりにドワーフ合金製ランタンの灯りに、飾り柱に設えられた魔法の灯明がぼぅっとあたりを照らしている。薄暗くはあるが、まあ十分だ。
二人ともかなりのフル装備。
俺は当然のパワードスーツ。ハコブの方も普段なら革製の胴当てなのが特別設えのドワーフ合金製。身長も高く体格の良いハコブに合うものはなかなか無かったが、以前ボーマ城塞で見つかったものを俺がサイズ調整して身体に合わせておいたものだ。
他にも色々、御守り山盛り。防護のための装身具類は、ガンボンからすりゃ、「すげー金ピカゴージャス!」ってなもんだろうが、別に成金趣味なおしゃれじゃなく、実用実利の為のものだ。
ハコブに関しちゃ、昔からつけているという左手の蜥蜴の意匠が彫刻された指輪を除けば、“銀の輝き”の店頭じゃお目にかかれない高性能のものばかり。
アダンの盾やスティッフィの戦鎚みたいな特殊な力は持ってないが、ハコブはそもそも地力が高い。一芸特化のレアものより、汎用性が高く補助的なものが有用になる。
もちろん、全体的な装備の性能や魔導具を使いこなす技量で言えば俺の方が上だ。それで、地力の差をどこまで埋められているか……だな。
「一旦キャンプに戻るか?」
俺のコンディション、集中力を気遣って……というわけでもないのか。何にせよそう提案してくるハコブに対し、うーーーむ……まあ、ここだな、と、俺は改めて向き直り話を切り出す。
「その前に───ちょっと良いか?」
腰を据えてがに股に座り、真正面からハコブを見据える。
「……何やら話をしたそうな雰囲気だったが、今来たか」
「うーんむ、ちょっとな。どうも、今しか機会がなさそうなんでな」
ハコブはうす暗がりから一歩踏み出しランタンの明かりの中へ。
それから俺の正面に手頃な瓦礫の石を転がし、椅子代わりにしてどっかと座り込む。
「俺はこの件にケリが付いたら、ガンボンと余所へ行くことになると思う」
まず一つ目、これは最初にはっきりさせとかなきゃならんことだ。
「……理由を聞いて良いか?」
「うむ。前にも少し話したが、俺とガンボンは元々疾風戦団の団員だ。そして行方不明になった別の団員達を探している。
で───その内の一人は、恐らくは“三悪”、厳密には“黄金頭”アウレウムにより奴隷として売られた」
しばしの沈黙。固く厳しい表情からは、大きな感情の変化は伺えない。
「つまり───アウレウムを追うのか?」
「そこは分からん。売られた先のだいたいの見当はついとる。クトリアでアウレウムを探し出すのと、売られた先と思える地に行くのと、どちらが効率が良いか───と言うところかな」
「───そうか」
やや顔を上げ、ハコブが言う。
「俺としては───イベンダー、お前には残って貰いたいとは思うが……引き留められる話ではないようだな」
目線を少し左へそらし、顎を支えるようにして両手を当てる。
「寂しくなる」
「感傷的だな」
「俺だってそういうこともあるさ」
「フフン、良いみやげ話になるわい」
「からかうな」
ハコブはそう言うと口元を軽く歪ませ、目を細める。
そしてまたしばしの沈黙。
「俺もな。ここでの暮らしは悪くなかった。JBも当然そうだが、アダンやニキ、マーランにスティッフィ、ダフネ……そしてお前さん。マルクレイにブル、下働き連中に見習い新入り……あとピートにナップルもな。お前らのことは俺は好きだ」
全くの掛け値無しの本心で俺はそう言う。
「残念だがジョスやポッピ、ブラス辺りとは殆ど顔も合わせてなかったし、アリックとも機会が無くそう親しくはない。だが、まあ特に嫌いってこともないし、もっと居れば楽しくやっていけたかもしれんが───そりゃ今更な話か」
「……ああ、そうだな」
「ま、俺が抜けて出来る穴はとてつもなくデカいだろうが、お前さんがきちんと全体を見て回していければ、まずまず巧くいくだろう」
一呼吸置いて、俺は言葉を続ける。
「ちょっとばかし、差し出がましい事を言わせてくれ。餞別みたいなもんだ」
目を見る。鋭く、意志の強い黒い瞳に、俺の金ピカゴージャス鎧が映り込んでるようだ。そして恐らく、俺のこの金ピカゴージャス鎧の表面にも、ハコブの歪んだ顔が映し出されているんだろう。
その視線が真っ直ぐに俺を見、それからゆっくりと息を吐きながら、
「聞こう」
と短く返す。
「───お前さんは、あまり感情や思いを口にせん。しかし計画や指針には合理的で計算に基づく冷静さがあり、同時に時には大胆な行動力で本質に迫る。だからまあ、誤解もされやすいが、人を引っ張りまとめる資質も十分にある」
「面はゆいな」
慎重に、目を逸らさずにこちらの意図を探るような黒い目が射抜いてくる。
「いずれにせよ、俺の見立てじゃあお前さんは、十分成功者になれる人間だ。
それが望んだ通りやそれ以上か、それには及ばない程々のものか……ま、そいつは分からん。分からんが───安易で小狡い手になんぞ逃げんでも、いや……むしろ一つ一つの過程をきちんとしっかりと踏んで行くことこそが、今後より一層重要になるだろう」
「───それで」
「人は過ちを繰り返す。それは変えられん。エルフもオークもドワーフもその点は同じよ。不完全で愚かで強欲で傲慢。
だがそれでも、過ちから学び、同じことを繰り返さぬよう努めることも出来る」
「───」
「安易に……結果だけを求めるとな。過程からの学びを無くし、真実を見失う。
俺もそれは過去に十分、痛いほど身に染みて分かってる。卑劣な真似、不正な手段で近道をして手に入れたものは、失うのも早い。そして手に入れたところで安心も出来ん。
あいつらを───マーランやアダン、JB達を育てたのはお前さんだ。
そしてそれこそ、どんな古代ドワーフ遺物にも勝るとも劣らないお前さんの宝だ。
安易な近道では決して得られない、かけがえのない財産だ」
「───そうだな」
沈黙。
「例の、ダークエルフの術士はな。ガンボンにはかけがえのない友らしい。だから俺たちは、今回の件を済ませたら、三人で揃ってここを……クトリアを出て行く事になるだろう。まあ場合によっちゃ、ナップルを連れて行ってもいいかもしれんな。ここにゃもうあいつは要らんだろう。シャーイダールの偽看板は、もう必要ない。
あいつも連れてたら、とんだ珍道中になるだろうがな」
「───いつから」
顎を支えるようにしていた両手を下ろし、膝の上に揃えて置きながらそう言葉を繋げる。
「いや、どうして気付いた?」
……ああ、それもまた厄介な話だ。
「そりゃあ……まあ、お前さんがカストなんぞ殺すからだ」
一旦、ここで少し間を置きますが、近いうちに再開予定。




