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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
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2-132. 追放者のオーク、ガンボン(61)「……と、そう思いたい」


 

 実際、とっても、怖かったです、ハイ。

 いやもうね、“銀の閃き”のグレタさんにその弟のジャンルカさん? めっちゃガタイの良い筋肉質で、ミスリル銀のフルフェイス兜に両手持ちのバカでかい戦鎚。雰囲気的にはユリウスさんとこの“雄牛兜”に似てるけどもっとデカい。ヴァンノーニファミリーの地獄の姉弟コンビのお二人様、聞いてた通りピリッピリのギチッギチですよ。

 

 いやね。俺もそれなりに色々経験してきて、修羅場もくぐって参りましたよ?

 ユリウスさん率いるゴブリン軍との戦い。水の迷宮で電気ビリビリ亜水竜。火の迷宮では火焔蟻の女王様、土の迷宮で岩鱗熊初めとする様々な魔獣軍団、そして巨人の死体を組み合わせて作られた大怪獣並みの死の巨人。

 ジャンルカさんにしてもグイドさんや山の巨人達に比べればそりゃ小さいし、グレタさんが女傑だと言われても、単純な戦闘能力ではナナイさんはおろか多分エヴリンドさんにも及ばないように思える。

 

 ふつーに考えれば、そっちの方が数億千倍強くて手強くて恐ろしい、と……そう思うじゃん?

 けど、こういうのは……怖さの質が違うのよ。

 なんというかこう───生身の人間の放つ悪意? そういうものの怖さ。

 

 そういうものに囲まれつつ、店内をビクビクしながらイベンダーの付き添い。けどまあイベンダーは全くそんなの気にしてないかに色んな展示品を見て回りいじくりまわし。

 しながらもグレタさんやら他の店員……店員、で良いのか? 店員兼ガードマン? というか警備兵兼殺し屋? そんな人達にも平然と話しかけてアレコレ聞いている。

 

 反応は概して良くはない。まあ俺もイベンダーもそう金持ちそうにも見えないしね。

 実際ここの商品は基本的にお高い。何せ付呪された魔法の武器防具やら、古代ドワーフ遺物やらが一番の売り。

 まあ中には特に付呪とかのない骨董品的な皿や壷も幾らかあるし、武器というより日用品的な小さなナイフやハンマーなんかもある。けどそれも古代ドワーフ遺物のドワーフ合金製やミスリル銀製。やっぱ当然それなりのお値段。

 俺でも買えそうな安い方と言えるのは……効果の殆ど無い御守りとしての装身具くらいかなあ。

 

「お金、大丈夫?」

 耳打ちしてそう聞くと、

「ああ、俺は副業でそこそこ儲けてるからな。中くらいのもんまでなら買えなくもない。だがまあ……ふーむ」

 言いつつ、またも展示品を撫で回す。

 

「装飾品日用品含めて、エルフ製が多いな。ウチの発掘品はここの店頭にゃあまり置かんのか?」

 イベンダーの問いにグレタさんはやや眉根をしかめ、

「ウチ?」

 と返す。

「ん? ……あーーー、しまった、俺としたことが大変な失礼を。

 申し訳無い、正式な自己紹介がまだだったな!」

 と、やけに大仰に反応して、

「さてここなる紳士と麗しい淑女にご挨拶をさせて頂こう。

 俺は科学者にして探鉱者、運び屋であり商人で医学の徒。そして砂漠の救世主としてお馴染みの男、イベンダー。

 今は紆余曲折あってシャーイダールの元で食客をさせてもらっている。以後、お見知りおきを」

 と、いつものあの口上をさらにややこしくし、大げさな芝居がかった仕草でグレタさんの恐らく魔装具だろう指輪のはめられた左手を取りつつ深く一礼。

 何か貴族のアレみたい。アレって何だ。

  

 当然のように一堂それぞれに呆れたような面食らったような顔。

 けれども手を取られ深々お辞儀されたグレタさんはまんざらでもなさそうに口の端を歪め、

「へぇ……。見た目に反して、かなりの“大物”なのね?」

「うむ、所謂“小さな巨人”と言う奴だ」

 その返しに今度はグレタさんは声を上げて、

「ハハ……! そうね、パスクーレなんかよりはかなりの大物っぽいわね!」

 と笑う。

 

「……で、その大物さんは、何を求めて来たのかしら? 品卸じゃあなくて個人的な買い物? それとも……何かを探りにでも来たの?」

「ふむ、まあ両方だ。今度の探索に使えそうなもの探しと、後は市場調査だな。

 俺はこう見えてもなかなか目利きでな。売れ筋や傾向が分かれば、より的確に売れる遺物を持ってこれるだろ?」

 何やら商人っぽいことを言ってるけど、いやいや、今のんびりそんな事してる場合じゃなくね?

 

「ところで、伝心の装身具はないのか?」

「そう簡単には出回らないわ。大型のはたまにあるけど、小型の耳飾りなんかは結局個人に合わせて調整が必要だもの。魔導技師が居なきゃ話にならない……て事ぐらい知ってて聞いてるってことよね? 自分で目利きを自称するくらいなんだから?」

「おおっと、評判通りに目敏いな。まあ一応手に入りそうだと見当つけて居るのは警笛くらいだ。それはあるか?」

「……あったとは思うけど……これだって調整は必要でしょ」

「警笛くらいならなんとかなるだろう。最悪叩き壊して鳴らせば良い」

「それなりの値段のものを使い捨て前提にするのね」

「ふふん、でなくば生き残れんよ」

 

 探り合い的な会話か、俺にはよく分からないが細々したやりとり。

 

「それにな、この辺はおたくらもいずれ詳細を知ることになるだろうが、三悪を含めた魔人(ディモニウム)討伐がかなり巧く行ったおかげで、俺達にもかなりの利益が入る。

 おたくらに流せる遺物もかなり増えるぞ。それにまあ、クトリア近郊の治安が良くなった分、東周り交易路も使い易くなるだろ?

 そうすれば、王国軍の管理する転送門を使わない商売も捗る。良いこと尽めだ」

 

 んん? と、ここはさすがに俺でも分かるブラフだぞ! だってハコブさんもイベンダーも、「センティドゥ廃城塞は期待してたよりかなり実入りがない」と言っていたはず。

 それなのにまるで魔人(ディモニウム)達を追い出してから沢山の遺物を見つけられたかに言うのは、明確な嘘だ。

 なんで? というのは……うーーん。ボーマ城塞とかでの収穫の多さを誤魔化す為? 何か前に、ボーマ城塞での探索発掘についてはあんまり周囲に広めたくないみたいな話してた気がするし。

 

 けど、それを言われたグレタさん達には、何かややピリッとした空気が走る。

「あなた達が討伐に噛んでた……というのは耳にしてるのだけど、そう……。まだハコブからも詳しいことは聞けてないんだけどもね」

 内容はそうでもないのに、ちょっとゾっとするような声の調子だ。やだもう怖い。

「んん? おおっと、そうか、そりゃマズいな。うむ、ハコブには俺が漏らしたというのは内緒にしといてくれ」

 その怖さには気がついてないかにおどけて返すイベンダー。

 

「それに……東周り交易路なんて、まだまだよ。

 モロシタテムを抜けた先にも山賊野盗の類は居るし、赤壁渓谷のカーングンスも厄介。そこを抜けても闇の森周りの街道も不穏だし、そこを越えてなんとか辿り着くのが辺境四卿随一の臆病者、マーヴ・ラウル領だもの。前途多難ね」

「ふんむ、東はまだそんなもんか。ま、いつまでも王国軍に多額の関税を払い続けてるのもしゃくだが、まだまだ安全には変えられんしな」

「そう言うこと」

  

 まあそんなこんなで小一時間。

 俺はただただ冷や冷やしたりやきもきしたりしつつ。イベンダーは幾つかの魔導具やらを買ってから店を出る。

 去り際にまた門番のシモンさんに挨拶がてら軽く耳打ち。何かまた悪そうな顔してるなあ。シモンさんの方は……ちょっと迷惑そう?

 

「何、話、したの?」

「ふふん、なあに。ちょっとこないだのギャンブルの借金について、『まだ無理して返そうとしなくていいぞ』と、念押ししておいただけさね」

 うへー、言外のプレッシャーかけてますわ。

 てかそれより、何か良いブツはあったんですかねえ?

「ん? ああ、まあ店先にはたいしたもんは無いな。エルフの付呪品にはそれなりのものもあったが、古代ドワーフ遺物に関してはほぼ無付呪、つまりただのドワーフ合金製の武具日用品ばかりだ」

「ショボ、い?」

「ま、良いブツは上客のみに見せるんで隠してるだけかもしれんし、先約相手に流してるのかもしれん……何にせよ、店先にはそう特別なものは無い」

 言いながら、買ってきたものなのかどうなのか、ドワーフ合金製のネックレスを投げて寄越す。

「ふふん、どうだ? お前の好きな金ピカものだ」

 おおっと。いやまあ好きだけどさ。

 

 

 それからもう一度“黎明の使徒”の本部へ向かう。あ、別にさっきボコボコにされてたパスクーレさんの見舞いじゃないよ。療養中のドゥカムさんとの打ち合わせ。

 こちらには既にハコブさんも来ていて、何やら細かい話をしていた。

 

「何か使えそうなモノはあったか?」

「いーや、たいしたモンはなかったな。警笛は一応確保しといたから、調整して改修してみるつもりだが」

 ハコブさんとのそのやりとりに、

「ん? そっちのドワーフは魔導技師か?」

 とドゥカムさんが割り込む。

 

「ん? お、うむ、その、少々な!」

 また変な声色と口調になるイベンダー。

「それより、その、何だ。潜入の目処はついたのか?」

「ああ、そうだな。今ハコブには説明しておいたが、アルベウス遺跡へ入るところまではなんとかなりそうだ。

 問題は───その後……“悪しき者”をどうするか……その辺だな」

 そう、遺跡の中に入るだけじゃだめだ。中に入り、隠された未探索区画を見つけ出し、それから“悪しき者”……ザルコディナス三世と戦うことに、多分、なる。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「───何者だ?」

 事務的かつ厳しい調子でそう聞いてくるのは、王国軍の軍装を身にまとった門番の兵士の1人。

 それに対し慇懃かつ丁寧な礼をしつつ、書簡を差し出して、

「古代ドワーフ文明研究家ドゥカム師の助手一堂です。

 あいにくと師のドゥカムが療養中故、我々だけでエンハンス師の補助に参りました」

「ん? ……ああ、清掃人か」

 

 書簡を一瞥し、お揃いの刺繍入りのフード付きトーガを纏った「ドゥカムの助手」一堂を横目にちらり。

 後はまるで興味もなさそうに右手で通れと指示を出すと、再び同役の兵士達とのお喋りに戻る。

 

 すんなりと。以外なほどにすんなりと外門を通り抜け一息。

 しばらく歩いてから真っ先に息を吐いて、

「うっへぇ~、緊張したぜー!」

 と言うのはアダンさん。

「気を抜くな。まだ遺跡内部にまでは入れてないんだからな」

 ハコブさんに小声で窘められ、慌ててびしっと背筋を伸ばす。

 

「けど……思ってたよりかは……簡単だったね」

 さらに小声でそう言う魔術師のマーランさん。

「ま、こんな方法で潜入しようなんて酔狂な奴はまずおらんからな。警戒してないのも無理はなかろう」

 そう答えるイベンダーの言葉を引き継いで、

「一見すると未だ強大に見える王国軍も、内部を見ればこの程度……ということだ」

 と、ハコブさんはなかなか手厳しい。

「仕方なかろうよ。一般兵士にゃ魔法に関する基本的な知識も何もありはせん。

 魔力溜まり(マナプール)のある場所に、うかうかと魔術師を引き入れる事の意味も、いくら上から言われてたとしても理解は出来んだろうしな」

 

 これはまあ、俺も人のことはそう言えないけどそうだろう。

 俺の場合は体験とレイフやイベンダーからの聞いた話としてはある程度分かる。

 例えばレイフみたいな魔術師が潜入に成功すれば、こっそりと魔力溜まり(マナプール)の支配権の上書きみたいなことも可能ではあるし、もっとあくどくて凄腕の魔術師、邪術士なら、破壊したり暴走させたりなんてのも可能だと言う。

 勿論簡単にそうさせまいと、支配している術士は様々な防護結界を貼ったりもするわけだけども、そういう話はイベンダーの言うとおり一般的知識じゃない。

 

「まあ、楽に入れていーじゃねーの」

 相変わらずやる気なさげな汚嬢様の色黒美人スティッフィさん。変装用のお揃いのフード付きトーガに一応申し訳程度に隠して背負っている“雷神の戦鎚”が歩く度にぴょこぴょこ揺れる。

 

「……よし、そこまで。内門だ」

 今回の潜入調査メンバー、ハコブさんを筆頭にアダンさん、マーランさん、スティッフィさん、そしてニキさんにイベンダーの“シャーイダールの探索者”達と、おまけに俺。この凸凹に大きさ体型の違う7人が、お揃いの白いフード付きトーガで歩いている様は、昼間の穏やかで緩んだ空気の中でも結構目立ってはいるはず。

 

 ここが王国にとって重要な施設なのは間違いない。けど山賊野盗やならずものの魔人(ディモニウム)に魔獣なんかが襲撃してくるみたいなことは想定されてても、こんなやり方で白昼堂々と潜入されるなんてのは予想してないだろう。

 時々遠目に目を向けられはしても、そんな露骨に怪しんだ視線を向けられる事もない。

 

 半壊した遺跡の入り口へとたどり着くと、外門のとき同様に門番へと書簡を見せ、やはりそれを一瞥すると、門番はさっきよりはまじまじと全員を睨むように見回して、

「おい、そいつは───」

 ゆっくりと俺を指差しながら、

「まさか───オークか?」

 と、訝しげに聞く。

 

「はい。ですがまあ、こやつは助手とは言え力仕事専門です。ドゥカム師はよく遺跡の奥にまで調査に行きますので、荷物運びと大型のガーディアンに対処するのに雇いました。実際、頭の方はさっぱりですが、むしろその方が役に立ちますので」

 うへ、ひどい言われようだけどここはまあ仕方ない。

「ふむ、そうか。まあここじゃ大荷物を運ぶ必要もデカいガーディアンの出てくる心配も、どっちも無いだろうがな」

 ハコブさんの見事な言い訳に、兵士はそう軽く口を歪めて笑い、書簡に印をして返してくる。

 これで外門も遺跡入り口もクリアー。もし駄目だったらこりゃイベンダーが俺を蹴り飛ばしでもして勧進帳を読み上げなきゃならんとこだった。

 

 ところでさっきから門番の言う“清掃人”という言葉。

 これはつまり遺跡の深部を片付ける役回りを指してるそうだ。

 

 このアルベウス遺跡には現在王国軍の支配している魔力溜まり(マナプール)がある。そしてその管理担当者として来ているのが、王国に所属している古代ドワーフ文明研究家であり魔術師でもあるエンハンス翁という人。

 で、魔力溜まり(マナプール)というのはどんなにきちんと管理していても、どうしても周囲に魔力の淀みを作り、小さな魔力溜まり(マナプール)を発生させてしまうことがあるという。

 そしてそこから連鎖的に魔獣や魔物が発生してしまったり……ということもある。

 他にもここの場合は古代ドワーフ遺跡なので、人の通れぬ隠された通路などを使い、最深部から小型のドワーフ合金製からくりゴーレム、つまり金ピカロボットが現れたりもする。

 

 それらを含めて定期的に管理、清掃、浄化等々をする必要があり、その役目をする者達を王国軍の人達は清掃人と呼んでるそうだ。

 本来はそのエンハンス師の助手達がその任を受けているのだが、「何故か」彼らは数日前に集団でお腹を壊してしまい、現在マクオラン遺跡駐屯基地の方の医局にて療養中らしい。

 何でかなー? 古い食べ物でも食べちゃったのかなー?

 

 で、それでエンハンス翁は旧知であり在野の研究家でもあるドゥカムさんへと臨時の手伝いをお願いした───ということに、なっているのだ。

 さっきから見せていた書簡というのはそのエンハンス翁の委任状……の、偽造品。

 用意してくれたのは……ニコラウス隊長……的な名前の人。

 ドゥカムさん曰く、バレたらガチでしらを切るだろうとのことだけどもね。

 

 本物のエンハンス翁は現在他の助手同様にトイレとベッドを行ったりきたり。その合間に巧いこと色んな書類の山に紛れさせて直筆サインは貰って来ているけど、本人はそんな委任状を書いたという意識はない。

 なんともひどい話だ!

  

 そんなわけで思いの外すんなりと潜入には成功したけど、問題はここから。

 まずは現在調べの済んでいる最深部まで降り、そこから隠し区画や仕掛けを探し出し、“悪しき者”の支配して居るであろう領域への道を見つけださねばならない。

 で、そこから……一応プランAとしては、そこからエンハンス翁と王国軍を引っ張り出し、「目の前の驚異への対処」をさせる───というのが、ドゥカムさんとニコラウス隊長的な名前の人の計画。

 そのためニコラウス隊長の“悪たれ部隊”とかいう遊軍部隊は、ここ数日は特別野外演習としてアルベウス遺跡近辺に出張って来ている。

 

 万が一、不測の事態で危険な状況になったら、「わあ、たいへんなことがおきたぞお。ぐうぜんいあわせたからには、われわれもたいしょにきょうりょくいたしましょう!」と乗り込んで来るのだそうな。

 うーん、何だろこの、「何か危険なことが起きて欲しい」と思ってそう感!

 ハコブさんやイベンダー曰く、「先の魔人(ディモニウム)討伐戦で手柄を立てたにも関わらず、本国帰還の命がなかなか来ないので、何かだめ押しの手柄が欲しいんじゃないか?」とのことだけど……軍属も色々大変ね。

 

 現時点で魔力溜まり(マナプール)のある場所は吹き抜けになった地下一階層にある。

 つまり遺跡の入り口から入り広めの通路を進んで扉を開くと大きなホールに繋がり、そこの真ん中が一階層分低くなっていてそのさらにど真ん中。天井も高くて広いホールなので、実質三、四階層分をぶち抜いてる感じ。

 四本の飾り柱に囲まれた中央の台座に、俺からはお馴染みになった大きさ1メートルくらいの大きさの卵形の巨大な水晶みたいなそれは、虹色に輝き光を放つ。

 四方の柱は防御の為の結界でもあり、また魔力溜まり(マナプール)の魔力が周囲に溢れて害をもたらさないようにする為でもある。

 扱い方を弁えた術士や、魔力耐性の高い者でもないと、触れただけ、近付いただけでも害になることがあるのだ。

 

 俺達が向かうのはその魔力溜まり(マナプール)……ではない。

 魔力溜まり(マナプール)の周りには衛兵が五人ほど付いているが、もちろんそれが理由ではない。

 ここからさらに地下の区画、二階層目の研究所、三階層目の倉庫、そして普段は封鎖され使用されていない四階層目をさらに降りて五階層目。

 現在このアルベウス遺跡の中での探索済みの最下層。そこからさらに先だ。

 

 現在誰もいない二階層目と三階層目をそのまま抜け、さらなる封鎖の扉を渡されてた魔導鍵で開ける。

 通常の錠前に、特別な魔力同士で鍵を掛ける仕掛けがされているので、不法侵入をするにはただの錠前破りだけではなく魔法の解除までしなきゃならない二重の封印。けど魔法鍵そのものをこうやって借りてしまえば問題無く開ける。

 

 ここから先は、一応警戒区域となる。補修が済んで無く、魔力溜まり(マナプール)の余波による問題やからくりゴーレムの侵入が起こりえる。全部点検して補修すればそれらも防げるだろうけど、それらを全部防ぐよりは研究の余地を残すことを選んだ……というのも一つの理由だけど、単純に予算の問題てのが大きいらしい。

 

 ちょっとした魔力の淀みや濁りを見つけては、一応マーランさんが浄化して先へ進む。確かにこの四階層目からは、これまでの補修済みで結界の貼られた区画とはなんつーか雰囲気が違う。

 一行も表情がやや変わる。今までの「王国軍にバレたらヤバい」という意味の緊張とはやや異なる……んー、探索者ならではの本職の緊張?


「嫌な空気してンな……」

 独り言のように小さく呟くニキさん。

「濁り……闇の魔力の濃度が高い……。これは……ちょっと───」

「ああ、異常だ」

 マーランさんとハコブさんがそう続ける。

 

 元々大きな魔力溜まり(マナプール)の近くには、魔力の淀みが出来、そこから小さな魔力溜まり(マナプール)が自然発生し易い。

 けどここの───つまり上にある王国軍が管理している魔力溜まり(マナプール)は、元々が古代ドワーフが人為的に作り出したもので、現在も研究家のエンハンス翁という人にきちんと管理されている。

 そういうきちんと管理されている魔力溜まり(マナプール) からは淀みは生まれにくい……ハズなのだ。

 

「淀みだけならまだ有り得るが、魔力属性のこの偏り……闇属性の強さはな。管理された魔力溜まり(マナプール)の余波……とはとうてい思えん。

 こりゃ確かにガンボンの言うとった話に信憑性が出てきおったわい」

 つまりレイフ曰く、“悪しき者”、ザルコディナス三世がこの奥に潜んでいるという事が……だ。

 

 濃度の高い闇属性魔力は、それだけで普通の人間には毒。それを防ぐ為に、ドゥカムさん……というか“黎明の使徒”のグレイティアさんから、光属性の魔糸で刺繍を入れられたトーガを借りてきている。

 

「うーえぇぇ、気分悪ィなあ。このトーガ無かったらこんなところ来てらんねえな」

 分かり易く舌を出してそう言うアダンさんに、その横で唾を吐くスティッフィさん。

 元より闇属性に耐性があり、さらに守りの力の込められたトーガを借りてる俺は、多分今回も一番コンディションは良い。

 聖獣タカギさんも連れて来れればもっと良かったんだろうけど、まあ流石に巨大地豚なんて連れては来れないし、仮に入場が許されても怪しすぎなレア豚モン連れてたら、後々身バレ早い。なので今回はグイドさん等と待機。

 

 そして───最下層の五階層目。

 大きな幅の広い石階段を降りると、これまた大きなホール。

 そこから先の闇の中、奥のどこかに───目指すべき場所への入り口がある……と、そう思いたい。

 

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