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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
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2-131. 追放者のオーク、ガンボン(60)「なーんてまたのんきに言うけど……ヤダよ! 怖いよ!」


 

「おおー、あんた、あー……れだ、おう!」

 確実に忘れてるなー、ってな態度で挨拶を返してくるのは“銀の輝き”という魔導具や魔装具、それと古代ドワーフ遺物なんかを取り扱っている商会の門番の1人、……えーと……。

「おう、シモン。どうだ最近は?」

 そうそう、シモンさん。

 

「まー、特には代わり映えもしねえよ」

 JBと同じ南方人(ラハイシュ)で、確か昔はここで一緒に働いてた時期もあるとかいう話。

 “巨神の骨”へと向かう前に、シモンさんはじめとするこの商会で働いてる何人かと何やら高級なお店に行ってた。賭事のお店だったらしいので、俺は隅っこでつまみのナッツとチーズとジャーキーをちみちみ食ってただけだけどもね。

「だが店は再開したんだろ?」

 そう聞くイベンダーに、やっぱり微妙ーな渋い顔で小声になり、

「それがさらに……よ。再開はしたは良いけどよ、やーっぱ上の連中ピリピリしてんの。

 俺ら下っ端はいつぶっ殺されるか分からねーってんでやってらんねえの。

 ……て、なあ、今のナイショだかんな!?」

 うーん、本気でびびってるっぽい。

 

「ふーんむ……把握を出来てないのか、相互に連絡をしてないのか……。

 奴さん等も、追い詰められとんのかのー」

「おい、何だよ、怖そうな話かよ!?」

「んにゃ、こっちの話よ」

「……何だよ、怖ェなあ、おい。

 まあ、何にせよ入るのはちょっと待ってくれよ。今中じゃヤヤコシイ話してるらしーからよ」

 

「ほう? 大口の取引とかか?」

「いや、そーゆーンでもねーンだけどよ」

「分かンねーことだらけだな」

「そうだよ。再開してこっち、前よりよく分かンねーことだらけだわ」

 

 あー、ヤダよねー。上がピリピリしてて、しかも事情がよく分からないのって。

 そう思いつつうんうんと心で頷く俺。

 しかしまあここ、前に料理用の安酒を買った“牛追い酒場”という店とはかなり近い、瓦礫の山ばかりのクトリア市街地の中では内城門に向かう大きな通りの側。つまり一等地の辺り。

 一等地と言っても基本が瓦礫の山なので推して知るべしではあるけど、様々な補修に改修を重ねて、傍目にはちょっとした要塞みたいな構えでけっこう怖い。まあ治安の悪いところで高級品扱ってるからには、これくらいは必要なのかもしれないけどね。

 

 で、何故俺とイベンダーがここに来てるかというと、イベンダー曰わく「発掘品以外で使えそうな魔導具を見つける為」という。

 イベンダーは魔鍛冶師として魔導具や魔装具の修理改修にアップデートが出来る。

 つまりここで売られてる安物の中に、改修すればより効果のあるモノに出来る掘り出し物があるかもしれない……と、そんな事を言ってここに来た。

 

「上の連中が関わってたかもしれんと言う揉め事の片は付いたっぽいか?」

 そう再び聞くイベンダー。しかし相変わらずシモンさんの返事は、

「それも分かんねーよ。それに揉め事があったのかどうかもよく分かんねーしなあ……」

「だが、片付いたから再開したんじゃないのか?」

「んーーー……それもなあ。

 ……ここだけの話、グレタの方はそんな代わり映えしてねえんだけど、ジャンルカがなあ……」

「あー……馬鹿でかい弟の方だろ?」

「ああ。ジャンルカに側近連中……けっこうヤられてる感じなんだよなあ。

 何があったかなんて俺ら下っ端にゃ分かんねーけど、ありゃ確実に何かヤベェ事はあったわ」

 

 むむーん? 何か知らんけど、どこも色々大変そうね。

 まあ正直俺としてはそんな事には関わってられない。こっちもトラブル満載で進行してるのだ。

 

 そんな風にやきもきしつつ入り口の脇で待っていると、いきなり勢い良く扉が開け放たれる。

 そしてさらに勢い良く中から悲鳴を上げて転がり出てくるのは……え? ちょ、ちょ、この人アレじゃん、えと、あの……、

「んお? パスクーレか?」

 そう、パスクーレさん! キングさんとこのナンバー2で、あのキングオブロケンローな人よ!?

 

 ……て、うわちょっと待ってこれ……何か腕があり得ない方向に曲がってるし、全身血塗れだし、それからえーと……とにかくヤバいって!?

「おほー、こりゃまた手酷くやられとるのー」

 いやいやいや、そんな落ち着いてる場合じゃ無いでしょ!?

 

「はん……お前らこの馬鹿を、どっかのゴミ捨て場あたりに転がしてきな!」

 入り口で腕を組み見下ろしながらそう吐き捨てるのは、長身でスラリとした黒髪の美女。

 いや、“美女”というストレートな形容がめちゃめちゃ似合うタイプの美女だ。つまり……可愛いとか、お淑やかとか、そういう“余計な要素”を全部取り払って、ただ見た目の美しさだけを切り取ったかのような、そういう美女。

 それでも付け足すのなら、そう……ゴージャスな美女? そういう雰囲気。

 多分この人が話に出てきてるグレタさんなんだろうけど……うへぇ。

 

 そのグレタさんはしなやかな脚を見せつけるようにしながら、地面をのた打ち転げ回るパスクーレさんを蹴り飛ばして一瞥。スリットのある巻きスカート状の鮮やかな青紫からちらりと見える脚は、太すぎず細すぎず、何気に筋肉質で引き締まった脚のようだ。

 

「いいかい。アンタの馬鹿面に今まで我慢してたのはね、アンタが王の守護者ガーディアン・オブ・キングスの二番手で、キングの後トップに立つって話しだったからでしかないんだよ。

 それが……ハッ! “大熊”ヤレッドだ? あんな図体だけのウスノロに取って代わられるたぁね! 」

 

 これは……まさに俺達がキングさんと会い、ロンケローなステージを見せられた後の引退表明と次期リーダーの指名のときの件だ。

 あのとき余命少ないというキングさんは、ナンバー2であり一番の古株であるパスクーレさんではなく、市場のとりまとめ役をしている“大熊”ヤレッドさんを後継者に指名した。

 そしてパスクーレさんには、「お前は組織じゃなく、俺の魂を継いでくれ」との言葉。

 

 あのときはみんな感極まりむせび泣きの男泣きでえらい騒ぎになってたけど……その影響がこんな形で現れるとは……。


「んー、ちょっと良いか?」

 そのおっかないグレタさんという長身美女に、のほほんとした調子で話しかけるのはイベンダー。

「事情はよく分からんが、別にアンタらとしちゃあ是が非でもコイツをぶっ殺したい……ってー話の流れじゃあないんだよな?」

 相変わらずの物言いで、めちゃめちゃ不穏なことを言う。 

 

 突然そう話を振られ、ある意味腰を折られるかたちになって、はじめて今ここに俺達が居ることに気がついたかにちらり。

「───それで?」

 冷ややかな声音はまるで人間的な感情がこもってないかの響き。いや、あるにはあるけど、どー見ても好意的ではない。

「いい具合に痛めつけて用が済んだんなら、俺が貰うぞ?」

「好きにすれば? 捨てたゴミを誰が拾おうと……私は気にしない」

 うへえ、なんとも恐ろしい会話。

 

「よし、ガンボン。その喧しいのを背負ってくれ。

 あー、あと、店の方は後でまた商品見に来させてもらうぞ」

 イベンダーはそう言うと、じゃ、てな具合に軽く手を挙げて、俺の背には相変わらずわめき続けるパスクーレさん。うるさいし暴れるしでもう大変。

 痛い、痛い! いやまあそっちの方が五億千万倍くらい痛いかもしんないけど、暴れないで!

 

 ◆ ◆ ◆

 

 ひとまずは路地の裏手にパスクーレさんを下ろし、暴れわめく彼を押さえつけるよう言われて丁度横四方固めみたいな体勢。

 そんでイベンダーはパスクーレさんの鼻を摘まんで口を開かせると、毎度お馴染みシャーイダールさんの魔法薬を無理やり飲ませる。

 傍目に見たら……随分な様子だよなあ。ちびオークとドワーフ合金鎧のドワーフに押さえつけられるロケンローなおっさん……。うーん、シュールだ。

 

「ほれほれ、わめくなわめくな。じきに薬が効いてくるから、ほらほら、よーし、よしよし……」

 何やら手負いの動物をなだめてるような調子。

 そして実際、脂汗をにじませていたパスクーレさんの表情も次第に穏やかになり、痣や腫れや傷に口からの血なんかも止まる。

 とは言え腕の方はどう見ても複雑骨折レベルで、そういうのまではそうそう簡単には治らない。

 

「うぅ……ぐぅう……。て、めーら……何で助け……た……?」

 悪態……というよりは、多分純粋な疑問なんだろう。何故と問われれば……うーん? 知り合い……だから?

「ま、そんなたいした理由はない。キングに会いに行ったのと同じ理由よ。縁があって頼まれてた。それにお前さんに目の前で死なれても面白くも何ともない」

 うん、そりゃそうだけどさ。

 それと、頼まれたっていうのはマヌサアルバ会での試食会で、黒のドレスと仮面を身に付けたあのアルバさんと言う女の人からの話だろう。

 

「薬代はツケで良いぞ」

「……ああ、払ってやる」

 とかなんとか言いつつも、ちゃっかりしてるゥ~。

 

「よし、取りあえず“黎明の使徒”のところまで運ぶぞ。腕の骨折を見て貰って、添え木でも石膏ででも固定してもらわんとな」

 促され今度は普通に背負う形でパスクーレさんを運ぶ。

「しっかしお前さん、随分とグレタを怒らせたみたいだな。一体何をやらかした?」

 俺の横をガチャガチャと歩きつつ、イベンダーがそう聞く。

「……さあ、な。俺ぁいつもと……そう変わりゃしねーけどよ」

「つまり、いつも通りに嫌われてた……と」

「……糞ッ!!」

 

 パスクーレさんは怒りの感情もありはするようだが、それよりもまだ残る痛みに体力や血を失ったことからの疲労の方が大きいようだ。治ってくればまた怒りも再燃するのかもだけど、今はそれどころでもなく、薬が効き始めての鎮静効果も出てるっぽい。

 その後も簡単なあらましや経緯を聞いては見るけど、パスクーレさん側の視点では、全く何が原因かは分からない。何か知らない内にヤバいところをつついてたのか、それともさっきグレタさん本人が言った通りに「もはやナンバー2じゃない」と言うことが大きく関係しているのか……。

 

 “黎明の使徒”グレイティアさんのところへ届けて後の治療を頼み、俺たちはまたてこてこと歩いて“銀の輝き”へと戻る。

 うーん、やだなぁ、あそこ戻るの。本当に新しい魔導具とか必要?

  

「……ふーんむ。おおよそ頭数で言やあ十倍近く、だ。

 どれだけ魔導具魔装具の質が違って、生え抜き精鋭の手練れを抱えていても、喧嘩を売るには慎重になるもんだろう」

 んん? とイベンダーを見る。

王の守護者ガーディアン・オブ・キングスとヴァンノーニファミリーとの勢力比だ。

 グレタは自分達の十倍の勢力を持つ相手の、元ナンバー2を危うく……殺しかけた」

 むむむん! そう改めて言われると……かなりの無茶だ。いやいや、無茶苦茶すぎる。

 

 ヴァンノーニファミリーという人達について俺が知ってるのは、シャーイダールの探索者達の取引相手ということと、かなり悪辣でおっかない商売をする、ということぐらい。

 けど武闘派でもありつつ策略策謀も使うとか言う話で、むやみやたらと喧嘩を売りまくるようなタイプとも思えない。

「勝算……が、ある……?」

「ま、あるにはあるんだろうな。古代ドワーフ遺物の魔導具やら魔装具ってのは、基本的にそれだけで一山幾らの山賊程度なら壊滅させられるようなのがざらにある。

 例えばそうだな……アダンやニキのはちと厳しいが、スティッフィなら十人かそこら、俺やJBのものなら二、三十人ばかしの山賊共なら楽勝だろう。

 そのレベルの魔導具、魔装具を商会の戦力全員分を確保してるのなら、確かに十倍の集団相手に正面から喧嘩売っても勝てるかもしれん」

 

 うーんむ。確かスティッフィさんのは魔力が切れない限りは所謂範囲攻撃的な電撃アタックをかませる戦鎚で、イベンダーにJBは空が飛べる。その位なら余裕でイケそうだ。

 

「とは言え……得が無い。

 いくら勝てる喧嘩でも、勝って旨味のない喧嘩なんぞガキやチンピラじゃあるまいし、する必要なんざない。

 パスクーレの奴を半殺し……或いは完璧なミンチ肉にしたところで、ヴァンノーニには何の利益もない。というか……ほぼ損しかないだろう」

 うーん、まあね。確かに。前世で言うところのヤクザ同士の抗争だって、確かに意地の張り合いや面子やら、てのもあるけど、基本的には出来るだけ直接的な抗争を避けて利益を確保する為にこっそりと水面下で争うものだもんね。漫画とか映画で色々観てたから知ってるぜ! バカヤロコノヤロ!


「……表に、見えない、利益……?」

「ふむ、それもあるかもしれん。俺らにゃ分からんが、王の守護者ガーディアン・オブ・キングスを潰すか、争い事に引っ張っ出すことで得られる何らかの利益……。

 ま、連中の最近の裏事情は分からんことばかりだが、それはあるのかもしれん。

 或いは……もっとシンプルに……例えばもうここでの商売からは手を引く事になっていて、後のことなんざ知らん……とかな」

 

 あらら? んー……なるほど。発つ鳥後を濁さず、ならぬ、どうせ発つなら水濁したれ、というやつか。

 どえれー迷惑な話だな! 

 アレかな。オンラインゲームとかで、もうこのゲーム落ちる、止める、ってなったら、わざと他の仲間のプレイヤーを攻撃したりして場を荒らして立ち去る……みたいな? 違うか?

 

「ま、その辺含めて軽く探っておくとするか」

 なーんてまたのんきに言うけど……ヤダよ! 怖いよ!

 


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