表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
162/496

2-117.J.B.(71)Call My Dad.(父さんを呼んで)


 

 結局のところは実に単純な話だった。

 

 外側にある幾つかの建物の中に仕掛けがあり、それらを動かして地下への狭い入り口を開く。そこを進みさらに何ヶ所かの仕掛けを作動させるとちょっとした広い空間へと出る。

 暗い。当たり前だが真っ暗闇で、ドワーフ合金製のランタンの明かり程度じゃぼんやり足元が見える程度。

「ふ~んむ、仕方ない、もう少し明るくするか」

 と、そう面倒くさそうに言うドゥカムは、呪文を唱えて中空に浮かぶ小さな淡い光を四つ。自分の前後左右のやや離れた位置へと作り出す。

 

 で、そのエントランスホールのような空間の横にある小部屋の仕掛けを作動させると、例の両開きの大扉の内鍵が外れる。

 ガコン、という大きな音がし内鍵が外れると同時に、扉の外側の高い位置にレバーが壁から現れ、それを巨人がひいて、ようやくこの外門が音を立てて開いた。

 

 で、まばゆい外の光とともに入って来た巨人達が内側にあった別の高い位置にあるレバーをひいて、さらに内側にある内扉が開く。

 これでようやく、“狼の口”と呼ばれている古代ドワーフ遺跡の内部へと入ることが出来るのだ。

 

「ふふん、成る程な、そう言うことか」

 ご満悦な訳知り顔でうんうんと頷いてるドゥカム。

「最初の隠し通路はドワーフか、少なくともエルフや人間、特別に小柄なちびオークぐらいでなければ通れぬ。

 外門と内扉を開けるためのレバーは位置も高く重いから、巨人でなければ動かせん。

 つまり、ドワーフと巨人が協力しない限り、先には進めんように作られた……と言うことだ」

 

 言われてみれば確かに「成る程」だ。

 この施設は元々古代ドワーフと巨人族が盟約を結んでた時代に作られていた。そして彼等はその盟約が長きに渡り守られ続けることを願いこの仕掛けを作ったと言うわけだ。

 

「我々巨人族は竜との戦争で多くを失い、クトリアの古代ドワーフ達は衰退しその文明も滅びた。

 ここの開け方についても忘れられてしまったのだな……」

 ニルダムが感慨深げにそう言う。

「どうであれ、開くことが出来たのだから後は中に入るだけだ」

 そのニルダムを脇に押しのけるように奥へと進み、内扉のレバーを下ろすキーンダール。

 再びガコン、という大きな音とともに扉は開かれ、俺たちは遺跡内部の姿を目にすることになる。

 

 

 広大なまでの暗黒。

 エントランスとも言える入り口の広間を抜けた先は、全体としては物凄く広い地下洞窟といった具合だ。

 そしてその先の見えぬ巨大な洞窟の中に、一つの町が作られている。

 洞窟の上方にはほんのりと燐光を放つ苔が生えている。これは地下深い古代ドワーフ遺跡には度々見られるもので、量が多ければ満月の日の夜くらいには明るくしてくれる。

 

 町の様相はよく見る古代ドワーフ遺跡に比べるとやや粗い。部分的に完成度の高いところもあるが、巨人族の集落のようなただ岩を掘り抜いただけの場所もある。

「作りかけ……というよりは作り始めたが途中で放棄された……というところか」

 ドゥカムがそう推測を述べるが、実際確かにそんな感じだ。


 道や建物は基本的には巨人サイズ。巨人サイズの建物だが、場所によってはドワーフサイズの設備が設置されてもいる。巨人サイズの扉、または扉を設える予定だっただろうアーチの横にドワーフサイズの扉やアーチがある、と言った具合だ。

 作られた当初から巨人族とドワーフが共生する町として想定されていたのかもしれないが、この様子じゃあ結局は何者かが住むこともなかったようだな。

 

「盟約もあり、協力関係もあったが、結局古代ドワーフ達は今のクトリア王都のある平地へ、巨人達はこの遺跡周辺の各部族の集落へと住み分ける事になった。その辺の事情は何故なのかははっきりとは分からんがなァ」

 

 そうこうしていると、まずはキーンダールを中心とした三人の巨人が暗闇に向かい歩き出す。

「どこへ行く?」

「先に行く。“大いなる巨人”の兆しを探し、試練への道を開くのだ」

 ニルダムに呼び止められても従う気はなさそうだ。

 

「さあ、デジーちゃん、隠れん坊かい? リリブローマがすーぐに見つけてあげるよー」

 かつて仲が良かったというクトリア人、デジーという名の使者がこの中にいると信じ込んでいるリリブローマは、ひとりでそう言いながら歩き出す。

 それを見たドゥカムは俺に耳打ち。

「おい、あの巨人を追跡しろ」

「は? 追跡?」

「あの巨人は30年以上前だが、間違いなくそのデジーとかいう奴とこの中に入っているはずだ。

 だが正面きってそれを問い質しても、要領を得た答えは聞けんであろう。

 だからこっそりと後を付けて、どこに向かうかを探るのだ」

 

 確かにそうかもしれない。少し釈然としないものもあるが、リリブローマがどこへ向かうのかは気になるところ。

 俺とガンボンは少し距離を置いてリリブローマを追う。

 ドゥカムはグイドと残り、ひとまずここの内門の前にあるやや広めの空間に魔力中継点(マナ・ポータル)を建て、そこを起点にさらに数カ所を確保しておくと言う。

 

 ニルダムや他の巨人達も、それぞれにチームに別れてめいめいに探索を始める。

 その方が効率的かもしれないが、しかしどーにもバラバラだなあ。

 

 □ ■ □

 

 ここかい? あ、本当はこっちだね? と、ぶつくさと一人で居もしないデジーへと話しかけ続けながら、リリブローマはよたよたとした危なげな足取りで、あちらを覗いてこちらをくぐり、行ったり来たりを繰り返しながら奥へと進む。

 過去の記憶を反芻しているのか、それとも全く無関係にただでたらめに動いているのか。後ろからその様子を見ていてもまるで分からない。

 曲がりくねりうねる道を進むごとに特殊な光るチョークで目印をつけつつけっこうな距離をついては行くが、正直徒労感がむくむくと沸いてきている。とは言え現時点で取っ掛かりとなるような手がかりも他にない。遺跡の構造だの仕掛けだのからの考察は専門家のドゥカムに任せて、俺たちは地道に這い回る事にする。

 

「あ、だめ、やめた方が、いい」

 後ろでごちゃごちゃやってるのは、ガンボンと巨地豚。

 何をしてるのかと振り返ると、隅の方に生えてるキノコみたいなのを巨地豚がくんくん鼻で匂いを嗅ぎ、食べ出しそうにしてるのを止めてるようだ。

「マジかよ。こんなとこのキノコなんか食おうとすんなって……」

 言いかけてランタンを向けると、何かが光を反射させる。

 近づき詳しく調べると……キノコの根本には湿った土と風化しかけた白骨に朽ちた兵装。

 

「うお」

 ガンボンが驚き軽く飛び退く。

 兵装をよくよく見ると、短剣に兜に鎧の一部。これはおそらくかつてのクトリア王朝での軽装歩兵の標準装備だ。

 つまり、デジーとかいう使者かどうかは分からないが、かつてクトリアの兵士がこの中に侵入したことがある、というのは確かな事のようだ。

 

 そうこうしていると今度は前の方からどしん、がしゃんと大きな音。

「ああ、もう、いやだねえ! 変な虫! おどきよ!」

 小走りに急ぎ近付くと、リリブローマは直径1ペスタ(約30センチ)前後の蜘蛛型ドワーベンガーディアンの群れ相手に鋤をぶん回し応戦してる。こりゃお馴染みのウザイ奴だ。個々にはさして強くはないが、とにかく群れるし鬱陶しい。

「あ、あれ、大丈夫?」

「蜘蛛型だし、まあやられはしねえよ」

 心配げなガンボンにそう答えるが、巨体で小回りの利かないリリブローマは、思ったより手間取り、苛立たしげにぐるぐる回る。

 うーん、こりゃちょいと手伝った方が良いか?

 

 念のためにと持ってきていたドワーフ合金製の片手斧を右手に持ち、リリブローマには気付かれないようこっそり近付いて、わらわらと群れてるそれらを後ろから数体殴りつけてぶっ潰す。

 蜘蛛型相手なら脚の部分を硬くて重い武器で殴って機動力を奪い、真ん中辺りの核を潰せばだいたい片付く。

 およそ10体前後を潰してから再び後ろに下がって隠れると、暫くして片が付いたらしく、

「もう居なくなったかい? また来たら承知しないよ!?」

 と残骸となった蜘蛛型ドワーベンガーディアンに捨て台詞を残して進み出す。

 

 ドワーベンガーディアンの残骸から何個かの極小魔晶石を回収しつつさらに追跡。

 数回程蜘蛛型や、脚が速いためそれよりちょっと厄介な犬型、蜘蛛型の発展系でより大きく攻撃的な蠍型なんかがリリブローマに集り、俺らの陰ながらの手伝いを含めて破壊される。

 この程度の下級ガーディアンは俺としても手慣れた相手。

 けど、ここがガーディアンの生きている遺跡だっつうのは、ちょっと……色々と面倒くさい。

 この規模でガーディアンが居るんなら、奥の方には間違いなく例の大型もいるだろうからな。

 まあ、逆に巨人族にしちゃあ大きい方が相手をしやすさそうだが、とは言え大型で全身ドワーフ合金製というとんでもない強度を持つ以上、そう簡単に力業だけじゃ破壊することは出来ねえ。

 

 暫く進むと、再びちょっとしたホールのような広い広間へと出る。

 正面は行き止まりで、やはり入り口と同じ様な大扉。その上は精緻で複雑なレリーフの彫り込まれた石壁で、その上から向こう側へ飛んで行くことも出来ない。

 広間には既に破壊された雄牛型ドワーベンガーディアンの残骸が散乱している。

 雄牛型は中型ドワーベンガーディアンの中ではけっこう厄介な相手だ。元々は荷物運搬用だったと思われ、ボディは頑丈なバスタブみたいな四足歩行。普段はのろのろした動きだが、攻撃の際は猛スピードで突進してくる。

 構造上小型よりはるかに頑丈、てのもあるが、何より弱点の核がそのバスタブみたいな身体の下、底面にあり、そこを突くのに手間取る。

 そしてその残骸の中にはやはりクトリア軽装兵の兵装も。

 

 全体としては直径3アクト(90メートル)程はある広いホールの真ん中辺りで、相変わらずデジーへと呼びかけを続けているリリブローマを少し離れたところから見ながら、どうも妙な違和感を感じる。

 古代ドワーフ遺跡と言えばドワーベンガーディアンは付き物だ。そしてそのドワーベンガーディアンの中には暴走状態のものとそうでないものがある。

 暴走状態は分かり易い。とにかく近くにいるドワーベンガーディアン以外の動くものを攻撃し続ける。ここまでの道中リリブローマに襲いかかっていたのは多分暴走状態のドワーベンガーディアンだ。

 そうでないドワーベンガーディアンは、本来設定されたとおりの働きを続けている。例えば蜘蛛型なら清掃、蠍型なら遺跡の補修、雄牛型なら運搬ルートの巡回。

 

 同じ遺跡内にも暴走状態のものとそうでないものが共存している。暴走してもたいていのものは最低限、他のドワーベンガーディアンは襲わないからだ。というか多分、その状態にまで暴走した個体は、俺たちに会うより先に他のガーディアンに壊されてるんだろう。

 で、非暴走状態の蜘蛛型は、古代ドワーフ遺跡の中では最も数が多い。つまり、本来ならこれらの残骸も兵装も、とっくに片づけられていておかしくないはずだ。

 何故そうなってないのか?

 一番分かり易い答えは、非暴走状態のドワーベンガーディアン、少なくとも蜘蛛型に関してはこの遺跡内に存在していない、というパターン。

 

「……あり得るか? そんなこと?」

 思わず口をついてそう言葉がもれる。それを聞いてガンボンがまたはてな? の顔でこっちをのぞき込むが、まあコイツに話したところでどーにもなんねーしなあ。

 

 そうこうしていると、このホールにつながる別の通路から他の巨人達が現れた。

 そしてまた別の通路、別の通路と、結局のところ散り散りに探索をしてた巨人達がそこそこ集まりだす。

 もちろん、ニルダムにキーンダールもだ。

 

「結局どの道を進んでもここに辿り着く事になっていたようだな」

「途中に何かあったか?」

「ドワーフ合金のからくりが襲って来たが、それだけだ」

 ニルダム曰く、結局どの道を辿っても大差はなかったようだ。

「何か落ちてなかったか? 兵士の装備や骨だとか」

「いや、特にそういうものは見てないな」

 違うのは俺たち辿ったルートは、かつてリリブローマがデジーとやらと……叉は他のクトリア兵達と通った道……ということか?

 

「ここも最初の入り口と同じ様に、我らと“小さき者”とで協力し合わねば進めん……ということなのだろうな」

「まあ、パターンからすりゃそうだろうな」

 リリブローマが前にもここを抜けて先に進んだ事があるなら、進み方を知っているのかもしれねえが……うーん、どうやって聞き出したら良いんだかな。

 

「うむーん? なーにをこんな所でたむろっておーるのだ? 暇か?」

 最後に堂々到着したのはドゥカムとグイド。

「まだ次へ進む為の仕掛けが見つからねーんだよ」

「ふん、まあそれもやむなしか。この天才研究家が居ないのではな」

「あー、いやまさにその通りで」

 オッサンの教えその1、有能で単純な奴はおだてて使え、だな。ここは。

 

 ドゥカムはホール中央辺りへと進むと、【灯明】の呪文で明かりを増やす。それをぐるりと周囲を見渡すように動かしてから、最後に正面の壁のレリーフを照らしその詳細を観察。

「ふーーーーむ……ま、やはりそうか……だが……む、……ああ、そこか」

 何かを発見したらしきドゥカムが壁面のほぼ中央上を指し示し、

「おい、JB。あそこまで飛んで窪みを調べろ」

 

 言われて即座に“シジュメルの翼”へと魔力を通して浮き上がり、指定の位置まで飛び上がる。

 高さは1パーカと半(4.5メートル)前後か? 周りのレリーフに埋没してパッと見には分かり難いが、確かに縦横半ペスタ(15センチ)ちょいの穴があり、やや奥まったところにはやはりレバー。

 両手で持って力一杯引いても動かせるかどうか、というくらいの重さで、俺がちょいと引いてみようとしても簡単には動きそうに無いし、そもそも飛んでる最中じゃ足場が無いから踏ん張りが効かない。

 

「レバーはあるが、俺の力だけじゃ無理だな。

 それに、狭いしちょいと奥まってるから、巨人達だと腕が入らないかもしれねー」

 そう言うとまたもドゥカムは「は、は! やはりな!」などと意味もなく笑う。

 

「どけ。俺がやる」

 言いつつ割り込んでくるキーンダールだが、当然届きはしない。

 

「馬鹿だね! だから山になってやるんだよ!」

 リリブローマの言葉を受け、キーンダールは渋い顔ながら二人の巨人を四つん這いにさせて足場にし、穴へと手を突っ込もうとするが、文字通りに丸太のように太いその腕ではとても入らない。

「ぬぅぅ! くそ、壊してやる!」

 例の爪のような武器を怒りに任せて叩きつけようとするが、それを諫めるのはニルダム。

「“大いなる巨人”の怒りを買うぞ!」

 それを言われるとやはりどうしようもない。渋々ながら場を退く。

 

「ふむ、そうだな。今のはちょっと惜しい。

 二人ほど今みたいに馬になり、その上にはグイド、お前がそこのちびオークを抱えて乗れ」

 ドゥカムの指示に従ってその形になると、確かにちょうど良いくらいの位置にガンボン。そしてちびとは言えドワーフ以上の馬鹿力のガンボンは、グイドに肩車をされ支えられてがっちりとレバーを引く。

 やはりここも、元々は巨人とドワーフで協力し合うことが前提だったワケだ。

 

 上部のレバーを引くと大扉内部の何等かの仕掛け……鍵が解除されたような音がする。

 しばらく待つがそれ以上には変化はなく、巨人2人が左右それぞれの扉に手をかけて引くと、ずずずずと厳かに開かれる。

 

 続く向こうの空間は……いや、ちょっと待て?


「何?」

「どういう事だ、これは?」

 

 びっしりと敷き詰められた大小様々な岩。つまり、行き止まりだ。

 唖然とする一堂。俺もそうだが、ドゥカムですら眉根を上げてしかめ面をし、リリブローマはさらにわめきだす。

 その中、俺達とは全く異なる反応をする数人の巨人達が居た。

 

「お、おおぉ……!」

 感動? 驚嘆? その奇妙な反応をするのはズルトロムとその仲間、つまり“苔岩の巨人”の眷族の巨人達だ。

「“大いなる巨人”よ……!」

 

 その声に応じてか、大小様々な岩の塊がぽろりごろりと崩れ、動き、或いは上へ登ったり右や左へ動いたりしながら形を作る。

 何の形か? 巨大な人の形……扉を潜りこちら側へと現れる、苔と岩の固まりの巨人、その高さ……5パーカ(15メートル)くらいか?

 

『よくぞここまで来た、我が民よ』

 

 声か、それとも頭の中に直接響いてでもいるのか。まるで分からねえ低く轟くような言葉がどさりと腹に落ちてくる。

 いや、言葉なのか声なのか、或いは意志そのものがそのままぶつけられているものなのか。

 その響き、重さだけで、すぐにでも平伏し地に額を擦り付けたくなるほどだ。

 なるほどな、これが“大いなる巨人”か。確かにこりゃ……神の末裔だ。存在そのものが重く、ただそこに在る事を感じるだけで圧倒される。

 シャーイダールの仮面の【威圧】なんてな、これに比べりゃ場末のストリップバーの安い用心棒程度だ。

 

『融和こそが道を開く。しかしこの先は既に我ら“大いなる巨人”の力のみならず、あらゆるものが悪しき者に汚されている。それを防げるのは、循環を正すキーパーのみ……』

 言い終えてか、言い終わらぬ内にか、再びその岩で象られた大巨人はボロボロ崩れ出し、再びただの岩と石の山へと戻りこのホールの中に散らばった。

 

 残されるのは静寂と闇と、ただ呆然とするばかりの俺達のみ。

 その静寂を最初に破ったのはドゥカムだ。

「ふは、は……はははは、はーーー! 見たか? 今のが、いや、今会ったのが“大いなる巨人”だ!

 良いかJB!? どの文献にも古代ドワーフの金属板にも、巨人族以外が“大いなる巨人”と直接会ったことがあると明確に書かれているのはほんの数例のみだ! 或いは記録に残せぬ形でならあったやもしれんが、だとしてもこれは恐らく───控え目に言っても、古代ドワーフ文明喪失後の世界において、とてつもない事なのだぞ!?」

 おおっと、確かにドゥカムはいつも饒舌ではあるが、こう、ここまでどストレートに喜びと驚きを露わにするのは珍しい。いや、初めて見たかもしれねえ。

 

「しかも、あれが彼らのこの世界における現れなのだとしたら、なる程先日聞いた巨人族の生と死のことも納得出来る。“大いなる巨人”はその存在が我々物質世界のものとは異なる霊的存在で、それがあの様な形で───」

 

 ぐにゃり、と目の前の像が歪む。何だ? 

 一瞬、ほんの僅かな一瞬だが、俺はその違和感に気付き、反射的にドゥカムを抱えて“シジュメルの翼”で上空へ───衝撃。

 

 少しだ。少し遅かった。

 まさに丸太で横っ面をぶん殴られたかの衝撃に、飛んだのでは無くふっ飛ばされた。

 高いホールの天井へと叩きつけられる直前に、なんとか“シジュメルの翼”の空気の膜を展開し、その衝撃をやわらげる。

 それでも、肺から息が全部吐き出させられたかのようだ。

 

 あの歪み───そう、空間そのものの歪みに見えたそれは、白雪猿のボスにとどめを刺したキーンダールの姿隠しの魔法の効果と同じ。

 周りと同化し視認されるのを阻害するが、よく見ればさっきみたいに像が乱れる。

 キーンダール達“夜の者達”と呼ばれる闇魔法の術式を埋め込まれた巨人達の得意技だが、そのキーンダールか? と、弾き飛ばされながら視線で見渡すと……居た。俺達とはやや離れたところで、何やら頭を抱えて喚いている。

 そして他の巨人達の中にも───歪みに紛れた襲撃者達の姿。

 

 闇魔法、不意打ちの敵襲。くそ、油断してたぜ。とにかくまずは体勢を整えて……そう考えてかなり強引にも天井を蹴り、ドゥカムを抱えたまま方向転換。ホール中央の天井近くにホバリングして部屋全体を見回すと、青黒く……いや、ほぼ黒い闇のような巨人達が居る。

 誰だ? 今までは居なかった。そして見た限り巨人族の集落にも居なかった。つまり別のところから俺達をつけて居たのか、あるいはハナからここに居たのか?

 

「───父よ」

 

 その疑問の内一つへの答えは、ニルダムによるその言葉。

 

「何故……ここに?」

 

 相対する青黒き闇の巨人は、その呼び掛けに応えるそぶりをまるで見せず、再び揺らめく影に消えながら襲いかかってきた。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ