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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
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2-116.J.B.(70)I'm So Into Dark.(闇の中へ)


 

 “狼の口”と呼ばれる古代ドワーフ遺跡の入り口近く、何本か建てられた飾りの尖塔の先にそれがデコレーションされている。

 前世の感覚で見りゃあサイコパスのシリアルキラーがやらかすそれ。現世の感覚で見ても正直気分の良いもんでもなく、実際のところ気味が悪ぃ。

 飾られているのは白雪猿のボス猿の死骸。刺し貫かれた背中の穴から前に貫かれ、尖塔の先に突き刺されている。

 あふれて滴る血は半ば乾きかけ、黒くこびり付き彩っていている。臓物が長くぶら下がり、血と糞の臭いが辺りに漂う。

 

 誰がこうしたか? 巨人族の一人、キーンダールだ。

 

 

「何をしている?」

 その“飾り付け”を始めたキーンダールに鋭くそう詰問したのは、同じ“灼熱の巨人”の眷族である呪術師のニルダム。

「こうしておけば、奴らも二度と手出しはしてこない」

 キーンダールの返しはある意味真っ当だ。敵の首や死体を晒すのは警告であり威嚇でもある。「俺たちに手を出せば次はお前がこうなるぞ」と言う意味のな。

 とは言えそれで争いが収まるわけでもねえのが人間の罪深さか。けれどもたいていの野生動物には効果的らしい。

 同種の血の匂いのする場所には基本的には近付かない。そこは魔獣もだいたい似たようなもん。まあ、中にはよけい興奮状態になるようなのもいるらしい。

 だが───。

  

「それが、誇り高き“灼熱の巨人”の眷族のする事か?」

「今優先すべきは“狼の口”の調査。違うか? 奴ら白雪猿は狡猾で群れてくる厄介な相手と言ったのはお前だろう?

 その“厄介な敵”を近寄らせずに居られるなら、その方が良い」

 理はキーンダールにある。それでもニルダムは納得はしていないようだったが、他の巨人達を交えて話し合い、結局はそのままにしておくことになる。

 一番大きいのはそのボス猿を倒したのはキーンダールだという事実。

 巨人達にとって倒した獲物をどうするかという一番の決定権は、その本人に帰属するらしい。

 

 その後、数人ずつに別れて“狼の口”の外側部分をくまなく探索し、他の敵や問題が無いかを一通り調べる。

 敵らしき敵は既に残っておらず、白雪猿達が狩っただろう他の魔獣や動物の骨、食べ残しの肉なんかが散乱していたくらいだ。

 それから範囲と配置を決めて、野営地を設営する。

 まずはおよそ二つの大きな尖塔の間くらいの中心地にドゥカムが魔力中継点(マナ・ポータル)を建てて、その横に俺、ガンボン、グイドの仮設テントを建てる。

 そこから遺跡の外側に向かってやや離れた位置に、石組みで囲った大きめの焚き火を起こす。燃料は巨人達が持ってきた丸太。これらの材木は夏頃に標高の低い、樹木の多い地域へ刈りに行って備蓄しているらしく、又その中から炭焼もしてたりするそうだ。

 そしてその焚き火を中心にそれぞれの眷族達で固まって、遺跡の建物の使える部屋や区画を確保し寝床にする。

 各四つの眷族、俺達、そしてキーンダールを中心とした“夜の者達”とされる集団。つまり、ザルコディナス三世により“闇の魔力の術式”を植え込まれた一派。

 

 元々彼等の多くは“灼熱の巨人”か“霧の巨人”の眷族だ。しかし闇属性魔力による術式を埋め込まれ、なんとか生きて戻ってきてからは、元の部族、元の眷族の他の者達とうまく馴染めず、いつの間にか自然発生的にキーンダールを中心とした新たな派閥のようになっていったらしい。元々部族ごとに集落を作って生活していたのが、先の大戦で人数も減り、急遽今のように多くの部族が集まり新たな集落で暮らしだしたことも関係はしていると言う。

 まあ、聞いてる限りじゃあ無理からぬ話だとは思う。

 

 そしてそれら全員と全く離れた場所に一人で寝床を作っているのは、同じ様に闇属性魔力の術式を埋め込まれた“夜の者達”である麦わら帽子のリリブローマ。

 リリブローマは記憶の混乱という重い症状を持っていることもあり、他の“夜の者達”とも関係が巧くいっていない。

 巨人族の中で嫌われ疎まれている、という単純な話じゃあない。ただ本人がうまく感情の抑制が出来ずに居ることも含めて、ある種の腫れ物にさわるかのような扱いで距離を置かれてしまっているのだという。

 何とかしたいという思いはニルダムやマーカルロを始め他の巨人達にもあるようだが、それがなかなか巧くはいっていない。

 

 設営があらかた済んだ頃にはもう夕方。

 ドゥカムはグイドを引き連れ遺跡の各所を改めて調べている。

 ガンボンは荷物の整理と食事の支度。

 俺は一応、上空から俯瞰しての周囲の調査に索敵。

 

 後はそれぞれのグループ毎に各々やることをやっている。

 途中、叉は先程の白雪猿との戦闘で仕留めた獲物の解体やら処理やら。また武具の点検や整備。

 キーンダールがボス猿を仕留めるときに使っていた、二本の巨大な爪を短めの棒で繋ぎ合わせたクワガタの角みたいな形の武器の材料は、やはり途中で仕留めた死爪竜と呼ばれる肉食恐竜みたいな魔獣と同種のものの爪。かつて仕留めた別の死爪竜の爪と骨と皮を加工して作ったという。

 死爪竜は巨人にとって因縁深い相手。かつて遥か以前に起きた古代竜達との戦争のときに、邪竜の落として行った魔獣の生き残りが巨神の骨周辺に住み着いている、まあいわば外来種みたいなもんだそうだ。

 俗に亜竜と呼ばれる知能の低い竜の仲間としてはかなり上位になる魔獣で、半ば巨人族の宿敵。なので死爪竜の爪や牙、皮というのは、巨人族にとって他の魔獣のそれらとは異なる別格の価値がある。

 

 

 ここまでの道中で遭遇したあの死爪竜って魔獣は、俺が今まで見た中でも恐らく総合的に一番強い魔獣だろう。素早さ、強靱さ、体格に凶暴性。個々の要素で上回る奴とは出会った事はあるが、ありゃそれらのバランスがトータルで良い。平地に降りてくる事が滅多にないらしいから助かるが、あんなのがほいほいクトリアの不毛の荒野(ウェイストランド)をうろついてたら、町の一つや二つ簡単に滅ぼされちまうだろうと思える。

 その大怪獣並みの魔獣と多対一とは言えガチでやり合える巨人達も、やっぱりとんでもねえ連中だ。

 

 にしても……だ。

 現状、例のガンボンの連れだって言うダークエルフの術者がやってるダンジョンなんたらが、巨人族に伝わる“試練”とやらと同じなのかどうか。そのことに対して“大いなる巨人”達がどういう立場でいるのか。

 それらをハッキリとさせるという前提で共同に調査をしにここまで来たワケだが……それがいつまで続くのかは保証のしようもない。

 けれども流れ的に、場所も分かったからいったん戻って体勢を整えてから再調査……とは出来そうにもない。

 うーん……良いのか、このままの流れで? 俺は今回、あくまで先行調査で遺跡の場所の特定だけが任務のはずなんだけどなあ。

 

 ■ □ ■ 

 

「なあグイド。聞いて良いか分かんねえが、“大いなる巨人”ってのはその……結局何なんだ?」

 ガンボンの用意した夕飯を食いながら、それとなく浮かんでた疑問をグイドへと聞いてみる。

 今までの巨人達の言動からして、“大いなる巨人”というのが神聖なものとして見られているのは分かる。だからそうそう迂闊な事は言えないが、今後のことも踏まえりゃある程度はきちんと把握しておきたい。

「いや、疑ってるとかケチつけようとか、そういうんじゃねえんだ。

 ただ俺達ゃ巨人族のことを何も知らないし、これから先その“大いなる巨人”について何も分かってねえってのは、やっぱまずい……だろ?」

 

 ガンボンも横で聞きつつ、うんうんと頷く。ドゥカムは既に飯を終えて、例の小部屋へと入ってここで調べた事を纏めたり何だりしている。

 この話をこのタイミングで切り出したのも、ドゥカムが同席していたら何かとやかましくて話が進まないだろうと思ったからでもある。

 

 グイドは俺の質問に少しだけ思案顔。しかしそれは話すべきかどうか、ではなく、どう話すべきか、を考えていたからのようだ。

 

「“大いなる巨人”……というのは、お前たち“小さき者達”……人間の言葉での呼び方だ。別の言い方では、“偉大なる父”、“全ての始まりと終わりの源”とも言う」

 

 言葉、としての話は分かる。巨人族達は主にクトリア語で話してくれていたが、そもそも巨人族という言い方も俺達人間……“小さき者達”視点での話だ。俺たちからすれば巨大な体格も、彼らにすればそれが普通サイズ。俺たちの方が“小さい”だけでしかない。

 

「そもそも、父、母という概念すら“小さき者達”に合わせた言葉でもある。

 まあ、我々も便宜上“父”という言葉で語るが、そもそも我らにはお前たち“小さき者達”の言う“性別”というものがない」

 

 え? と、俺もガンボンも一瞬、何を言われてるのか分からないというような顔でグイドを見返す。

 

「“小さき者達”には分かり難いだろうな。だが本当だ。

 我々は原初の巨神の末であり、眷族の“大いなる巨人”から生まれ、死すときはまた“大いなる巨人”へと還る。

 “大いなる巨人”へと還った魂はその中の一部となり混ざり合い溶け合った後、再び生を受け生まれ、“大いなる巨人”はその子を眷族の中の誰かへと託す。

 託された者がお前たちの言う“父”となり、成長し一人前になるまで育て上げる。

 それが我々巨人族の生と死であり、その循環を司るのが“大いなる巨人”なのだ」

 

 嘘や作り話、あやふやな伝承……てワケではなさそうだ。いつもと変わらぬ無表情だが、同時にいつもより神妙な雰囲気でもある。

 

 聞きながら、ガンボンの奴はまた、ふはっ! っと変な風に息を飲み込んでから、ボソボソとした調子で、

「オ、食人鬼(オーガ) は、ど、どうし、て……?」

 と聞く。

 そうか、そうだな。確かにこの間は、食人鬼(オーガ)は「堕落した巨人族」だとも言っていた。堕落した巨人にはその、“大いなる巨人”は居るのか? 受け入れられるのか?

 

食人鬼(オーガ)は“暴虐なるオルクス”によりその循環の輪から外されてしまった。そしてそのことで彼らには“小さき者達”同様に性というものがある。“まつろわぬ混沌の神”であるオルクスは、元々自らに従属する民を持たなかった。

 そのため我ら巨人族を堕落させ食人鬼(オーガ)を生み出すが、彼等は知性を失ってしまった。

 そこで次にエルフ達を堕落させ、オークを生み出し己の民とした」

 

 そう言ってから、グイドはガンボンへと向き直り、「すまない。お前を侮辱する意図はない」と謝るが、当然ながらガンボンはまるで気にせず、大丈夫と伝えようと首をぶんぶん振る。

 この話自体は、部分的にはどこかで聞いたような話ではあるが、こう具体的に経緯と流れを聞くのは初めてだ。

 

「その事が、今の我らにとって大きな問題であり、悩ましい事なのだ」

 

 不意に、そう背後から割って入られる。その声の主は“灼熱の巨人”の眷族であり呪術師のニルダム。

 

「ニルダム……」

 ややばつが悪そうに言いよどむグイドに、ニルダムは右手を前に出しそれを押しとどめ、

「良い。私はお前が“霧の巨人”と会った事を信じる。そしてそのお前が連れてきた“小さき者達”のことも信じよう。

 この者達に話すことは問題ない。いや、むしろ試練のことを踏まえれば、知っておいてもらう方が良いだろう」

 大きな身体に見合わぬくらいにひっそりとした所作で石組みの焚き火の横に座ると、俺たちを軽く一瞥してから、さらに言葉を続ける。

 

「ヴェデダよ。これはお前が不在であった時期のことにも関係がある。つまりは、“夜の者達”のことだ」

 

 “夜の者達”、つまりはキーンダールやリリブローマ等、ザルコディナス三世とその配下の邪術士たちにより、闇魔法の術式を埋め込まれて精神を病んでしまった者達……。

 

食人鬼(オーガ)は“暴虐なる”オルクスの闇の力により堕落させられ巨人族の循環から外されてしまった者達の末裔だ。

 そして“夜の者達”はザルコディナス三世により闇魔法の術式を埋め込まれ病んでしまった。

 だから我々は……恐れている。

 “夜の者達”のことを、ではない。

 もしかしたら彼らも又、食人鬼(オーガ)のように巨人族としての循環の輪を外れてしまったのではないかという、そのことをだ」

 

 循環の輪……。

 全ての巨人は“大いなる巨人”から生まれ、それぞれの部族で育てられ、そして死した後に再び“大いなる巨人”の中へ還っていく。

 その流れは俺たち人間やオーク、エルフの生死の有り様からはあまりにかけ離れていて、実感としてそのことを深く理解することは出来ない。

 けれども彼等巨人族にとってある意味生きる支柱とも言えるだろうその死生観、つまりは生き方そのものを、「循環の輪から外れる」と言うことは覆してしまう。

 

「キーンダールが試練のまっとうに執着するのもそのためだ。

 試練によりクトリアの循環を正せば、自ら……いや、自分を含めた“夜の者達”が巨人族の循環の輪にも正しく組み入れられるはず。そう信じている。それは切実なほどに……」

 

 俺たちが巨人族の集落に着て以降、何かと敵愾心を露わにし、また粗野粗暴とも見える振る舞いの目立っていたキーンダールだが、奴には奴なりの切実な使命感があった……と。そう言うことのようだ。

 

「その真偽は我々にも分からぬ。“夜の者達”が循環の輪から外れているのか、或いは未だその中に居るのかも分からぬ。

 何せあの“滅びの七日間”以降、我々の元に新しい巨人の子は一切授かって居ない。

 “大いなる巨人”達が我らの前に姿を現したことすら一度もないのだ」

 

 それは───確かに悩ましく又、恐ろしい話だ。

 言い換えればそれは“夜の者達”だけではなく、全ての巨人達が循環の輪から外れてしまったかもしれないという疑念にすら繋がる。

 

「今回のこと───ヴェデダが“霧の巨人”と会えたという事。そして今試練が行われ、クトリアの循環が正されようとしていると言うこと。そのどちらも、我等にとっては希望だ」

 そう言って視線を上げ遺跡の奥、閉ざされたままの巨大な扉へと向ける。

 この扉をくぐったその先に、本当にその希望が残されているのか───それはまさに神……いや、巨神のみが知る、か……。

 

 ■ □ ■

 

 翌朝になり様々なことを試してみたものの、正面の巨大な扉は全く開く気配がなかった。それこそ、押しても引いても動きはせず、隠された仕掛けや鍵のようなものも、その一切が見当たらない。

 オープンセサミ! と唱えたところで反応はなし。ドゥカムは古代ドワーフ語のそれらしき言葉を試してみてもいたが、当たり前のように無反応だ。

 

 となると流れとして、グイドに疑念が向き始める。

 ニルダムの言うとおり、今回の件は巨人族にとっての希望だという。

 その期待があった分反動も大きく、唯一“霧の巨人”と会い、この遺跡へと向かうように言われたと主張していたグイドの言葉の真偽が問われだす。

 

 本当に“霧の巨人”はグイドの前に現れたのか? 

 現れ、ここへ向かうように言ったのであれば、何故次の道筋が示されないのか?

 ここへ来れば何かが分かる、何かが得られる。そういう期待が裏切られ、徒労感だけが増していく。

 

 気が焦るのは俺もガンボンも同じだ。俺はジャンヌとアデリアを。ガンボンはレイフとかいうダークエルフの魔術師を探している。その居場所がここになるのではないか? という事でわざわざこんな糞高い山を登って来ている。

 何よりそのダークエルフの魔術師がやっているというダンジョンなんたらってのは、命懸けの陣取り合戦みたいなものらしい。ジャンヌはまだしもアデリアなんかが、それをやり遂げられるとは到底思えない。何せアデリアは負けん気ばかりは強くても、実際の運動神経は糞雑魚ナメクジ並だからな。

 ガンボンは例の巨地豚を駆り、俺は“シジュメルの翼”で空を飛び、この遺跡周辺を出来るだけ広範囲に調べたりもするが、どちらも大した成果はない。

 

 昼頃になるとキーンダールとその仲間たちが不満と不信をあからさまにしだし、それになびきはしないものの他の巨人達もそれを大きく咎めだてはしなくなる。ニルダムとリリブローマを除いては、だ。

 

 

「一体ここのどこに“大いなる巨人”の兆しがある? 試練も“霧の巨人”の導きもまやかしだ!」

「兆しが現れていないように見えるのは我等の問題だ。まだ着いて1日もしていない。先人たちは“大いなる巨人”の導きを信じ、そのための苦難も忍耐強く受け入れた」

 

 闇の術式に侵されたキーンダール他“夜の者達”には焦りがある。自分たちが“大いなる巨人の循環の輪”から外れているのではないかという恐れを、なんとか払拭したいという焦り。

 その焦りが、グイドへの極端な不信として現れる。

 

「は! お前たちゃみーんなどうしようもないね! なぁーんにも分かっちゃいない!」

 そこに割って入るのは同じく闇の術式を施され、記憶が混乱しているリリブローマ。リリブローマは他の“夜の者達”がキーンダールを中心とした一つの派閥となっているのに対して完全に距離を置いている。というよりもリリブローマだけ記憶が戦前のまま止まって居ることもあり、他の全ての巨人達と距離がある。

 

「いい加減黙れ! お前のような痴れ者の年寄りがここまでついて来たこと自体間違いだ! 戻って大角羊の世話をしていろ!」

 突き放すように手を振ってそう叫ぶキーンダールに、全く臆した風もなく

「痴れ者はお前たちだよ! デジーちゃんならもう中に居るってのに!」

 とそう返す。

 

 リリブローマが度々口にする「デジーちゃん」というのは戦前にクトリア王朝からの貢ぎ物の使者として来ていた使節の一人。

 本来私的な交流をするはずではなかったのだが、いつの間にやらリリブローマと個人的に親しくなっていたらしい。

 

「ふん! いいか、デジーなどもう居ない! ザルコディナスは粉微塵に粉砕され、重臣達も悉くを殺した! 逃げ延びた者も邪術士達の裏切りに合い、その邪術士達も王国軍に討伐された! 愚かな! “小さき者達”は! 自ら破滅の道を選んだのだ! 奴らは全て死んだ!」

「ああ、全くどうしようもない馬鹿者だね、お前は! さっきも言っただろう!? デジーちゃんはもうこの中に居るんだよ!」

 

 と、その二人の言い合いに、不意に何かに気付いたようにドゥカムが割り込む。

「待て、待て待て待て! もう中に入っている?

 つまり、そのデジーという者は、この中への入り方を知っていたと言うことか!?」

「だからさっきからそう言ってるだろう、分からず屋だねえ!」

 何だ? 俺からすれば全くかみ合ってないやりとりだ。だがドゥカムはその中から何かに気がついたらしい。

 

「ドゥカム殿。リリブローマはザルコディナス三世の施術で最も困難な傷を精神に負っている。この者の心は今ではなく過去の中に居るのだ」

「そうだ、過去の中に居る。つまりデジーがこの中にいる、というのは、ただの妄想や思い込みではなく、過去にあった事実だと言うことだ」

 ───そしてそのことを、唯一親しくしていたリリブローマだけが知っている?

 ドゥカムは改めて向き直り、腰の曲がった年老いた巨人、リリブローマへと問い直す。

「リリブローマ。デジーはどこから、どうやって中に入っていったのだ?」


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