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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
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2-129. 追放者のオーク、ガンボン(58)「───ああ~……。俺、分かっちゃった」


 

「勿論、闇の森に居る───あー、“居た”が適切な表現かな? その闇の主トゥエン・ディン本人だ───と言いたいワケではないぞ。念のため付け加えるがな」

 ドゥカムさんはそう言うけれども、俺としては色々気になる話。まあ知り合いってーワケじゃ無いけど、ちょっとばかしは縁深い人物だし。

 

「闇の主、叉は───王の影。

 闇の森出身のダークエルフが、異境の地で巨人族の言葉を使い“闇の主”を名乗るというのなら、憧れかちょっとした茶目っ気で済む話でもある。

 が、もし“王の影”という意味合いだとしたら───」

 

 ───ああ~……。俺、分かっちゃった、ドゥカムさんの言いたいこと。

 そうかー、そうだよなー。

 ハコブさんはああは言ってくれたけど、もし“王の影”という意味なら、その証言は……うぅ~んむ……悩ましい!

 

「名前の意味のことは……俺からはなんとも言えん。だが、我々が今の仲間を見捨てて、ザルコディナス三世に組するなどと言うことは絶対に有り得ない。断言する」

 ハコブさんのこの頼もしい言葉を、俺としては信じたい。信じたいが、ことこの点に関してはただの希望的観測ではどーにも出来ない。もしシャーイダールさんが敵対する可能性が少しでもあるならば、プランBを確実に実行しなければならないのだから。

 

「ヴー、むむ、ゴフン! ゴフン!」

 その俺の懊悩っぷりを突き破って聞こえる、何やら間抜けな咳払い。

 その主は誰かと言えば、勿論イベンダーだ。フルフェイスのドワーフ合金兜の面を下ろしたままで話に割ってはいる。

「みゃー、そにょお~……」

 え? 何? 何その喋り?

「む、ゴフン!

 まあ、そのな。貴殿の危惧も理解出来るが、それは無用であると断言出来る」

 キッパリはっきりドゥカムさんにそう言う。

 

「ほう? それは何故だ?

 ……あー、ドワーフよ?」

「……イベンダーだ。まあ我が輩の名はどうでも良い。

 何故かと言うとな、シャーイダール……様には、あまり公にしたくない……その、ちょっとした秘密があり……それを他言しないと誓って頂ければ、決して我々がこの件においてザルコディナス三世や、或いはそれに組する者に利する真似はしないと分かって……頂けるかとォ~」

 

 いやだから何その変な喋り方は?

 

「……聞こう」

 変な喋り方に心の中で突っ込むのは俺だけで、ドゥカムさんは真顔。ハコブさんはやや焦ったような心配そうな顔をしイベンダーに耳打ちしちょっと……揉めてる? みたいな感じ。

「まず、貴殿の言う通り、巨人族の言葉にも習合された古代ドワーフ語の“シャーイ”と“ダール”にはそう読み解ける意味合いがある。

 ただそれとは別に、現代のドワーフ語……特にドゥアグラスの山ドワーフの間などでは、変化してより安っぽい意味合いでもその言葉が残って居るのだ」

 

「ほう……、続けろ」

「ドゥアグラスの田舎の方では、“シャーイ・ダ・アル”は、“日陰者”という意味にもなる。勿論やや侮蔑の意味も含まれる言葉としてな。

 そしてこの名は、シャーイダール様がザルコディナス三世に重用されず、不当に扱われていた事への自虐的な意味で名乗りだした名なのだよ。

 元々シャーイダール様はザルコディナス三世とは強い結びつきはない。だがその由来が下手に知れ渡れば、今のクトリア人達もザルコディナス三世同様にシャーイダール様を軽んじるかもしれん。

 なのでこの由来については秘密として口外されない事になってるのだ」

 

 ほへー、と、感心する。うーんむ、一つの言葉でも色々と変化したりしてニュアンスは変わるもんだなあ。

 闇の主、王の影、日陰者。確かに、どの意味で受け取るかにより、その立場も全然違ってくる。

 

「───ふーむ……」

 再び考え込むドゥカムさん。その向こう側で本を抱えている仮の助手をしているダフネさんは、この話は初耳なのか、驚いたような顔をしてこちらを見てる。けっこう昔から配下だったはずのダフネさんも知らないなんて、確かにかなり秘密にしていたんだろうなあ。

 

「まあ……考慮はしておこう。

 私としても君らを……シャーイダールではなく君らを、だが……そう信頼していないというワケでは無いしな」

 一応は納得してくれたらしいドゥカムさん。俺としては後でイベンダーに詳しい話を聞いておきたいところだ。

 

 何にせよ、目的の場所の特定と、お互いの意志確認は出来た。まず一歩前進。

 そこで、まだ何か考え事なのか、ぶつぶつとつぶやき続けているドゥカムさんに退出の意を伝えようと立ち上がりつつ声をかけようとするハコブさん。けど、

「……やはりタルボットか……」

 と言うドゥカムさんの言葉に俺はギョッとして思わず、

「ふへ?」

 と反応してしまう。

 

「んむ? 何だちびオーク?」

 え、いや、何かと問われましても、というか今、

「タ、タル……」

「ああ? タルボットか。

 昔の同門よ。研究者としてはてんで駄目だったが、魔導技師としてはまあ……一流……に、なれる程度の素養はある奴だった。

 長らく会っておらんが……ドゥアグラスのことを考え思い出して居た。こういう時に奴が居れば……君らの助けにもなっただろうと、な……」

 

 ドゥカムさんとイベンダー……つまりタルボットが同門!? 

 今まで何か関係あるだろうけれど隠していたっぽい関係性がここに来て判明!?

 けど……ああまで嫌がる因縁……て程のことは無さそうだけどなあ……?

 ちらり横目に見るイベンダーは、素知らぬ風を装いながら気配を消して部屋の外へ逃げようとしてる。

 今はここクトリアで、どうやら前世の名前であるらしいイベンダーを名乗っているけれど、昔、疾風戦団に居た頃はタルボットを名乗っていたことを知らないハコブさんやダフネさんは特にこの話に関心を示さないが、俺としては……ちょっと気になる。

 

「何より……奴をからかうのは実に楽しかった……!」

 

 あ……。

 最後に小さく付け加えられたドゥカムさんのその一言で、イベンダーがドゥカムさんを妙に避けたがっている理由、分かった。

  

 そのイベンダーが半ば張り付くようにしていた入口のドアが、突如乱暴に開け放たれてズルリとよろめく。

「うぉっ、悪ィ悪ィ」

 悪びれる風もなくそう言うのは、“黎明の使徒”本部の警備を担当している“半死人”の剣士、ターシャさん。

「ドゥカム、客だぜ」

 促され入口前に立つのは、簡素なチェニックに赤いトーガを纏った背の高い南方人(ラハイシュ)の男性。

 

「ああ、ちょうど良かった。今、シャーイダールの配下とも話がまとまったところだ。入れ、入れ」

 さほど狭い寝室ではないけど、ベッドの他に書棚に大きな机、諸々の資料術具にドワーフ遺物や壊れた金ピカロボットの破片等々が詰め込まれた箱、棚、その他のひしめく室内だ。そもそもこの隣が本来の研究室なのに、寝室にまでそういったものが溢れている。

 そこに、ドゥカムさん本人に仮助手のダフネさん、ハコブさん、イベンダー、俺……と居る中、さらに客人となれば座る場所もない……は言い過ぎにしても、かなり狭苦しい印象。

 

「ウィース、お久し!」

 砕けた調子……というか、チャラい感じ? そんなノリでひょいひょい入ってくる色黒の青年。

「お前のクトリア語は砕けすぎてよく分からん!」

「しゃーねっしょ、俺、これしか知んねえし」

「……あのニコラウスがよく我慢してるもんだ」

「へっへ、親分の前じゃ黙ってるしね、俺」

 

 ニコラウス……というのは確か、王国駐屯軍の対魔人(ディモニウム)遊軍部隊の隊長だったかな?

 そしてニコラウス隊長の実家、コンティーニ家というのは疾風戦団ともそこそこ親交があるとかで、イベンダーに言われて戦団とナナイさん宛てに手紙を託してお願いしている。あー、これ、また出さなきゃいけないんだよね。なるべく速達で。

 

「ふん、まあいい。ハコブに挨拶をしろ」

「ウィース。

 あ、シャーイダールの探索者のハコブさんスよね?

 俺、ダニンっス。んで、親父はセンティドゥでこのセンセーの護衛? してて、ハコブさんとも会ってる。あ、俺は初めて。俺は伝令とかそんなんばっかでさー。まあ足の速さには自信あるんで? うってつけ? とかいうやつなんでー。初めまして? よろしくゥ~」

 ……チャラいっつーか、話とっちらかり過ぎ!

 

「あ、ああ……そうか、よろしく」

 さすがのハコブさんもやや引き気味なチャラさ。チャラいしぶっちゃけ礼儀的にはかなりダメダメなんだけど、なんつーか雰囲気が明るくて憎めない。

「おお! 超すげぇ鎧すね! それ、空飛ぶんっしょ? いやすげぇっすわ。俺も欲しいー。空とか飛べたら最高っしょ?」

 んで、いきなりイベンダーに興味が移る。子供か!?

 

「もういい、長い。無駄に長い。長い上に中身がなーーい。いいから返答を伝えろ」

 ドゥカムさんが遮り用件を促すと、ダニンさんは改まり背筋を伸ばす。

 それからフンフンと軽く咳払い。

 

「あ、あー……うん、あー……。

 

 ───情報感謝する。しかし俺にはアルベルウスの警備には権限はないし、ザルコディナス三世云々などの世迷い事など上にあげれば正気を疑われるわこのボケが!

 だがお前の言うことならある程度以上に信憑性があることは俺には分かる。内部に入るために何らかの便宜を図れるように手は打つが、どこまで出来るかは分からん。

 後はこのアホに書簡を持たせた。検討してなんとかしろ。以上だ」

 

 と、今までと全く違う声音に語調で一気に話す。今までの砕けすぎたクトリア語ではなく、かなりきちんとした帝国語で、だ。

 手渡された書簡を開き、中を睨みつけるようにして読み進むドゥカムさん。

 ダニンさんはもうだらけた姿勢で辺りをキョロキョロ。俺含めてドゥカムさんもダフネさんもイベンダーも、ことの顛末経緯がよく分からず様子見。

 

 読み終わってか、ドゥカムさんはまず大きくため息。それからすぐに耐えきれないと言うように吹き出して、

「……ぐぅっ……ふわははは、のはーーっは! なんとも馬鹿げた話だ!」

 と笑い出す。

 

「何が書いてある?」

「まあ、読め」

 恐らくニコラウス隊長から送られてきた書簡を手渡されるハコブさん。

「……何だこりゃ」


 眉根を寄せて漏れ出るその呆れたような声を受け、ドゥカムさんはさらに愉快そうに笑う。

「はっはは! ニコラウスは面白い奴だろう? ああいう考え方を平気でする軍人を、私は他に知らん!」

 怪我やこれまでの経緯もあって、不機嫌なしかめ面ばかりしていたドゥカムさんが、ここにきて初めて愉快そうに笑う。

「結局、全部俺たちに丸投げではないか」

「そして巧く行けば過大に報告して自分の手柄にし、しくじれば知らぬ存ぜぬを決め込むだろうな! 全く、相変わらず狡い奴だ! ははははー……ぐ、痛つつつ……」

 笑いすぎて腰を痛くしたらしい。

 

「……とは言え、王国軍関係者で協力して貰えるのは奴しかおらんのも事実……か」

 ため息混じりのハコブさんだが、確かに向かうべき先はアルベルウス遺跡で、そこを管理してるのはティフツデイル王国軍。軍、叉はその関係者の協力は是非とも欲しい。

 けどその協力の中身が何なのか……んー、何書いてあんの? 見せて……はもらえないの? うん、そうね、俺、部外者だし!

 

 

 暫くその内容に関してのやり取りをしてから、改めてここを離れることに。

 ダフネさんはまだドゥカムさんの手伝いをするとかで居残り。

 俺、イベンダー、ハコブさんと……ダニンさんが連れ立ってクトリア市街地を歩く。

 

「お前さんは軍に戻らんのか?」

 後ろをキョロキョロしながら着いてくるそうダニンさんにそう聞くイベンダー。聞かれてダニンさん、

「あー、俺、あともう一つ……二つ? 用事あんスよ」

「同じ方向にか?」

「北地区のー、地下街のー……あ。そう、シャーイダールさんとこの、イベンダーって人とガンボンっつー人? オークとドワーフらしいんスけどー」

 え? それ俺! 俺ら!

「なんだ、じゃあ今、済ませれば良いだろう」

「え? ダメっスよ? 俺は北地区のー、地下街のー、シャーイダールさんとこでー、イベンダーって人とガンボンって人に、手紙渡すよう言われてんスからー。ここじゃ命令違反スよー」

 いや、融通効かない系男子ィ!?


 そんなアホなやりとりを暫く続けて、なんだかんだでアジト。

 


「うお、テメー、ダニンじゃねーかよこの野郎!」

「お! お久しぃ~! 元気? 俺とか超元気!」

「うるせェよおめえ! 相変わらず何言ってっかよく分かんねーしよ!」

 何か物凄くアレなやりとりしてる相手は、鼻と顎の尖ったアダンさんで、どうやら古馴染みっぽい雰囲気だ。

 

「知り合いか?」

「知り合いっつーか、グッドコーブの外れに住んでた奴でよ。ガキの頃にはまあ、遊んでたっつーか、バカやってたっつーか……」

「こないだの魔人(ディモニウム)討伐戦? とき、親父居たぜ 」

「え? うそ、マジで?」

「マジでー。俺はモロシタテム? の方で待機してた。寝てばーっか」

「マジかよ? 親父さんどこに居たんだよ?」

「エルフのセンセーの護衛ー」

「超、一緒じゃねえかよ!? 声かけてくれりゃ良かったのによ、気付かんかったぜ!」

「親父? は、何か見覚えある顎だなー、って、思ってたらしいけどー、コウシ……コンドウ? 任務中だから話し掛けなかったってー、言う話ー」

「親父さんすげーそういうとこ固ェよなあ……。てか、顎じゃなくて顔で覚えててくれよ!」

「や、お前顔全部顎じゃん?」

「なワケあるか!」

 

「……あー、ちょっと良いか? その頭腐りそうな会話は後で続けて貰うとして、その、手紙の方を取りあえず渡してくれんか?」

 俺なんか今半分程脳みそ腐り始めてたけど、イベンダーがちゃんとそう遮ってくれる。


「あ、うぃーす。こっちがー……イベンダー、さん? で……こっちが……ガンボンっつー人?」

 それぞれにわしゃっと雑に渡される封書。

 イベンダーには一通で、俺の方は二通。

 

「よし、アダン、くだらん話は適当に切り上げておけ。

 昼飯の後集会部屋にニキ、アリック、マーラン、スティッフィを集めろ」

「お、おう、分かったぜ。

 けど、あー……謁見室じゃなくて良いのか? こーゆーときは、やっぱシャーイダール様にも居てもらわねーとなんねーんじゃねえの?」

「俺から伝えておく。この件に関しては、俺が全権任されてるからな」

「分かった、了解! ……て、おいちょっと待てどこ行くンだよダニン!?」

 キョロキョロふらふら落ち着きのないダニンさんを慌てて追いかけるアダンさん。

 

 そんな風にばたばたと慌ただしく一時解散。

 俺は手紙を読むために貸して貰ってる見習い用の部屋の方へ向かうが、すると何故かイベンダーもついてくる。

「ん?」

「……ん、じゃねえよ。どっちにせよ中身は疾風戦団からの返事と、お前さんには例の闇の森ダークエルフの連中からだろ?

 後で内容すり合わせて今後について話し合うんだから、同じ所で読んだ方が早い」

 むむ。まあそうか。

 

 で、まあ……これがプランBに関わる問題でもある。

 万が一、シャーイダールさんがザルコディナス三世側に付き、敵対してしまう可能性が高くなったとしたら、なんとか闇の森ダークエルフか疾風戦団と連携して、味方について貰うということ。

 しかしまあ……難しい。何がかと言えば、何よりも時間との戦いという意味で。

 


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