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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
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2-123. ダンジョンキーパー、レイフィアス・ケラー(17)「落ち着きすぎィー!?」


 この吸い込まれるという感覚をどう表現すれば良いのか? 自らの意志とは無関係に意識そのものが持って行かれるというか、引き寄せられるというか───何にしろなんとも形容しがたい奇妙な感覚だ。

 一瞬にして白熱した意識が再び安定し始めたときには、先程までのウィスプの感覚の膜の内側に、またさらなる別の意識、感覚が内包されているような、全く不思議な状態になっていた。

 

『───であらば、王の──者よ。王権とはいかなるものか?』

 僕の意識の被膜の中へ、言葉なのか或いは別の意識そのものなのか。深く響くような声、意識の問い掛けが聞こえている。


「───は! 王権なんざクソだ。意味も何もねえ。クソ溜めの中の一際でけぇクソ野郎が、勝手に作ったクソ玉座に座って偉そうにそっくりかえってるだけでしかねェ」

 

 相対するその声は、多分ジャンヌ。いや、多分も何も、この不機嫌丸出しの声に語調。知ってる限りでもジャンヌ以外には有り得ない。

 

『ならば王の血筋の意味とは何ぞ?』

「王にも意味はねえし、当然血筋にも意味なんざねえよ。クソ野郎の子や孫だからッてクソ野郎になる必要もねえ」

『王無くしての統治はいかにすべきか?』

「何が統治だ? 自分より弱い奴を踏みにじり、上前はねることが統治だッてンなら、そんななァクソより意味はねえ。

 アタシ等孤児はな、そんなモン無くても助け合って生きてきたし、これからもそうするッてだけだ」

 

 畳み掛けるような無政府主義(アナアキズム)の萌芽はお見事ながら───いやいや、ちょっと待て、ジャンヌは一体、誰と何の話をしてるんだ?

 ぼんやりした意識の端にそう疑問が浮かぶ。

 

『───ならば問う、挑みし者よ。王たる者の資質とは何ぞ?』

『───ふえ!? あれ? 何!?』

 そのぼんやりした意識の中に、今度はより明確、はっきりとした強さで言葉がそう投げ込まれる。

 

「あぁ? おい、何だ? 今のはレイフか?」

『え? 待ってちょっと、えーと、あれ? ジャンヌ? 何これ、今、どーなってンの!?』

『今、キーパーの【憑依】したウィスプを、ジャンヌがその身に降ろし融合した状態だ、キーパーよ』

『イアン?』

「何だ今の声? イアン? 誰だそいつ?」

『あ、イアンは知性ある魔術工芸品インテリジェンス・アーティファクトで、ダンジョン管理の出来る魔導具なんだけど───て、いや、ちょっと……融合?』

『ジャンヌの降霊魔術だ』

 

 ───あーーー!!!

 前に生ける石イアンの査定でジャンヌのステイタス確認したときのあれか!

 魔力適正とはまた別の、個々の素質性格気質諸々により変わる魔術の系統適正。

 攻撃魔法向きな母ナナイ。召喚魔法向きな叔母のガヤン。防御や情報収集、創造系統向きな僕。

 それと同じ様に、ジャンヌにも向いてる系統があり、それは「召喚系統に似てる何か」っぽいとまでは分かっていた。

 

 それがつまり、降霊魔術だったというわけだ。

 

 降霊魔術というのは霊的な存在を呼び寄せ、その力を自分自身に宿らせる非常に特殊な魔法。

 前世で言うところのイタコ、降霊術師に近いけど、それらは呼び寄せて代わりに話すだけ。降霊魔術は、宿らせたものの力を自分自身のモノのようにして使えるようになる。

 今、ジャンヌはウィスプ……つまり火属性の幻魔を自分自身に降霊し宿らせている。それは多分、ウィスプをジャンヌの従者設定にしていたこととも関係してるんだろう。

 で、ウィスプに【憑依】をしていた僕の意識も、そのときそのままジャンヌに「吸い込まれた」。

 つまり……ジャンヌは今、僕ごとウィスプを“降霊”している状態だ。

 

 降霊魔術が非常に特殊なのは、ほかの魔術と比べても何より素質が大きく関係しているという事。

 魔術理論や訓練より、言わば霊媒体質とでも言うような素質が無いとまず使えない。そして今回のジャンヌがそうであったように、非常に強い素質があり、それを発動しうる条件さえ整えば、何ら勉強も訓練もしてこなくたってそれは起こりうる。

 勿論、降霊魔術で霊的存在を取り込んだものの、コントロール出来ずに逆に支配されてしまったり、力を抑えられず自滅してしまったり、ということも多々ある。

 今回は様々な幸運による条件……ウィスプが従者設定で、そもそも強い自我を持たない幻魔でかつ僕が憑依状態であることで暴走することが無い……という事などもあり、物凄く安全な形でそれが起きた───ということなんだろう。多分。

 

「何だよ、アタシの頭ン中で勝手に会話始めンなよ。ワケ分かんなくなんだろーが!」

『あ、ゴメン。とりあえずイアンは黙って』

 こんがらがりそうな話の流れを一旦まとめて整理。現状のこれが降霊魔術の効果で、今のジャンヌにはウィスプの魔力と僕の意識が同化している状態だということを簡略に説明する。

「ああ!? そんで……あー、だから今、あんま熱くねーのか?」

 

 と、そうだそうだ。さっきは急に膨大な火の魔力の塊が現れ……て……へ?

 ジャンヌの視界を通じて見えてきたそれは、なんというか炎でもなく溶岩でもなく、熱量そのものの塊とでもいう巨大な存在。

 形容するのなら、揺らぎ。または熱気の……巨人?

 両開きの大扉の前のホールの中に、立ち上がり睥睨するかのその存在の揺らぎの中に、肉体としてというよりは滲み出る陰のような姿が浮かび上がる。

 

『───再度問う、挑みし者よ。王たる者の資質とは何ぞ?』 

 先ほどの声。おそらくつまり、この熱気そのもののような存在からの問い───いや、“試練”だ。

 それも、僕に向けられた。


「またそれかよ。同じ様なことばっか聞きやがって」

『あー……うん。多分今度は僕向けの問いだよ、これ』

 敵意は───確かにない。それでいて圧倒的な魔力、存在感。

 これは慎重に答える必要がありそうだ。

 

 さて、どう答える? この世界の基本的な思想は王権神授説だ。説というかまあまあ事実。様々な神々は実在してて、有形無形にこの世界へと影響を与えている。

 神の加護を受けて王国を樹立する英雄……なんてのはざらにある話で、同様に加護を失うことで権力も失うのもよくある話。もちろん、必ずしも直接的な因果関係があるとは限らないけどもね。

 

 けど───。

 

『───過去を知り、未来を示せる者だ』

 

 僕の答えはこれだ。

 

『どれほど神の加護を得ても、人は過ちを繰り返す。神の加護のみに頼り、王権の上にあぐらをかけば、それらの過ちをただ繰り返すだけだ。

 過去の過ちを知り、それらを踏まえて新たな未来───より良き未来を民に示せること。

 それが王たる者に求められる資質だ』

 

 ───さて、どうだ?

 

 しばしの間。それから瞬間的にぶわっと熱気が大きく膨らんだかに見えたかと思うと、再び今度は一気に収縮し、そこには身長3メートルくらいの真っ赤な肌の人……いや、巨人の姿。

『───良かろう、挑みし者よ。王権の末裔よ。お前達に扉は開かれた。心して進むが良い。

 しかしこの先はさらなる苦難の道。悪しき者により汚されし場所。その者を打ち払わねば、さらなる先へと進むことは叶わぬ───』

 

 赤い巨人はそう告げると、現れたとき同様にまた滲むようにして姿を消した。

 

 ◇ ◆ ◇

 

「で、どーすんだこれから?」

 いやいや、実際どーしたもんだか。

 今のあの巨人が何者だったのかというのもあるけれども、残した言葉も色々と不穏な……意味深な……ヤバそーーーなこと、けっこう言ってたよ?

 一番気になるのはやはり“悪しき者”というワード。

 

 そもそも僕が今やっているキーパー同士が互いの支配する魔力溜まり(マナプール)を奪い合うというダンジョンバトルにおいて、その言葉はあんまり……いや、かなーーーり似つかわしくない。

 このダンジョンバトルのシステムがいつ頃作られたかは不明だけど、これは元々は恐らくこのクトリアの地の魔力溜まり(マナプール)を管理、維持する為のシステムだったのだろう。

 それが時代と共に変容して、ダンジョンバトルという要素が追加されはしたが、本質は多分そこじゃない。

 試練とか言うのも元々は魔力溜まり(マナプール)の管理及び活性化、浄化と言ったことに叶う実力、資質があるかを問う為の試験みたいなもの───なんじゃないかと思う。

 確かに命懸け。下手すれば死ぬかもしれないものだけど、とは言え殺す、死なせることが主目的ではないのは分かる。

 

 しかしさっきの真っ赤な巨人の言う言葉、“悪しき者”というのは、それにはそぐわない。ダンジョンバトルに善悪はない。だとしたら───第二の迷宮における火焔蟻の女王同様に、その“悪しき者”はこのシステムに紛れ込んだ異物、言い換えればイレギュラーな存在だろう。

 

 となると、ここはまた慎重に進め……。

「おい、黙りこくってんなよ、おい」

 おおっと。

『あー、ゴメンゴメン、ちょっと考えてた』

「結局よー。この近くにまで来てた奴らっての、確認した方が良いか? 何か赤くてでけーのが訳わかんねーこと言うし、アタシも訳わかんねーことなってるしよ」

 

 そう言えばこの降霊魔術による憑依状態って、どーすれば解除出来るんだ?

 ううーん、前にどこかの本で読んだよーな読んでないよーな……。

『ええーっと、自分では解除出来ない?』

「はあ? 分かるワケねーだろ。どーしてこうなったのかだって分かんねーのによ」

『うーん……何かこう……気合いとかで?』

「力んでもいきんでも何ともならねーよ」

『ヒッヒッ、フー、みたいな?』

「何だそりゃ?」

 

 うーん。

『えーと、ちょっと待ってね。

 ……イアン、これ、どうすれば良いか分かる?』

『通常の降霊魔術であれば、魔力の繋がりを切ることで降霊状態を解除出来る』

 繋がりを切るというのは、例えば他者に治癒術や何かをかけるとき、まず最初に自分の魔力を相手に繋げ、そこから治癒の効果を与え、そしてその繋がりを切ることで術の効果を終わらせるという一連の手順の最後のところ。

 魔力を手と仮定すると、対象に触ることで術の効果を顕在化し、その手を離すことで終了、という感じ。

 だ、け、ど……。

 

『うはぁ!?』

「うお、何だよ急に!?」

『お、教えてない……』

「あぁ?」

『僕、ジャンヌに、魔力の繋がりを切る方法……教えてない……よね?』

「何だそりゃ?」

 

 魔力を体内で循環させること。体外の魔力と繋げて循環させること。この二つは教えた。

 けど何かの対象に繋げてから切ることは教えてない。

 何故ならそれは、実際に魔術を使う段になってからでないと必要のない事だからだ。

 僕はジャンヌに対して、あくまで彼女の中にある大量の魔力を飽和させ、滞らせることで起きる様々な問題への対処法として魔力循環を教えただけで、魔術そのものを教えてたワケじゃない。

 けど、ジャンヌの特異な資質と偶然により、降霊魔術による憑依状態になってしまうという予想だにしてなかった事になり……いやいや、いやいや、これは……どーすんの!?

 

『え、え、ちょっと待って、これ、どーすんの!?』

「何がだよ?」

『いやいやいやいや、うん、ごめん、ちょっと待って。落ち着こう、一旦落ち着こう、うん』

「お前が落ち着けよ」

『───あとは、別の術師に解いて貰うか、ジャンヌの魔力が切れるのを待つかだ、キーパーよ』

『どっちも……ここじゃまず出来ないよ!?』

「おーい、もう良いから結論から言えよ!」

 

 うん、そう、ね、うん。言うしか無いね、うん。

 

『えー……多分、暫く、無理』

 

 ……………。

 

「じゃ、しゃーねえな」

 

 落ち着きすぎィー!?

 ジャンヌさん落ち着きすぎでしょ!? 

 

「けど、お前さ」

 落ち着きすぎなジャンヌさん、何やらちょっと愉快そうに続けて、

「思念? だか良くわかんねーけど、無理して帝国語使ってねーとき、けっこう間抜けな感じだな」

 そうクスリと笑う。

 

 ……いや、落ち着きすぎィーーーーー!!

 

 ◇ ◆ ◇

 

 と、この時点までは僕としては、こりゃ何にせよ一旦戻るしか無いよなあ、という風に考えていた。

 まず正直僕の本体が心配だ。あとついでにアデリアも心配だ。

 そして仮に、ジャンヌの魔力を一旦枯渇させることで解除をするにしても、安全な場所でやらないとならない。

 

 しかし、だ。

 

 不意にそのジャンヌが視線を扉の奥へと向ける。その先に何が? いや、目に見えるものは何もない。

 けれども感覚としては僕にも伝わってくる。

 何か───何か異様な気配。

 

『イアン───』

『さほど遠くない位置で、“闇の魔力”が増大している』

 “悪しき者”───。僕にも感じられるし、その僕が憑依状態のジャンヌにも伝わってるはずだ。

 これは……けっこうヤバいぞ。

 

『───偵察魔虫部隊、全速で移動。

 ケルッピさん、僕の代わりに定間隔で魔力中継点(マナ・ポータル)を繋げて建設してって。防衛戦力の配備は任せる。

 このホールの防衛は大蜘蛛、白骨兵中心で。本拠の方はアデリアと僕の本体の居るダンジョンハート、寝室周りの生活圏を固めて完全封鎖 。

 それと僕等に追従する遊撃部隊を───』

 

「───何であいつが居やがんだよ……?」

 

 ジャンヌのその呟きに、僕の指示が一旦止まる。

 あいつ? 何?

 それよりも早く、ジャンヌは全力疾走。扉を抜けてその奥へと走り出す。


『えええ!? ちょ、ちょ、何、何? 何なの!?』

「わッかンねーよ……! わッかンねーけど、あんな風をビュンビュン言わせてるヤツ、あのバカしかいねーーだろ!?」

 え、だから誰!?

 

 風、というのなら確かに闇の魔力の高まってる方向から、別の風の魔力も感じられる。他にも幾つかの魔力が同じように動いていて、その巨大な闇の魔力の方へと進んで移動───いや多分進軍をしている。

 これは“悪しき者”とやらと、それと戦おうとしている者達それぞれの気配であり魔力の反応だろう。


 元より、ここ数日間で身体能力がめきめきと向上し、長年の魔力瘤による衰えも回復して魔力循環も身に付けてたジャンヌが、今は降霊魔術でウィスプの火属性魔力を帯びている。

 火属性魔力には様々な効果があるが、そのうちの一つに【活性】と呼ばれるものがあり、これは火の魔力の持つ生命力を活性化させる力でスタミナや身体能力を向上させるもの。火属性の幻魔を宿らせたジャンヌは、おそらく現在それと同等の状態にある。

 

 なので───早い! 素早いし、バランス崩さないし、疲れもしない。

 灰色岩鱗熊も大蜘蛛部隊も引き離し、堂々たる独走トップランナー。いや引き離しちゃダメでしょ!? これについてこれてるのはケルッピさんくらいだ。

 扉の先の空間は今までと違ってほとんど巨大な自然洞そのままで、幾らか手の加わった場所があるくらい。

 巨大な闇の空洞の中、ぼんやり光る苔の灯りと、ジャンヌ自身が宿らせた魔力で道を照しつつ、驚異的速度と身のこなしで走り続ける。

 

『ちょっと、ね、アレだよ? あくまで、確認、偵察だよ!? 仮に、ね? 仮に、こう、あ、こりゃもう戦うっきゃねーなー、みたいな? ね? そういう相手だとしてもね? 戦力整えて、作戦立てて、ね? それから攻めるという……そういう? 聞いてるーーーーー!!??』

 聞いてねェーーーー、絶対これ聞いてねェーーーー!

 

 そしてそう、何も出来ず絶望的混乱のままジャンヌが進む先には……崖!

『崖! 崖! 前、見て! 崖! が、が、がひぇえええぇぇぇ~~~~!!!???』

 

 ───跳躍……ッ!!??

 

 その先に居たのは───恐ろしく巨大な……視界に収まりきらないほどの肉の塊に……身長3メートルはある巨人達、そして……え? ガンボン……?

 


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