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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
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2-121. 追放者のオーク、ガンボン(55)「どっちにしても、あんまり良い予感はしない」


 

 何やらあれよあれよと方針が決まった。俺は元より、ニルダムさん含めて他の巨人たちの口を挟む隙を与えない。

「ニルダム。他のところに来てる面子で他に術士はいるか?」

「ん? あ、ああ。三人……かな? 限定的な、弱い術を少し使える、ではなく、数種類の術を専門で使える者、というのならだ」

 JBによる仕切り。その質問にやや思案してから答えるニルダムさん。

 

「蜘蛛野郎は多分かなりヤバいし、魔糸の防壁とかいうのはただの力づくじゃ厳しいだろうな。

 攻めの遊軍部隊を術士中心で編成してくれ。あとの二人のうち一人は“夜の者達”の居る拠点防衛に。もう一人は……こっち側の最前線の防衛にだな。

 基本的にやや多めの人数で固守するのは、こちら側最前線、“夜の者達”を集めておく魔力中継点(マナ・ポータル)、そして一番外側に近い魔力中継点(マナ・ポータル)

 他は……最低限で良い。人数や配置は、巨人族に詳しいニルダムが選抜して決めてくれ」

「う、うむ、それは構わんが……」

 

「途中の魔力中継点(マナ・ポータル)を奪われると敵の魔力範囲が広がるし、こっちも連絡や補充に問題が出る。

 特にあちらさんの例の洗脳支配の術の効果が広がっちまったら“夜の者達”や“闇の巨人”がまた操られるかもしんねー。だから真ん中の防衛部隊はいざというときには操られた仲間を制圧、拘束する役目もしてもらう。人数比率は“夜の者達”と“闇の巨人”たちの合計より上回った方が良いが……出来そうか?」

「ちょっと待て……うむ……ううーむ……。今の人数では少し厳しい」

「最優先はそこの部隊だ。何なら……」

 

「俺が行こう」

 そう切り出すのはズルトロムさん。

「俺は体格が他の者より大きい。抑え込むのには向いている」

「ああ、そうだな。助かる……どうだ?」

「あと……2、3人攻撃部隊を減らして……遊軍部隊から……うむ。

 それならば……可能だ。間の防衛は最低限を2人ずつとして、だがな」

 そう計算するニルダムさんの肩をズルトロムさんがポンと叩く。

 お互いに言葉はない。けれども確か“闇の巨人”達の中には、長い間行方知れずだったというニルダムさんの父も居るはずだ。本心ではニルダムさん自身がそっちに回りたいくらいだろう。

 

「よし、それで行こう。最奥と最も外側の二ヶ所は、他がヤバくなったときの援軍も兼ねさせる。その辺のことは各所連絡を取り合って……だな。

 それと遊軍部隊は……首狩りの大蜘蛛野郎を攻めつつ逃げつつで引っ掻き回す。無理に倒そうとしないで良い。巨人族的には不本意な 戦い方かもしれねーが、そこは我慢してくれ。下手な攻め方すりゃ、多分魔糸でぐるぐる巻きにされちまう。

 術士は大蜘蛛自体より、その糸を焼くなり何なりに集中でな」

 種類は違うみたいだが、レイフの使役してた大蜘蛛もそう。あいつらのヤバさは本体の攻撃能力より魔糸にある。味方だとすげー便利でも、敵としてはそこが厄介。

 

「で───外も……同じく、だが……。

 そっちも無理な深追いで速攻で殲滅しようとか考えず、じっくりで良いから確実に包囲して封じ込めて攻め続ける……てのが良いかな」

「何故だ? 早めに包囲を打ち破り、総力戦で“悪しき者”を打ち破るべきではないのか?」

「そうだ! さっきから貴様の策とやらは、まるで臆病者の逃げ口上のようで、聞いていて虫酸が走る!」

 ニルダムさんの疑問にキーンダールさんがそう被せる。

 確かに聞きようによってはそうだろう。けど俺は分かる。少なくとも水の迷宮から土の迷宮まで、レイフと共にダンジョンバトルをして来た経験から、JBの策がどういう意図のモノなのかが分かる。

「殲滅、すると、集中、される」

 そう間に入り言う俺の言葉に、キーンダールさん含め他の巨人達もJBも、露骨に驚いてこちらを向く。

 

「───あー、まあ、それだ。

 多分だが、この“悪しき者”ってのは俺たち側より指示伝達が早い。いわゆる使い魔? そんな風にして魔獣や何かを操ってるんだろう。

 ドワーベンガーディアンの方は分からんが、何にせよ魔力中継点(マナ・ポータル)同士の通信以外じゃ一々伝令を立ててやり取りしなきゃならない俺達は、その点でかなり不利だ」

「つまり、敢えて延びた戦線をそのままにしておくことで、“悪しき者”が我々攻撃部隊に集中出来ない状況を作る……と?」

「ああ。俺達の方の指示伝達を今以上には早く出来ない以上、あっちの指示伝達の邪魔を出来るようにしておきたい。センティドゥで似たような状況になって結構ヤバかった」

 JBの言うのは俺が来る前にあった魔人(ディモニウム)の賊達との戦いのことだろう。

 

「それと多分だが、この場合“悪しき者”を打ち破れれば、他の魔獣や何かは逃げていくんじゃねーかな。少なくとも今みたいに積極的に襲って来るほどの脅威にはならねえ。多分、ヴィオレトと同じだ」

「ふん……多分、多分と予想ばかりだな」

「まあな。だが巨人族なら、例え俺やドゥカムがやられたところで簡単に逃げたり戦意を無くしたりしないだろ?

 そこが俺たちにとっての強みだ。魔法で無理矢理従わさせられてンじゃなく、それぞれ自分の意志で戦おうとしてる。

 操られてるだけの魔獣や動く死体と、気高く勇猛な魂を持つ巨人族の決定的な違いさ」

 

 戦意、士気の有無、動機付けの差。確かにこれは大きい。

 けど……今の言い方は……なーんか、イベンダーっぽいなー?

 実際、そう言われてキーンダールさんも他の巨人達も、あのニルダムさんでさえも、うむうむ、確かにそれはそうだと頷いている。

 

「ただ、無理に攻めるんじゃなく、確実に勝てそうなら突破してもらっても構わねーとは思うぜ。逆に俺達攻撃部隊に気を取られることで、他の動きが鈍くなる、ってのもあるだろうしな。まあ……そこは臨機応変、状況次第か。

 もし“悪しき者”とやらが俺たちの方に集中しなきゃなんねえくらいになれば、そん時に一気に内と外から攻める……てーんでも良いかもしんねーし」

 いずれにしても、俺達はこのまま進軍……と言うことは変わらないようだ。

 

 

「───よし、大まかな位置は分かった!

 おいそこの伝令、策は分かったか? 聞いたな? では戻って伝えろ!」

 一人離れて色々と魔力感知や何やらからの位置の測定をしてたドゥカムさんが戻って来てそう言う。

 それに応じ、細かい指示や編成の必要からニルダムさんも最前線の魔力中継点(マナ・ポータル)まで一旦戻り、それから再びこちらへ合流すると言うことになった。

 そしてニルダムさんがこちらに合流してからの防衛と遊軍の細かい指揮はズルトロムさんが担当することになる。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 続く行軍での道中では、想像してたのと違い全く敵が襲って来なかった。

 やはりドゥカムさんやJBの言うとおりにあちらも追い詰められてて戦力が無いのか、それとも小出しにして消耗するのを避け拠点に結集させているのか。

 うーーーんむ。

 どっちにしても、あんまり良い予感はしない。

 

 スピード勝負と言いつつも一応索敵や警戒は怠らずに指揮に従い進む中、次第にじわりじわりと焦燥感というかなんというか、もやもやとしたものがこみ上げてくる。

 周りの巨人達も普段通りの無表情ながら、やはりどこかしら違和感、重圧感みたいなものを感じだしているように思える。俺の勝手な自己投影かもしれないけどもね。

 

 その中でも、目に見えて消耗して見えるのはキーンダールさん。“夜の者達”であるキーンダールさんは、“悪しき者”による洗脳支配をはねのけるためにリリブローマさんの麦わら帽子の付呪からドゥカムさんが複写した光魔法の【聖なる加護】がかけられてはいる。

 それでもそれは完全に洗脳支配の呪いを遮断するものではなく、あくまで抵抗力を上げる為のモノでしかない。つまり“悪しき者”の支配の力が強まれば強まるほどに苦しくなる。

 それを理由にキーンダールさんに前線へ来ずに防衛部隊に回るように言っても聞くわけもない。


 同様に、リリブローマさんも同じ“夜の者達”である為、洗脳支配の呪いの影響は受ける。受けるはずだ。麦わら帽子に守られては居るものの、本来ならば。

 そのリリブローマさんも今は表情が優れず、うつむき気味にぶつぶつとうわごとみたいなことを呟いていている。独り言にしても大きな声で喚いていたのに、まるで様子が違って来てる。

 

 そういう緊張、高ぶり、不安。色んなものがない交ぜになったこの一行。なんというか、一見士気が高いようでいて、実際はいろと不安定にも思える。

 

 JBやドゥカムさんにそのことを伝えたい気もするんだけど、上の方を飛んでるもんで気軽に声をかけるわけにもいかない。

 かと言って大声で進言するほど確証のあることでもないから、それもし難い。

 それに……そう、さっきのリリブローマさんの件も、結局伝え損ねているしさ。

 

 そんなことを気にしつつ、暗い巨大洞窟の中の通路を進んでいると、リリブローマさんが小さく何事かを呟いた。

 んん? とそちらへと目をやる。他の誰も気にしていないだろうリリブローマさんの発したのは、驚きなのか問いなのか。ただ小さく「デジーちゃん?」との呟き。いつものこと……と言うには、やはり何か調子が違う。

 そしてその呟きとほぼ同じくらいのタイミングで、別の巨人が「むぅ!?」と唸るような声を出した。

 

 それぞれに微妙な時間差のあるリアクション。巨人のひとりが右前方の岩場の隙間、暗闇の奥をじっと凝視するように見て、それにつられて数人がそちらを向く。それと前後して別の方向の巨人数人ががやはり別方向の暗闇を観て何事かを口にする。

 と、ほぼ同時に上空でドゥカムさんが急に大声を出し、「……何だ? 囲まれ……?」と叫び───吹き飛ばされた。

 

 その全てをきちんと見ていたとは言えないが、この中では多分最も全体を見渡せる状況に居たかもしれない俺は、その攻撃の主のことも多分いち早く目で観ることは出来ていた。

 出来てはいたが、それで素早く対処出来たかというとそうでもない。そうでもないがそれでも、宙の一点を観て小首を傾げるようにして呆然としていたリリブローマさんをその巨大な手の攻撃から避けられるようにタカギさんごと体当たりして弾き飛ばす……のは叶わずとも、膝を下ろさせることには成功する。

 そしてリリブローマさんの頭があった場所の空を切るその手を後目に、へたり込むようにしてるリリブローマさんの皮エプロンの首の後ろをタカギさんが口にくわえ、無理やり引っ張って奥へと連れて行く。

 その間に、構えた棍棒を大きく振り抜いて、追ってくる手の指先を打ち返す。

 丁度、サッカーボールくらいの大きさのある指の先っぽを、だ。

 

 いや……それを何と言うのが正しいんだ?

 とにかくそれは、指先のように見える。というより、指先の位置にある。

 手……つまりは手のひらがあり、親指から人差し指、中指……とあり五本。そのうちの一つの人差し指の位置。

 けれどもそれ自体が何かと言えば、野太く逞しい腕……または、野太く逞しい腕であっただろうもの、だ。

  

 多分、その巨大な影が何なのかを正確に把握してる者は今ここに居ない。俺も含めて、暗闇の奥から現れたそれの全体像を目視できてないし、例え見たとしても理解するのには時間がかかる。

 俺の前に見えているのは腕。巨大な……肘から先だけで6、7メートルはありそうな巨大な腕───少なくとも腕の形をしたもの、だ。


 それらはぶよぶよと蠢くような、脈動するかのような薄透明の被膜に覆われている腕のような何かで、その中に見えるのは巨人。

 巨人の肉体を適当にバラして、それを木工用ボンドで雑につなぎ合わせて作られた腕のようなモノ。

 

 それが再び、今度は握り拳を形作り……高く……振り上げられ……マズい───!!

 

 ───咆哮……嘶き声。野獣のうなり声というよりはもっと高く、響く音。我らがタカギさんのその嘶きで、あまりの光景に呆気にとられてた俺たちが意識を取り戻し数瞬。

 ドゴン、とでも言うかの衝撃と音。

 危うく直撃を逃れた巨人は、しかしかすっただけで腕が折られ、有り得ない方向へと曲げられてしまう。

 くぐもった嗚咽のような悲鳴。膝から崩折れるその巨人を、キーンダールさんとニルダムさんが二人がかりで引っ張りひきずる。

「散開! 動きを止めるな! 陰に隠れろ!」

 叫ぶニルダムさんに応じて、我に返った巨人達はそれぞれに動き、岩陰や窪み、石柱の裏へ。

 しかし今度は別方向からの腕がそれを妨害し、または弾き飛ばし叩き潰す。

 

 巨人を素材とした巨大な腕のオブジェクト。まるで出来の悪い工作品は、素早くも的確でもない粗雑な動きで攻撃してくるが、その大きさからも下手すればかすっただけでも死にかねない。

 何より───俺ですら気持ち悪く吐きそうにもなるその物体のおぞましさに、巨人達の多くは言葉を失っている。

 

「なんと言うことだ……ッ!!」

 絞り出すかの嗚咽混じり。キーンダールさんのその言葉は、恐らくここにいる巨人達全員の心情を代弁している。

 洗脳支配する闇の魔術で操られていた“闇の巨人”たち。けれどもそれよりもおぞましいこのオブジェは、恐らくは死んだ“闇の巨人”たちの死体を組み合わせて作られた巨大な“巨人もどき”だ。

 よく見れば素材の全てが巨人ではないようで、“狂える半死人”や何かも使われているが、とにかくこれは死体で作られた化け物。

 そして───。


「デジーちゃん……」

 呆然としたリリブローマさんの視線の先は、その巨大な化け物を人体に見立てた際の頭にあたる部位。

 そこに埋め込まれているのは───まるで結晶に閉じこめられたかのような小柄な女性の姿。

 

「───おぞましく……」

 後ろからぬぅっと現れるドゥカムさんは、JBに支えられなんとか立っているが、ふらふらと危なげで、今にも倒れそうだ。

「そして……度し難く……耐え難い───ザルコディナス三世の所業とは……これほどか……」

 怒り。ドゥカムさんは陽気に笑ったり不機嫌になったりと、普段から感情の起伏は激しい。

 けれどもこんな……これほどの純粋な怒りを露わにしたのは初めて見る。


「あの化け物が何なのか分かるのか?」

 JBの問いに、再び忌々しげに答えるドゥカムさん。

「あれは───人為的な魔力溜まり(マナプール)だ。

 魔力溜まり(マナプール)と融合した魔物……なんかではない。恐らくはデジーという女を核として、魔人(ディモニウム)化を超えるおぞましい術で生きる魔力溜まり(マナプール)へと変貌させた───生きた魔力溜まり(マナプール)だ」


 融合したんじゃなくて、人間そのものが魔力溜まり(マナプール)にさせられた───?

 それじゃあリリブローマさんが感じていたデジーさんの魔力って……?

 

「───避けろ!」

 叫ぶJBの声に応じて再び散開。ドゥカムさんはタカギさんが引っ張り、リリブローマさんは俺が。

 巨大な手は左右二本だけではなく、どうやら何本もあるらしい。

 

 その縦横に動く巨大な腕に、何者かが飛びつく。

 遠目に見れば小柄な影。明らかに巨人ではない。何よりもその姿は、まるでユリウスさんと戦っていたときのナナイさんのように、渦巻く炎に包まれている。

 それが何者か、俺には当然、他の誰にも分からない。分からないはずだと思っていたが、ただ一人そうではないかに反応する。

「デジーちゃん……?」

 そのリリブローマさんのその呟きで思い出す。道中でのリリブローマさんの言葉……二つ目のデジーさんの魔力ということに。

 


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